整備新幹線

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整備新幹線(せいびしんかんせん)とは、新幹線計画路線のうち、全国新幹線鉄道整備法(昭和45年法律第71号)第7条に基づいて日本政府が1973年(昭和48年)11月13日に整備計画を決定[1]した以下の5路線を指す。当初は「整備5線」「整備5新幹線」とも呼ばれていたが、現在は「整備新幹線」の呼称が定着している。

なお、この5路線以前に計画されていた新幹線である東海道新幹線山陽新幹線、東北新幹線の東京駅 - 盛岡駅間、上越新幹線成田新幹線(計画失効)は整備新幹線には含まれない。また、計画中の中央新幹線は、全国新幹線鉄道整備法第7条に基づく新幹線ではあるが、整備計画の決定が2011年5月であったため、整備新幹線には含まれない。

整備新幹線の概要

整備新幹線の一覧
路線名 起点 終点 進捗状況 距離 備考
北海道新幹線 青森県青森市 北海道札幌市 一部開業
新青森 - 新函館北斗間)
360km 函館市付近・小樽市付近経由
東北新幹線 岩手県盛岡市 青森県青森市 全線開業 179km 八戸市経由
北陸新幹線 東京都 大阪府大阪市 一部開業
東京 - 金沢間)
600km 長野市富山市小浜市付近[2]経由
東京 - 大宮間は東北・上越新幹線、大宮 - 高崎間は上越新幹線と共用
九州新幹線
鹿児島ルート
福岡県福岡市 鹿児島県鹿児島市 全線開業 257km 熊本市薩摩川内市経由
九州新幹線
長崎ルート
福岡県福岡市 長崎県長崎市 一部開業
博多 - 新鳥栖間)
118km 佐賀市付近経由
博多 - 新鳥栖間は九州新幹線(鹿児島ルート)と共用

このうち、2016年(平成28年)3月26日までに、北海道新幹線の新函館北斗駅 - 新青森駅間149km、東北新幹線の新青森駅 - 盛岡駅間179km、北陸新幹線の高崎駅 - 金沢駅間346km、九州新幹線(鹿児島ルート)の博多駅 - 鹿児島中央駅間257kmが開業している。また、北海道新幹線の新函館北斗駅 - 札幌駅間は2030年(平成42年)度末、北陸新幹線の金沢駅 - 敦賀駅間は2022年(平成34年)度に開業予定であるが、九州新幹線(長崎ルート)の武雄温泉駅 - 長崎駅間はフリーゲージトレイン(軌間可変列車)の開発に時間がかかっているため、開業を予定していた2022年(平成34年)度から2025年(平成37年)度以降にずれ込む見通しであった[3]。しかしその後、国土交通省はフリーゲージトレインの営業車両投入までの暫定処置として博多駅 - 武雄温泉駅間は在来線特急、武雄温泉駅以西は新幹線のリレー方式を採ったため、開業予定は従来通りの2022年(平成34年)度とした[4]

一方で、2017年現在、北陸新幹線の敦賀駅 - 新大阪駅[5]、および九州新幹線(長崎ルート)の新鳥栖駅 - 武雄温泉駅間は未着工である(#未着工区間の項目参照)。

沿革

基本計画の決定 

1970年(昭和45年)に全国新幹線鉄道整備法(以下全幹法)が公布された。この法律により、経済発展や地域の振興を目的とした新幹線の建設が行われるようになった。全幹法に基づき、東北新幹線(盛岡市 - 青森市)は昭和47年告示第242号、北海道新幹線(青森市 - 札幌市)、北陸新幹線(東京都 - 大阪市)、九州新幹線(福岡市 - 鹿児島市)は昭和47年告示第243号、九州新幹線(福岡市 - 長崎市)は昭和47年告示第466号によって基本計画が告示された。

昭和48年整備計画

1973年(昭和48年)11月13日、運輸大臣によって5路線の整備計画が決定された[6]

建設線 区間 走行方式 最高設計
速度
建設に要する費
用の概算額
(車両費を含む)
建設主体 その他必要な事項
主要な経過地 その他
東北新幹線 盛岡市・青森市 粘着駆動
による電
車方式
260km/h 3,300億円 日本国有鉄道 八戸市附近
北海道新幹線 青森市・札幌市 260km/h 6,300億円 日本鉄道建設公団 函館市附近、
小樽市附近
1 北海道新幹線は、津軽海峡部において,青函ずい道を津軽海峡線と共用する。
2 建設に要する費用の概算額には津軽海峡線の工事費は含まない。
北陸新幹線 東京都・大阪市 260km/h 11,700億円 日本鉄道建設公団 長野市附近、
富山市附近、
小浜市附近
東京都・高崎市間は上越新幹線を共用する。
九州新幹線 福岡市・鹿児島市 260km/h 4,450億円 日本国有鉄道 熊本市附近、
川内市附近
九州新幹線 福岡市・長崎市 260km/h 2,150億円 日本国有鉄道 佐賀市附近 1 九州新幹線(福岡市・鹿児島市間)と筑紫平野で分岐するものとし、福岡市、分岐点間は共有する。
2 建設に要する費用の概算額には九州新幹線(福岡市・鹿児島市間)との共用部分は含まない。

運輸省案と3線5区間の着工

1988年、運輸省(当時)が、東北・北陸・九州(鹿児島ルート)の3線について、建設費を削減しつつスピードアップを図るため、ミニ新幹線スーパー特急方式を組み合わせた、いわゆる「運輸省案」を発表。

着工区間の沿線自治体や政治家からは、この案を「ウナギ(フル規格)を注文したらアナゴドジョウ(ミニ新幹線やスーパー特急方式)が出てきた」と揶揄されるほど不評であったが、この機会を逃すと次回の着工がいつになるか不透明であったことから、やむなくこれを受け入れ、同年、政府・与党申し合わせにより着工順位が決定された。

  • 1.北陸新幹線:高崎駅 - 長野駅間(高崎駅 - 軽井沢駅間フル規格、軽井沢駅 - 長野駅間はミニ新幹線。ただし、長野オリンピックの開催が決定した場合、フル規格への変更も考慮)→1997年フル規格で開業。
  • 1.北陸新幹線:高岡駅 - 金沢駅間(スーパー特急方式)→1992年8月、石動駅 - 金沢駅間着工。→2015年フル規格で開業。
  • 2.東北新幹線:盛岡駅 - 青森駅間(沼宮内駅(現・いわて沼宮内駅) - 八戸駅間フル規格、前後の区間はミニ新幹線)→盛岡駅 - 八戸駅間は2002年、八戸駅 - 青森駅間は2010年にフル規格で開業。
  • 3.九州新幹線(鹿児島ルート):八代駅 - 西鹿児島駅(現・鹿児島中央駅)間(スーパー特急方式)→起点を新八代駅に変更の上、2004年フル規格で開業。
  • 4.北陸新幹線:糸魚川駅 - 魚津駅間(スーパー特急方式)→1993年10月に着工したが、新黒部駅(仮称。現・黒部宇奈月温泉駅) - 魚津駅間は在来線への取り付け線のため工事は行われず。

しかし新幹線の建設財源が限られていたことから、優先順位1位でフル規格区間であった高崎駅 - 軽井沢駅間のみ翌1989年に着工。その他の区間は、既存新幹線譲渡収入(旧スキームの項を参照)が新幹線建設の特定財源となる1991年以降の着工となった。

1991年、長野オリンピックの開催が決定したことから、軽井沢駅 - 長野駅間がフル規格に変更された。一方、同順位だった高岡駅 - 金沢駅間は、富山県内の沿線自治体が並行在来線となる北陸本線石動駅 - 高岡駅間の経営分離に反対したことから、新高岡駅 - 金沢駅間の基本ルートを変更、着工区間は石動駅 - 金沢駅間に短縮された。

1994年、5年毎に行うとされた計画見直しで新規着工の機運が高まるが、財源が壁となり、ミニ新幹線で建設するとしていた東北新幹線の盛岡駅 - 沼宮内駅間をフル規格に変更の上、八戸駅 - 青森駅間の着工を延期した。

新スキームによる3線3区間の着工

1996年、新規着工の財源にJR本州3社の固定資産税軽減特例(1/2)(新スキームの項参照)を活用する方針が示され、新規着工区間の選定が活発化する。

同年12月25日、政府与党合意により、候補となる3線3区間を選定。政府・与党整備新幹線検討委員会による採算性の検討などを行い、1998年1月21日、着工および着工区間の優先順位が決定した。これらの区間は同年3月に着工している。

  • 1.東北新幹線:八戸駅 - 新青森駅間(フル規格)→2010年開業。
  • 1.九州新幹線(鹿児島ルート):船小屋駅(九州新幹線全通に合わせて筑後船小屋駅に改称) - 新八代駅間(スーパー特急方式。同時に着工済みの八代駅 - 西鹿児島駅間の起点を新八代駅に変更)→2011年フル規格で開業。
  • 2.北陸新幹線:長野駅 - 上越駅(仮称。現・上越妙高駅)間(フル規格)→2015年開業。

自自公連立政権成立と2線3区間の新規着工

1999年自自連立自自公連立による計画見直し案で、既着工区間のフル規格化と新規着工の方針が出され、2000年には、運輸省(当時)が翌2001年度予算の概算要求で、北陸・上越駅 - 糸魚川駅間と九州・博多駅 - 船小屋駅間の新規着工を要求した。

同年の政府・与党申し合わせで、新黒部駅 - 富山駅間を加えた2線3区間の新規着工が正式に決定した。

  • 北陸新幹線:上越駅(仮称) - 糸魚川駅間および新黒部駅(仮称) - 富山駅間(フル規格。同時に着工済みの糸魚川駅 - 新黒部駅(仮称)間もフル規格に変更)→2015年開業。
  • 九州新幹線(鹿児島ルート):博多駅 - 船小屋駅間(フル規格。同時に着工済みの船小屋駅 - 西鹿児島駅間もフル規格に変更)→2011年開業。

九州新幹線部分開業と3区間の新規着工

2004年3月13日、九州新幹線・新八代駅 - 鹿児島中央駅間が部分開業。開業に前後して新規着工に向けた見直し作業が行われ、2004年6月10日、与党整備新幹線建設促進プロジェクトチームの合意により3区間(福井駅周辺区間の整備を含めると4区間)の新規着工区間が決定した。

  • 北海道新幹線:新青森駅 - 新函館駅(仮称。現・新函館北斗駅)間(フル規格)→2016年開業。
  • 北陸新幹線:富山駅 - 石動駅間および金沢駅 - 白山総合車両基地(仮称。現・白山総合車両所)間(フル規格。同時に着工済みの石動駅 - 金沢駅間もフル規格に変更)→2015年開業。
  • 北陸新幹線:福井駅 →2005年6月4日着工、2009年2月19日完成。2015年から2018年頃まで暫定的にえちぜん鉄道が使用する予定[7]
  • 九州新幹線長崎ルート(西九州ルート):武雄温泉駅 - 諫早駅間(スーパー特急方式)

2005年、北海道新幹線と北陸新幹線の新規区間が着工された。長崎(西九州)ルートについては、並行在来線となる長崎本線肥前山口駅 - 諫早駅間の沿線自治体(佐賀県江北町鹿島市)が経営分離に反対していたため、2005年以降国の公共事業費として毎年10億円が計上されていたが着工できず、予算は消化できないという状況が続いていた。その後、2007年12月に推進派3者(佐賀県・長崎県・JR九州)による、いわゆる「三者合意」による「上下分離方式」により、JR九州が並行在来線区間を新幹線開業後20年間運行するという形で決着が図られ、2008年3月に着工認可が下り、翌4月に着工された。

民主党政権初の新規着工

2009年9月の民主党への政権交代に伴い、大幅な公共事業の見直しが行われ、北海道・北陸・九州(長崎ルート)の未着工区間の建設は一時凍結されることになった。これらの区間については、莫大な建設費や並行在来線の分離に対する沿線自治体の合意などの面でも大きな問題を抱えていた。しかし、JRが支払う線路使用料を建設費に充てることで財源の目途が立ったことや沿線自治体との協議が進んだこと、また、東日本大震災以降、軸となるインフラの整備を集中的に行っていく方向に進んでいたこともあり、2011年末に、沿線自治体との合意という条件付きで以下の3区間の新規着工の方針が国土交通省によって示された[8]

  • 北海道新幹線:新函館駅(仮称) - 札幌駅間 212km
  • 北陸新幹線:金沢 - 敦賀駅間 124km(福井駅部分を除く)
  • 九州新幹線長崎ルート(西九州ルート):諫早駅 - 長崎駅間 21km

そして、2012年6月29日に正式に着工が認可された[9]。北海道は2035年度、北陸は2025年度、九州(長崎ルート)は着工済の武雄温泉 - 諫早間を含めて2022年度の完成を目指して建設が進められることになった。その後、自民政権下の2015年1月14日に前倒しが正式に決定した[10]

未着工区間

2017年3月現在の未着工区間は以下の通りである。

  • 北陸新幹線:敦賀駅 - 新大阪駅間 約143km(キロ程は東小浜駅付近・京都駅松井山手駅付近経由)[11]
    • 敦賀以西はさまざまなルートの案があったが、2016年に敦賀駅 - 小浜市付近 - 京都駅というルート(小浜・京都ルート)が決定をみた。京都駅から新大阪駅へは、東海道新幹線の北側を通る「北回りルート」と、京都駅 - 京都府南部の関西文化学術研究都市付近 - 新大阪駅という「南回りルート」のふたつが提案されていたが、2017年3月15日に南回りルートが経由地を松井山手駅付近に変更した上で正式採用された[5](「北陸新幹線#敦賀以西のルート」および「北陸新幹線敦賀以西のルート選定」参照)。
  • 九州新幹線長崎ルート(西九州ルート):新鳥栖駅 - 武雄温泉駅間 51km

北陸新幹線については、フリーゲージトレインにより、暫定的に湖西線・北陸本線[注 1]への乗り入れが検討されている。

また、九州新幹線長崎ルートは武雄温泉駅以西が標準軌による整備に変更されたことで、当該区間のみが狭軌という形で取り残される形となった。この場合、フリーゲージトレインの軌間変更が2回必要な形になることから、所要時間の増加につながる。このため、当該区間の扱いについて注目されている。

財源問題

東北・上越新幹線は、国鉄の自己資金や財政投融資等の借入金によって建設され、結果的に国鉄債務増大の一因となったことへの反省から、整備新幹線は原則として、返済の必要がない無償資金による公共事業方式で建設され、営業を担当するJRからは、開業後の受益に応じた線路貸付料を受け取る形とした。

しかし、公共事業費の増額には財務省(旧・大蔵省)の抵抗が大きく、新規着工や開業前倒しには新たな財源探しが付き物となる。

旧スキーム

1989年、北陸新幹線・高崎 - 軽井沢間着工の際に決められた[13]

  • JR:50%
    • 整備新幹線の線路貸付料
    • 既設新幹線(東海道・山陽・東北・上越)のリース料から新幹線保有機構の旧国鉄債務を返済した余剰分
  • 国(公共事業費等):35%
    • 第一種工事(線路その他の主体等の鉄道施設に係る工事) - 40%
    • 第二種工事(駅その他の地域の便益に密接に関連する鉄道施設に係る工事) - 25%
  • 地方:15%
    • 第一種工事 - 10%
    • 第二種工事 - 25%

地方負担分は原則として都道府県の負担となるが、90%は地方債の起債が可能。また10%は沿線市町村に負担させることができる(新スキームでも同様)。

1990年、既存新幹線のJR3社への売却を翌年に控え、譲渡収入のうち資産再評価に伴う上乗せ額1.1兆円が整備新幹線の特定財源とされ、毎年724億円が国およびJR(既存新幹線リース料余剰分に代わるもの)の財源となった。

なお北陸新幹線(高崎 - 長野)については、開業を長野オリンピック開幕に間に合わせるため、例外として有償資金である財政投融資(2775億円)が投入された。開業後は後に開業した東北・九州を含む開業済み区間の線路貸付料で返済を行ってきたため、線路貸付料から建設費にはほとんど充当されなかった。しかし、2011年6月8日に成立した「改正国鉄債務処理法」によって、鉄道・運輸機構の特例業務勘定における利益剰余金から債務が償還されたため、その分が建設費に充てることができるようになった[14]

新スキーム

1996年、3線3区間の新規着工に伴い、国・地方・JRの負担割合の見直しを行った[13]

  • JR:受益の範囲を限度とした貸付料など
  • 国:JR負担分を除く2/3
    • 公共事業費
    • 既存新幹線譲渡収入(旧スキームでJRの負担とされていたものも含む)
  • 地方:JR負担分を除く1/3
    • うち90%は地方債の起債が認められ、償還の際には元利償還金の標準財政規模に占める割合に応じて元利合計の50%から70%に対して地方交付税措置を行う(JR本州3社の固定資産税軽減特例(1/2)終了に伴う地方交付税減額分を配分)。したがって地方の実質負担は約12%から18%となる。

2004年末の政府・与党申し合わせで、既存新幹線の譲渡収入の中から2013年度以降の分を前倒しする形で活用することが決まった。

また、着工予定区間である北陸新幹線(富山 - 金沢)や北海道新幹線(新青森 - 新函館)の収支改善効果試算の過程で、他社区間に乗り入れることになるJR東日本の収益増加額(いわゆる「根元受益」)が巨額(北陸390億円/年、北海道220億円/年)となることが明らかになり、この分についても負担を求める方針も盛り込まれたが、当事者のJR東日本は難色を示している。

整備新幹線建設費の推移

整備新幹線建設費の推移(単位億円)[15]
1989年 63

1990年 211

1991年 373

1992年 1296

1993年 1922

1994年 1942

1995年 2548

1996年 1725

1997年 1482

1998年 1899

1999年 2379

2000年 2753

2001年 2916

2002年 2380

2003年 2072

2004年 2207

2005年 2253

2006年 2509

2007年 2687

2008年 3178

2009年 3666

2010年 2510

並行在来線問題

整備新幹線の並行在来線は、原則的にJRから経営分離され、第三セクター鉄道に転換または廃止されている(JRの経営のまま残った区間もある)。これは、高額な新幹線の施設と地方閑散線区に転落した並行在来線を両方所有運営することによる、JRの負担を軽減する措置である。1996年12月25日の「整備新幹線の取扱いについて 政府与党合意」[16]で「建設着工する区間の並行在来線については、従来どおり、開業時にJRの経営から分離することとする」としており、今後開業する整備新幹線の並行在来線についても、同様の措置とする予定である。並行在来線では、沿線の利用者や貨物列車および並行在来線の枝線の扱い、新事業者の経営をどのように支えるかが課題となる[17]。新幹線開業により廃線となった路線は、信越本線横川駅 - 軽井沢駅間のみである。なお、既存路線(整備新幹線以外の新幹線路線)の並行在来線は、経営分離される予定はない[注 2]

整備新幹線の並行在来線の一覧
整備新幹線 並行在来線
新幹線開業前 区間 営業キロ 移管(廃止)日 新幹線開業後
北海道新幹線 JR logo (hokkaido).svg北海道旅客鉄道
(JR北海道)
江差線 五稜郭 - 木古内 37.8 2016年3月26日 道南いさりび鉄道へ移管
函館本線 函館 - 小樽 252.5 2030年度 第三セクター会社へ移管(予定)
大沼 - 35.3
小樽 - 札幌 33.8 JR北海道のまま存続(予定)
東北新幹線 JR logo (east).svg東日本旅客鉄道
(JR東日本)
東北本線 盛岡 - 目時 82.0 2002年12月1日 IGRいわて銀河鉄道へ移管
目時 - 八戸 25.9 青森県および青い森鉄道へ移管(上下分離方式
八戸 - 青森 96.0 2010年12月4日
北陸新幹線 信越本線 高崎 - 横川 29.7 JR東日本のまま存続
横川 - 軽井沢 11.2 1997年10月1日 廃止(ジェイアールバス関東碓氷線へ転換)
軽井沢 - 篠ノ井 65.1 しなの鉄道へ移管
篠ノ井 - 長野 9.3 JR東日本のまま存続
長野 - 妙高高原 37.3 2015年3月14日 しなの鉄道へ移管
妙高高原 - 直江津 37.7 えちごトキめき鉄道へ移管
JR logo (west).svg西日本旅客鉄道
(JR西日本)
北陸本線 直江津 - 市振 59.3
市振 - 倶利伽羅 100.1 あいの風とやま鉄道へ移管
倶利伽羅 - 金沢 17.8 IRいしかわ鉄道へ移管
金沢 - (未定) 130.7 2022年度 IRいしかわ鉄道へ移管(予定)
(未定) - 敦賀 第三セクター会社へ移管(予定)
九州新幹線
(鹿児島ルート)
JR logo (kyushu).svg九州旅客鉄道
(JR九州)
鹿児島本線 博多 - 八代 154.1 JR九州のまま存続
八代 - 川内 116.9 2004年3月13日 肥薩おれんじ鉄道へ移管
川内 - 鹿児島中央 46.1 JR九州のまま存続
九州新幹線
(長崎ルート)
長崎本線 肥前山口 - 諫早 60.8 2022年度 新幹線開業後20年間は上下分離方式(予定)
(長崎県・佐賀県が施設を管理、JR九州が列車を運行)
諫早 - 長崎 24.9   未定
喜々津 - 浦上 23.5

北陸新幹線

1997年10月1日北陸新幹線長野新幹線)高崎駅 - 長野駅間開業に伴い、並行在来線となる信越本線のうち、高崎駅 - 横川駅間が東日本旅客鉄道(JR東日本)の路線として存続、 横川駅 - 軽井沢駅間が廃止、軽井沢駅 - 篠ノ井駅間が第三セクターのしなの鉄道に経営移管され、並行在来線経営分離の最初の例となった。篠ノ井駅 - 長野駅間も、篠ノ井線からの列車が多数乗り入れる輸送体系上、引き続きJR東日本が運営している。

2015年3月14日の北陸新幹線長野駅 - 金沢駅間開業時には、並行在来線となる信越本線と北陸本線のうち、長野県内区間(信越本線長野駅 - 妙高高原駅間)がしなの鉄道に、新潟県内区間(信越本線妙高高原駅 - 直江津駅間および北陸本線直江津駅 - 市振駅間)がえちごトキめき鉄道に、富山県内区間(北陸本線市振駅 - 倶利伽羅駅間)があいの風とやま鉄道に、石川県内区間(北陸本線倶利伽羅駅 - 金沢駅間)がIRいしかわ鉄道にそれぞれ経営移管された。

北陸本線金沢駅 - 敦賀駅間については2022年度頃に北陸新幹線の金沢駅 - 敦賀駅間が開業した時点でJRから第三セクター鉄道会社に経営移管される予定である。境界駅について公式な発表はない。

2046年度の開業が想定されている北陸新幹線敦賀駅 - 新大阪駅間については2017年時点で具体的な計画は未定となっているが、一部報道では湖西線が経営分離の対象になるとしている[18]

東北新幹線

2002年12月1日に延伸開業した東北新幹線盛岡駅 - 八戸駅間、および2010年12月4日に延伸開業した八戸駅 - 新青森駅間についても、並行在来線となる東北本線の盛岡駅 - 八戸駅間および八戸駅 - 青森駅間が第三セクターのIGRいわて銀河鉄道第一種鉄道事業事業者)と青森県第三種鉄道事業者)・青い森鉄道第二種鉄道事業者)に経営移管された。同区間は関東地方 - 北海道を結ぶ物流の大動脈であり、同区間を第二種鉄道事業者として営業を行う日本貨物鉄道(JR貨物)に対して、線路使用料の引き上げを求めた。

JR貨物がJR旅客会社に対して支払っている線路使用料は、アボイダブルコストに基づき算出されている。経営移管に際して第三セクター側はJR貨物に対し、自身の経営規模では非電化単線で済むものを貨物運行のために過剰な電化施設や複線を維持しているとして、保守経費のみを対象としているアボイダブルコスト方式をやめて、過剰な施設負担分を含めた線路使用料を支払うように要求した。

これに対して、JR貨物は自社は何の恩恵も受けないにも拘らず一方的な線路使用料の値上げには応じない方針を示し、東北新幹線を三線軌条に改造する、機関車及びそれに牽引される貨車をフリーゲージトレイン化し東北新幹線上を走行可能にする、羽越本線奥羽本線経由(寝台特急あけぼの」と同一)のルートに迂回する、などの方策が検討されてきたが、いずれも不可能という結論になった。

関係者の間で協議が行われた結果、当該区間の整備新幹線を建設した特殊法人日本鉄道建設公団(後の独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)がJR東日本から受けとる新幹線に対する線路使用料を原資として、JR貨物の支払う線路使用料を補填することになった。この制度は後の整備新幹線開業でも適用され、期限はJR貨物の完全民営化時とされている。

新幹線開業後も、上野駅 - 札幌駅間を運行する寝台特急「北斗星」・「カシオペア」がJRからの乗り入れ列車として2016年まで運行を継続していた。しかし車両回送については、同区間は国鉄時代から秋田や郡山にある工場への入場車両の回送ルートとなっていたにも関わらず、路線の分断により首都圏を経由するなど大迂回を強いられることとなった。また、2010年12月4日に在来線八戸駅 - 青森駅間が青い森鉄道に移管されたことにより、大湊線八戸線が自社在来線と直接に接続せず孤立することになったが、そこで使用される車両については、転換後も乗り入れ列車の設定により融通されている。

九州新幹線(鹿児島ルート)

2004年3月13日に部分開業した九州新幹線新八代駅 - 鹿児島中央駅間において、並行在来線(鹿児島本線)のうち八代駅 - 川内駅間が第三セクター肥薩おれんじ鉄道に経営移管された。この区間はJR貨物が第二種鉄道事業を行っていたため、熊本・鹿児島県境の閑散区間であったにもかかわらず路線が維持されたもので、JR貨物も株主として出資し引き続き第二種鉄道事業を行っている。貨物列車の運転用に電化設備が存置されているが、旅客列車は運行経費削減のため軽快気動車による運転となった。この区間で運行されていた夜行列車は同鉄道区間への乗り入れが行われず、博多駅からの特急「ドリームつばめ」が熊本駅までの「有明」に変更、新大阪駅からの「なは」(2008年3月15日廃止)も熊本駅までに運行区間が短縮されていた。しかし、JR九州が2013年から運行するクルーズトレイン「ななつ星in九州」に関しては、当該区間に乗り入れたことがある。

これ以外の路線区間は都市圏輸送体系上、分離されずにJR九州が継続して経営を行っている[19]

北海道新幹線

北海道新幹線新青森駅 - 新函館北斗駅間の開業に向けて、2014年8月に北海道道南地域並行在来線準備株式会社(2015年から道南いさりび鉄道株式会社)が設立され[20]、2016年3月26日の北海道新幹線開業とともに江差線のうち五稜郭駅 - 木古内駅間が同社に経営分離された。非電化区間である木古内駅 - 江差駅間は並行在来線にはあたらないが、JR北海道管内で乗降客が最も少ない区間の一つであったため、2014年5月12日をもって廃止された[21]津軽線については、青森県は「津軽線の経営はJR東日本で北海道新幹線の経営はJR北海道が行うため並行在来線ではない」という見解を出しており、JR東日本も2004年に経営分離しないことを明らかにしている。

札幌までの延伸着工は、国土交通省が示した新幹線着工条件の一つであったため、沿線自治体が函館本線函館駅 - 小樽駅間の経営分離に合意している[22]。小樽駅 - 札幌駅間は普通列車快速列車の運行本数・利用客ともに多く、岩見沢方面や新千歳空港方面と一体的な運行を行っていることから札幌延伸後もJR北海道が経営する予定。しかし函館 - 新函館北斗間は厳密には北海道新幹線と並行していないことから、地元財界を中心に経営分離反対の動きもみられる。

九州新幹線(長崎(西九州)ルート)

長崎本線肥前山口駅 - 長崎駅間が並行在来線にあたるが、具体的なことについては現在調整中の段階にある。新幹線開業後もしばらくはJR九州がこの区間を運行するため、沿線自治体が新幹線の着工条件の一つとして経営分離に同意することは不要とされている[23]

地方格差助長問題

新幹線の建設を促進する理由として、地方格差の是正と地域振興が主張されるが、地方の衰退を促進する効果が大きいと指摘する専門家もいる[24]

その理由として、以下のようなことを挙げている。

  • 北陸新幹線長野新幹線)の開業で発展した長野県佐久市に対して、新幹線ルートから外れた小諸市は衰退している[24]
  • 整備の不徹底やストロー効果により、地方格差の是正どころか大都市部への一極集中の促進効果が強い。これについては反論も存在する[24]
  • 並行在来線の分離問題により、収益の低い路線を地方に押し付け財政悪化につながること[24]や、地方交通ネットワークが破壊されることなど。

設計・運行速度

整備新幹線区間はこれまで整備されてきた各新幹線同様最高速度が260km/hとして設計・整備されている[25][26]ものの、建設費用の問題や、速達性の需要程度の関係により、整備新幹線区間は開業時から設計時最高速度と同じ260km/h運転を行うもののそれを超える速度での運転を行っていない。また、北陸新幹線の30、九州新幹線の35‰(筑紫トンネルほか)勾配や線形など、新規路線にもかかわらず、従来よりもきつい制限が掛かることもある。

脚注

注釈

  1. 敦賀着工時の国土交通省の試算では、フリーゲージトレイン導入時の設定本数は「現行の在来優等(サンダーバード23本、しらさぎ16本)と同等」としている[12]
  2. 一時期、西日本旅客鉄道(JR西日本)は、北陸新幹線の開業時に、その並行在来線である北陸本線のみならず、北陸本線に接続するこれら支線系統までも経営分離する方針を打ち出していた。

出典

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 整備新幹線とは (PDF) - 国土交通省
  2. http://www.mlit.go.jp/common/000109162.pdf
  3. “九州新幹線長崎ルート、開業3年遅れに…国交省”. 読売新聞(YOMIURI ONLINE) (読売新聞社). (2016年2月12日). http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160211-OYT1T50080.html . 2016-2-15閲覧. 
  4. “九州新幹線長崎ルート、開業時はリレー方式で”. 読売新聞(YOMIURI ONLINE) (読売新聞社). (2016年3月9日). http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160211-OYT1T50080.html . 2016-3-19閲覧. 
  5. 5.0 5.1 “北陸新幹線の全ルート確定 敦賀以西31年着工”. 日本経済新聞 電子版 (日本経済新聞社). (2017年3月15日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H2U_V10C17A3PP8000/ . 2017閲覧. 
  6. 全国新幹線鉄道整備法、第七条第一項の規定に基づき、新幹線鉄道建設に関する整備計画を別紙のとおり決定する 昭和四十八年十一月十三日 運輸大臣 新谷 寅三郎 (PDF)”. 佐賀県. 2017年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2018閲覧.
  7. “新幹線高架乗り入れ用“階段”が姿 えちぜん鉄道走行のスロープ完成”. 福井新聞 (福井新聞社). (2014年12月19日). オリジナル2014年12月19日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20141219122323/http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/60158.html . 2015-1-22閲覧. 
  8. 整備新幹線3区間の着工方針決定 北海道・北陸・九州 - 朝日新聞
  9. 3区間着工を正式認可=整備新幹線、民主政権で初―羽田国交相 - 時事通信
  10. 整備新幹線について (PDF) - 総務省、2015年3月13日
  11. 北陸新幹線京都・新大阪間のルートに係る調査について (PDF)”. 国土交通省鉄道局 (2017年3月7日). . 2017閲覧.
  12. 収支採算性及び投資効果に関する詳細資料 (PDF)”. 国土交通省 鉄道局. p. 31 (2012年4月). . 2015閲覧.
  13. 13.0 13.1 整備新幹線に係る主な経緯 - 国土交通省
  14. 整備新幹線未着工区間の新規着工に向けた動き ― 財源問題を中心に ― (PDF)”. 立法と調査 330号. 参議院 (2012年7月2日). . 2015閲覧.
  15. 蓼沼慶正、森田泰智、堀川淳「整備新幹線の財源について」、『鉄道ピクトリアル』第850号、2011年7月、 64-65頁。
  16. 新幹線鉄道の整備|整備新幹線の取扱いについて 政府与党合意 - 国土交通省 1996年12月25日
  17. 杉山淳一の時事日想:赤字で当然、並行在来線問題を解決する必要はない
  18. <北陸新幹線>湖西線 並行在来線の懸念 - 読売新聞 2016年12月23日
  19. 連載特集・整備新幹線 九州新幹線:明日の九州を支える新幹線整備 - 建設グラフ(自治タイムス)2002年8月号
  20. 14年5月にも三セク準備会社設立へ-江差線五稜郭-木古内間 - 北海道建設新聞、2013年8月27日。
  21. “江差線(木古内・江差間)の鉄道事業廃止届の提出について” (PDF) (プレスリリース), 北海道旅客鉄道, (2013年4月26日), http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2013/130426-1.pdf . 2013閲覧. 
  22. 「函館-小樽253km沿線15市町村と協議開始予定」 - 北海道新聞 16版 2012年2月15日 2面
  23. 平成19年12月17日知事臨時記者会見 (佐賀県公式サイト)での記者との質疑応答より
  24. 24.0 24.1 24.2 24.3 鯉江康正「開発投資型新幹線による地域振興策の検討 - 糸魚川地域を例として -」 (PDF) 、6.新幹線整備の影響(正の効果と負の効果)参照、長岡大学
  25. 曽根悟 『新幹線50年の技術史』 講談社、195-196。ISBN 978-4-06-257863-9。
  26. 日本国有鉄道建設局新幹線工事課『東北新幹線工事誌-上野・大宮間-』、日本国有鉄道、1986年11月。

関連項目

外部リンク

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