共同運行

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共同運行(きょうどううんこう)とは、路線バスの運行形態の一つである。

運行形態

1つの路線を複数のバス会社が共同して運行する。同じ区間を運行している複数のバス会社が、他社との無益な競合を避けるため、運行ダイヤグラム運賃収入体系などを調整して共同運行とするものである。これに対して1社で運行する場合は「単独運行」と称する。

日本ではおもに、営業エリアが同じ2社の場合と、異なる営業エリアの会社同士が相互に営業エリアを跨って運行する場合がある。前者は一般路線に、後者は高速路線に多く見られる。これは以前、乗合バスが路線免許制で、一度路線免許を取得すると競合を避けるため原則として事業の独占ができた経緯に端を発する。

なお、同じ区間を走るにも関わらず、全く各社間調整をしないで運行している場合(高速バスに多い)は、例えば2路線なら「ダブルトラック」などのように呼ばれ、共同運行としては扱われない。この場合、運行時間帯なども重なっている場合が多い。

バスの乗車券を2社以上で共通化することを「共通乗車制度」と言う。共通乗車制度は共同運行路線では原則となるが、共同運行ではないものにも適用できるため(これを拡大したものが共通乗車カードの類である)一応区別する必要がある。

基本的に始発地を営業エリアとする会社と終着地をエリアとする会社との間で行われることが多いが、そのどちらも営業エリアとしていないエリアに停車地がある場合はその営業エリアの会社も共同運行に参加する場合がある。この場合、途中停車地を営業エリアとする会社は他の路線で車両の送り込みが行われる場合も多い。

類型

以下のようなパターンに大別される。

競合運行

同一の区間を運行しており、何らかの調整がされているが、ダイヤ・時刻の統一はなく、各社でバラバラに運行される。また乗車券類も共通ではなく、運賃精算も各社間では行われていないことが多い。系統番号については統一することもある。バス停留所に掲出されている時刻表が各社別になっている場合は、このパターンであることが多い。

相互乗り入れ

一般路線バスにおいて共同運行と称される場合、通常はこの方式である。同一の区間を運行する各社間で、ダイヤ・時刻・運行便数などの調整が行われる。共管路線とも称される。

系統番号については統一される場合も、統一されない場合もある。バス停留所に掲出されている時刻表が会社に関わらず1つにまとめられている場合は、このパターンであると考えてよい。

観光地を走る国鉄バス路線などでよく行われていた手法で、JRバスになっても続けられている路線が存在する。

運賃精算は基本的には行われないが(親会社と子会社の運行便に関してそれぞれの乗車券類の精算は行われる)、共通定期券回数券を設定の上、現金での利用分以外については運賃精算が行われるケースもある。近年では地域ごとに共通回数券や共通乗車カードが設定されていることが多いので、路線個別の精算は共通定期券以外は行っていないこともある。

親会社が運行していた路線を子会社が引き継いで運行し、その路線に親会社が再度乗り入れる場合もあり、その場合の精算は乗車券・回数券等の発券分は発券会社に別途請求し、現金収入は収受した会社の利益となる例がある。

定期券に関しては、運行路線や利用状況の確認のため整理券を発券し、降車時に乗務員が別途整理券のみ回収し、利用状況により配分率を別途計算する方式を行っている例もある(1990年代北海道中央バスにおける空知・旭川管内路線において、特急滝旭線・深旭線運行時に行われている)。

中央高速バス甲府線の開設当初は、京王富士急山梨交通の3社相互乗り入れ方式であったが、以前は時間帯による運賃収入の格差を解消するため、ダイヤ改正がなくても毎年担当便を変更する方法で調整していた。現在は後述の「運賃プール精算制」となっている。

また、各社で収入・支出を割り勘とする例もある。例えば琉球バス交通沖縄バスが共同運行している28番読谷線に乗車し、運賃を200円支払った場合、半分の100円は琉球バス交通の収入になり、残りの100円は沖縄バスの収入になる。この方式は後述の「運賃プール精算制」に近いが、各社ごとの運行キロ数によらない方法なので、こちらに分類される。

後述の「運賃プール精算制」に対して、こちらの方式を「着札精算制」と呼ぶこともある。

相互乗り入れと独占禁止法の関係について

1997年7月公正取引委員会の見解によれば、旅客の利便の増進を目的とするダイヤ・時刻・運行便数などの調整については、以下の条件すべてを満たしていれば、原則として独占禁止法上問題とはならないとされる。[1]

  • 全体として競争手段を制限し、需要者の利益を不当に害さないものである
  • 当該協定が特定の事業者に対して不当に差別的でないものである
  • 事業者に協定の遵守を強制するものではない

また、同見解においては、以下の協定は独占禁止法上問題とはならない旨も明記されている。[1]

  • 定期乗車券の共通使用
  • 共通乗車券(バス共通カード、共通回数券)
  • 連絡運輸及びこれに付随して行われる運賃の計算・収受・配分に関する協定
  • バスターミナル等の設備の共用

運賃プール精算制

高速バスで共同運行といえば、この方式をさすことが多い。

同一の区間を運行する各社間の中で1社が幹事役となり、その路線に関わるすべての収入を一旦取りまとめた後、運行便数・走行キロ数に応じて各社に配分する方法である。便ごとの乗客の多寡に各社ごとの収入が左右されないことから、多くの高速バスで導入されている方法である。

例えば、片道40kmの路線があったとして、A社が1往復全区間運行し、B社は復路を途中30kmで運行終了した場合、A社の走行キロは80kmであるが、B社は70kmしか運行していないため、A社には全収入の53.3%が配分され、残りがB社の取り分となる。

この場合,、各便の乗車率は考慮されないため、例えばA社便の乗客がゼロで、B社便で乗客が合計100人いたとしても、A社には収入が配分される。A社便の乗客を増やすためにB社が利用促進の活動を行ない、その結果A社便の乗客が増加した場合、増加した分の収入はB社にも配分される。

運賃プール精算制は、1983年西日本鉄道阪急バスの共同運行により運行を開始した夜行高速バス「ムーンライト号」で採用されたのが最初とされている。多くの事業者が関わるものでは、1984年運行開始の中央高速バス伊那・飯田線の6社プール精算などが挙げられる。

また、類似内容の高速バス路線の運行について、共倒れを防ぐため異なる路線の間でもこの方法が採られるケースもあり、運行開始当初の「ルブラン号」「ルミナス号」「マスカット号」(いずれも東京 - 岡山・倉敷間を結ぶ路線)では、3路線6社でのプール精算となっていた。

なお、異なる会社の共同運行ではないが、JRバス関東では、複数の支店が運行に関わる場合に、支店間で同様の方法による精算を行っている。JRバス関東では支店ごとの独立採算制を重視しており、それぞれの支店が担当する高速バスの収入は、担当支店の収入となるからである。

例えば「かしま号」の場合、まず運行会社のJRバス関東・関東鉄道京成バスで配分された後、JRバス関東の収入については東京支店東関東支店土浦支店で運行便数に応じて再配分される。

運賃プール精算制の場合は、路線ごとの収入を明確にするため、回数券などは当該路線専用の共通回数券が用意されることが多い。

車両に関しても、共同運行路線を担当する車両は、極力その日一日は当該共同運行路線専用で使用する例が多く、間合い運用等で共同運行路線の担当車両が一般路線の運行に入る場合、管轄する営業所等において運賃箱をそれぞれ一般路線と共同運行とで分け、運賃精算に支障が無いよう便宜を図る場合がある。

運賃プール精算制と独占禁止法の関係について

運賃プール精算制は、「事業者間で運賃・運行回数等について制限することになり、原則として独占禁止法上問題になる[2]」というのが公正取引委員会の見解であるが、「事業者が単独で参入しにくい場合において、新規路線を開設するために行われる共同経営に関する協定[2]」「新規路線を開設するために行われる共同経営に関する協定を既に行っている事業者が、単独では当該協定に係る路線を維持することが困難な場合に行われている当該協定[2]」については、路線分割・市場分割を行う協定を除き、原則として独占禁止法上問題とはならない[2]とされている。

高速バスにおける共同運行について

高速バスの場合、予約定員制か座席指定制となることから、極力座席配置などの仕様は統一するケースが多く、特に夜行高速バスではその傾向が強い。

ムーンライト号」では車両のカラーリングも含めて全く同一の車両を使用していた他、「ノクターン号」では各社ともに1号車用と2号車用のカラーリングが用意されたり、運行開始当初の「らくちん号」のように、4社が車種まで揃えたケースが挙げられる。しかし、高速バスブームなどで共同運行の組み合わせが増えるに従い、それぞれの標準的な仕様が異なってくるケースも増加した。基本的には座席定員のみ合わせているケースが多く、1 - 2席程度の違いであれば、予備席として吸収させてしまうケースもある。

近年はコスト削減の観点から、同一事業者の車両については仕様統一される傾向にあるが、共同運行の事業者によって車種や車両仕様、車内設備が大きく変わってしまうこともある。京阪京都交通京都京阪バスの「立命館大学 (BKC) 線」では前者は高速仕様車で、後者はワンロマ車で運行するため、車両のドア数と車内設備が大きく異なる実例もある。

共同運行を行っている路線の例

競合運行

高速バス

路線バス

  • 熊本市内路線
    • 楠団地線(子1系統)
      もとは熊本市営バスの路線であったが、九州産交バス熊本電気鉄道(電鉄バス)に譲渡された。時刻は調整しておらず競合状態にある。同様に子18系統も数分間隔で前記2社が運行する便があり競合状態となる。
  • 沖縄県内路線
    • 27番・屋慶名(大謝名)線琉球バス交通沖縄バス
    • 227番・屋慶名おもろまち線(琉球バス交通・沖縄バス)
      系統番号、路線名、経路がすべて同じであるが、時刻表は2社が別々に掲載しており、ダイヤも調整されていない。1998年4月より、沖縄県内では全区間を競合する路線のほとんどが共同運行となったが、上記の2路線だけは現在でも競合路線となっている。
      なお回数券については、沖縄本島においては各社共通回数券を導入しており、同じ区間ならばどの会社でも使用できるため、実質的に共通利用が可能になっている。

相互乗り入れ

高速バス

路線バス

  • 北海道内路線
    • 札幌市厚別区・札幌市清田区北広島市における、北海道中央バスジェイ・アール北海道バスの一部路線
      共通定期券の発行(一部路線のみ)、停留所の統一、ダイヤの調整が行われている。ジェイ・アール北海道バスのみ札幌駅直通系統が存在するなど、各社ごとに変則的な系統を設けている路線もある。
      時刻表を一本化し系統番号も統一されている路線(新111循環 新111など)と、時刻表が各社ごとに書かれ(ダイヤの調整はされている)系統番号も統一されていない路線(白28新15など)がある。運賃支払い方法は全路線とも各社ごとの方法を採用している。
  • 東京都23区内路線(記載運賃は2014年4月1日以降の現金利用時のもの)
    • 東98系統東急バス)・東98系統都営バス - 廃止)
      現在は東急バスの単独運行。都営は東京駅 - 等々力間の全線が200円均一(都区内都営・京王バス運賃)だったが、東急は途中の目黒駅を境に、東京駅側が都営にあわせて200円、等々力側は210円(都区内民営バス運賃)となり、乗車した社局によって運賃が異なっていた。また共通定期券も扱っていた。
      2013年4月1日より東急バスの単独運行となったが、運賃は従来と同様に目黒駅を境に変わる方式とした(2014年4月1日より東京駅 - 目黒駅が210円、目黒駅 - 等々力操車所が220円に値上げ)。
    • 渋66系統都営バス)・渋66系統京王バス東
      社局・区間にかかわらず、運賃は都区内都営・京王均一運賃の210円。
    • 渋24系統東急バス)・渋24系統小田急バス
      会社・区間にかかわらず、運賃は都区内民営バス均一運賃の220円。共通定期券は小田急バスの渋26系統でも利用できる。
    • 玉07系統東急バス)・玉07系統小田急バス
      会社・区間にかかわらず、運賃は都区内民営バス均一運賃の220円。共通定期券は小田急バスの玉08系統でも利用できる。
    • 石02系統西武バス)・石02・03、増16系統国際興業バス
      会社・区間にかかわらず、運賃は都区内民営バス均一運賃の220円(途中区間で埼玉県和光市を通るが都区内運賃を適用)。共通定期券は西武バスの石01・04、増71・72系統でも利用できる。かつてはダイヤが調整されず、成増駅石神井公園駅ののりばも異なっていたが現在は統一されている。
  • 横浜市内路線
    横浜市内の路線バスでは3種類が存在する。
    • 系統番号・時刻表を統一
    • 系統番号を統一し共通定期券を設定
      • 23系統横浜市営バス)・青23系統東急バス)・23系統(神奈川中央交通)
        横浜市営バス・東急バスは青葉台駅 - 十日市場駅 - 若葉台中央間を運行。神奈川中央交通は十日市場駅 - 若葉台中央間のみを運行。共通定期券は、同区間に限り神奈川中央交通の峰02・境21系統(十日市場駅 - 若葉台中央 - 鶴ヶ峰駅/三ツ境駅)も利用できる。
    • 系統番号・時刻表を統一し共通定期券を設定
      • 40系統(横浜市営バス)・40系統(神奈川中央交通)
        もともと神奈川中央交通が運行していた路線に、後から横浜市が参入したため、武相運賃区間は180円、横浜市内運賃および跨いで乗車した場合の運賃は220円。
      • 62系統(横浜市営バス)・62系統(神奈川中央交通)
        運行便の半分以上が神奈川中央交通の担当である。2007年3月31日までは相模鉄道(現:相鉄バス)も運行していたが撤退している。
      • 56系統(横浜市営バス)・56系統(神奈川中央交通)
      • 119系統(横浜市営バス)・119系統(神奈川中央交通)
      • 90系統(横浜市営バス)・青90系統(東急バス)・90系統(神奈川中央交通)
        共通定期券は、同区間に限り神奈川中央交通町71系統も利用できる。
      • 青55系統(神奈川中央交通)・青55系統(東急バス)
        終点のあかね台東急不動産の分譲地であり、青葉台駅からのアクセスとして東急バスでの運行を計画したが、神奈川中央交通の営業エリア内だったため、共同運行となった。
  • 名古屋市内路線(基幹バス
    • 基幹2号系統(名古屋市営バス)・本地ヶ原線(名鉄バス
      運賃支払方法についても、前乗り中降り前払いが標準の名古屋市営バスが、名鉄バスに合わせて中乗り前降り後払いとされている。運行本数・時隔は均等になっていない。共通定期券が設定されているほか、トランパスシステム導入以前から、基幹2号系統に限り、バスカードが共通使用可能であった。
  • 鹿児島市内路線
    • 4番線(城山・玉里線)(鹿児島市交通局南国交通
    • 26番線(明和線)(鹿児島市交通局・南国交通)
    • 36番線(吉田インター線)(鹿児島市交通局・南国交通)
      同じく鹿児島県内でバス事業を行っているいわさきグループが、鹿児島市営バスの運行エリアとしていた地域への参入を実施し(競合運行としての乗り入れ)、さらに他社との競合地域である市内中心部において運賃を値下げした(競合が無い地域では運賃を値上げ)。
      これに対抗する形で、市営バス(市交通局)が運行を行っていた路線に、南国交通が相互乗り入れという形で参入。ICカード「RapiCa」(ラピカ)を導入している市営バス、南国交通間での新事業として開始された。のちに南国交通の路線に市営バスが相互乗り入れを行っており、さらに、同じラピカグループであるJR九州バスとも相互乗り入れの協議を行っている。

運賃プール精算制

現在、複数社で運行する高速バスについては、大半がプール精算制を導入している。ただし、他社の車両に乗務するケースがある場合は運行委託として処理しているため、より計算は複雑になる[4]

付記

佐賀県内各事業者および沖縄本島4社においては、一部の券種を除くほとんどの回数券について、共同運行形態に関係なく共通利用が可能となっており、発行事業者以外でも利用可能。特に佐賀県では、回数券の割引率が統一されていない(佐賀市交通局の回数券のみ1000円で1200円分、その他の事業者は1000円で1100円分)にもかかわらず共通利用が行なわれている。

脚注

  1. 1.0 1.1 一般乗合旅客自動車運送事業に係る相談について 1997年7月、公正取引委員会 2018年3月閲覧。
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 高速バスの共同運行に係る独占禁止法上の考え方について 2004年2月24日、公正取引委員会 2018年3月閲覧。
  3. 神奈中バス「中乗り」「前降り」方式採用のお知らせ 2017年2月、神奈川中央交通公式サイト 2017年11月閲覧。
  4. 道北バス・阿寒バスにおけるサンライズ旭川釧路号や宗谷バス・銀嶺バスの稚内線深夜便等

関連項目

高速バス関連
  • ムーンライト号 (高速バス)…日本で初めて運賃プール精算制を導入した路線。
  • サンライト号…路線開設当初は、もっとも事業者数が多かった共同運行路線(7社)だった。現在は6社共同運行。
  • 中央高速バス…伊那・飯田線6社、諏訪岡谷線5社と、事業者数の多い共同運行路線が複数存在する。
  • ジェイアールバス関東…高速バスを多数運行していることから、共同運行事業者は41社と最多。
他の交通機関の例
  • コードシェア便…航空業界における共同運航の例。一社が運航業務の一切を取り扱い、座席の一部を複数社が自社便として販売する。
  • 直通運転…鉄道における相互乗り入れの例。共同運行とは若干意味合いが異なるが、車両の運用面で高速バスの共同運行と類似する部分がある。
その他
  • 独占禁止法 - 共同運行の形態によっては、同法上問題となる場合がある。