ダルダノス

提供: miniwiki
移動先:案内検索
ファイル:Samothraki island.jpg
ダルダノスとイーアシオーンが住んだとされるサモトラケー島(現在のサモトラキ島)。

ダルダノス古希: Δάρδανος, Dardanos, ラテン語: Dardanus)は、ギリシア神話に登場する人物である。プレイアデスの1人エーレクトラーゼウスの息子で、イーアシオーンと兄弟[1]。あるいはハルモニアーも兄弟といわれることがある[2][3][注釈 1]テウクロスの娘バテイアとの間にイーロスエリクトニオスの2子、またピーネウスの妻となったイーダイアーが生まれた[1]

トロイア王家の祖であり、ギリシア神話に伝わる洪水伝説の1つは彼が主人公とされる[注釈 2]

神話

アポロドーロスによると、ダルダノスは兄弟のイーアシオーンがゼウスの雷に打たれて死んだことに絶望し、サモトラケー島を去って対岸の小アジアに渡った。そしてその地を支配していたテウクロス王の娘バテイアを娶り、与えられた土地にダルダノス市を創建した。さらに王が死ぬと国土全体を継承して、地名もダルダニアーEnglish版と改めた[1][注釈 3]ヒュギーヌスもダルダノスはダルダニア市を創建したと述べている[5]。その後、ダルダニアーという地名は孫のトロースの代にトローイアと名を変え[6]、さらにその子イロースはイーリオン市を建設し、天からパラディオンを授かった[7]

洪水伝説

古代ローマの著述家ウァッロによると、ダルダノスはアルカディア地方北部の都市ペネオスの王であった。しかしペネオスを大洪水が襲って、人々が高地に追いやられとき、ダルダノスはペネオスの支配を息子ディマスに任せ、自分は人々の何割かを連れてサモトラケー島に移住したという[8]ジェームズ・フレイザーは、同地の、洪水の起きやすい土地柄から、こうした伝説が生まれたと述べている[9]

しかし別の洪水伝説では、洪水の余波がサモトラケー島に及んだため、皮の袋を空気で膨らませたものに乗って避難し、イダ山に渡り、トロイアを創建したともいわれる[10]

シケリアのディオドロス

シケリアのディオドロスはダルダノスを洪水伝説の主人公としていないが、彼ら兄弟が住んでいたサモトラケー島に伝わる洪水伝説について言及している。それによると黒海はもともと巨大なだったが、あるとき川から流れ込んで湖水が溢れかえり、洪水となってヘレースポントス海峡から小アジア沿岸地域に流れ込んだ。この洪水はサモトラケー島をも襲い、島の平野部を侵食して海に変えた。ダルダノスら兄弟が島に生まれたのはそれから年月を経た後で、ダルダノスはいかだで小アジアに渡って、ダルダノス市を創建し、周辺住民を自分の名をとってダルダノイと名付けた。さらに多くの部族を併合し、トラーキア以北のダルダノイ族を王国に移住させたと述べている[11]

ウェルギリウス

一方、ウェルギリウスの『アエネーイス』ではダルダノスの故国はヘスペリア(イタリア半島)とされており[12]、そこから小アジアのテウクロスの地に渡ったとしている[13]

系図

テンプレート:トロイアの系図

脚注

注釈

  1. シケリアのディオドロスはカドモスとハルモニア―はサモトラケー島で知り合い、結婚したとしている[3]
  2. ギリシア神話における洪水伝説の主人公は、他にデウカリオーンオーギュゲスがいる。
  3. それ以前、同地の住人はテウクロスにちなんでテウクロイと呼ばれていた[4]

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 アポロドーロス、3巻12・1。
  2. シケリアのディオドロス、5巻48・2。
  3. 3.0 3.1 シケリアのディオドロス、5巻48・5。
  4. アポロドーロス、3巻12・1。
  5. ヒュギーヌス、275話。
  6. アポロドーロス、3巻12・2。
  7. アポロドーロス、3巻12・3。
  8. J・G・フレーザー『洪水伝説』邦訳、p.59。
  9. J・G・フレーザー『洪水伝説』邦訳、p.59-61。
  10. J・G・フレーザー『洪水伝説』邦訳、p.61。
  11. シケリアのディオドロス、5巻47・3。
  12. 『アエネーイス』3巻163行-171行。
  13. 『アエネーイス』7巻206行-209行。

参考文献

関連項目