トンネル

トンネル(英: tunnel、英語発音: [ˈtʌnl])とは、地上から目的地まで地下や海底、山岳などの土中を通る人工の、または自然に形成された土木構造物であり、断面の高さあるいは幅に比べて軸方向に細長い地下空間をいう。1970年のOECDトンネル会議で「計画された位置に所定の断面寸法をもって設けられた地下構造物で、その施工法は問わないが、仕上がり断面積が2平方メートル (m2) 以上のものとする」と定義された[1][2]。
人工のものは道路、鉄道(線路)といった交通路(山岳トンネル、地下鉄など)や水道、電線等ライフラインの敷設(共同溝など)、鉱物の採掘、物資の貯留などを目的として建設される。
日本ではかつて中国語と同じく隧道(すいどう、ずいどう[3])と呼ばれていた[4]。常用漢字以外の文字(隧)が使われているために、第二次世界大戦後の漢字制限や用語の簡略化、外来語の流入などの時代の流れにより、今日では一般的には「トンネル」と呼ばれるようになったが、トンネルの正式名称に「隧道」と記されることも多い(青函隧道など)。
鉄道や道路のトンネルには「入口」「出口」が決められており、起点に近い方が「入口」となっている。新幹線で例えると、東京寄りの坑口が「入口」であり、その反対側が「出口」である。
Contents
特徴
山岳地帯においては、地上の地形に関わらず曲線・つづら折れ・勾配を減少させ、自動車や鉄道の高速走行や大量輸送が容易になる。また強風・積雪時の通行規制(豪雪地帯の峠越えは積雪による冬季閉鎖で通行出来ない箇所が多い)を減らすことができる[5]。坑口付近を除いて景観を損ねず(景観破壊にならない)、森林破壊にもつながりにくい(生態系の保持)。海底トンネルや水底トンネルであれば、大型船の通行(橋であれば、橋の下を通過する大型船に高さ制限や幅制限が発生してしまう)に影響が無いといった長所が挙げられる。特に急峻な地形が連続する地域では不可欠な設備である。
その一方、短所もある。トンネルに作用する土圧や水圧のため断面積はあまり大きくはできず、通行する車両には車両限界が設定され、従って輸送能力に制限が加わってしまうことが多い。また、断面積を大きくとるほど掘削に要する費用も増大する。地質によっては崩落を防ぐための補強で建設費が嵩むことがある。地下水位に影響を与えることもある。
長大トンネルにおいては換気が困難で、空気が汚れやすい[6][7]。また充分な酸素が供給されないと乗客の健康を脅かし、車両の走行性能も低下する。火災時に一酸化炭素などの有毒ガスが溜まりやすいことや、場合により危険物積載車の通行が規制されることもこれに起因する。また海底トンネルや水底トンネルは内部の湿度が高く、車両やトンネル内設備が腐食しやすい。
歴史
トンネルは世界各地に古くから人間の手によって造られてきた。トンネルの歴史は古く、灌漑用水路として古代に造られているが、紀元前交通路としての建設は紀元前2000年頃にユーフラテス川の河底を横断する歩行者用のトンネルがバビロンに造られたのが最初とされている[4]。また、古代ローマや古代ギリシアには数多くのトンネルが造られ、現在に至るまで使用されているものも存在する。日本では近代までトンネルは発達せず、1632年(寛永9年)に現在の金沢市で着工された辰巳用水が日本最初のトンネルではないかといわれている[4]。代わりに峠道が発達し、五街道をはじめ各地で整備が行われた。交通路のトンネルとしてよく知られるのは、1764年(明和元年)頃に、禅海が20数年の歳月をかけて槌とノミだけで完成させたと伝えられる耶馬渓の青の洞門がある[4]。
機械動力の無い時代、あるいはその確保が困難な場合、トンネルの掘削はツルハシやノミなどの器具を用いた人力に頼るしかなかった。日本においては青の洞門(大分県中津市本耶馬渓町)や中山隧道(新潟県長岡市 - 魚沼市間)がその端的な例である。
近代になり鉄道技術が発達すると、ヨーロッパにおいて鉄道を通すためのトンネルが多く作られるようになり、著しくトンネルの掘削技術が向上した。イギリスでは、トーマス・テルフォードやロバート・スチーブンソンなどの優れた技術者が多く誕生した。
ダイナマイトが発明されると、これを用いた発破によってトンネル建設の効率は飛躍的に高まった。さらに、様々な建設機械・工法の出現によってトンネル技術は21世紀になっても進化を続けている。
日本最初の西洋式トンネルは、東海道本線の神戸市内にあった石屋川隧道である。1871年(明治4年)完成。天井川であった石屋川の下をくぐっていたが、同区間の高架化により消滅した。また、日本人技術者のみで最初に造られたトンネルは、東海道本線の大津市内にあった逢坂山隧道である。1880年(明治13年)完成。新線切り替えにより廃止され、名神高速道路建設などにより部分的に消滅したが、東側の坑口が現存する。
トンネルの施工
工法
矢板工法
掘削した壁面に矢板(やいた)という木板(主に松が使用され「松矢板(まつやいた)」と呼ばれた)や鉄板(「鋼矢板(こうやいた)」と呼ばれる)をあてがい、支保工という支柱で支え、その内側をコンクリートなどで固める「巻き立て」によって仕上げる。日本では1980年代の東北新幹線・上越新幹線建設までこの方法が取られていた。しかしながら、事前調査の不足も重なり、特に蔵王トンネルでは工期が3年延びたほか、中山トンネルでは出水の連続から多数の迂回坑建設や300基を越える直上ボーリングの実施が必要となり、総工費が膨れ上がり、開業後の速度制限をももたらした[8]。今後の新幹線や高速道路にますます必要となる長大トンネルには技術的に不足があるのは明らかであった。これらが転機となって、その後は中山トンネルの一部で試行されたNATM が主流工法となり、それまでの経験工学からの転換という意味合いを含め、今までの工法として在来工法とも呼ばれる。
シールド工法
シールドマシンを用いた工法。
TBM工法
トンネルボーリングマシンを用いた工法。
新オーストリアトンネル工法
NATM(ナトム)とも言う。掘削した部分を素早く吹き付けコンクリートで固め、ロックボルトを岩盤奥深くにまで打ち込んで地山自体の保持力を利用する工法。
開鑿(開削)工法
オープンカット工法とも呼ばれる。地表面を掘り下げてトンネルの構造物を構築し、後で埋め戻す工法。地表面に近い部分や、駅のように大規模になる施設の構築に用いられる。初期(1960年代まで)に建設された地下鉄では主流の工法であったが、1970年代以降は地下鉄網の拡充からより深い位置にトンネルを建設せざるを得なくなり、駅部分を除いてはシールド工法が主体となっている。また開削工法にシールド工法を組み合わせた工法としてオープンシールド工法がある。
沈埋トンネル工法
複数のケーソン(潜函)を水底に沈め、これを接続してトンネルとする工法。
トンネル工事と安全確保
労働基準法には坑内労働に係る規定が設けられている。
- 労働基準法第63条
- 使用者は、満18歳に満たない者を坑内で労働させてはならない。
- 労働基準法第64条の2
- 使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。
- 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性
- 坑内で行われるすべての業務
- 前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性
- 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの
かつて労働基準法は女性のトンネル建設への従事など坑内労働を全面的に禁じていた(旧64条2項)。この規定は男女雇用機会均等法などの流れの中でも見直されないままであったが、2005年になって国によりこの規制の見直しについての検討が始まり[9]、2007年に改正労働基準法が施行され基準が改められた[10]。
なお、ずいどう等新設工事に従事する労働者の労働者災害補償保険の労災保険率は業種別で最高となる89/1000(2012年(平成24年)4月1日改定)であり、トンネル建設工事の危険性が高いことを示している[11]。
トンネルの分類
用途別では、道路や鉄道の交通用トンネルの他に、灌漑や水力発電用の水路トンネルや、鉱山の坑道もトンネルの一種に数えられ、大都市で建設される共同溝や地下街、地下駐車場、地下鉄も広義のトンネルとされる[4]。場所や工法による分類では、山岳トンネル(山岳工法)、シールドトンネル(シールド工法)、都市トンネル、開削トンネル(開削工法)、沈埋(ちんまい)トンネル(沈埋工法)など様々な形態がある[12]。
場所による分類
山岳トンネル
山を貫通するように掘られたトンネル。トンネル中央部を高く、両端の出口を低くする逆 V 字型の勾配(拝み勾配)とすることで自然排水が可能である。但し立地条件などから片勾配となっているものも少なくないがこれでも自然排水は可能である。
都市トンネル
都市の建造物の中や地下を通るトンネル。首都高速道路に於けるトンネルの殆どや地下鉄の多くはこれである。滑走路等を避けて空港の地下を通るトンネルもある。傾斜は周囲の構造物などによって大きく異なる。
水底トンネル
川底や海底に掘られたトンネル。構造的に中央部が低くなるため、排水を機械的に行う必要がある。
水中トンネル
例えば水族館の水槽の中などに作られた観賞用の通路で、アクリル樹脂などで透明になっていてトンネルの外の水中を眺められる構造になっている[13]。
用途による分類
道路トンネル
自動車用
自動車用の長大トンネルには大規模な換気設備や、非常ボタン・消火設備・非常電話・非常停車帯・避難用トンネル(避難坑)などの防災設備が設置されている。また、日本においては道路法で長さ 5,000 m 以上並びに水底・水際の道路トンネルは危険防止のため危険物積載車通行が禁止されている。
最近建設されるトンネルは車同士のすれ違いが出来るよう、2車線確保できる断面積にする場合が多い。2車線未満のトンネルは一方通行や片側交互通行、車両幅制限、大型車の通行規制などで対応する場合がある。
高速道路や主要道路を中心に、ラジオの再送信を行っているケースもある。なお、トンネル内で交通事故や火災などが発生した場合、全ての放送局の再送信を休止して、緊急時の正しい行動を周知する放送を流す。これは、再送信している全ての周波数で同じものが流れる。
トンネルの入り口手前に一般道路・高速道路問わず、信号機を設置している場合がある(写真参照)。また高速道路ではトンネルの長さなどに関係なく必ず全てのトンネルの入り口にトンネル情報表示器が設置される。長大トンネルではトンネル内にも設置される。
歩行者用
自動車用のトンネルにおいて歩道が設置されている場合、排気ガス対策から自動車用のトンネルとは別に併行してトンネルが設置されている場合がある。関門トンネルでは、人道用と車道用とが2層になっている。
また、歩行者専用に地下道が設置されている場合、道路や鉄道を立体的に横断するために地下横断歩道が設置されている場合がある。
鉄道トンネル
鉄道用のトンネル。鉄道トンネルでは特に、単線のものを単線トンネル、複線のものを複線トンネルと呼ぶことが多い。換気が困難な長大トンネルや、特に列車運転頻度の高い線区のトンネルは早く(蒸気機関車が一般的であった時代)から電化されている。また。鉄道は勾配に弱いため、山の斜面を標高の低いところから掘り進んで建設する必要に迫られることから、全般的にみて道路トンネルよりも長大なものが多い[14]。
電化を前提としていない古くからある鉄道トンネルでは、電化の際に建築限界の小ささから通過できる車両に制限がかかったり(中央本線など)、架線などの必要なスペースが取れないため、問題となる。解決策として、断面積の大きい新トンネルを掘削し、旧トンネルを廃止したり(常磐線、赤穂線、呉線など)、複線化の際に単線トンネルを掘削し、路盤を下げるなどで旧トンネルを改良し、単線トンネルを2本並べた形にする方法(山陽本線、東北本線など)がある。また、複線化と電化を同時に行い、新線に複線トンネルを新設する場合も多い(北陸本線の北陸トンネルや函館本線の神居古潭駅 )。 なお、鉄道車両の高速化に伴い、トンネル微気圧波などが問題となったため、トンネルの出入口付近に、少しでも圧力変化を穏やかにするための構造を設けている場合もある。
こちらも道路トンネル同様、長大トンネルでは入口手前に信号機が設置され、使用している信号機は踏切などで使用されている特殊信号発光機が使用されている。
水路トンネル
水を流すためのトンネル。運河において、山を避けてトンネルを掘り、船舶の航行が可能なトンネルがある(例:イギリスのバーミンガム近くのネザートン・トンネル)。用水路で、河川トンネルともいうものがある。暗渠を参照。また、下水道についてもトンネルが用いられる。下水処理場そのものをトンネルに設置した例もある[15]。
貯蔵用トンネル
大量のワインの貯蔵には地下の倉(ワインカーヴ)が用いられる。この地下蔵を掘るにもトンネル掘削技術が用いられるが、一方、廃道となったトンネルをワイン貯蔵用に再利用する場所もある[16]。
栽培用トンネル
キノコ等の菌類の栽培には湿度が要るが日光が不要などの状況があり、廃道となったトンネルを転用している場所もある[17]。
断面・形態
山岳トンネルは多くが馬蹄型又は卵型の開口部を持つ。ニワトリの卵が縦方向の衝撃・圧力に強い構造であるように、このようなアーチを構成することによって山から受ける圧力に耐える構造としている。この種のトンネルが並列したものを特にメガネトンネルと称する。
シールドマシンによって掘削されたトンネルは基本的に断面が真円であるが、シールドマシンの発展に伴い、長方形や馬蹄形などにも掘削できるようになった。道路トンネルの場合、上部に換気路・中央部に道路本体・下部に電気回路や排水路を設ける。
開削トンネルや沈埋トンネルは断面が箱形である。
本坑と先進坑
トンネル掘削の際、本坑と呼ばれる主となるトンネルに並行して、先進坑(先進導坑)と呼ばれる断面積の小さいトンネルを掘削することがある。先進坑は本坑に先行して掘削を行い、工事中は本坑を掘削する際の地質把握や水抜きとして、開通後は緊急時の避難ルート(避難坑)や保守通路として、それぞれ役割を持つ。
在来工法では文字通り「先進」として小断面にて導坑を掘り、それを切り広げて本坑を掘削する。支保を行いながらの掘削で1本(底設導坑:下半部の真中)或いは2本(側壁導坑:下半部の両壁)の導坑をまず掘削し、その後トンネルの上半部を掘削、導坑の支保を取り除きながらの下半部の掘削となる。
換気装置
前述の通り、特に道路トンネル内部は排気ガスがこもりやすい構造となりがちであることから、道路トンネルの設計においては換気装置の検討が重要となってくる。
トンネル内の換気方法としては、自動車交通により発生する空気の流れ(交通換気)やトンネルそのものを抜ける風(自然風)を利用して換気を行う「自然換気方式」と、何らかの機械設備を用いて強制的に換気を行う「機械換気方式」の2つに大分される[18]。自然換気方式は特別な装置が不要な一方で、適用可能な長さや交通量に制限が生ずる方式であり、一定以上の規模のトンネルにおいては機械換気方式が採用されることが多い。
機械換気方式には、主に以下のような3種類が挙げられる[18]。
- 縦流換気方式
- トンネル天井にジェットファンと呼ばれる大型の送風機をぶら下げたり、送風機の機能を持つ換気口を設けるなどして縦断方向の空気の流れを強制的に作り、トンネルの坑口または中間部から排気ガスを排出すると同時に、外部から直接トンネル内部に新鮮な空気を送り込む方法。
- 交通換気力を有効に活用する方法で、換気ダクトが不要なためトンネル断面を小さくできることから機械換気方式の中ではコスト面で最も有利な方式である。ただし、交通量が少なかったり、逆に交通量が増えすぎて旅行速度が低下すると交通換気力が低下して十分な換気が困難になる。また自然風の変動を受けやすい方式でもある。
- 自動車排出ガス規制の強化に伴い、長大トンネルであっても強力な換気機能を備える必要がなくなりつつあることから、後述の横流換気方式から切り替えられるケースがある。
- 半横換気方式
- トンネルの一部を仕切って「換気ダクト」とし、新鮮な空気をトンネルの坑口などに設けた吸気口から換気ダクトを通じて車道内に一様に供給し、排気ガスを新鮮な空気によって坑口から押し出す方法。
- トンネルポータルの上部に天井板を設けて、天井板で区切られたスペースを換気ダクトとすることも多いが、シールドトンネルの場合はデッドスペースとなる道路の下にダクトを通す事が多い。また、鋼製のダクトをトンネル内に配管させるケースもある。
- 新鮮な空気の供給に関しては交通量や自然風に影響されない換気方式であるが、換気ダクトや換気機を必要とするためコスト面では不利となる。また、換気風は坑口に向かって大きくなるため、適用延長に限界がある。
- 横流換気方式
- 半横換気方式と同様にトンネルの一部を仕切って「換気ダクト」のスペースを設け、さらにこれを「排気ダクト」と「送気ダクト」に分割し、新鮮な空気を送気ダクトを通じて車道内に供給すると共に、排気ダクトを通じて排気ガスを強制的に排出する方法。
- トンネルポータルの上部に天井板を設けて、天井板の上部に隔壁を設けて排気ダクトと送気ダクトとして確保することも多いが、シールドトンネルの場合はデッドスペースとなる道路の下にダクトを通す事が多い。山手トンネル(首都高速道路)でも横流換気方式を採用しているが、シールド工法区間では道路下にダクトを通しており、天井板はついていない[19]。
- 送気用の換気機と排気用の換気機がそれぞれ別に必要となることからコスト面では最も不利な方法であるが、トンネル内の縦断方向に換気風を起こす必要がなく、トンネル延長や交通量、自然風に影響されないため、最も安定した換気方式と言える。
- かつては長大トンネルに多く採用されていたが、天井板が存在することの圧迫感や、ジェットファンの性能向上等もあって近年では少数派になりつつあった。更に2012年12月に笹子トンネル天井板落下事故が発生、老朽化した天井板の危険性が指摘される様になったことから、全国において天井板撤去、縦流換気方式への転換が進んだ。しかしながら機能的に撤去不能なトンネルや、撤去を見合わせるトンネルも少数ある[20]。
- なお、海底トンネルなどではこれらの方式を組み合わせた換気方式も見られる。
鉄道トンネルにおいても、走行時に煤煙の発生する石炭焚きの蒸気機関車が動力車として使用されていた時代には、トンネル内換気や煤煙の誘導が重要な問題となっていた。このため、長大トンネル区間においてはトンネル天井から垂直に地上部まで縦坑を掘って排煙を促進する、トンネル両端の坑口部に強制換気ファンを設置する、列車通過後に遮断幕を下ろして煤煙が後方へ流れにくくする、等様々な対策が講じられた。
もっとも、それでも勾配区間の長大トンネルでは北陸線柳ヶ瀬トンネル窒息事故のように機関車動輪に空転が発生し列車の運行速度が低下あるいは停止した際にまとわりついた煤煙が原因で乗務員や乗客が窒息する事故が少なからず発生した。これは特に小断面の長大トンネルを含む区間で積極的に電化工事やトンネルの改築工事、あるいは線路付け替えによる改良工事が実施され、またディーゼル機関車の導入が他より優先的に実施される一因となった。なお先に触れた柳ヶ瀬トンネル内での事故により殉職者を出していた敦賀機関区においては、トンネル内における蒸気機関車の排煙の流れを制御し乗務員が窒息する危険性を軽減するための集煙装置と呼ばれる装置が1951年に開発されている。
記録を持つトンネル
最長・最短
- 世界最長のトンネルは、
- 人間が往来するトンネルとして世界最長のものは、スイスの鉄道トンネル、ゴッタルドベーストンネルで、全長57.1km
- 最長の海底鉄道トンネルは青函トンネルで、全長 53.85 km、海底部長 23.3 km。
- 世界最長の海底道路トンネルは東京湾アクアトンネルで、全長 9.6 km[21]。
- 海底部が世界最長の鉄道トンネルは、英仏海峡トンネルで、全長 50.49 km、海底部長 37.9 km。
- 世界最長の狭軌鉄道の山岳トンネルは、スイスのフェライナトンネルで、全長 19.0 km。
- 日本最長の狭軌鉄道の山岳トンネルは北陸トンネルで、全長 13.87 km。
- 日本最長の連続した地下鉄トンネルは、都営地下鉄大江戸線で、光が丘 - 都庁前 - 大門 - 両国 - 都庁前の全線が該当し、 40.7 km。
- 日本の私鉄で最長の鉄道トンネルは、北越急行の赤倉トンネルで、全長10,472 m。
- 世界最長の道路トンネルは、ノルウェーのラルダールトンネルで、全長 24,510 m。
- 日本最長の道路トンネルは、首都高速中央環状線にある山手トンネルで、全長 18,200 m。
- 日本最短の鉄道トンネルは、呉線の川尻トンネルで、全長8.7 m。
総数・総延長
世界で最もトンネルが多い国は中国で、約8,600個所、総延長約 4,375 km となっている(2004年)。うち、鉄道トンネルは6,876個所、総延長約 3,670 km で世界一、道路トンネルは1,972個所、総延長約 835 km となっている。
トンネル内の安全確保
トンネルはその構造から災害発生時や事故発生時の避難行動や救出活動が比較的難しくなる。
高速道路での安全対策
日本の高速道路のトンネルでは、50mの間隔で押しボタン式通報装置と消火器(5本)、200m間隔で非常電話が設置されている[22]。また、長大トンネルの入口にはトンネル入り口用信号機や入口表示板が設置され、トンネル内で火災が発生した際には赤灯火の信号や「進入禁止火災」などの表示が行われる[22] ほか、非常停車スペースを途中に確保したり、道路用トンネルに並行して一回り小さい避難用のトンネルを設けている場合がある。
トンネル内部の照明は、白色も使用されているがオレンジ色に発光する低圧ナトリウムランプの使用が圧倒的に多い[23]。低圧ナトリウムランプは、ガラス管にナトリウム蒸気を封入した放電灯に使用されるランプで、日本で最初に高速道路が造られたときにトンネルの照明に採用されたランプである[23]。オレンジ色の光は波長が長く、排気ガスの塵で拡散されにくく光が遠くまで届くという特性があり、排気ガスで視界が悪くなりがちなトンネル内部の視認性を向上して安全性を高めている。また、各種ランプの中でも電気エネルギーを光に変換する効率が高く、ランプ寿命が約9000時間と比較的長いことから経済的であるというメリットがある[23]。その半面、オレンジ色の光は演色性が悪いため、赤いものが黒っぽく見えるというデメリットも持ち合わせており、トンネル内の消火栓などは蛍光の赤色で塗装するという工夫により、万一のときの安全を図っている[23]。また、トンネルに入った時に、トンネル内部の暗さに合わせて人間の瞳の瞳孔が開くまで時間がかかることから、トンネルに入った時の内部の視認性向上のために出入り口付近の内部照明の数を増やし、中央部よりも明るくしている[23]。
鉄道での安全対策
主なトンネル事故
- 肥薩線列車退行事故(1945年8月22日、国鉄肥薩線)
- 近鉄大阪線列車衝突事故(1971年10月25日、近鉄大阪線)
- 北陸トンネル火災事故(1972年11月6日、国鉄北陸本線)
- 日本坂トンネル火災事故(1979年7月11日、東名高速道路)
- 豊浜トンネル岩盤崩落事故(1996年2月10日、国道229号)
- 福岡トンネルコンクリート塊落下事故(1999年6月27日、山陽新幹線)
- 笹子トンネル天井板落下事故(2012年12月2日、中央自動車道)
トンネルと文化的影響
日本では「山の中に女が入ると、女神である山の神の嫉妬に遭い事故が起こる」という迷信が長らく信じられてきた。そのためトンネルや坑道などへの立ち入りは長らく女人禁制であった。見学者のうち女性のみが拒否され問題となった例[24]も多数ある。同様にアメリカ合衆国でも、トンネル建設現場に女性がいると不幸が起きると信じられていたが、1972年、コロラド州のアイゼン・ハワートンネルの建設現場において、性別を理由にトンネル内の建設現場から事務仕事に異動させられた女性が提訴したことを契機に、性差を理由にした制限等が解消されている[25]。
また、度々トンネルは怪談や都市伝説の舞台になる。トンネル内で、工事中あるいは開通後の事故で死んだ人の亡霊が現れる、といったたぐいである。有名なところでは、石北本線常紋トンネルにおいてはいわゆる「タコ部屋労働」が原因であるとして、また肥薩線第二山の神トンネルにおいてはそこで発生した乗客轢死事故が原因であるとして亡霊話がしばしば語られる。
トンネルの貫通の際に採取された石を貫通石(かんつうせき)といい、安産のお守りとして用いられる。最近では各高速道路会社などが販売することもある。
企業・団体・集団・著名人の長期の業績・状態・売上不振や、スポーツチームの長期の連敗・下位低迷などを「トンネル」と表現されることがあるほか、野球の失策において野手がゴロを捕球できず自分の股の下をすり抜けさせることをトンネルと表現する。
脚注
- ↑ トンネルとは?、一般社団法人日本トンネル技術協会
- ↑ 浅井建爾 2015, p. 190.
- ↑ 「すい」は漢音、「ずい」は呉音でどちらも正しい読み方
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 浅井建爾 2001, p. 234.
- ↑ より稀な例としては、川沿いや谷底の道が冬季に雪崩の危険があることからトンネルで迂回することもある。
- ↑ トンネルでは基準の10倍超 - 東大など、高速道路上の二酸化窒素濃度を調査(2012年1月13日マイナビニュース)
- ↑ 「長いトンネル、外気は禁物…NO2基準の50倍」、『読売新聞』、2012年1月14日。 オリジナルの2012年1月23日時点によるアーカイブ 。
- ↑ 『東北新幹線工事誌 黒川・有壁間』(日本国有鉄道仙台新幹線工事局編)及び『上越新幹線工事誌 大宮・水上間』(日本鉄道建設公団東京新幹線建設局編)による
- ↑ 厚生労働省:女性の坑内労働に係る専門家会合報告書
- ↑ 改正労働基準法(妊産婦等の坑内労働の就業制限関係)の施行について
- ↑ 労災保険率表 平成24年4月1日改定
- ↑ 浅井建爾 2001, pp. 234-235.
- ↑ 例:旭川市・旭山動物園
- ↑ 浅井建爾 2015, p. 192.
- ↑ 下水処理場なんでも一番・その2_日本最初のトンネル式下水処理場
- ↑ 産業遺産保存・活用事例集33_甲州市勝沼地域におけるワイン貯蔵庫・遊歩道としての活用
- ↑ 「予防医療.com」・特集・キノコ多糖体
- ↑ 18.0 18.1 社団法人交通工学研究会, ed. (2007), 道路交通技術必携2007, p. 116, ISBN ISBN 978-4-7676-7600-5 (PDF)
- ↑ 品川線の秘密13 トンネルの換気方式 (PDF) - 東京SMOOTH(首都高速道路特設サイト)内
- ↑ 関越トンネルでは天井板の撤去は難しいとされ、撤去は一部にとどまった。
- ↑ 浅井建爾 2001, p. 241.
- ↑ 22.0 22.1 “高速道路のトンネルで火災が発生した場合の対処とは?”. 日本自動車連盟. . 2013閲覧.
- ↑ 23.0 23.1 23.2 23.3 23.4 ロム・インターナショナル(編) 2005, pp. 95-96.
- ↑ 一例として 「トンネル工事で女性を立入禁止」、『日経コンストラクション』、2001年9月5日 。
- ↑ 圧巻のスケールと技術力、世界の巨大トンネル10選 CNN(2017年3月25日)2017年5月14日閲覧]
参考文献
- 浅井建爾 『道と路がわかる辞典』 日本実業出版社、2001-11-10、初版。ISBN 4-534-03315-X。
- 浅井建爾 『日本の道路がわかる辞典』 日本実業出版社、2015-10-10、初版。ISBN 978-4-534-05318-3。
- ロム・インターナショナル(編) 『道路地図 びっくり!博学知識』 河出書房新社〈KAWADE夢文庫〉、2005-02-01。ISBN 4-309-49566-4。
関連項目
- 延長別トンネルの一覧
- 延長別日本の交通用トンネルの一覧
- 延長別日本の道路トンネルの一覧
- 土木工学 - 岩盤工学
- 坑道
- トンネル式便所
- 覆道 - 雪崩や落石、土砂崩れから道路を守るために作られた建造物
- 公共事業
- 雪中トンネル
- 切通し
- 監査廊
外部リンク
- 社団法人トンネル技術協会
- 鹿島建設の建築誌博物館ホームページ(鹿島建設)
- 水底トンネル等における危険物積載車両の通行禁止又は制限について(日本高速道路保有・債務返済機構)
- 危険物積載車両の通行規制を実施している水底トンネル等 (PDF) (国土交通省)
- トンネル撮るネン - トンネルが持つ怖いイメージを払拭した、アートとして捉えた写真サイト。
- トンネル写真館(みちと標識の写真館) - 長大道路トンネルの画像を集めたサイト。