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性的指向(せいてきしこう、英: sexual orientation)は、同じまたは異なる性別・ジェンダー間において恋愛(ロマンチック・ラブ)や性愛、または性的魅力を感じるパターンであり、異性愛(ヘテロセクシュアリティ)、同性愛(ホモセクシュアリティ)、両性愛(バイセクシュアリティ)などがある[1][2]。無性愛を含む場合もある[3][4]。これ以外にも、性的アイデンティティを表すカテゴリーとして、全性愛(パンセクシュアリティ)、多性愛(ポリセクシュアリティ)などがある[1][5]。
アメリカ心理学会によれば、性的指向とは「こうした性的魅力を感じることや、関連する行動、および同じ性的指向を共有するコミュニティの成員であるという意識などに基づいた個人のアイデンティティに対する感覚」である[6][1][7]
行動科学においては、男性や男らしさに対して性的魅力を感じるアンドロフィリア(Androphilia)や、女性や女らしさに対して性的魅力を感じるガイネフィリア(gynephilia)なども性別二元制に替わる性的指向を指す表現として使用される[8]
Contents
性的嗜好と性的指向
- 参照: 性的嗜好
性的嗜好(sexual preference)と性的指向(sexual orientation)はその意味が大きく重なる用語であるが、英語の含意から前者は自発的選択の結果得られた後天的性質[9][10][11]、後者は生来不変である先天的性質として一般的に区別される[12][13][14]。用語が成立した経緯は、1991年にアメリカ心理学会が、sexual preferenceの用語はレズビアン、ゲイ、バイセクシャルの人々に自発的選択の帰結であるという印象を与えるため、sexual orientationの用語を使用することを推奨するという指針を表明したことによる[9]。よってそれ以降、心理学、精神医学などの学術的分野においてはsexual orientationの用語が主に用いられる。
なおアメリカ精神医学会は、性嗜好異常(性的倒錯)としての「性障害および性同一性障害」に、露出症、フェティシズム、窃触症、児童性愛、サディズム、マゾヒズムなどの性的嗜好・性欲対象を分類している[15]。および世界保健機関の疾病及び関連保健問題の国際統計分類[16]では、性同一性障害(F64)として性転換症や両性役割服装倒錯症等が、性嗜好障害(F65)として露出症以下(同上記)が、「性の発達と方向づけに関連した心理および行動の障害」(F66)で性成熟障害や性関係障害などが分類されているが、「性的指向そのものは障害と見なさない」という注釈が付加されている[17]。
用語
主な性的指向の定義。
- 異性愛(いせいあい)とは、自身の性別とは異なる性別の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ヘテロセクシュアル。
- 同性愛(どうせいあい)とは、自身の性別と同じ性別の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ホモセクシュアル、レズビアン、ゲイ。
- 両性愛(りょうせいあい)とは、「男女」という2つの性の両方へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。男女が恋愛対象のバイが殆どを占めるが、男性とトランスジェンダー男体持ち、女性とトランスジェンダー男体持ち、女性とトランスジェンダー女体持ちなどの組み合わせもある。バイセクシュアル。
- 多性愛(たせいあい)とは、「男女」のほか、トランスジェンダー、トランスセクシュアル、両性具有などを含め、3つ以上の性の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ポリセクシュアル。
- 全性愛(ぜんせいあい)とは、「男女」のほか、トランスジェンダー、両性具有などを含め、あらゆる人々に恋愛感情や性的願望を抱くこと。パンセクシュアル。
なお異性愛、同性愛、両性愛などの定義において、何を以って異性、同性、両性などと呼ぶのか、という基準は複数ある。例えば、性自認を基準とする場合、シスジェンダー男体持ちがトランスジェンダー男体持ちを性対象とするのはヘテロセクシュアルであるが、肉体的性を基準とする場合にはホモセクシュアルである。詳しくは後述。
ゲイライターの伏見憲明は、自身の性的指向は、「マスターベーションをする時に、どの性を想像するかで分かる」と主張している[18]が、厳密にその人の性的快楽や興奮の対象の性別と実際の恋愛対象や性交の対象となる性別が一致する必要はないと考えられる。[注 1]
※動物にも異性愛以外の性的指向は存在する。(参考:動物の同性愛)
性的指向の固定性
- 参照: 性的流動性
医学においても国際医学会やWHO(世界保健機関)及び日本精神神経医学会などの専門医の見解によって同性愛が治療という概念に該当しないものとなっており、こうしたことからも性的指向(身体的性別ではない)は変えられない、変えようとするに当たらないものであるというのが実際である。
なお、「機会的同性愛」もあるが、これは根本の性的指向が消えたり変わるものでない。
セクシュアル・バリエーション
人権と性的指向
性的指向と性同一性は直接の関連性はないが、共に人間の性の問題であり、それらに由来する基本的人権の蹂躙などの問題は、国際人権法に基いて改善が目指されており、国際連合や国際機関の諸文書において議論されることが一般的となっている。[21]
アパルトヘイト廃止後の1996年に採択された南アフリカ共和国憲法は、その第2章第9項の法の下の平等に関して人種、性別、言語、文化、障害、年齢に加え、性的指向による差別禁止を明記した。
2004年にEU首脳会議で採択された欧州憲法の「第二部連合基本権憲章,第三編平等 第II-81 (II-21)条 無差別」では、国民的少数者、障害、年齢と共に性的指向による差別の禁止が明記された[22]。ただし、フランスとオランダは批准を拒否したため欧州憲法は未発効となり、2007年に大幅に修正された改革条約(リスボン条約)が署名された(発効は2009年)[23]。
性的指向を取り巻く諸状況
日本ではLGBTは「オカマ」「変態」「オトコオンナ」などと笑いやいじめの対象になりカムアウトできない背景が続いてきた[24]。しかし、近年の日本は2008年12月の国連総会で「性的指向と性同一性に基づく差別の撤廃と人権保護の促進を求める」旨の声明を支持した[25]、なお、同声明にアメリカ合衆国、中国、韓国、ロシアなどは支持しなかった[25]。
また日本の行政も性的指向を認知し、差別は公式に人権問題であるとして、なくす呼びかけを行っており、2015年4月には東京都渋谷区が日本で初となる同性カップルを結婚相当関係と認める条例を施行。同年11月には世田谷区が同性カップルの宣誓認定(証明書発行)を開始、横浜市がLGBTの交流スペースを設置した。同年末、千葉市も施策に関する調査を実施し、パートナー証明等が必要と回答した市民が5割を超えた。また、2016年4月より三重県伊賀市が、同年6月より兵庫県宝塚市、同年7月より那覇市が世田谷区と同様の制度を実施している。
2014年東京レインボーウィークでは日本IBMや東京インターバンク・フォーラム、グーグル、マイクロソフト、フィリップス、Gapなどが参加し、いわゆるピンクマーケットは大きく、人口の5%強を占めると言われる[26]。近年は、ソフトバンクや電通のほか、グーグル、IBM、ドイツ銀行などがLGBTの関連賞であるTokyo SuperStar Awardsのスポンサーとなっていたり、野村、ソニー、日本IBM、パナソニック、NTTなどの日系大企業は、同性婚も通常の結婚相当に認めるなどのLGBT対応を進めるようになっている。2016年時点で何らかのLGBT対応を行う日本企業は、少なくとも173社ほど確認されている。
海外においては、習慣などから未だ異性愛以外は処罰の対象として弾圧を行っている国もあるが、これらは旧体制の開発途上国ばかりが中心である。 2012年にバラク・オバマ前アメリカ大統領が同性結婚の支持を打ち出したこともあり、近年は先進国を中心に行政が性的指向を認知をする動きがある。殊に欧・米では法整備が進められ、異性愛以外はマイノリティーという概念が消滅し、ごくありふれたマジョリティの常識的範疇の一部となっている地域も多く存在している。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 “Sexual orientation, homosexuality and bisexuality”. American Psychological Association. 2013年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。. August 10, 2013閲覧.
- ↑ “Sexual Orientation”. American Psychiatric Association. 2011年7月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。. January 1, 2013閲覧.
- ↑ Melby, Todd (November 2005). “Asexuality gets more attention, but is it a sexual orientation?”. Contemporary Sexuality 39 (11): 1, 4–5.
- ↑ (2009) in Marshall Cavendish Corporation: Sex and Society. Marshall Cavendish, 82–83. ISBN 978-0-7614-7905-5. Retrieved on February 2, 2013.
- ↑ Firestein, Beth A. (2007). Becoming Visible: Counseling Bisexuals Across the Lifespan. Columbia University Press. ISBN 0231137249. Retrieved on October 3, 2012.
- ↑ sexual orientation "also refers to a person's sense of identity based on those attractions, related behaviors, and membership in a community of others who share those attractions".
- ↑ “Case No. S147999 in the Supreme Court of the State of California, In re Marriage Cases Judicial Council Coordination Proceeding No. 4365(...) - APA California Amicus Brief — As Filed (PDF)”. p. 30. . March 13, 2013閲覧.
- ↑ Schmidt J (2010). Migrating Genders: Westernisation, Migration, and Samoan Fa'afafine, p. 45 Ashgate Publishing, Ltd., 978-1-4094-0273-2{{#invoke:check isxn|check_isbn|978-1-4094-0273-2|error={{#invoke:Error|error|{{ISBN2}}のパラメータエラー: 無効なISBNです。|tag=span}}}}
- ↑ 9.0 9.1 “Avoiding Heterosexual Bias in Language”. American Psychological Association . "The term sexual orientation is preferred to sexual preference for psychological writing and refers to sexual and affectional relationships of lesbian, gay, bisexual, and heterosexual people. The word preference suggests a degree of voluntary choice that is not necessarily reported by lesbians and gay men and that has not been demonstrated in psychological research."
- ↑ Friedman, Lawrence Meir (1990). The republic of choice: law, authority, and culture. Harvard University Press. ISBN 978-0-674-76260-2. Retrieved on 8 January 2012.
- ↑ Heuer, Gottfried (2011). Sexual revolutions: psychoanalysis, history and the father. Taylor & Francis. ISBN 978-0-415-57043-5. Retrieved on 8 January 2011.
- ↑ Frankowski BL; American Academy of Pediatrics Committee on Adolescence (June 2004). “Sexual orientation and adolescents”. Pediatrics 113 (6): 1827–32. doi:10.1542/peds.113.6.1827. PMID 15173519 .
- ↑ Gloria Kersey-Matusiak (2012). Delivering Culturally Competent Nursing Care. Springer Publishing Company. ISBN 0826193811. Retrieved on February 10, 2016. “Most health and mental health organizations do not view sexual orientation as a 'choice.'”
- ↑ (2014) Marriages, Families, and Relationships: Making Choices in a Diverse Society. Cengage Learning. ISBN 1305176898. Retrieved on February 11, 2016. “The reason some individuals develop a gay sexual identity has not been definitively established – nor do we yet understand the development of heterosexuality. The American Psychological Association (APA) takes the position that a variety of factors impact a person's sexuality. The most recent literature from the APA says that sexual orientation is not a choice that can be changed at will, and that sexual orientation is most likely the result of a complex interaction of environmental, cognitive and biological factors...is shaped at an early age...[and evidence suggests] biological, including genetic or inborn hormonal factors, play a significant role in a person's sexuality (American Psychological Association 2010).”
- ↑ 『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版DSM-IV-TR「11章 性障害および性同一性障害(Sexual and Gender Identity Disorders)」
- ↑ (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems),ICD-10 第5章:精神と行動の障害(F60-F69) 成人のパーソナリティおよび行動の障害:F64 性同一性障害
- ↑ ICD-10 第5章:精神と行動の障害F66,Psychological and behavioural disorders associated with sexual development and orientation. Note:Sexual orientation by itself is not to be regarded as a disorder.
- ↑ 『プライベート・ゲイ・ライフ―ポスト恋愛論』(学陽書房,伏見憲明)。
- ↑ Mété D, Dafreville C, Paitel V, Wind P. (2016-2-25). “[Aripiprazole, gambling disorder and compulsive sexuality].”. Encephale. S0013-7006 (16): 00004-X. doi:10.1016/j.encep.2016.01.003. PMID 26923999.
- ↑ Grall-Bronnec M, Sauvaget A, Perrouin F, Leboucher J, Etcheverrigaray F, Challet-Bouju G, Gaboriau L, Derkinderen P, Jolliet P, Victorri-Vigneau C. (2016-2). “Pathological Gambling Associated With Aripiprazole or Dopamine Replacement Therapy: Do Patients Share the Same Features?”. J Clin Psychopharmacol. 36 (1): 63-70. doi:10.1097/JCP.0000000000000444. PMC 4700874. PMID 26658263 .
- ↑ BORN FREE AND EQUAL - Sexual orientation and gender identity in international human rights law (国際連合人権高等弁務官事務所、2012年)
- ↑ 中村民雄「欧州憲法条約 ―解説及び翻訳―」衆憲資第 56号,衆議院憲法調査会事務局,平成16年9月.p.88.
- ↑ 「欧州憲法条約」朝日新聞出版発行「知恵蔵」
- ↑ 村木真紀「虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち |性的マイノリティの目線から見える社会」大阪同和・人権問題企業連絡会
- ↑ 25.0 25.1 NHKオンライン-虹色 「国連総会で人権と性的指向・性自認に関する声明が提出」
- ↑ 東洋経済オンライン 「首相夫人も参加、LGBTパレードin原宿 GAP原宿店はレインボーカラーのロゴを設置」
注釈
関連項目
外部リンク