総合車両製作所
株式会社総合車両製作所(そうごうしゃりょうせいさくしょ、英称:Japan Transport Engineering Company、英略称:J-TREC)は、鉄道車両メーカーである。東日本旅客鉄道(JR東日本)の完全子会社。
Contents
概要
神奈川県横浜市金沢区大川に所在する本社および横浜事業所のほか、新潟県新潟市秋葉区に所在する新津事業所、和歌山県紀の川市に所在する和歌山事業所の3箇所の製造拠点を有する。横浜事業所と新津事業所においては主に鉄道車両、和歌山事業所においては軌道関連部品の製造を手掛けている。
東急車輛製造の業績悪化による事業譲渡に際して、同社の鉄道車両製造部門を始めとした鉄道車両製造事業を継承し設立された。事業継承に際しては、2011年(平成23年)11月9日付で新東急車輛株式会社を設立[1]、翌2012年(平成24年)4月1日付で同社へ東急車輛製造の各事業を譲渡し、翌4月2日付で新東急車輛の全株式をJR東日本へ売却し同社の完全子会社となるとともに、同日付で株式会社総合車両製作所と商号を変更する形で行われた。
JR東日本では新津車両製作所[2]で自社による鉄道車両の製造を手掛けていたが、グループ内の車両製造業務をJ-TRECへ一本化するため、JR東日本は車両製造事業とそれに係る資産や負債、権利及び義務を、2014年(平成26年)4月1日付でJ-TRECへ会社分割により譲渡し[3]、現在の体制となった(ただし総合車両製作所新津事業所における従業員の雇用契約は、引き続きJR東日本が保持し、同社へ出向の形を取る)。
鉄道車両のほか、鉄道・海上用コンテナ・分岐器・横取り装置をはじめとする軌道関連部品の製造も行っている。
年表
- 2011年(平成23年)11月9日 - 東急車輛製造株式会社の「鉄道車両新会社」として新東急車輛株式会社を設立。
- 2012年(平成24年)4月1日 - 東急車輛製造株式会社より鉄道車両事業、ならびに東急車輛エンジニアリング株式会社および京浜鋼板工業株式会社の株式保有を含む一般管理部門を継承。
- 2012年(平成24年)4月2日 - 新東急車輛株式会社の全株式が東日本旅客鉄道株式会社に売却され、株式会社総合車両製作所へ社名変更。これ以降、川崎重工業へのJR東日本の在来線車両の新規発注はTRAIN SUITE 四季島用車両7両とGV-E400系電気式気動車を除いて全て無くなった[4]。
- 2012年(平成24年)4月6日 - 総合車両製作所発足後、初の竣功車両として京急新1000形1153編成が落成。出場記念のテープカットを実施[5]
- 2012年(平成24年)7月23日 - 横浜事業所構内にて保存中の東急5201号と東急7052号が、日本機械学会より機械遺産51号「ステンレス鋼製車両群(東急5200系と7000系)」として認定。
- 2012年(平成24年)8月10日 - 総合車両製作所としてのJR東日本向け第1号車両(E657系)が落成、記念式典を開催。
- 2013年(平成25年)3月 - 京浜産業株式会社との合弁会社であった京浜鋼板工業株式会社を解散[6]。
- 2013年(平成25年)6月19日 - フランス・アルストム社と、同社製LRT(LRV)「シタディス(Citadis)」の国内導入協力に関する覚書を締結[7]。
- 2014年(平成26年)4月1日 - 東日本旅客鉄道(株)新潟支社の新津車両製作所の車両製造事業等を継承[3]。これ以降、JR東日本の在来線車両は川崎重工業製のTRAIN SUITE 四季島用車両7両とGV-E400系電気式気動車、新潟トランシス製のキハE130系気動車、JR他社の車両をカスタマイズした車両[8]を除き、総合車両製作所新津事業所と共に全て総合車両製作所で製造される。
製品
鉄道車両
車両の製作をJR東日本新津車両製作所[2]に委託したものが一部含まれる。東急車輛製造当時に受注・製造したものについてはこちらの項を参照。
東日本地区の鉄道事業者を主要な顧客とするが、合併によって東急車輛製造大阪製作所(現在は和歌山に移転)となった旧帝國車輛工業当時から取引があった南海電気鉄道やその子会社の泉北高速鉄道は、西日本地区における数少ない顧客である。ただし、帝國車輛工業合併以前にもオールステンレス車両である6000系電車などの納入実績がある。これは当時オールステンレス車両の製造技術を有するメーカーが東急車輛製造のみであったことに起因しているが、総合車両製作所への移行後は8000系のみ製造している。なお、2015年秋デビューの8300系は近畿車輛での製造となった[9]。一方で京都市営地下鉄烏丸線(京都市交通局)に導入予定の新車デザインを「1円」で落札したと報じられ、同社で製造することが決定している[10]ことから、西日本地区の鉄道事業者の顧客が増加することとなった。
日本国外向けステンレス車両については、日本におけるステンレス車両のパイオニアメーカーとして「sustina(サスティナ)」というブランド名を制定、2012年9月下旬にドイツ・ベルリンで開催の世界最大の鉄道関係見本市「InnoTrans2012」に出展した[11]。sustinaとは、JIS規格で規定されるところのSUS鋼と、英単語のsustainableを合成した造語で、ステンレス車体の特徴である美しい外観・高い安全性・長期間持続する高い信頼性、さらにリサイクル性の高さから地球環境の維持にも優れていることをイメージし制定されたものである。「sustina」は後に国内向けにも用いられるようになった[12][13]。ロゴの違いはsustinaのiの上の点が海外向けは日本(の国旗としての日の丸)をイメージした赤い丸なのに対し、国内向けは地球をイメージしたものとなっている[12]。
鉄道総合技術研究所と共同研究・開発した通勤車両ロングシートの円弧状手すりは、1000両余(2012年7月現在)で採用され、2012年度「人間工学グッドプラクティス賞 最優秀賞」[14]を一般社団法人日本人間工学会から受賞している。
電車
- 東京急行電鉄 - 5000系列、6000系(デハ6300形)、7000系、2020系[15]、6020系
- 京王電鉄 - 5000系(2代目) [16]、デヤ901形・902形・サヤ912(事業用車)
- 小田急電鉄 - 4000形 (2代)
- 東京都交通局 - 10-300形、5500形([17][18])
- 相模鉄道 - 11000系
- 京浜急行電鉄 - 新1000形
- 京成電鉄 - 3000形 (2代)
- 南海電気鉄道 - 8000系
- 静岡鉄道 - A3000形[19][20]
- 泉北高速鉄道 - 12000系[21]
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
- 青い森鉄道 - 青い森703系
- 阿武隈急行 - AB900系(製造予定)[24]
案内軌条式鉄道用
日本国外
- バンコク・メトロ - パープルライン用車両
気動車
鉄道車両以外の製品
- 台車 - 鉄道車両用台車の生産は東急車輛製造の前身企業である東急横浜製作所当時から行っている。
- 分岐器など、軌道に付帯する部品
- 鉄道輸送用コンテナ - 京都鉄道博物館で展示するためだけのコンテナ(19D-28901)も製造した[25]。
- 輪重測定装置
工作機械分野では速い接合スピードを特長とする独自摩擦攪拌接合(FSW)用ツールを大阪大学監修で開発し、「Smart FSW」の名称で研究開発用に販売しており、特許・意匠・商標出願中である。
東急車輛製造時代に開発製品(メカトロニクス製品・環境システム製品)を扱った時期もあるが、現在は同分野からは撤退してサービス業務のみ継続している。
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東京急行電鉄5000系・5050系・5080系
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東京急行電鉄5050系(Sustina)
- Tokyu 6020 series Jimmuji Station 20171226.jpg
東京急行電鉄2020系・6020系
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南海電気鉄道8000系(2代)
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泉北高速鉄道12000系
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JR東日本E233系
- MRT Purple Line Train T013 20160806.jpg
バンコク・メトロパープルライン用車両
- JRF19Dcontainer.jpg
JR貨物19D形コンテナ
改造車両
車両の改造も実施している。主な内容を下に記す。【 】内は改造の内容。
- 東武鉄道 - 6050系【634型「スカイツリートレイン」への改造】
- 西武鉄道 - 4000系【4009編成の「西武 旅するレストラン 52席の至福」への改造】
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
横浜事業所回送線
横浜事業所が京浜急行電鉄(京急)の金沢八景駅に隣接して立地する都合上、京急逗子線の金沢八景 - 神武寺間の上り線は、JRなどへの新製車両の納入や、改造車両などの入出場のために横浜事業所からJR逗子駅までの搬出入(回送)線を併設しており、1,435mm(標準軌)と1,067mm(狭軌)の三線軌条区間となっている。
京急向けに新製された車両については通常横浜事業所から自力で出場回送されるほか、川崎重工業で新製された京急の車両については、回送線を経由して一旦同事業所に搬入され、整備が実施された後、同様に自力回送にて出場する。
グループ企業
- J-TRECデザインサービス株式会社(東急車輛エンジニアリング(株)より改称)
その他
横浜事業所の近隣には横浜京急バスの停留所があり、この停留所は総合車両製作所への継承・改称から現在に至るまで「東急車輌前」のままとなっている。
脚注
- ↑ 鉄道車両新会社の商号について (PDF) - JR東日本 2012年3月6日
- ↑ 2.0 2.1 現在は総合車両製作所新津事業所。
- ↑ 3.0 3.1 車両製造事業の子会社への会社分割による継承について (PDF) - JR東日本 2013年12月18日
- ↑ 川崎重工業でのJR東日本の新幹線車両の製造は、日立製作所と共に現在も継続している。
- ↑ 交友社「鉄道ファン」2012年7月号203頁「出来事2012.3 - 4」記事ならびに2013年1月号「株式会社総合車両製作所について」132頁記事。
- ↑ “会社概要・沿革”. 京浜産業株式会社. . 2017閲覧.
- ↑ ALSTOM社製LRTの国内導入協力に関する覚書の締結について (PDF) - 総合車両製作所 2013年6月19日
- ↑ 2018年3月現在は日立製作所製のEV-E801系蓄電池駆動電車(JR九州BEC819系蓄電池駆動電車をカスタマイズした車両)、日本車輌製造製のキヤE195系気動車型レール輸送車(JR東海キヤ97系気動車型レール輸送車をカスタマイズした車両)が該当。
- ↑ 近畿車両、南海から新型車両受注―40年ぶり、「8300系」30億円規模 - 日刊工業新聞2015年4月27日
- ↑ 京都市営地下鉄の新造車両、デザイン検討は「1円」…J-TRECが落札、予定価格500万円 Response 2017年9月1日、同10月12日閲覧。
- ↑ 海外向けステンレス車両のブランド名を「sustina(サスティナ)」に (PDF)
- 総合車両製作所 2012年9月12日 - ↑ 12.0 12.1 ステンレス車両ブランド「sustina(サスティナ)」国内向けロゴマークの制定について (PDF)
- 総合車両製作所 2013年4月9日 - ↑ ~東急電鉄と総合車両製作所が共同開発~ 次世代ステンレス車両「sustina(サスティナ)」シリーズを導入します 5月に東横線でデビュー (PDF)
- 総合車両製作所 2013年4月10日 - ↑ 鉄道車両用円弧状手すり 人間工学グッドプラクティス賞受賞 (PDF)
- 総合車両製作所 2012年7月3日 - ↑ 東京急行電鉄株式会社田園都市線向け新型車両製造を担当(総合車両製作所公式サイト)2017年3月23日閲覧。
- ↑ 2018年春、当社初の座席指定列車を導入します!〜新型車両 「5000系」 登場〜 - 京王電鉄、2016年3月16日
- ↑ 東京都入札 契約番号27-21335 平成27年12月11日 浅草線車両の製造
- ↑ 東京都交通局都営浅草線向け新型車両を製造開始 - 総合車両製作所、2016年12月7日
- ↑ 静鉄電車 新型車両の製作開始について~製作会社、形式名、外観カラーリング決定~、2015年6月19日
- ↑ 静岡鉄道新型車両スペシャルサイト“shizuoka rainbow trains / 静岡 レインボー トレインズ”
- ↑ “「泉北ライナー」用新型特急車両、泉北12000系が光明池車庫に到着しました!” (プレスリリース), 泉北高速鉄道, (2016年11月4日) . 2016閲覧.
- ↑ E721系1000代 新造車両の投入について - 東日本旅客鉄道、2016年5月26日
- ↑ 「週刊エコノミスト」臨時増刊2016年5月23日号「ニッポン鉄道の挑戦」p62-64 毎日新聞出版
- ↑ <宮城県>阿武隈急行に1億円 車両更新を支援 2月補正予算 - 河北新報、2018年2月14日
- ↑ 京都鉄道博物館にコンテナを納入 (PDF)
参考文献
関連項目
- 総合車両製作所新津事業所
- 京急逗子線
- 東京急行電鉄 - 前身である東急車輛製造時代の親会社(東急車輛は完全子会社)。
- 日本車輌製造 - 東海旅客鉄道(JR東海)の連結子会社の鉄道車両メーカー。
- 近畿車輛 - 近畿日本鉄道(近鉄)の持分法適用会社の鉄道車両メーカーだが、西日本旅客鉄道(JR西日本)も出資している。
- 鉄道むすめ - 東急車両製造時代、溶接工という設定の「金沢あるみ」が商品化された。総合車両製作所への改称後には転属となり、生産本部技術部所属の車両デザイナーという設定になっている。
外部リンク
- 公式ウェブサイト
- 電車市場 楽天市場店 - 東急車両製造時代から継続されている鉄道グッズショップ。「自社製品」以外の鉄道グッズも幅広く取り揃えている。