一票の格差

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一票の格差(いっぴょうのかくさ)とは、有権者が投じる一票の有する価値に見られる格差、一票の重みの不平等に対する指摘のこと。選挙区ごとに議員定数を定める選挙制度に関して、議会が合理的裁量の限界を超えている場合の有権者への権利侵害を指摘する際に用いられる[注 1][3]。裁判上の判決文では「(投票価値の)較差」と表現されている[4]

法的根拠の未整備による問題点

政治家が、自分たち(の選出した人と)で選挙区を区分することに際して、そこに多数決の弊害による恣意が発生していないかが問題とされる。通常は、人口や有権者数は常に流動するものであるから、イスラエルのような全国区の比例代表制でも採用しない限り、選挙区を区分する選挙で一票の価値の差が完全になくなることはない。

多くの国では一定の年数ごとに区割りを見直すことが法制化され、その年限以内に発生した価値の差程度は容認するものとしているものの、その事務の煩雑さも含めて問題とされている。行政区から独立した選挙区の設定を認めると、区割りの自由度が格段に増大することで格差を劇的に縮小できる反面、恣意的にゲリマンダーを行ったり、その疑いを持たれることも多くなる。逆に、中華人民共和国では、1995年の選挙法改正まで、8倍にのぼる都市と農村との間の一票の格差は、法運用上は問題にならなかった。

このように、問題となる格差・ならない価値の差は各国の法運用によって異なり、格差自体は問題にならなくても、格差を測る基準を定める法運用が問題視されることがある。中華人民共和国では、格差自体は問題にならなかったが、格差問題の有無を判断する法運用の方が問題とされ、2010年に農村と都市の間の格差を是正する法運用に改められた。

一票の格差と当落選上の票数

一票の価値が小さい選挙区では、価値の大きい選挙区で当選した候補者以上の票を得ていても落選するような事態が、一票の格差の象徴的事例のように取り上げられることがある。一票の格差が大きいほどある選挙区で当選した候補者以上の得票をしても別選挙区では落選するような傾向が起こりやすいことは事実ではあるが、何票を取れば当選・落選するという観点はあくまで副次的・二次的な問題にすぎない。

「一票の格差」における本質は、議会の裁量が選挙制度における一般的な合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているときや限界を超えている場合の、議会の権限と責任において解決すべき問題に対する不作為を指摘し、有権者への権利侵害を問題視するものである[注 2]。一票の格差がない状態(日本の衆議院小選挙区では一票の価値の差が2倍以内[注 3])であってもなくても、有権者数や投票率無効票による投票総数の違いや当落線上にいる候補者数の多さ少なさ[注 4]によって当落選上の票数は変動するため、ある選挙区で当選した人以上の票を得ても落選する事態が発生する可能性はある。

格差の判定基準

人口
比較調査した60か国のうち53%が指標としている[6]。選出議員および非有権者(子供など)を含む全ての住民(国民)の代表とする考え方に基づく。日本でも、衆議院議員選挙区画定審議会設置法が人口を基準にしてその均衡を図ることを規定している。人口の格差の許容限度については、具体的な数値的基準を設けている国は25%であり、アメリカのように各選挙区で人口を等しくすることを求める国もある。韓国では各選挙区の人口が全国平均の上下50%を超えると違憲とする判例がある。
有権者数
60か国のうち34%が指標としている[6]。選出議員を有権者の代表とする考え方に基づく。イギリスではこの説に基づき選挙区の区割りが行われる。オーストラリアでは、将来予測有権者数もふまえた区割りをしなければならない。シンガポールのように各選挙区の1議席当たり有権者数を全国平均の上下30%以内まで認める国もある。
投票者数
選出議員は実際に投票した有権者の代表とする考え方に基づく。ドイツでは、この説に基づき、州選挙区の投票数に応じて開票後に定数配分が行われる。
その他
行政区画や自然境界など地理的な要素を区割りに反映する国も多い。人口密度過疎の度合いに考慮する国も12か国ある。地理的な要素としては、隣接性(contiguity)と緊密性(compactness)が考慮の対象となる国が多い。[6]

各国における一票の格差

日本

日本では、選挙制度の法制化の不十分さや税金の使途の不透明さなど、議員定数歳費にも関連して選挙そのものへの不信感が大きく、1972年12月の衆院選で1976年4月に違憲判決が出る以前より現在まで何度も国政選挙の違憲無効確認が提訴されている。衆議院参議院は、これまで人口(有権者数)が多い地域での議員選出数を増加させたり、人口(有権者数)が少ない地域での議員選出数を減少させたり、区割りを変更したりして一票の格差を是正することに取り組んできた。しかし、政党や議員の利害が絡む問題であり、選挙制度改革とも関連して調整は必ずしも容易ではないため、十分な調整がなされていないと指摘され、抜本的な対策をおこなうべきとする意見もある。

1976年4月30日の東京高裁判決では、一票の格差に絡む選挙訴訟について『「投票の価値」とは、選挙人の投票する権利の価値を選挙人の側から評価した概念であると解することができるところ、それは、畢竟、選挙人の投票が自己の選出しようとする候補者の当選をもたらす可能性の度合い(逆にいえば、死票とならない可能性の度合い)であるということができる』としており、いかにして死票を減らすかという政治的課題についても言及している[7][8]

2009年以前と以降とで、最高裁判所の判断に変化が見られる。2009年以前は著しい格差(衆議院で3倍、参議院で6倍ほど)のみを違憲ないし違憲状態としていたが、2009年以降は、一票の格差是正を積極的に促すような判決を下していて、その全てが違憲状態の判決である。ただし、定数配分を違憲ないし違憲状態とする判決においても、事情判決の法理によって選挙そのものは有効とされている。なお、投票価値の不平等が一般的に合理性を欠く状態が違憲状態であり、これが合理的な期間内に是正されない場合に違憲であるとされている。また、2009年以前は一票の格差を問題視する住民は最大格差となっている選挙区のみで一票の格差を訴訟を提起していたが、2009年以降は一票の格差を問題視する住民は最大格差となっている選挙区のみの訴訟だけではなく、各高等裁判所管内の選挙区でも一票の格差の訴訟を提起し、各高裁において違憲又は違憲状態判決の数を背景に最高裁に判断を迫るという手法を取ってきている。公職選挙法第33条の2第7項で一票の格差に関する無効訴訟中は補欠選挙が行えないが、訴訟対象の選挙区が多くなったため、補欠選挙が早期に実施できない事態を招きやすい結果となっている。

衆議院の一票の格差

1947年以降の中選挙区制時代の衆議院では格差を解消するために選挙制度審議会の答申等を受けて、議員定数等について1964年に「19増」、1975年に「20増」、1986年に「8増7減」、1992年に「9増10減」の是正が行われた。

1994年に小選挙区制が導入されて「300選挙区再編」されて以降は選挙区画定審議会を設置し格差が2倍以上にならないことを目標にしているが、これは達成されていない。都道府県にまず議席を配分する基礎配分方式(1人別枠方式)と最大剰余方式を組み合わせていることが障害となっており、現状の方式を続ける限り実現は難しいといわれる。1人別枠方式は、結果的に人口の少ない地域の一票の重みを増大させており、票の格差を巡る裁判の判決において格差の要因であると指摘されている[9]。格差を解消するために2002年に「5増5減」の是正が実施された。

2000年国勢調査に基づく選挙区改定では、同審議会は(1)都道府県ごとの議席配分に増減が生じた場合、(2)都道府県ごとの議席配分に増減が生じなかった場合は選挙区の人口が議員1人当たりの人口(全国平均)の3分の4(1.333…)を上回った選挙区あるいは3分の2(0.666…)を下回った選挙区が存在した場合、(3)市町村合併があった場合で市町村ごとに選挙区の分断現象が生じた場合を対象に主な見直しを行った。その結果、改定時においても1人別枠方式の存在により都道府県ごとの議員1人当たりの人数が議員1人当たりの人口(全国平均)の3分の2を下回る県が生じてしまい、改定時から必然的に議員一人当たりの2倍以上の格差が生じることとなった。1人別枠方式について、2011年3月に最高裁判所大法廷は、導入当時(1994年)の激変緩和のための経過措置としては容認しうるものの、2009年総選挙の時点においてもはや合理性を有しておらず、憲法違反となっているとの判断を行った[10]。なお、議員1人当たりの人口(全国平均)の3分の4を上回った選挙区あるいは3分の2を下回った選挙区という基準で選挙区の改定を行っているのは同枠内に仮にすべての選挙区の人口がおさまれば1票の格差が2倍以内にとどまることになるからである。

2011年3月の最高裁判決を受けて、選挙区是正が焦点となったが、各党が自党に有利な選挙制度にする思惑から様々な駆け引きが行われたため国会で法改正が進まなかった。最高裁判決から1年6ヶ月後の2012年11月16日に、小選挙区の1人別枠方式の規定削除と「0増5減」の選挙区見直しを定めた法案が国会で成立した。しかし、1人別枠方式は実質的に残されている[11]

2012年12月16日に投開票された第46回衆議院議員総選挙には、新たな選挙区の線引きが間に合わないため、2009年総選挙の違憲状態が解消されない状態で行われた[12]。これにより、2013年3月25日に広島高裁に訴えのあった広島県第1区広島県第2区について、約半年の猶予期間を経てから選挙無効の効力生じる手法を用いて国選選挙において戦後初の選挙無効判決が出て[13](従来は全て「違憲状態又は違憲だが選挙は有効」という判決であった)、翌3月26日には広島高裁岡山支部に訴えのあった岡山県第2区について、猶予期間なしに選挙無効判決が出た。しかし、2013年11月20日に最高裁大法廷は「違憲状態」としながらも選挙自体は有効である判決を下した。

2017年6月9日、小選挙区数を6つ削減し、13都道府県でも1票の格差が2倍未満になるように「0増6減」の選挙区見直しを定めた法案が国会で成立した[14]

選挙人名簿登録者数及び在外選挙人名簿登録者数
2017年9月1日現在)[15]
多い選挙区 人数 少ない選挙区 人数
1 東京都第13区 474,118 1 鳥取県第1区 239,097
2 東京都第10区 473,597 2 宮城県第4区 240,629
3 東京都第8区 473,284 3 鳥取県第2区 240,692
4 東京都第17区 473,117 4 長崎県第3区 243,046
5 東京都第9区 470,334 5 栃木県第3区 246,943
衆議院議員総選挙当日有権者数 最多選挙区及び最少選挙区 [15]
最多選挙区 人数 最少選挙区 人数 2倍超区数 最大格差
第41回衆議院議員総選挙1996年 神奈川県第14区 446,970 島根県第3区 192,999 62選挙区 2.316倍
第42回衆議院議員総選挙2000年 神奈川県第14区 471,445 島根県第3区 191,241 87選挙区 2.465倍
第43回衆議院議員総選挙2003年 千葉県第4区 459,501 徳島県第1区 213,689 27選挙区 2.150倍
第44回衆議院議員総選挙2005年 東京都第6区 465,181 徳島県第1区 214,235 33選挙区 2.171倍
第45回衆議院議員総選挙2009年 千葉県第4区 487,837 高知県第3区 211,750 45選挙区 2.304倍
第46回衆議院議員総選挙2012年 千葉県第4区 495,212 高知県第3区 204,196 72選挙区 2.425倍
第47回衆議院議員総選挙2014年 東京都第1区 492,025 宮城県第5区 231,081 13選挙区 2.129倍
第48回衆議院議員総選挙2017年 東京都第13区 472,423 鳥取県第1区 238,771 0選挙区 1.979倍
国勢調査人口 最多選挙区及び最少選挙区 [15]
最多選挙区 人数 最少選挙区 人数 2倍超区数 最大格差
1995年(平成7年) 神奈川県第14区 570,597 島根県第3区 247,147 60選挙区 2.309倍
2000年(平成12年)
※2002年区割変更前
神奈川県第7区 607,520 島根県第3区 236,103 95選挙区 2.573倍
2000年(平成12年)
※2002年区割変更後
兵庫県第6区 558,958 高知県第1区 270,755 9選挙区 2.064倍
2005年(平成17年) 千葉県第4区 569,835 高知県第3区 258,681 48選挙区 2.203倍
2010年(平成22年)
※2013年区割変更前
千葉県第4区 609,040 高知県第3区 241,265 97選挙区 2.524倍
2010年(平成22年)
※2013年区割変更後
東京都第16区 581,677 鳥取県第2区 291,103 0選挙区 1.998倍
2015年(平成27年) 北海道第1区 589,501 宮城県第5区 270,871 31選挙区 2.176倍

参議院の一票の格差

参議院は改革協議会の下に専門委員会を設置し議論しているが、衆議院に比べて是正は遅れている。参議院の場合は都道府県単位の選挙区設定と選挙区選出議員の定数設定の段階から一票の格差について構造的問題を抱えている。1947年の第1回参院選時における最大の一票の格差の事例は宮城県選挙区(定数4)と鳥取県選挙区(定数2)の格差が2.62倍であった。1994年に「8増8減」、2000年に定数削減、2006年に「4増4減」を実施した。2012年11月16日には「4増4減」する法案が国会で成立し、2013年の参議院議員選挙から適用された。

解決策として、例えば、大幅な定数増加によって選挙区定数配分の柔軟性を向上させ有権者数の多い都道府県選挙区に重点的に定数を増加させる案、有権者数が少ない県を中心に選挙区を合区する案、有権者数が多い都道府県を分区する案、さらに多くの都道府県選挙区を合区した上での地方ブロック単位大選挙区制案ないしは比例代表制案等のより大きな改革も検討されてきたが、各議員の事情や政党間の利害の対立もあって進展していない。

大幅な定数増加による挙区定数配分の柔軟性を向上させ有権者数の多い都道府県選挙区に重点的に定数を増加させると、最も有権数が少ない鳥取県選挙区の改選数1人に対し、最も有権者数が多い東京都選挙区は改選数が少なくとも20人を超えるなどして有権者数の多い都道府県選挙区で多数の改選数となるため、候補者数が乱立して有権者にわかりづらくなる懸念や議員定数増加[注 5][注 6]で国庫財政危機の中での議員歳費増加批判が起こることもあり、積極的な案として盛り込まれていない。有権者数が多い都道府県を分区する案は候補者乱立懸念を減らすことができるものの、都道府県単位を基調とする選挙制度を崩すことになることや前述のように議員歳費増加批判が起こることもあり、積極的な案として盛り込まれていない。

都道府県単位の選挙区設定について有権者数の少ない選挙区を合区すると一票の格差が是正されるため、そうした合区もたびたび提唱されるが、これには賛否両論がある。過去には最高裁では1983年判決では「都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものである」とし、2004年判決の法廷意見に付された5名の判事による補足意見では「(合区した場合には)地域社会の歴史的成り立ちや政治的、経済的、社会的な結び付き、地域住民の住民感情等からかけ離れた選挙区割りとなり、政治的にまとまりのある単位を構成する住民の意思を集約的に反映させることにより地方自治の本旨にかなうようにしていこうとする従来の都道府県単位の選挙区が果たしてきた意義ないし機能が果たされなくなるおそれがある」とそれぞれ述べられており、合区が行われない現状に理解を示していた。

しかし、2010年参院選に関する最高裁の2012年判決では「(都道府県を)参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく、むしろ、都道府県を選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では、上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない」「人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、このような都道 府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである」「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある」として[17]、都道府県単位を選挙区とする選挙制度に否定的見解を述べた。

かつては定数2の選挙区が定数4の選挙区より有権者が多い逆転現象も存在していた。

参議院に関しては、アメリカ合衆国上院の制度のように、各都道府県から同人数の代表を選出する方式を採用すべきだという意見もある。これは1946年昭和21年)12月に、地方区選挙制が盛り込まれた参議院選挙法案が貴族院に提出された時の趣旨説明で大村清一内務大臣は「参議院の地方選出議員は地域代表的性格を持つ」と明言していたことから[18]、各都道府県の同価値性を強調することで一票の格差という問題概念を理念的に無視するものである。しかし、この制度を導入すると、国会議員が地域(都道府県)代表としての性質を有することを理由として国民個々のもつ投票価値に大きな差異を生じさせることになるため、憲法第14条の平等権規定と憲法第43条に定められた「国会議員は全国民の代表者」という規定に反するおそれが強いことを指摘されている。そのため、このような制度は憲法改正をしない限り導入しえないともいわれる[19]

2015年の法改正では2012年の最高裁判決を踏まえて、有権者数の少ない4つの選挙区を2つの合区とすることを含めた「10増10減」が成立し、参議院初の選挙区の合区が実施されたことで、参議院合同選挙区が創設された。

参議院議員通常選挙当日有権者数(議員1人あたり) 最多選挙区及び最少選挙区 [15]
最多選挙区 人数 最少選挙区 人数 格差
第11回参議院議員通常選挙1977年 神奈川県選挙区 1,113,463 鳥取県選挙区 211,507 5.264倍
第12回参議院議員通常選挙1980年 神奈川県選挙区 1,171,382 鳥取県選挙区 217,992 5.374倍
第13回参議院議員通常選挙1983年 神奈川県選挙区 1,238,208 鳥取県選挙区 222,848 5.556倍
第14回参議院議員通常選挙1986年 神奈川県選挙区 1,320,491 鳥取県選挙区 225,601 5.853倍
第15回参議院議員通常選挙1989年 神奈川県選挙区 1,431,227 鳥取県選挙区 229,034 6.249倍
第16回参議院議員通常選挙1992年 神奈川県選挙区 1,527,439 鳥取県選挙区 231,933 6.586倍
第17回参議院議員通常選挙1995年 東京都選挙区 1,177,394 鳥取県選挙区 236,919 4.970倍
第18回参議院議員通常選挙1998年 東京都選挙区 1,197,651 鳥取県選挙区 240,722 4.975倍
第19回参議院議員通常選挙2001年 東京都選挙区 1,233,477 鳥取県選挙区 244,913 5.036倍
第20回参議院議員通常選挙2004年 東京都選挙区 1,264,178 鳥取県選挙区 246,218 5.134倍
第21回参議院議員通常選挙2007年 神奈川県選挙区 1,197,275 鳥取県選挙区 246,434 4.858倍
第22回参議院議員通常選挙2010年 神奈川県選挙区 1,215,760 鳥取県選挙区 242,956 5.004倍
第23回参議院議員通常選挙2013年 北海道選挙区 1,149,739 鳥取県選挙区 241,096 4.769倍
第24回参議院議員通常選挙2016年 埼玉県選挙区 1,011,503 福井県選挙区 328,722 3.077倍
国勢調査人口(議員1人あたり) 最多選挙区及び最少選挙区 [15]
最多選挙区 人数 最少選挙区 人数 格差
1975年(昭和50年) 神奈川県選挙区 1,599,437 鳥取県選挙区 290,656 5.503倍
1980年(昭和55年) 神奈川県選挙区 1,731,087 鳥取県選挙区 302,111 5.730倍
1985年(昭和60年) 神奈川県選挙区 1,857,994 鳥取県選挙区 308,012 6.032倍
1990年(平成2年) 神奈川県選挙区 1,995,098 鳥取県選挙区 307,861 6.481倍
1995年(平成7年) 東京都選挙区 1,471,701 鳥取県選挙区 307,465 4.787倍
2000年(平成12年) 東京都選挙区 1,508,013 鳥取県選挙区 306,645 4.918倍
2005年(平成17年) 大阪府選挙区 1,469,528 鳥取県選挙区 303,506 4.842倍
2010年(平成22年)
※2012年法改正前
神奈川県選挙区 1,508,055 鳥取県選挙区 294,334 5.124倍
2010年(平成22年)
※2012年法改正後
兵庫県選挙区 1,397,033 鳥取県選挙区 294,334 4.746倍
2010年(平成22年)
※2015年法改正後
埼玉県選挙区 1,199,093 福井県選挙区 403,157 2.974倍
2015年(平成27年)
※総人口
埼玉県選挙区 1,211,089 福井県選挙区 393,370 3.079倍
2015年(平成27年)
※日本国民の人口
埼玉県選挙区 1,193,555 福井県選挙区 388,646 3.071倍

地方議会選挙での一票の格差

都道府県議会選挙でも一票の格差の問題が取り上げられることがある。公職選挙法第15条により、一票の格差を小さくする旨の規定が設けられている。

しかし、一方で公職選挙法第271条では1966年1月1日時点の選挙区について、当該区域の人口が議員1人当たり人口の半数に達しなくなった場合においても公職選挙法第15条第2項に規定された合区をすることなく当分の間は当該区域をもって1選挙区とする特例選挙区の設置が認められている(1962年の法改正では1962年1月1日時点で島についてのみ特例選挙区の設置を認めていたが、1966年の法改正で島以外にも特例選挙区の設置が認められるようになった)。学説では特例選挙区の設置は島部選挙区のような他の選挙区との合区が著しく困難な場合に限られるとする見解もあるが、最高裁は特例選挙区は都道府県議会の合理的な裁量の行使に委ねられるとする。2013年の公職選挙法改正では特例選挙区の設置について、条例で明記すると規定された。

1991年愛知県議会議員選挙では、例外的に置かれている特例選挙区によって発生した5.02倍の格差(南設楽郡選挙区と西尾市選挙区)について1993年10月22日に最高裁判所は合憲としている。

特例選挙区は2003年3月1日時点で28選挙区存在したが、2013年9月1日時点で7選挙区となっている[20]。2015年4月7日時点では、特例選挙区は東京都(千代田区選挙区と島部選挙区の2選挙区)と兵庫県(相生市選挙区と養父市選挙区の2選挙区)、北海道(美唄市選挙区の1選挙区)、徳島県(那賀郡選挙区の1選挙区)の6選挙区となっている[21]

また、2013年の公職選挙法改正の附則で2015年2月28日時点の飛地選挙区については、区域に変更がない限りそのまま維持することが可能とする経過措置が設けられた。

衆議院選挙及び参議院選挙における最高裁判決例

一票の格差と最高裁判決[22]
対象選挙 投票日 判決日 衆議院 参議院
格差 判決 格差 判決
1962年参院選 1962年7月1日 1964年(昭和39年)2月5日 4.09 合憲
1971年参院選 1971年6月27日 1974年(昭和49年)4月25日(第一小法廷) 5.08 合憲
1972年衆院選 1972年12月10日 1976年(昭和51年)4月14日 4.99 違憲
1976年衆院選 1976年12月5日 1979年(昭和54年)12月24日(第二小法廷) 3.50 却下
1977年参院選 1977年7月10日 1983年(昭和58年)4月27日 5.26 合憲
1980年衆院選 1980年6月22日 1983年(昭和58年)11月7日 3.94 違憲状態
1980年参院選 1980年6月22日 1986年(昭和61年)3月27日(第一小法廷) 5.37 合憲
1983年参院選 1983年6月26日 1987年(昭和62年)9月24日(第一小法廷) 5.56 合憲
1983年衆院選 1983年12月18日 1985年(昭和60年)7月17日 4.40 違憲
1986年衆院選 1986年7月6日 1988年(昭和63年)10月21日(第二小法廷) 2.92 合憲
1986年参院選 1986年7月6日 1988年(昭和63年)10月21日(第二小法廷) 5.85 合憲
1990年衆院選 1990年2月18日 1993年(平成5年)1月20日 3.18 違憲状態
1992年参院選 1992年7月26日 1996年(平成8年)9月11日 6.59 違憲状態
1993年衆院選 1993年7月18日 1995年(平成7年)6月8日(第一小法廷) 2.82 合憲
1995年参院選 1995年7月23日 1998年(平成10年)9月2日 4.97 合憲
1996年衆院選 1996年10月20日 1999年(平成11年)11月10日 2.309 合憲
1998年参院選 1998年7月12日 2000年(平成12年)9月6日 4.98 合憲
2000年衆院選 2000年6月25日 2001年(平成13年)12月18日(第三小法廷) 2.471 合憲
2001年参院選 2001年7月29日 2004年(平成16年)1月14日 5.06 合憲
2003年衆院選 2003年11月9日 2005年(平成17年)9月27日(第三小法廷) 2.064 却下
2004年参院選 2004年7月11日 2006年(平成18年)10月4日 5.13 合憲
2005年衆院選 2005年9月11日 2007年(平成19年)6月13日 2.171 合憲
2007年参院選 2007年7月29日 2009年(平成21年)9月30日 4.86 合憲
2009年衆院選 2009年8月30日 2011年(平成23年)3月23日 2.304 違憲状態
2010年参院選 2010年7月11日 2012年(平成24年)10月17日 5.00 違憲状態
2012年衆院選 2012年12月16日 2013年(平成25年)11月20日 2.425 違憲状態
2013年参院選 2013年7月21日 2014年(平成26年)11月26日 4.77 違憲状態
2014年衆院選 2014年12月14日 2015年(平成27年)11月25日 2.129 違憲状態
2016年参院選 2016年7月10日 2017年(平成29年)9月27日 3.08 合憲

アメリカ合衆国

上院は各州2議席が割り当てられることが、アメリカ合衆国憲法の条文で明記されている。さらにこの条項の改正に限っては、改憲により議席割合の減少するすべての州の同意が必要と規定されている。当初の憲法では州議会が上院議員を選出することになっており、人民を代表する下院に対して、上院は州の代表に位置づけられている。したがって、格差に換算すると70倍を超えるが、憲法違反とはならない。

下院議席は各州に人口に比例して割り当てられることが憲法に規定されている。10年ごとの国勢調査に基づき、州ごとにヒル方式で議席を配分したうえ、州ごとの定めに従って州内で均等に区割りをする。州ごとに整数の議席数を割り当てることにともなって必然的に生じる一定の格差は許容範囲とされるが、同じ州内の各選挙区同士の人口については厳しく平等性が求められ、行政区画とは独立に選挙区が設定される。不平等があれば違憲立法審査の対象となり、裁判所から具体的な是正命令が下る。

また、州議会選挙の選挙区の格差に対しても、連邦裁判所による是正命令が下される。州下院はもとより、州上院に関しても格差は容認されない。そのため、連邦上院にならって各郡に同数の議席を割り振るといったことは、現代では禁止されている。

参照: レイノルズ対シムズ事件

現時点においては、選挙区あたりの人口数の格差はあまり問題となっておらず、むしろ党派や人種・言語間の格差について問題とされ、ゲリマンダーに関してたびたび議論が起こる[23]

イギリス

イギリスには、イングランドウェールズスコットランド北アイルランドの地域ごとに、裁判官などで構成される“境界委員会”が置かれており、10年程度に1度、有権者数に応じて選挙区の区割りを見直し、選挙区の分割や合併などの再編成が行われる。 現在は、各選挙区の有権者がおおむね5万人-7万5000人になるように調整されているが[注 7]離島の選挙区は例外になっており、最大の格差は有権者が約2万2000人のアウターヘブリディーズ諸島選挙区と、約11万人のワイト島選挙区との間の5倍程度である。これは、「本来の再編成を行った場合、ワイト島では選挙区が2分割される」として、住民が反対しているためである。

かつてイギリスでは、投票者人口が極端に少ない腐敗選挙区が存在したが、1832年に行なわれた法改正で消滅した。またスコットランドには多くの定数が配分され、意図的に議員数を多くしていたが、独自の議会が設置されるなど自治権が拡大され、国政上の優遇の必要がなくなったことから、スコットランドの定数は削減された。現在では、平均してイングランドに比べてスコットランドが1.1倍、ウェールズが1.2倍程度の優遇になっている程度である。

フランス

原則1.50倍以内で調整することになっている。しかし、実際には農村部などに人口の少ない選挙区が存在し、1999年の国勢調査ではヴァル=ドワーズ県第2区とロゼール県第2区の間に、5倍以上の格差が確認された。その後、2010年の選挙区再編によって、最大格差は2.37倍まで縮まっている(フランス本土のみでの比較値。セーヌ=マリティーム県第6区とオート=アルプ県第2区との間)。

ドイツ

総選挙があるたびに、1年以内に一票の格差を是正する。

全人口を選挙区数で割り、1議席あたりの人口の平均値を求め、原則としてこの+25%から-25%に収まるように区割りがなされる。ただし、州境を超えないようにするためにやむを得ない場合などは+33%から-33%まで許容される。このため、最大格差は2倍まで発生し得る。

比例ブロックは、開票後、実際に投票した者の数に比例して定数を配分する。このため、投票率の低いブロックの有権者一人当たりの議員数は減少し、一票の格差が生じる。

イタリア

1.22倍以内で調整。

イスラエル

全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差は生じない。

オランダ

全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差は生じない。

脚注

注釈

  1. 日本においては衆議院中選挙区違憲判決(昭和51年)上告審での上告理由[1]に対する[5]及び[15]での解釈で言及されている[1][2]
  2. 弁護士ケント・ギルバートも「選挙を複数の選挙区に分割して行うと、その区割り次第では、候補者が5万票で当選する選挙区と、10万票獲得でも落選する選挙区を同時に作ることが可能である」と述べている[5]
  3. 衆議院議員選挙区画定審議会設置法第3条や公職選挙法第15条では人口が基準、裁判所の判例では有権者数が基準。
  4. 当落線上にいる候補者数を少なくするには、ボルダ得点制度や決選投票制度や優先順位付投票制を用いれば、
  5. 自民党所属の参議院議員・礒崎陽輔は自身の公式Twitterの中で「(都道府県単位の選挙区を維持した上で一票の格差を解消するための)定数増によるとすると、(中略)較差2倍を切るには100人以上の増員が必要」と述べている[16]
  6. 寺崎友芳「革新する保守」(扶桑社新書)によると、「(都道府県区分の選挙区を維持した上で)鳥取県の有権者数に合わせて公平な区割りをしようとすると、現在242議席(旧地方区分では146議席、旧地方区改選数では73議席)の倍以上の528議席(旧地方区分では432議席、旧地方区改選数では216議席)が必要となる」と記載している。
  7. 一覧はイギリス次回総選挙の選挙区(英語)を参照のこと。

出典

  1. 議員定数不均衡訴訟 衆議院中選挙区違憲判決(昭和51年)”. 憲法学習用基本判決集. 京都産業大学法学部 (1976年4月14日). . 2017閲覧.
  2. 最高裁判所大法廷判決 昭和51年4月14日 民集 第30巻3号223頁、昭和49(行ツ)75、『選挙無効請求』。
  3. 15年県議選無効確認訴訟 2.51倍「合憲」 議会裁量権認める 最高裁 /千葉-毎日新聞
  4. 衆議院及び参議院における一票の格差(国立国会図書館ISSUEBRIEF#714(2011)PDFp1欄外補足)
  5. 「1票の格差」の問題は絶対的ではない 訴訟目的が「改憲阻止」ならくだらない - ZAKZAK・2016年11月5日《全2頁構成(→2頁目);2017年10月15日閲覧》
  6. 6.0 6.1 6.2 佐藤令(政治議会課)「諸外国における選挙区割りの見直し (PDF) 」 、『調査と情報-Issue Brief-』第782号、国立国会図書館2013年4月4日ISSN 1349-2098NAID 40019619885、. 2017閲覧.
  7. 議員定数不均衡訴訟 衆議院中選挙区違憲判決(昭和51年)・第一審判決”. 憲法学習用基本判決集. 京都産業大学法学部 (1974年4月30日). . 2017閲覧.
  8. 東京高等裁判所判決 昭和49年4月30日 、昭和48(行ケ)2、『選挙無効請求事件』。
  9. “衆院区割り見直し難航…市町村合併や格差判決で”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年2月26日). オリジナル2011年3月1日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20110301120743/http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/news/20110226-OYT1T00025.htm 
  10. 最高裁判所大法廷判決 平成23年3月23日 民集 第65巻2号755頁、平成22(行ツ)207、『選挙無効請求事件』。
  11. “小選挙区定数0増5減/衆院区割り審28日勧告”. SHIKOKU NEWS (四国新聞社). (2013年3月28日). オリジナル2013年3月28日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130328100620/http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/administration/20130328000144 
  12. “【衆院解散】午後に衆院解散 「0増5減」成立へ 違憲状態は解消せず”. MSN産経ニュース. (2012年11月16日). オリジナル2012年11月17日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20121117020509/http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121116/elc12111608140021-n1.htm 
  13. “昨年衆院選は違憲・無効と判決 広島高裁、初のやり直し命令”. 47NEWS. 共同通信. (2013年3月25日). オリジナル2013年3月28日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130328081940/http://www.47news.jp/CN/201303/CN2013032501001763.html 
  14. “97選挙区で区割り変更、格差1・999倍に”. 読売新聞. (2017年6月9日). http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20170609-OYT1T50049.html . 2017閲覧. 
  15. 15.0 15.1 15.2 15.3 15.4 15.5 総務省. “平成29年9月1日現在選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数”. . 2018閲覧.
  16. 2016年8月23日・16時02分(PDT)付け投稿”. 礒崎陽輔(参議院議員・自民党)公式Twitter. . 2017閲覧.
  17. 最高裁判所大法廷判決 平成24年10月17日 集民 第241号91頁、平成23(行ツ)64、『選挙無効請求事件』。
  18. 地方自治研究資料センター「戦後自治史Ⅲ(参議院議員選挙法の制定)」(文生書院)
  19. 衆議院憲法調査会平成16年12月02日議事録
  20. 都道府県議員の選挙区等の状況 総務省資料
  21. 1票の格差、兵庫が最大 高砂、養父で3.54倍 41道府県議選 - 神戸新聞 2015年4月7日《2017年10月15日閲覧》
  22. 過去の議員定数是正訴訟最高裁判決 (PDF) 経済同友会
  23. 森脇俊雄『小選挙区制と区割り: 制度と実態の国際比較』芦書房、1998年。

参考文献

関連項目

外部リンク