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過労死

過労死(かろうし、英語: karōshi, overwork death)とは、長時間の残業や休みなしの勤務を強いられる結果、精神的・肉体的負担で、労働者が脳溢血心臓麻痺などで突然死することである。なお、過労・長時間労働は、うつ病燃え尽き症候群を引き起こしがちで、その結果自殺する人も多いので、「過労自殺」も含む用語として使われる場合もある。

概説

過労死は、2002年ローマ字の「karōshi(カロウシ)」という語句がオックスフォード英語辞典にも掲載されたが、overwork death でも英語で通用する[1]。これは日本の人余りや物価が上がらないデフレーション状況下で起きる労働環境を表すと同時に、日本以外の世界にも広がっている働きすぎに起因する健康破壊を端的に表す言葉になってきたことである。労働コストを安くして、商品やサービスの値段を下げることで、安い商品を好む消費者に選ばれることがデフレ状況下の企業にとって合理的な行動になる。更にサービスは価格に組み込まれているので、値段が安いところで受けられるサービスは、そのレベルでしかない事が世界では当たり前である。

日本ではコストに対して「お客様は神様」的な過剰サービスと万全なサービスを追求する「一度でもひどい顧客サービスを受けたら直ちに別の会社に替える」日本の消費者側の姿勢のために、日本の非製造業での労働性がG7最下位であり、万全を求められる労働者は睡眠時間を削りながら長時間労働することになっている。

スーパーマーケット・コンビニエンスストア・百貨店など流通業界で働く人の70%が客から暴言や長時間の説教、土下座など謝罪の強要や晒しの脅迫といった悪質な行為などを受けた経験があることがわかっている[2]。日本ではサービス受益者側から見れば非常に安くて便利なサービスが、そこで働いている者に長時間労働を常態化させているように、過労死の原因となる長時間労働の是正には他人が自分にしてくれるサービスに適正な価格を払わなければ受けられないとの意識が求められている。

日本では企業の問題だけだと考えられがちだが、サービスを受ける「お客」側による過度な基準が負担となって労働環境の悪化させているため、消費者も労働者への過度な要望をやめることが大事だと指摘されている。インフレーション失業率の低下による長時間労働や待遇に見合わない給与の企業の人手不足倒産・消費者側の労働者に対する意識改革で過労死も減少するとされている[3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14]

症状

過労死等防止対策推進法第2条  この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

過労が原因となって、心筋梗塞脳出血クモ膜下出血、急性心不全、虚血性心疾患などの心臓の疾患を引き起こし死に至る。また過労はしばしばうつ病を引き起こすが、過労によるうつ病から自殺した場合も含む。

2014年時点で、厚生労働省の統計によると、過去10年ほどのあいだに、過労による自殺者(自殺未遂も含む)が約10倍に増え[15]2013年時点で日本で196人が過労死している[16]。働き盛りのビジネスマンに多いとされてきたが、近年では若者も増加傾向にあり、40-50歳代から20歳代にまで広がっている。女性も増加傾向にあるが、大半は男性である[17]

何を「過労死」とするかについては、時期や文献によって若干のずれがある。(すでに資料としては古くなったものであるが)厚生労働省の2002年の「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」では、「過労死とは過度な労働負担が誘因となって、高血圧動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態をいう」とした[18]

メカニズム

過労死には一般的に以下の2種類の直接的原因がしられている。

精神疾患による自殺

働き過ぎは精神のバランスを喪失させ、への願望(希死念慮)をもたらす。「眠りたい以外の感情を失った」と訴える患者もおり、抑うつ状態やうつ病である場合が多い。ただ、「労働時間の長さ=自殺の危険性」というわけではなく、人により許容度が異なるが、それを職場の上司が理解していない場合が多い。また、オフの時間の過ごし方も影響する。睡眠不足の第一の原因は厚生労働省の平成28年版過労死等防止対策白書によると残業時間の長さになっており、36.1%である[19]

心臓・血管疾患による死亡

長時間労働は疲労を蓄積させ、血圧を上昇させる。そのことにより血管は少しずつダメージを受け、動脈硬化をもたらし、脳出血や致命的な不整脈を起こしたり、血栓を作り心筋梗塞脳梗塞を引き起こす[19]

日本

2014年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行された[16]。同法により、過労死や過労自殺をなくすため、国(=日本の行政)が実態調査を行い効果的な防止対策を講じる、とされており、防止の方針を具体的に定めた大綱が作られることになっている[16][16]。また国は、過労死等に関する実態調査、過労死等の効果的な防止に関する研究等を行うものとされ、さらに国及び地方公共団体は、過労死等を防止することの重要性について広く国民の理解と関心を深めるための瀬策を講ずるものとされる。

これまでは、日本人が過労死する状態があるにもかかわらず、日本では「過労」という言葉をはっきりと冠した法律も無く、日本の行政は、企業経営者の都合・顔色ばかりをうかがい、過労死をきちんと体系的に防止するしくみもつくらないまま放置していたが、この法律が施行されたことによって、状況の改善の一歩が踏み出された。日本全国の人々に向けて、弁護士が過労死に関する無料電話相談を開始した[16]

労災認定基準

厚生労働省の労災認定基準[20]では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(略称:脳・心臓疾患)を取り扱っている。2000年7月に最高裁が下した自動車運転手の脳血管疾患の業務上外事件の判決を契機に[21]、2001年12月に認定基準が改正され、発症前6ヶ月間の長期間に渡る疲労の蓄積、特に現在では労働時間の長さが数字で明記され、認定に際して考慮されるようになった。

仕事との因果関係の立証が難しいため、脳・心臓疾患の労災請求から決定(認定または不認定)までの所要日数は平成21年度で210日となっている[22]。また、過労死の労災認定請求のうち過労死と認められるのは5割弱である[23]

また、過労による自殺については、従前は結果の発生を意図した故意であり、労災認定されていなかったが、「精神障害による自殺の取扱いについて」(平成11(1999)年9月14日付け 基発第545号)により、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない」とされ、1999年11月に精神障害による労災認定にかかる判断指針が策定され、うつ病による過労自殺労災として位置づけが行われ、その後、判断指針が廃止となり、「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23(2011)年12月26日付け 基発1226第1号)」が認定基準となっている。

裁判

過労死を巡る争訟としては刑事、行政、民事の3種類がある。

刑事裁判

労働基準法では、法定労働時間を1日につき8時間、1週につき40時間と定め、これを超える場合には事前に労使協定を締結することを義務づけており、この上限時間も原則1年間につき360時間と定めている(労働基準法第32条、平成10年労働省告示第154号)。しかし過労死に至るケースの場合はこれらの時間を大幅に上回る時間外労働を行っており、労働基準法第32条違反、また、これらの時間外労働に対して正当な割増賃金(通常の賃金の25%以上の割り増し)が支払われていないケースがほとんどであり、同法第37条違反として労働基準監督署が事業主を送検するケースがみられた。しかし、最近では、労働基準法第32条、第37条の違反とはならない過労死の認定も多くなっている。 ただし、労働基準法第32条違反は最高で罰金30万円、同法第37条違反は最高で懲役6か月又は罰金30万円と定められており、人を死に至らせる不法行為に見合った刑罰の重さとなっていないとの批判が、主に労働者団体等から唱えられている。

行政争訟

なお、労働事件が先例として判決集に登載される場合は、被告の会社名が事件名となるが(例:「○○コーポレーション事件」)、労災不認定取消請求事件の場合は労働基準監督署長が被告となるため、過労死の起こった会社を併記するのが通例である(例:「○○労働基準監督署長(△△産業)事件」)。

民事裁判

過労死が起こった場合、企業が管理責任を怠ったとして裁判が起こることはつきものであるが、過労死の多くは勤務中に死に至るのではなく、激務な仕事をやめ1か月から数か月後に死に至るケースが多く、また、脳・心臓疾患は日常生活の習慣(高血圧気味であった、肥満気味であった、等)が過労により増悪することにより引き起こされることも多く、企業側は因果関係がないと主張する為、長期化することが多い。

過去の事例

  • 1988年、全国の弁護士が連携して初めて「過労死110番」が開設される。当時の日本国政府や医学会も「働きすぎでは死なない」と全面否定。労働災害申請はほとんど認められず、裁判でも勝てず、労働組合も向き合わなかった[24]
  • 1990年12月4日、読売新聞新聞奨学生として新聞販売店に勤務していた学生が過労により死亡した。同日午後3時20分頃、販売店の作業場内で嘔吐を伴う体調不良を訴え、そのまま昏倒。救急車で病院へ搬送されたが、午後9時30分に死亡。遺族は裁判に踏み切り、最終的に1999年に読売新聞社と和解が成立した。この事件などを踏まえ各社新聞奨学生の過重勤務の実態、その制度の特徴から強制労働的性質がある事を日本共産党吉川春子などにより国会質疑で指摘されている。
  • 1999年東京都小児科医の男性が病院屋上から投身自殺した。同医師は、当直の日は時に30時間を超える長時間勤務に病院の経営方針が重なり、相当な激務と心労が重なっていたと思われる。遺族側はこの自殺(過労自殺)に対して労災認定を求めて裁判を起こしていたが、2007年3月28日に国が控訴を断念して労災認定が確定[25]
  • 家電量販店マツヤデンキ2000年11月に身体障害者枠で入社し、愛知県豊川市内の店で販売業務に就いていた、慢性心不全を抱える男性(当時37歳)が、同年12月に致死性不整脈により死亡した。翌2001年11月に、男性の妻が豊橋労働基準監督署に対し労働災害を申請したが認定されなかったため、2005年になって名古屋地裁に提訴。一審は訴えを棄却したが、二審名古屋高裁2010年4月16日に、「業務の過負荷による死亡かどうかは、男性本人の障害の程度を基準とすべき」などとする初判断を示して訴えを認め、労災と認定する判決を言い渡した[26][27]
  • 2001年日本国政府は長期間の疲労蓄積で脳や心臓の疾患が起こる事を認める[28]
  • 2002年2月9日トヨタ自動車の社員であった当時30歳の男性が致死性不整脈により死亡した。月144時間という過酷な残業と変則的な勤務時間のためである、などと主張して男性の妻が訴訟を起こした。名古屋地裁は遺族側の主張をほぼ認め(認定した残業時間は106時間)この判決[29]が確定した。
  • 奈良県立三室病院に勤務していた当時26歳の臨床研修医が、2004年1月に勤務中にA型インフルエンザを発症し、自宅療養をしていたが死亡した。この男性は、死亡直前の2003年12月には、1日当たりの勤務時間が12〜24時間に及ぶ日が連続6日間もあり、また、食事時間や休憩時間もほとんど取れない状態だった。地方公務員災害補償基金奈良県支部は2007年2月に、この男性の死を公務災害と認定し、両親に遺族補償一時金約417万円と、父親に約56万円の葬祭補償を支給したが、両親は、補償一時金に時間外手当が導入されていないとして、奈良地方裁判所に訴えを起こした。2010年8月26日に同地裁は、「時間外労働の存在は明確で、これを考慮しなかったことは違法」として、同支部の決定を取り消す判決を言い渡した[30]
  • 2005年2月に、産業機械商社・「マルカキカイ」に執行役員として勤務していて過労死した男性について、東京地裁2011年5月に、「実質的に労働者にあたる」として、労災の不認定を取り消す決定をした[31]
  • 1997年東急ハンズに入社した男性が、同社心斎橋店に勤務していた2004年3月に急死した。男性の妻と長男は、過重な労働が原因だったとして、同社を相手取り神戸地裁に訴訟を提起。同地裁は2013年3月13日の判決で遺族の主張を認め、同社の過重労働を認めた上で、従業員への安全配慮義務に違反したとして、遺族に7,800万円を支払うよう命じた[32]
  • 2007年7月5日、日産自動車の直系子会社ジヤトコプラントテックの男性社員が、建屋内で首を吊っているのを同社社員が発見、通報した。男性は死亡した。この日、男性は工長(現場のリーダー職)昇進を控えた集合教育を受けていたが、途中で席を立っており、この直後に自殺した。この教育は対象社員を一ヶ所に集め、数日間から数週間にわたり集中的に行われることから、「『日勤教育』的色合いが濃かった」(同社社員)といい、精神的に追い込まれる社員が少なくなかったという。男性の自殺について両社は黙秘しており、社内外への公表を行っていない。2008年現在係争中。
  • 2009年3月5日、過労による自殺で夫を亡くした京都市在住の女性が、大阪府弁護士らの協力を得て、社員が過労死したと認定された在阪の企業について、企業名などの情報公開を行うよう、厚生労働省大阪労働局に請求した。この女性は、企業名の公表が過労死などへの抑止力になると主張[33]。しかし情報公開請求が退けられたため、女性や市民団体らが大阪地方裁判所に提訴。一審は女性らの訴えを認めたが、二審の大阪高等裁判所2012年11月29日に、「情報を開示することにより、各企業の社会的評価などが低下し利益を害することが有り得る」として、原告敗訴の逆転判決を言い渡した。原告側は「企業の擁護に終始した判決だ」として批判している[34]
  • 2008年4月からウェザーニューズの予報センターに試用勤務し、主にマスコミ向け天気予報の原稿作成を担当していた、同社所属の気象予報士が、同年5月以降、過労死の認定基準を超える134 - 232時間の時間外労働を強いられた上、同年10月1日に上司が予報士に「本採用は難しい」と告知。翌日に自宅にて自殺した。これについて、京都市在住の元予報士の遺族が、翌2010年10月1日に同社を相手取り、約1億円の損害賠償を求める訴えを京都地方裁判所に起こした[35]。その後、同年12月14日に、同地裁で和解が成立した[36]
  • 2008年5月に、宮崎県新富町の女性職員(当時28歳)が自殺した。この女性職員は2008年になって、同僚が休職したことに伴い、臨時職員の指導などの業務が加わり、同年2月下旬から2か月間の超過勤務時間が222時間に達しており、また、町長も認識していながら適切な対応をとらなかったことが自殺の原因になったとして、女性の両親らが2011年12月に同町を相手取り、慰謝料などを求める訴えを起こした。市町村職員の過労自殺が、損害賠償請求訴訟に発展した初の例となった[37]
  • 2004年4月からマツダで勤務してきた男性が、2007年3月うつ病になり、4月に自殺した。これについて、広島中央労働基準監督署2009年1月に、自殺と仕事との因果関係を認め労災認定。 一方、男性の両親は、長時間労働や、上司がパワーハラスメントをしたことなど、会社側が適切にサポートしなかったことが原因であるとして、同社に対し約1億1,100万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。2011年2月28日神戸地裁姫路支部は、訴えをほぼ認め、同社に対し約6,400万円の支払いを命じた[38]
  • 2007年4月、山梨赤十字病院に勤務していた男性職員が、同病院のリハビリ施設内で自殺した。この職員は、1993年から同病院の調理師を務めた後、2005年にリハビリ施設に転属したが、2007年から別の施設の開設準備に他の職員が関わるようになったため業務量が急増してうつ病を発するようになったといい、自殺前1カ月の時間外労働は166時間以上に及んでいたとされた。2012年10月2日甲府地裁は、「(過重な)業務と自殺との間に因果関係が認められる」として、慰謝料など約7,000万円の支払いを同病院に命じた[39]
  • 日本国政府が実施する外国人研修制度2005年12月に来日し、金属加工会社・『フジ電化工業』(茨城県潮来市)で勤務していた、当時31歳の男性の中国技能実習生が、2008年6月に過労で倒れ、急性心機能不全により死亡した。この実習生に対しては、鹿嶋労働基準監督署が、外国人実習生としては日本で初の過労死と認定し、遺族は労災の保険金給付の一部の約1,100万円を受け取ったが、受入機関にも注意義務違反があるとして、同社の他、受入機関の『白帆協同組合』(茨城県行方市)に対して、約5,750万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁に起こし、2011年現在係争中[40]
  • 2008年4月居酒屋チェーン・ワタミに入社した当時26歳の女性が、同年6月に自殺。遺族は、長時間労働によって生じたストレスが自殺の原因になったとして横須賀労働基準監督署に労災申請したが却下。このため遺族は、神奈川労働者災害補償保険審査官に不服申し立てを行い、同審査官は労災認定した[41]
  • 2010年2月に、光通信に勤務していた当時33歳の男性が突然死した。この男性は2006年から営業課長職に、2009年にはクレーム対応部署に異動したが、虚血性心疾患で死亡。男性の両親と弁護士が、タイムカード打刻記録以外での時間外労働を算出したところ、死亡前3年間で100時間超の時間外労働を行っていた月が17回(最高153時間)存在したり、携帯電話の販売で過酷なノルマが課されたりしていた。両親は2014年6月24日に同社に対し「会社は安全配慮義務を怠り長時間労働を放置した」などとして、神戸地方裁判所に約1億6,450万円の支払いを求める訴訟を起こした[42]
  • 2010年4月に、東京キリンビバレッジサービスキリンビバレッジの子会社)の当時23歳の男性社員が自殺した。この男性の遺族らは、男性は2009年10月から2010年3月にかけて長時間勤務を強いられていたのが原因と主張し、品川労働基準監督署に労災申請。2011年10月5日付で同監督署は、過労による自殺として労災認定した[43]
  • 2010年10月29日に、医療法人社団明芳会新戸塚病院横浜市)に勤務していた理学療法士の男性(当時23歳)が急性心不全で死亡しているのが発見された。遺族らは、男性が担当患者の増加や、在籍していたリハビリテーション科内の研究発表会の準備業務などによる長時間勤務が原因であるとして、横浜西労働基準監督署に労災申請。同監督署は2011年10月4日付で労災認定。理学療法士の労災認定は、この事例が初のこととなった[44]
  • 2011年(平成23年)5月13日から福島第一原子力発電所事故の収束作業に当たっていた建設会社の男性社員が、翌14日以降に体調不良を訴え、その後心筋梗塞で死亡[45]。遺族は、短期間の高負担の作業による過労だとして、労災と認めるよう横浜南労働基準監督署に申請し、2012年2月24日に同監督署は労災と認定した[46]
  • 2011年4月末に、富士通海外マーケティング本部で課長を務めていた当時42歳の男性社員が急死した。この男性は、東日本大震災で外国人上司が国外脱出するなどした影響で過重労働となり、死亡前日から過去2ヵ月間の時間外労働の平均は最低でも月82時間に及ぶとされた。三田労働基準監督署はこの男性について、震災に伴う過労死であるとして労災認定した[47]
  • 2009年JR西日本に入社した男性が、その後2012年10月に自宅マンションで飛び降り自殺した。この男性は2011年6月から鉄道保安システムを管理する部署に配属されていたが、遺族らは、職場と工事現場との往復を繰り返させられていたことで、昼夜連続勤務や休日出勤の日数が月平均162時間にも及んだことなどが原因で鬱病を発症したことが自殺につながったとして、同社を相手取り契約1億9,000万円の支払いを求め大阪地裁に訴訟を起こした[48]
  • 2011年4月からファミリーマート大阪府大東市内のフランチャイズ店舗で勤務していた62歳の男性が、その後2012年4月以降に別の店舗でも勤務するよう店主から命じられた。この男性はその8ヵ月後の12月に作業中に意識を失い脚立から転落死した。この男性と店主との間の雇用契約では、勤務時間は1日8時間とされていたが、実際には過労死ラインを大幅に超える1ヵ月当たり218 - 254時間に及ぶ時間外労働をしていたことが明らかになった。男性の遺族は、男性の死亡原因が過労であるとして大阪地方裁判所に5,800万円の損害賠償を求め訴訟を提起。その後2016年12月22日付で、ファミリーマートと店主側が遺族に対し解決金計4,300万円を支払うことで和解が成立したことが判明した。直接の雇用関係にないフランチャイズ店の従業員に対し本部が労災に解決金を支払うのは異例の対応とされる[49]
  • 2012年に自殺したアニメ制作会社A-1 Picturesソニーミュージックグループ)の元社員男性が、過労による鬱病が原因と労災認定された。通院先の診療録には「月600時間労働」との記載があり、残業時間は多い時で344時間に上ったという[50]
  • 2012年10月過労自殺で亡くなった肥後銀行行員の遺族が、翌2013年に熊本地方裁判所損害賠償訴訟を起こした[51]。なお、この件に対し、熊本労働基準監督署から労働基準法違反(過重労働)で役員ら3人が書類送検された[52]。同年11月、熊本区検察庁が同法違反で同行を熊本簡裁略式起訴した。その後同簡裁は罰金20万円の略式命令を出し、同行は罰金を納付をした。また同容疑で、書類送検された取締役執行役員らは、嫌疑不十分で不起訴起訴猶予処分とされた[53][54]。これを受け当時の頭取が、自身の月額報酬を30%カットするなど関係者の処分を明らかにしたほか、本店、支店すべての部屋に監視カメラを設置するなどの労務管理対策を実施することを表明した[55][56]。その後2014年7月18日、同行は当初の主張を撤回し、自殺と長時間労働の因果関係を認め結審し[57][58]熊本地裁は同年10月17日、銀行が過重な長時間労働に従事させた結果、行員はうつ病を発症し自殺した。注意義務を怠ったとし、銀行に約1億3千万円の支払いを命じる判決を言い渡した[59][60][61]。判決を受け肥後銀は、コンプライアンス意識の徹底ならびに適切な労働時間管理態勢の強化について、全役職員一丸となって取り組んでいるが、今後、尚一層安全な労働環境の構築に努めていくとするコメントを公表した[62]。なお、同行は控訴しない方針である[60]
    • その後、自殺した男性の妻で同銀行の株主である女性が、株主としての立場で当時の役員らに対し損害賠償を求め、同行に提訴するよう要求したが受け入れられず、このため女性は2016年9月7日に同行を相手取り、当時の役員らに同行への損害賠償を求める株主代表訴訟を熊本地裁に起こした[63]
  • 福井県若狭町立上中中学校の当時27歳の男性教諭が、2014年10月に自殺。この教諭は同年4月から同校で勤務していたが、同年6月までの3ヵ月間に残業が月120 - 160時間超に上ったとされ、受け持っていた生徒の無断外泊や保護者とのトラブルもあったとされた。地方公務員災害補償基金福井県支部はこの教諭の自殺の原因が公務災害であると、2016年9月6日付で認定した[64]
  • 電通の新入社員でインターネット広告を担当していた当時24歳の女性が、2015年12月25日に飛び降り自殺した。この女性は、同年10月9日からの1ヵ月間だけで見ても、時間外労働がその前の1ヵ月間の2.5倍に当たる約105時間に増えていたという。三田労働基準監督署はこの女性について、2016年9月30日付で労働災害と認定し、労災保険を支給することになった[65]。この件に関連して東京労働局2016年10月14日に、電通本社のほか、関西支社・京都支社・中部支社の3支社をも、労働基準法に基づき強制調査を実施した[66][67]
  • 関西電力高浜原子力発電所の運転再開を巡り原子力規制委員会の審査対応にあたっていた40歳代の男性課長が、2016年4月中旬に出張先の東京都内のホテルで自殺。この課長は、3月や4月の残業時間だけでも約100時間に及ぶとされた。敦賀労働基準監督署は同年内に、この男性を労災認定した[68]
  • 広島市のある区役所で勤務していた20歳代の女性が、2015年10月に自殺。この女性は、保健福祉課で児童手当の支給などを担当していたが、2014年12月から2015年9月にかけて1ヵ月当たり100時間前後の時間外労働が続いていた模様である。女性の遺族はその後、地方公務員災害補償基金広島市支部に対し、公務災害認定を請求した[69]
  • 西日本高速道路2013年から勤務していた(前身の日本道路公団時代を含む)男性が、2015年2月に同社の寮で自殺。この男性は、第二神明道路事務所に2014年10月に異動後、の補強や撤去工事など未経験の業務をさせられた上、最長で月に約178時間の時間外労働を強いられたほか、約36時間連続の勤務もあったことで、鬱病を発症していたとされる。神戸西労働基準監督署は2015年12月に男性を労災と認定したが、男性の遺族は、同社が社員の勤務実態を把握しておらず、長時間労働を減らす対策を怠ったことが自殺に繋がったとして、2017年2月16日に同社の本社人事部長や関西支社長、第二神明道路事務所長らを神戸地方検察庁刑事告訴した[70]
  • 新潟市民病院に勤務していた、当時37歳の女性研修医が、2016年1月に自殺。この研修医の夫や弁護士が調べたところ、自殺までの月平均の残業時間が187時間にも上っており、2017年5月31日に労災と認定された[71]
  • 新国立競技場の建設の地盤改良工事の下請工事に参入していた建設会社の23歳の新入社員の男性は、品質管理などの業務に就いていたが、2017年3月に自殺。この男性は、自殺の約1ヵ月前以降の時間外労働が約200時間にも及んでいたほか、施工が遅れた工事を工期に間に合わせなくてはとの義務感から精神的に追い詰められ、うつ病を発症した模様である。男性の遺族は同年7月12日に労災を申請した[72]。渋谷労働基準監督署は、当該の男性が勤務していた建設会社に対し是正勧告を行った上、元請である大成建設に対し、労働者の健康確保を行うよう行政指導した[73]
  • ゼリア新薬工業2013年4月に入社した当時22歳の男性が、同年5月18日に自殺。この男性は、入社研修中に男性講師が吃音症と決め付けるなどの言動をしたことなどにより精神障害統合失調症)を発症し、これが自殺の原因となったとして、2015年5月東京労働局中央労働基準監督署が労災と認定。男性の遺族は同社に対し、2017年8月8日東京地方裁判所に損害賠償を求め提訴した[74]
  • 長野県千曲市運送会社である信濃陸送に勤務していた43歳の運転手の男性は、コンビニエンスストアへの商品配送に従事していたが、2017年1月に、配送中に倒れ急性大動脈解離で死亡した。長野労働基準監督署の調査により、男性は死亡直前の1ヵ月間の残業時間が過労死ラインとされる月100時間を超える114時間に及んでいたことが明らかとなり、同労基署は同年8月にこの男性を労災認定した[75]
  • 航空自衛隊幹部候補生学校に所属し奈良基地で勤務していた当時49歳の男性隊員が、業務に起因する疲労などでうつ病を発症し、2006年5月に自殺。男性の遺族は防衛省に対し、労働環境の改善義務を怠ったためだとして、大津地方裁判所に訴訟を起こした。その後2017年9月15日付で、防衛省側が和解金7,400万円を支払うことで和解が成立した[76]
  • NHK首都圏放送センターの31歳の女性記者が、2013年7月24日鬱血性心不全で死亡した。この記者の勤務時間は、過労死ラインの月80時間をはるかに超える159時間に達していた。東京労働局渋谷労働基準監督署は2014年5月付で、この女性記者について労災認定した[77]2017年10月4日に事実が公表され、上田良一NHK会長は「大変重く受け止めている」とし、同月に両親宅を訪問し謝罪した[78][79]
  • 和歌山県警察警備部の当時54歳の男性警視が、2016年8月に自殺。この警視は、2015年和歌山国体で交通規制などの統括責任者を務めていたが、残業時間が朝の2時か3時に及ぶことも多く、自殺直前の2015年6 - 7月の超過勤務はいずれも月200時間を超えていた。地方公務員災害補償基金和歌山県支部はこの警視について公務災害と認定[80]
  • 鳥取県倉吉市の建設課に勤めていた当時44歳の男性職員が、2013年に自殺。この男性は、工事の遅延などの処理のために自殺の直前まで14日連続の勤務となっており、時間外労働の時間は計168時間に及んでいた。遺族が鳥取地方裁判所に訴訟を提起し、その後同市が解決金として約4,000万円を支払う条件で和解が成立することになった[81]
  • ホンダの子会社であるホンダカーズ千葉千葉市内の販売店に勤務していた当時48歳の男性が、2015年3月に新規オープンした店の店長となったが、部下の残業を減らすため自らが残業したり仕事を自宅に持ち帰ったりしており、残業時間は最大で87時間にも及んだ。男性はうつ病になり解雇された後、2016年12月に自殺。この男性について千葉労働基準監督署は、持ち帰り残業などが自殺の要因になったとして2017年6月に労災と認定した[82]
  • 野村不動産では、企画業務型の裁量労働制を、本来は企画の立案や情報分析などの業務に限って導入可能であるにもかかわらず、実際には営業担当の社員に対しても導入していたとして、東京労働局2017年12月25日に同社に是正勧告と特別指導として社名の公開を実施した。特別指導の理由として「野村不動産の不正を放置することが、全国的な順法状況に重大な影響を及ぼす」と述べている。これを受け同社では、2018年4月1日から裁量労働制を取り止めることにした[83]。この違法な裁量労働制を適用されていた50歳代の男性社員が、2016年9月に自殺しており、2017年に同労働局から労働災害と認定されている[84]
  • ルネサスエレクトロニクスの子会社であるルネサス セミコンダクタ パッケージ&テスト ソリューションズ米沢工場で2001年から2017年まで勤務していた男性は、2017年1月23日深夜に帰宅した後、翌24日未明に倒れ、搬送先の病院で死亡確認。 山形労働局米沢労働基準監督署は、男性の死亡直前の1週間で約25時間、4ヵ月間では1カ月平均で約80時間の時間外労働を行っていたと認定した上で、達成困難なノルマが課されたことで疲労の蓄積を伴う過剰な業務に就いていたと認め、2017年12月7日付で労災認定した[85]
  • テレビ朝日ドラマプロデューサーを務めていた50歳代の男性社員が、2013年に出張先のホテルで倒れ、2015年2月心不全で死亡。この男性は、倒れる直前の3ヵ月間の時間外労働時間が70時間から130時間にも及んでいたことが明らかとなっており、2015年7月労働基準監督署から、死亡は長時間労働に起因する過労が原因として労災認定された[86]
  • 富山県内の公立中学校(校名は非公表)に勤務していた40歳代の男性教諭が、2016年7月にクモ膜下出血により死亡。遺族側や地方公務員災害補償基金富山県支部の調査では、発症直前の2か月間の時間外労働は約120時間にも及んでおり、別の調査では、このうち部活動指導が約7割を占めていた模様である。同支部はこの教諭の遺族に対し、2018年4月に過労死と認定したが、部活動に関する時間外労働としては過去最長とされている[87]

日本国外での過労死

過労死は先進諸国にだけでなく、発展途上国では栄養失調などの要因も重なり、突然死だけでなく様々な病気から死に至る。特に、福祉に回す程余裕のない国は、労働者の生活実態さえ把握できていない場合が多い。現在過労死が世界一の国は中華人民共和国である。中国の国営メディアは、毎年60万人ほどが過労死していると報じている[88]

「日本人は働き過ぎ」とよく言われたが、アメリカの管理職は同等の労働時間と言われており、仕事中に脳溢血や心臓麻痺での死亡例が存在する。また欧米は終身雇用の国ではないので、解雇が容易なので従業員の数を調整することで余分な残業代を減らす経営が行われる。そこで長時間の残業が必要とされるのは大抵が最低でも数百万ドルの報酬をもらう重役である。アメリカの企業では、解雇や転職が日常茶飯事であると同時に、職員募集も常時行われている場合が多く、転職は特に日常的に行われている。高い能力を持つ人材は他社からのスカウトも多く、労働条件が気に入らなければ退職という選択肢が現実に存在する。また法律および労働契約に違反した企業に対する損害賠償は、世界に類を見ない高額さである。このため過労死が会社による強制あるいは労災とは捕らえられておらず、社会現象と認識されていない。日本での過労死が「karōshi」として特別視されて報道されるのもこのためである。ただし、「karōshi」は存在しないが、簡単に従業員を解雇できるため、能力の低い又は技能が時代遅れとなった人間はすぐさまワーキングプアとなり、一気に最下層へと転落することが多い。また、2015年時点のアメリカ空軍では、無人航空機操縦士が酷使されている実態が明らかとなっており、彼らの労働時間は平均で1日14時間、週6日勤務となっている。アメリカ軍では状況を改善するための方策を考えている[89]。また、アメリカは、企業に有給休暇を義務付ける法律が存在しない唯一の先進国であり、企業が労働者に全く有給休暇を与えなくても法的には問題ではない。アメリカ経済政策研究センターEnglish版が2013年5月に公表した調査によると、アメリカ人労働者の4人に1人は、有給休暇を全く取っていない[90]

イギリス・アイルランドを除く西欧諸国では、一般に労働規制が厳しいため一般の労働者が過酷な労働時間により脳溢血や心臓麻痺で死ぬということはほとんど考えられない。ただし、不法移民を使った違法な労働環境での事故死などは考えられる。また無報酬で残業を行うという考え自体が一般的ではない。ただし役員や管理職は長時間労働を強いられることが多い一方で、業績報酬制であるため残業手当は存在しない。

ただし、職場での人間関係のこじれや、パワーハラスメントなどを理由にした自殺などの事例はヨーロッパ大陸の一般労働者でも存在する。フランスでは、ルノーの心臓部とも言われるイヴリーヌ県のテクノセンターで、3ヶ月の間に従業員3人が自殺していたことが2007年2月に日本の報道機関でも報じられた[91]。うち、1人は遺書で「仕事上の困難」を記しており、当局が「精神的虐待」が無かったかどうか捜査に乗り出す程の問題となっている。また、フランスでは2000年から一週間に35時間以上の労働を基本的に禁じる週35時間労働制が施行されている。そのため、一般の労働者に過労は基本的に起こりえないとされる。しかし、こうして減らされた労働時間を取り戻すために、企業は労働者に更なる結果を求める傾向にある。フランスは労働時間を減らしても、高い競争力や生産性を維持しているが、労働者にはストレスが掛かり、多くの暴力事件や自殺者を生み出しているとの指摘がある。フランスはG8中、ロシア日本に次いで自殺率が高い国である[92]フランステレコムでは、2008年2月から2009年9月の約1年半の間に、23人もの自殺が発生し、社会問題となった。職場で自殺をしたり、仕事が原因で自殺するとの遺書を遺したケースもある[93]。この一連の自殺では、1週間の間に5人が立て続けに自殺したこともある。2009年以降、経済悪化を背景にした自殺も増加している[94]

イギリスではメリルリンチインターンシップで勤務していたドイツ人留学生が、3日連続ほぼ徹夜で仕事をした後、死亡する事件があった。過労死が疑われており、金融界の過酷な労働環境が問題視されている[95]。また、近年はヨーロッパでも働きすぎによる健康問題が深刻化しており、2003年には数百万人のイギリス労働者が過労死ラインになっているという説もある[96]。サービス残業が常態化している国もあり、2004年のオーストラリアでは労働者の約半分に残業代が支払われていないという調査がある。理由として、労働者は、残業を拒否することで解雇されることを恐れているとされる[97]スイスでは通信大手のスイスコムチューリッヒ保険最高経営責任者が過労で自殺している。また、スイスの労働法では裁量労働制を採る企業は、労働時間の管理義務が免除されている。この法律を悪用して、従業員に多大な残業を課している企業もあるとされる[98]

2017年10月には中国で働いていた14歳のロシア人モデルが中国で過労死した。仕事で中国に2か月滞在していたが、その間に低賃金重労働を課されていた疑惑が浮上し、少女の所属していた中国の事務所が親の付き添いもなく14才の少女を働かせていたことも発覚した。ロシアの英字紙は死因について、極度の疲労による髄膜炎だと報じた。背景には中国での童顔ブームがあると報じられた[99][100]

過労死の背景

国際労働機関(ILO)は人道的な労働条件の確立をめざして具体的な国際労働基準の制定を進めてきており、多くの国際労働条約を採択している。しかし、現在においても、日本やアメリカのようにILOが採択した183条約(失効5条約を除く)の多くを批准していない国、批准した条約を遵守していない国が存在している。

とりわけ、先進国の日本で過労死が多発している事象については、世界的にも稀有な例として見られており[101]、労働運動側は国際労働条約の批准を求めているが、産業界は反対している。

先進国であるにもかかわらず労働基準法が遵守されていない例として認識されているほか、米国公正労働基準法のようなホワイトカラーの除外、英国労働法のようなオプト・アウトの仕組みを持たない日本の労働法の硬直性も指摘されている。

対策

2013年、国際連合の社会権規約委員会は、日本国政府に対して立法や規制を講じるべきと勧告した[102]

近年、日本では過労死の問題が注目されており、これを防ぐための取り組みが始まっている。地方議会などでは、過労死防止基本法の制定を求める動きがある[103]。2013年12月時点で、38の自治体で法制定を求める意見書が採択されており、国政においても過労死防止基本法制定を目指す超党派議員連盟が存在する[104]

また、2013年の参議院選挙では、自民党とともに共産党の議席が増えたが、その理由の一つとして、共産党の志位和夫は過労に対する訴えが評価されたからとしている[105]。2013年9月には、厚生労働省ブラック企業と呼ばれる企業の立ち入り調査を開始している[106]。しかし、過重労働を調査する労働基準監督官が過重な労働を平然と行う状況があり、過重労働をしている労働基準監督官自身の実際の労働時間は、決して答えてはいけないことになっている。

2013年12月17日、厚生労働省ブラック企業対策として、事前にブラック企業の疑いがある5111の企業や事業所を調査したところ、82%に当たる4189箇所で法令違反が確認できたとの調査結果を発表した。厚生労働省は、これらの企業に指導を行い、指導の後も法令違反を続ける企業は、名前を公表する方針を発表している[107][108]

2014年5月23日、衆議院厚生労働委員会は、全会一致で過労死等防止対策推進法案を可決した。過労死対策は、国に責任があることを初めて法律に明記している[109]

2014年6月20日、過労死等防止対策推進法成立。2014年11月に施行。規制や罰則を定めるものではないが、国の取るべき対策として①過労死の実態の調査研究、②教育・広報など国民への啓発、③産業医の研修など相談体制の整備、④民間団体の支援。自治体や事業主には対策に協力する事を努力義務とする。[110]

2016年9月26日、安倍内閣により働き方改革実現会議が開催され、内閣が目標として掲げた「一億総活躍」の最大の挑戦と位置付けられた。働き方改革では、長時間労働の是正や同一労働同一賃金を目指している[111][112]。2017年3月、「働き方改革実行計画」で罰則付きの残業上限を導入すると明記した。これまでの日本の法律では、残業時間は事実上青天井で延ばせるようになっており、時間外労働に上限が設けられるのは初めてとなる[113]。残業は「月45時間、年360時間」を原則とし、繁忙期などの特例として、年間の上限を「720時間(月平均60時間)」にする。ただし、これでは多すぎるとの批判の他、休日に出勤して働く時間が上限の範囲外とされていて、「休日労働」の時間を合わせれば、年に960時間まで働かせられる制度設計になっているという批判もある[114][115]国際労働機関ガイ・ライダーEnglish版事務局長は、2017年5月12日の来日時にインタビューで働き方改革について「政・労・使の三者が交渉し合意したことは、非常に重要かつ適切で、歓迎したい」「残業時間に上限規制が設けられたことは歓迎するが、国際的な比較でみれば、まだ長すぎると思う」と回答している[116]

脚注

  1. overwork deathの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク
  2. 5万人を調査した結果、仕事中に客による悪質な要求などの迷惑行為を受けたことがあると回答した人は3万6000人と悪質な客の被害経験者は全体の70%に上る。労働者として客に受けた迷惑行為の内訳(複数可能)が「暴言」が49%の2万4100人、「同じ内容を繰り返す」が29%の1万4200人、「説教など高圧的態度」が27%の1万3300人で、「セクシュアルハラスメント」が約10%の4900人。精神的負担による過労死にも繋がる心身への影響について90%近い3万3400人が「ストレスを感じた」と回答している。
  3. 森岡孝二 (2004年6月1日). “過労死・過労自殺をめぐる日米比較”. 大阪過労死問題連絡会事務局 あべの総合法律事務所. . 2013閲覧.
  4.  高橋洋一・ブラック企業も減る!アベノミクスの効果とは
  5. 日本流「過剰サービス」は誰も幸せにしない「カネを取れないサービス」は本当に必要か
  6. サービス過剰な日本人は「中国人」に学べ「お客様は神様です」意識を捨てよ
  7. これって“過剰”? ニッポンのサービスが変わる - NHK クローズアップ現代+
  8. 日本の過剰サービスは労働力を浪費するだけ?中国が指摘
  9. 宅配便の急増 過剰サービスは見直しも
  10. 過剰サービスを強要する客を撲滅、SIerは連合キャンペーンを張るべし
  11. 「過剰なサービス」を求められる飲食業界、現場の従業員からは悲鳴が…
  12. そりゃ過労死するわ…世界一甘やかされた客? 「やりすぎ」サービスでもまだ不満な日本人
  13. 日本の過剰労働は、「お客様」の暴走が原因だ 理不尽な要求にノーといえる文化を作ろう
  14. http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171109/k10011218061000.html?utm_int=all_side_business-ranking_002
  15. NHK「視点・論点」 [1]
  16. 16.0 16.1 16.2 16.3 16.4 [2] [3]
  17. 厚生労働省報道発表資料「平成21年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」(2010年6月14日)
  18. 厚生労働省「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」より。
  19. 19.0 19.1 【電通過労死事件】なぜ人は過労で死亡するのか 医師の視点 - 中山祐次郎 2016年10月16日 11時43分配信
  20. 厚生労働省パンフレット「脳・心臓疾患の労災認定 -「過労死」と労災保険-」
  21. 厚生労働省.脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書,2001.
  22. 厚生労働省による平成21年度政策評価「実績評価書Ⅲ-1-1」 (PDF)”. 厚生労働省 (2011年8月). . 2011閲覧.」のp.2参照
  23. 厚生労働省報道発表資料「平成21年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」(2010年6月14日)
  24. 2014年6月20日中日新聞朝刊2面
  25. 小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会
  26. 過労死訴訟:障害考慮し労災認定 名古屋高裁が判決 毎日新聞 2010年4月17日
  27. 心臓に障害の男性過労死、高裁が労災と認定 読売新聞 2010年4月16日
  28. 2014年6月20日中日新聞朝刊2面
  29. 名古屋地判平成19年11月30日 判例タイムズ1275号 豊田労基署長事件。
  30. 研修医過労死:「時間外」不算入は違法 奈良地裁 毎日新聞 2010年8月27日
  31. 執行役員は労働者、労災不認定処分を取り消し 読売新聞 2011年5月20日
  32. 過労死で東急ハンズに7800万円賠償命令 神戸地裁 産経新聞 2013年3月13日
  33. 過労死の企業名開示を 遺族が大阪労働局に請求 産経新聞 2009年3月5日
  34. 労災企業名不開示訴訟:大阪高裁「適法」 家族の会、逆転敗訴 毎日新聞 2012年11月29日
  35. 損賠訴訟:自殺原因は過労 男性の遺族、会社を提訴 毎日新聞 2010年10月2日
  36. 予報士の過労自殺認め和解 ウェザーニューズが謝罪 共同通信 2010年12月14日
  37. 「過労で自殺」新富町を提訴、女性職員の両親 読売新聞 2011年12月3日
  38. 社員自殺、マツダに過失 地裁支部が6千万円支払い命令
  39. 病院職員自殺:過労認め賠償命令 甲府地裁 毎日新聞 2012年10月3日
  40. 過労死:中国人実習生遺族が提訴 損害賠償求め水戸地裁に 毎日新聞 2011年3月5日
  41. 労災認定:「自殺は労災」逆転認定 居酒屋従業員、時間外月140時間--神奈川 毎日新聞 2012年2月22日
  42. 突然死:両親、長時間労働放置が原因と「光通信」提訴 毎日新聞 2014年6月24日
  43. 23歳過労死:自殺の男性社員を労災認定 毎日新聞 2011年11月1日
  44. 過労死:理学療法士に全国初の認定 横浜西労基署 毎日新聞 2011年11月2日
  45. 原発作業員の遺族、労災申請へ 収束作業中に心筋梗塞 朝日新聞 2011年7月12日
  46. 原発作業員の死亡、労災と認定 事故収束作業で 朝日新聞 2012年2月24日
  47. 労災認定:昨春急死の富士通課長 上司国外脱出で過重労働 毎日新聞 2012年9月22日
  48. 月162時間残業で「過労自殺」 遺族、JR西を提訴 朝日新聞 2013年10月25日
  49. 過労死 ファミマが認め和解 月200時間超残業 毎日新聞 2016年12月30日
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  94. “自殺が増加 背景に失業率上昇 : ボンジュール!パリからの健康便り”. 読売新聞. (2013年9月26日). http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=85309 . 2013閲覧. 
  95. “英ロンドンでメリルリンチの学生インターン死亡、過労死か”. AFPBB News. (2013年8月26日). http://www.afpbb.com/articles/-/2964100 . 2013-10-5閲覧. 
  96. 森岡孝二 (2004年6月1日). “過労死・過労自殺をめぐる日米比較”. 大阪過労死問題連絡会事務局 あべの総合法律事務所. . 2013閲覧.
  97. 豪州でも深刻 サービス残業 労働者の2割が週50時間以上労働 労組評議会 時短と残業代支払い要求”. しんぶん赤旗 (2004年11月8日). . 2013閲覧.
  98. “ゴールドマン・サックスに「ブラック企業」の疑い”. ニューズウィーク. (2013年9月19日). http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/09/post-3050.php . 2013-10-5閲覧. 
  99. 14歳のロシア人モデル、中国で過労死か 事務所は否定
  100. 業界は童顔モデルブーム、急死した14歳モデルの事務所が指摘 中国 2017年10月31日
  101. (アメリカでは過労による死亡は多発しているが、転職の自由もあるため、自己責任と考えるのが一般的。また、働いて豊かになる権利もあるというのが米国人の一般的な考え方でもある)
  102. 2014年6月26日中日新聞社説
  103. “「過労死防止基本法制定を」 島根など36地方議会が意見書”. 産経新聞. (2013年9月29日). http://sankei.jp.msn.com/region/news/130929/smn13092902050000-n1.htm . 2013-10-5閲覧. 
  104. “超党派議連:過労死防止法案提出へ 来年の通常国会で”. 毎日新聞. (2013年12月3日). http://mainichi.jp/select/news/20131204k0000m010124000c.html . 2013閲覧. 
  105. “共産党躍進 これが秘密/ざっくばらんに志位さん語る/テレビ東京系「週刊ニュース新書」”. しんぶん赤旗. (2013年8月4日). http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-04/2013080402_04_0.html . 2013-10-5閲覧. 
  106. “ブラック企業 もはや放置はできない”. 東京新聞. (2013年9月6日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013090602000152.html . 2013-10-5閲覧. 
  107. “ブラック企業調査 8割超で法令違反”. 東京新聞. (2013年12月17日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013121702000242.html . 2013閲覧. 
  108. “ブラック企業から 若者を守る 大学3年の就職活動 今月から本格化”. 東京新聞. (2013年12月20日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013122202000117.html . 2013閲覧. 
  109. “過労死防止法、成立へ 衆院委可決 「国が責任」明記”. 朝日新聞. (2014年5月24日). http://www.asahi.com/articles/DA3S11152457.html . 2014-5-25閲覧. 
  110. 2014年6月21日中日新聞朝刊2面
  111. 「働き方改革」の実現に向けて”. 厚生労働省. . 2017-5-20閲覧.
  112. 防衛装備移転三原則”. ニッセイ基礎研究所 (2016年9月15日). . 2017-5-20閲覧.
  113. “残業規制 年720時間の上限設定”. 日本経済新聞. (2017年5月18日). http://www.nikkei.com/article/DGKKASDF17H1F_X10C17A5EA2000/ . 2017-5-20閲覧. 
  114. 沢路毅彦; 千葉卓朗 (2017年3月18日). “残業の上限規制に「抜け穴」 「休日労働」は含まれず”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/articles/ASK3K5JQTK3KULFA02D.html . 2017-5-20閲覧. 
  115. 千葉卓朗; 高橋健次郎 (2017年3月13日). “残業上限「月100時間未満」 首相が「裁定」”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/articles/ASK3F5J2CK3FULFA032.html . 2017-5-20閲覧. 
  116. “ILO事務局長が来日 単独インタビュー”. 日テレNEWS24 (日本テレビ). (2017年5月20日). http://www.news24.jp/articles/2017/05/12/07361315.html . 2017-5-12閲覧. 

関連項目

外部リンク