|
|
| 42行目: |
42行目: |
| | |plus= | | |plus= |
| | }} | | }} |
| − | '''長野県西部地震'''（ながのけんせいぶじしん）は、[[1984年]]（昭和59年）[[9月14日]]08時48分49秒、[[御嶽山]]山麓の[[長野県]][[木曽郡]][[王滝村]]直下（[[北緯]]35度49.5分、[[東経]]137度33.4分、深さ2km）を震源として発生した[[気象庁マグニチュード|Mj]] 6.8（[[マグニチュード#モーメントマグニチュード|Mw]] 6.2<ref name="USGS"/>）の地震。 | + | '''長野県西部地震'''（ながのけんせいぶじしん） |
| | | | |
| − | == 概要 ==
| + | 1984年（昭和59）9月14日8時48分に、長野県木曽（きそ）郡王滝（おうたき）村に発生した地震。規模はM6.8。震源の深さは2キロメートル。死者・行方不明29人、全半壊の建物は99。山崩れが三か所で発生し、土砂が谷を下り川をふさいだ。最大のものは10キロメートルも流下した。振動による全半壊の家屋はなく、ほとんどが山崩れと土砂の粉体流による。王滝村の震度はV（5）と強く、とくに崩れやすい所に山崩れが発生したと考えられている。 |
| − | 王滝村では'''震度6（烈震）'''を記録したと推定され、被害が集中した。震度が「推定」になっているのは、当時地震計が置かれていなかったためである。震源の深さは2kmと極めて浅い地震であったが、この地震によって地表面に断層は現れなかった。余震分布の観測結果により、延長15kmの北東-南西走向の右横ずれ断層と、直交する延長5kmの北西-南東走向の左横ずれ断層の2つの断層が活動した<ref>[http://www2.ueda.ne.jp/~moa/ootaki.html 長野県西部地震（王滝村）] 長野県の地学</ref>。
| |
| | | | |
| − | 震源域の真上では、一部の範囲で[[重力加速度]]を越えた5〜10Hzの震動により、石や木片が飛んだという報告がある<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/39/2/39_2_217/_article/-char/ja/ 1984年長野県西部地震による[[震央]]付近の大加速度] 地震 第2輯 Vol.39（1986） No.2 P217-228, {{JOI|JST.Journalarchive/zisin1948/39.217}}</ref><ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/41/2/41_2_163/_article/-char/ja/ 佐伯龍男、梅田康弘：1984年長野県西部地震の破壊域におけるS波偏向異方性] 地震 第2輯 Vol.41（1988） No.2 P163-171, {{JOI|JST.Journalarchive/zisin1948/41.163}}</ref>。水資源開発公団の[[牧尾ダム]]に設置されていた地震計（[[震央]]からの距離 4km）は、300ガルを上限とする設定であったために振り切れていた<ref name="1957.413"/>。これらから震央部（震源の真上）では震度6を超えた激震だった可能性もある。
| + | {{テンプレート:20180815sk}} |
| − | | |
| − | 発生当初は、[[南関東直下地震]]や[[東海地震]]、山梨県を震源とする地震とのデマが流れた<ref>[http://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kurashi/shobo/bosai/bosai/taiken/taiken/ichizu/13.html (13)長野県西部地震／長野県]</ref>。
| |
| − | | |
| − | === 他の地震との関連 ===
| |
| − | 吉田明夫、青木元らの研究によれば、[[1948年]]の[[福井地震]]（M7.1）、[[1961年]]の[[北美濃地震]]（M7.0）、[[1969年]]の[[岐阜県中部地震]]（M6.6）と続いた一連の地震との関連性が指摘されている<ref>{{PDFlink|[http://www.geog.or.jp/journal/back/pdf111-2/p212-221.pdf 吉田明夫， 青木元 - Journal of Geography, 2002 大地震の前に日本海沿岸の広域に現れた地震活動の静穏化]}} 東京地学協会</ref>。なお、この地震に先立った[[1979年]]には、[[御嶽山]]が噴火している。
| |
| − | | |
| − | [[2017年]][[6月25日]]には本震央の近くで、長野県南部を震源とする地震（Mj5.6、震源の深さは7km、最大震度5強〈王滝村、木曽町〉）が発生しているが、気象庁は本震との関連性は低いとしている<ref>{{Cite web|url=http://www.sankei.com/affairs/news/170625/afr1706250014-n1.html|title=【長野県南部地震】33年前の長野県西部地震の震源近くで発生 気象庁が注意喚起「関連は低いが地震多い地域」|work=産経ニュース|publisher=産経新聞|accessdate=2017-06-25}}</ref>。
| |
| − | | |
| − | == 主な被害 ==
| |
| − | [[ファイル:Ontakesan from kohideyama.jpg|thumb|250px|[[小秀山]]から望む長野県西部地震による[[御嶽山]]の南面の[[山体崩壊]]（上部中央）]]
| |
| − | 地震による直接的被害は少なかったものの、前日までの連続雨量150mm以上を観測した地域もあり土砂崩落を誘発しやすい状況にあった。
| |
| − | {| class="wikitable" style="text-align:right"
| |
| − | |+王滝村における被害状況<ref>[http://dx.doi.org/10.11475/sabo1973.49.5_57 昭和59年長野県西部地震災害-よみがえる御岳-] 砂防学会誌 Vol.49（1996-1997） No.5 P57-59_2</ref>
| |
| − | !死者・不明者（人）!!負傷（人）!!全壊（戸）!!半壊（戸）!!一部損壊（戸）!!被害額
| |
| − | |-
| |
| − | |29||10||14||73||517||231億円
| |
| − | |}
| |
| − | | |
| − | * [[御嶽山]]南側で、後に「'''御嶽崩れ'''（または'''伝上崩れ'''）」と呼ばれている[[山体崩壊]]が発生し、体積約3,450万立方メートルの土砂が伝上川の両岸を削りつつ、[[濁川温泉 (長野県)|濁川温泉]]旅館を飲み込みながら、標高差約1,900〜2,500m、距離約10kmを平均時速80〜100kmという猛スピードで流下し、延長約3kmにわたって最大50mの厚さで堆積した<ref>[http://dx.doi.org/10.4287/jsprs.24.2 長野県西部地震による大崩壊 -伝上川源頭部-] 写真測量とリモートセンシング Vol.24（1985） No.1 P2-3</ref>。氷ヶ瀬の渓谷では厚さ30メートル以上の土砂が堆積し谷が埋まった。当時、伝上川周辺には[[名古屋市]]からきのこ採りなどに来ていた5名と濁川温泉旅館の経営者家族4名の計9名がいたが、いずれも山体崩壊の[[土石流]]に巻き込まれ、行方不明となった。
| |
| − | * [[三浦ダム]]付近で林業関係者5人が一時行方不明になったが尾根伝いに歩きとおして地震発生翌日に氷ヶ瀬付近で無事保護された。
| |
| − | * 王滝村松越地区では、土砂崩れにより、森林組合の作業木工所と村道の一部が崩落、旅館の半分を削り取りながら川下にあった生コン工場を直撃、対岸の[[段丘]]上にまで押し上げた。この土砂崩壊で、作業木工所の森林組合員と生コン工場の従業員、合わせて13名が犠牲となり、下流の御岳湖（[[牧尾ダム]]）に大量の土砂が流入した。建物の半分が崩壊した旅館では、地震発生時は宿泊客がおらず、経営者の妻である女将が崩落に巻き込まれたが、幸い、身体が畳の上に載ったまま流され、土砂に飲み込まれることはなかった。その後、崩落で出来た崖を負傷した体で（2週間の入院を要するほどの重傷であった）自力で登り、奇跡の生還を果たしている<ref>[http://www3.shizushin.com/jisin/hisaiti0423.html 長野県西部地震被災地から〜家ごと土石流にさらわれ〜]</ref>。なお、この地域の岩盤は粘板岩でその上に御岳山からの火山噴出物が堆積した構造を持ち、滑り面は噴出物の最下層の軽石層と考えられる<ref name="1957.413">[http://dx.doi.org/10.2208/proee1957.18.413 長野県西部地震による松越地区斜面崩壊地点の動的応答解析] 地震工学研究発表会講演概要 Vol.18（1985） P413-416</ref>。
| |
| − | * 王滝村滝越地区では、土砂崩れによる家屋倒壊で1名が死亡した。
| |
| − | * 氷ヶ瀬地区では営林署の建物が土石流による泥流に飲み込まれてゆく様子がテレビで報じられ、県道を車で走行中の林業関係者5名が土石流に巻き込まれ行方不明となったが、土石流が流下する直前に山を駆けのぼって間一髪難を逃れた作業員2名もいる<ref>[http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1984/12/84_12_02.pdf 1984年長野県西部地震の緊急調査報告（pdf）] 産業技術総合研究所 地質調査総合センター</ref><ref>[http://www3.shizushin.com/jisin/hisaiti0416.html 長野県西部地震被災地から〜落石と土石流に危機一髪〜]</ref>。
| |
| − | * 柳ヶ瀬地区では、自宅から出た1名が行方不明となった。
| |
| − | * [[貨物自動車|トラック]]が土砂崩れに巻き込まれた。巻き込まれた時にドライバーは車外へ放出され遺体で発見された（下記の関連書籍に詳しく書かれている）。
| |
| − | * 王滝川では、堆積した土砂によって天然の堰止め湖（河道閉塞）ができた。地震から20年以上が経過した現在でも御嶽山では崩壊跡を確認することができ、崩落地域をコースにしたマウンテンバイクの[[クロスカントリー]]レース「[[セルフディスカバリー・クロスマウンテン]]」も行なわれている。
| |
| − | [[File:Lake Shizenko.jpg|thumb|王滝川がせき止められて誕生した自然湖]]
| |
| − | | |
| − | 死者は松越地区での13名、滝越地区での1名。行方不明者は「御嶽崩れ」による15名。合わせて29名が犠牲となった。負傷者10名。家屋被害は、全壊14棟、半壊73棟、一部損壊517棟に及んだ。なお、全壊した家屋はすべて土砂崩壊による倒壊、流出であった。
| |
| − | | |
| − | == 前兆活動 ==
| |
| − | [[名古屋大学]]の調査では、「白狐」（50km）「湯谷」（95km）「犬山」（71km）（括弧内は震央距離）観測点の温泉中に含まれるガス中のCH<sub>4</sub> / Ar（[[メタン]]－[[アルゴン]]比）および H<sub>2</sub>（[[水素]]）が有意な変動した。また、1978年の御嶽山の噴火活動で形成された噴気孔（震央距離 9km）から噴出していた火山性ガス中の CO<sub>2</sub>および温度は変化が無かったが、He/Ar 、H<sub>2</sub>/Ar 、CH<sub>4</sub>/Ar 、N<sub>2</sub>/Ar 各々の比率は、1980年以降増加を続け直前の1週間（1984年9月7日）には1981年の100倍を観測していたが地震後に減少<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/39/1/39_1_99/_article/-char/ja/ 長野県西部地震に伴う温泉ガス, 火山ガスの前兆的組成変動―地殻歪および岩石破壊と地下ガス組成変動-] 地震 第2輯 Vol.39（1986） No.1 P99-109, {{JOI|JST.Journalarchive/zisin1948/39.99}}</ref>。なお、 H<sub>2</sub>（水素）は岩石の破壊に由来していると考えられる。
| |
| − | | |
| − | [[地質調査所]]の調査では、[[阿寺断層]]（25km：岐阜県福岡町宮脇）、松代断層（100km：長野県長野市松代）、[[中央構造線]]（100km：愛知県新城市有海）上の各観測点の計141箇所の観測孔で、Rn（[[ラドン]]）濃度の変動が周年変化を外れ上昇していた<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/39/1/39_1_47/_article/-char/ja/ 長野県西部地震の前兆としての震央周辺におけるαトラック法によるラドン濃度異常] 地震 第2輯 Vol.39（1986） No.1 P47-55, {{JOI|JST.Journalarchive/zisin1948/39.47}}</ref>。
| |
| − | | |
| − | == 防災事業 ==
| |
| − | [[File:1984 Otaki earthquake cenotaph.jpg|thumb|慰霊碑（王滝村松越地区）]]
| |
| − | 災害後、4年がかりで御嶽山麓には9ヶ所の[[砂防ダム]]が造られた<ref>[http://dx.doi.org/10.11475/sabo1973.48.4_66 長野県西部地震] 砂防学会誌 Vol.48（1995-1996） No.4 P66-68_2</ref>。
| |
| − | | |
| − | == 臨時放送局 ==
| |
| − | SBC[[信越放送]]が「災害に関する被災地住民向け現地放送」を行なうため、[[9月19日]]から1ヶ月に限り[[信越総合通信局|信越電波監理局]]より非常用放送局の免許を受けて「王滝村[[臨時災害放送局|臨時放送局]]」を設置した<ref name="hiroi16">[http://cidir-db.iii.u-tokyo.ac.jp/hiroi/report/summary/16 （16）1984年9月長野県西部地震における災害情報の伝達と住民の対応]（[[東京大学]]総合防災情報研究センター「廣井アーカイブス」）</ref>。放送局の放送施設を災害対策本部の置かれている役場庁舎内の有線放送本部に設置し、有線放送の内容がそのまま信越放送の放送として流れるようにしたのである<ref name="hiroi16"/>。
| |
| − | | |
| − | == 脚注 ==
| |
| − | {{脚注ヘルプ}}
| |
| − | {{Reflist}}
| |
| − | | |
| − | == 関連書籍 ==
| |
| − | *[[手島悠介]]「大地震が学校をおそった」（[[学研ホールディングス|学研]]の[[ノンフィクション]] ISBN 978-4051019495）
| |
| − | | |
| − | == 外部リンク ==
| |
| − | * [http://www.jma-net.go.jp/matsushiro/learning/seibu.html 1984年長野県西部地震]（[[気象庁松代地震観測所]]）
| |
| − | * [http://www5d.biglobe.ne.jp/~kabataf/picture_saigai/picture_saigai3.htm 地震と斜面崩壊（長野県西部地震）]
| |
| − | * [http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009030192_00000 NHKアーカイブス 長野県西部地震（1984年）] - 日本放送協会（NHK）
| |
| − | | |
| − | {{日本近代地震}}
| |
| | {{DEFAULTSORT:なかのけんせいふししん}} | | {{DEFAULTSORT:なかのけんせいふししん}} |
| | [[Category:昭和時代の地震]] | | [[Category:昭和時代の地震]] |
日本 長野県 王滝村付近