日本の鉄道車両検査

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日本の鉄道車両検査(にほんのてつどうしゃりょうけんさ)では、日本鉄道事業者が運行する鉄道車両の運行中の事故・故障等を未然に防ぐために実施する検査(点検・整備)について説明する。

省令と告示

まず、日本の鉄道車両検査の法的な背景について以下に説明する。

2001年に制定された国土交通省の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成十三年十二月二十五日国土交通省令第百五十一号)の第89条および第90条では、次のように定められている[1]

第89条(本線及び本線上に設ける電車線路の巡視及び監視並びに列車の検査)

本線及び本線上に設ける電車線路は、線区の状況及び列車の運行状況に応じ、巡視しなければならない。

2 本線において列車の安全な運転に支障を及ぼす災害のおそれのあるときは、当該線路を監視しなければならない。

3 列車は、その種類及び運行状況に応じ、車両の主要部分の検査を行わなければならない。

第90条(施設及び車両の定期検査)

施設及び車両の定期検査は、その種類、構造その他使用の状況に応じ、検査の周期、対象とする部位及び方法を定めて行わなければならない。

2  前項の定期検査に関する事項は、国土交通大臣が告示で定めたときは、これに従って行わなければならない。

さらに上記の省令と同時に告示の「施設及び車両の定期検査に関する告示」(国土交通省告示第千七百八十六号)が通達され、告示第5条で車両の検査項目や間隔などの大筋の内容が定められている[2]。これらの省令と告示に従い、各鉄道事業者が鉄道車両の検査の詳細で具体的な内容を定め、国へ届け出ることになっている[3]

2002年以前までは「鉄道車両運転規則」、「新幹線運転規則」などの省令に従って検査が定められていた[3]。これらの旧省令では、「仕様規定」と呼ばれるような車両の使用実態とは無関係に検査内容や検査周期を画一的に定める内容となっており、各鉄道事業者が実情に合わせて個別に検査基準を定めることができなかった[3]。2002年の省令・告示では、技術の進歩や経済・社会のグローバル化に柔軟に対応できることを目的にして、車両が満たすべき機能が保持されていれば良しとする「性能規定」の考え方を盛り込んだ内容となった[3]。これにより、2002年の告示では従来の検査周期も定められているが、一方で「ただし、耐摩耗性、耐久性等を有し、機能が別表の下欄に掲げる期間以上に確保される車両の部位にあっては、この限りでない。」[2]とされ、安全性が確認されれば機器毎に検査周期を各鉄道事業者が定めることができる[3]。後述のJR東日本の新保全体系と呼ばれる検査体系は、このような省令の変遷によって許容されるようになった[3]

検査の種類

国土交通省告示「施設及び車両の定期検査に関する告示」では、

  • 状態・機能検査:車両の状態および機能についての定期検査
  • 重要部検査:車両の動力発生装置、走行装置、ブレーキ装置その他の重要な装置の主要部分についての定期試験
  • 全般検査:車両全般についての定期検査

以上の3つが検査の種類として定められている[2]。さらに、新幹線、新幹線以外の電車、貨車内燃機関車などのような鉄道車両の種類別に、これら3つの検査における検査周期を定めている[2]JR東日本の新保全体系のように大きく異なるものもあるが、大部分の鉄道事業者はこれら3つを満たす形で検査を定めている[4]

重要部検査や全般検査が実際に行われる際には、更新修繕などと呼ばれる車体と内装(アコモデーション)の大規模なリフレッシュや改良、座席の撤去(車椅子スペースの捻出)などの改装工事なども併せて行われることがあり、過去には冷房化改造が同時に行われた例もある。

経年の長い車両の場合、車体や機器の老朽化や補給部品の調達難に伴い、検査切れとなる時期に廃車されることがある。

仕業検査

ファイル:Shinkibakensyaku7129F.jpg
仕業検査(列車検査)が行われる検車区検車庫の様子(東京メトロ新木場検車区検車庫)

「仕業検査」(しぎょうけんさ)は、おおむね2 - 6日毎の短い周期で行なわれる検査で、特に運転に必要不可欠な装置とされる集電装置台車ブレーキなどの点検を、車両を運用から外さずに行う検査である[5][6]。「仕業検」とも略する[6]。対象機器類の状態確認と動作確認、必要に応じて消耗品の交換が行われる。国土交通省令第八十九条における「列車の検査」に相当する[7]

交換される消耗品としては、ブレーキの制輪子や集電装置のスリ板、室内蛍光灯などがある[5][8] [9]。検査周期は事業者によって異なり[6]新幹線車両では48時間毎に実施される[8]。事業者によっては「列車検査」とも呼び、東京メトロなどでは10日程度毎で列車検査を実施している[10]

交番検査

「交番検査」(こうばんけんさ)は、仕業検査より長期検査周期で行われるもので、仕業検査と同じく車両を分解せずに行われる検査だが、より詳細に検査を行われる[11]。「交検」とも略する[12]。国土交通省告示においては、「状態・機能検査」に相当する検査となる[7]。このレベルの検査までは、車両の日常の運用・管理を行う車両基地で行うことが多い。おおよそ1月間隔で行う事業者もあり、そのような場合は「月検査」(つきけんさ)とも呼ぶ[13][14]

各機器のカバーを外して、内部の状態や機器の動作確認だけでなく、主回路で絶縁不良が起きていないかなどの試験装置を用いたより詳細な試験が行われる[13][10]車輪の踏面形状を確認して、正規形状からの逸脱が大きい場合は、研削機で正規形状に削り直すこと(車輪転削)も行われる[13][8]。新幹線では、輪軸の探傷試験なども行われる[8]

ディーゼル機関車の場合は2段階に分別される。「交番検査A」では90日以内または走行距離2.5万キロメートル以内に、「交番検査B」では18か月以内または走行距離12.5万キロメートル以内で行われる[15]

蒸気機関車の場合は、通常の交番検査以外に、交番検査の隔回に「無火検査」と呼ばれる検査も行われる[16]。無火検査では、通常の交番検査内容に加えて、ボイラーの火を消して、火室内部に留まった水垢や、煙管に溜まったの掃除を実施する作業が行われる[16]東日本旅客鉄道(JR東日本)の場合、交番検査の周期を90日以内または3万キロ以内と、月検査と同義としているため、この検査名での検査は行われていない(後述)。

国土交通省告示第5条の「状態・機能検査」として定められた最大検査周期は以下のとおりである[2]

車両の種類 経過月・日数による期間 走行距離による期間
無軌条電車 1か月 -
新幹線電車[17] 30日 3万キロメートル
蒸気機関車 40日 -
新幹線の貨車 90日 -
電車、貨車以外の新幹線車両 90日 -
貨車 3か月 -
新幹線以外の電車 3か月 -
内燃機関車および内燃動車 3か月 -
懸垂式鉄道跨座式鉄道案内軌条式鉄道の電車 3か月 -
  • 機関車、旅客車、貨車などの特殊車以外の車種のみを示す[注釈 1]。告示では特殊車についても定められているが、ここでは省略した。
  • 経過月・日数による期間以外に走行距離による期間が定められている場合は、いづかれかを超えない期間とされる。
  • 長期間運用から外される場合の車両については別規定がある。
  • 出典:国土交通省告示第千七百八十六号、別表(第5条関係)

重要部検査

ファイル:JRH-Kiha40 730 Maintenance.jpg
重要部検査の例、車体と台車を切り離してある。画像は、釧路運輸車両所で検査されている、旭川運転所所属のキハ40形の様子。
ファイル:Oomiya daisya.JPG
全般検査又は重要部検査中の台車、モーターとブレーキ装置と車輪が取り外されている。

「重要部検査」とは、走行や安全に直結する、ブレーキ装置・主電動機・駆動装置などを取り外し、分解・検査・整備を行うことで、略して「要検」とも言われる[19]。この際、内外の再塗装など、車両のリフレッシュ等も同時に行われることも多い。このレベルの検査になると車体と台車を切り離すため、通常の運用を離脱して、設備の整った整備工場(社によっては車両所、検車センターなどの呼称もある)へ回送されて点検・整備が行われることになる。

期間は、東京周辺の通勤電車E231E233系)の場合、およそ1 - 2週間程度を要する(これら車両の検査は後述)。特急形車両は走行距離が多くなる傾向にあるので検査サイクルが短い。

新幹線車両電気機関車における、重要部検査と同等のものは「台車検査」(台検)と呼ばれる[19]。新幹線車両の場合は前回の検査(全般検査もしくは台車検査)から18か月以内または走行距離60万キロメートル以内に行わなければならない[19]。通常は台車のみを交換し、およそ1日で運用に復帰することが多い[19]。これによって走れない状態の車両を増やさずに運用効率を上げている[19]。電気機関車の場合は2段階に分別され、「台車検査A」は18か月以内または走行距離20万キロメートル以内に、「台車検査B」は36か月以内または走行距離40万キロメートル以内に行う[15]

蒸気機関車の場合は「中間検査」という名義になり、2段階に分別される。「中間検査A」では、所属所内にて大まかな点検を実施し、現在はおよそ1ヶ月ないし2ヶ月ほどの時間を要する。「中間検査B」では後述の「全般検査」を行う工場に運び込み、中間検査Aよりも更に細部まで調べる大掛かりな検査となり、3ヶ月前後の時間を要する。
国土交通省告示第5条の「重要部検査」として定められた最大検査周期は以下のとおりである[2]

車両の種類 経過年・月数による期間 走行距離による期間
無軌条電車 1年 -
蒸気機関車 1年 -
新幹線電車 1年6か月(2年6か月表内注1 60万 キロメートル(45万 キロメートル表内注2
新幹線の貨車 2年6か月 -
貨車 2年6か月 -
電車、貨車以外の新幹線車両 3年 25万 キロメートル
懸垂式鉄道跨座式鉄道案内軌条式鉄道の電車 3年(4年表内注1 -
内燃機関車および内燃動車 4年 50万 キロメートル(25万 キロメートル表内注3
新幹線以外の電車 4年 60万 キロメートル
  • 機関車旅客車、貨車などの特殊車以外の車種のみを示す[注釈 1]。告示では特殊車についても定められているが、ここでは省略した。
  • 経過月・日数による期間以外に走行距離による期間が定められている場合は、いずれかを超えない期間とされる。
  • 長期間運用から外される場合の車両については別規定がある。
  • 表内注1:車両新製から最初の検査に対するもの。
  • 表内注2:主回路制御方式がタップ切替式の車両。
  • 表内注3:予燃焼室式の内燃機関またはクラッチが乾式である変速機を有する車両。
  • 出典:国土交通省告示第千七百八十六号、別表(第5条関係)

全般検査

ファイル:185 205 Omiya Works open day 20100522.jpg
全般検査中の車両、仮台車を履きジャッキアップされている。

車両の主要部分やすべての機器類を取り外し、全般にわたり細部まで検査を行うことで、略して「全検」とも呼ばれる。定期検査としては最も大掛かりなもので、車体の修繕と台車や機器類などの分解・検査・整備のほか、車体の再塗装などや内装のリフレッシュ等も同時に行い、ほぼ新車の状態にする(いわゆるオーバーホール)。期間は、東京周辺の通勤電車の場合でおよそ10日 - 2週間程度要する。蒸気機関車の場合、現在は半年近くの時間を要することがほとんどである[20]

検査のサイクルは、設計の古い車両や新幹線など高速運転を行う車両では短縮されることがある。逆に、イベント用など使用頻度の少ない(走行距離が極端に短い)車両の場合、一時的に休止扱いにして検査時期の期間を引き延ばすことも行われている。

東日本旅客鉄道の蒸気機関車C57形180号機は、1999年(平成11年)3月に動態復元された後、2006年(平成18年)11月の初の全般検査実施のための入場までの間は一度も全般検査を実施していない。これは、国鉄分割民営化の際、既に営業用の蒸気機関車が存在していなかったため蒸気機関車に対する検査サイクル規定が設けられておらず、このため電気機関車などと同じ8年周期扱いでの全般検査実施サイクルを行っているためである(蒸気機関車の復元・営業が開始されたのは民営化後のため、以降に車両登録が行われた蒸気機関車は民営化後の規定が適用される形となる)。ただし、蒸気機関車の状態や使用頻度によっては検査サイクルを適宜に早める場合があり、D51形498号機がこれに当たる。一方、西日本旅客鉄道C57形1号機及びC56形160号機は、民営化以前より車籍を有し、かつ現在も営業運転中であることから、この2両のみ当時の規定通り4年に一度の周期で全般検査を実施している。

国鉄でも無煙化計画の末期に、廃車が進んで残り少なくなった状態の良い蒸気機関車で所要両数を確保し、かつ検査費用を抑えつつ広域に転属配置するため、第一種休車(一休)にして検査期間を伸ばす(継続検査を受けずに延命する)ことが行われていた。

国土交通省告示第5条の「全般検査」として定められた最大検査周期は以下のとおりである[2]

車両の種類 経過年・月数による期間 走行距離による期間
無軌条電車 3年 -
新幹線電車 3年(4年表内注1 120万キロメートル(90万キロメートル表内注2
蒸気機関車 4年 -
新幹線の貨車 5年 -
貨車 5年 -
電車、貨車以外の新幹線車両 6年 -
懸垂式鉄道跨座式鉄道案内軌条式鉄道の電車 6年(7年表内注1 -
内燃機関車および内燃動車 8年 -
新幹線以外の電車 8年 -
  • 機関車、旅客車、貨物車などの特殊車以外の車種のみを示す[注釈 1]。告示では特殊車についても定められているが、ここでは省略した。
  • 経過月・日数による期間以外に走行距離による期間が定められている場合は、いずれかを超えない期間とされる。
  • 長期間運用から外される場合の車両については別規定がある。
  • 表内注1:車両新製から最初の検査に対するもの。
  • 表内注2:主回路制御方式がタップ切替式の車両(現在在籍車なし)。
  • 出典:国土交通省告示第千七百八十六号、別表(第5条関係)

臨時検査

新車や中古車を購入した場合、車両を改造した場合、故障や事故などによる損傷を修理した場合に、その都度必要に応じて検査するもの。

JR東日本の新保全体系

東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)では近年の車両の技術向上を反映した「メンテナンスフリー」を図れる車両が開発されたことで、新しい検査体系の構築について検討を進めてきており、国土交通省に対して新しい検査体系の運用について制定できるよう技術基準の改定について提案をしてきた[21]

これを受け、2002年(平成14年)3月に施行された「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」において、新しい技術の導入による耐磨耗性や耐久性に優れ、これが定められた機能以上に確保される車両の部位は、鉄道事業者自身が客観的に安全性を証明することができれば独自の検査体系を導入することが可能となった[21]。これを受け、JR東日本では2002年4月1日から209系以降の新系列電車を対象に新保全体系(しんほぜんたいけい)を導入した[21]

従来からの「要部検査・全般検査」といった検査体系は、車両や機器の性能が向上したにも関わらず、一定の検査周期を定めたものである[21]。そのため、信頼性・耐久性が向上した機器を採用して検査の省略や検査周期が延長可能な場合であっても、一定の期間ごとに決められた検査を実施することになり、言い方を変えれば過剰な検査を実施することにもなっていた[21][22]

これに対して新保全体系では、各機器ごとに耐摩耗性や耐久性を十分に検証した上で、各機器ごとに最適な検査周期で検査を行うものであり、安全性を確保した上での効率的な検査体系となっている[21][22]

下記に2002年4月時点におけるJR東日本の新保全体系実施開始時点の対象車両を記載する[21]

通勤形電車近郊形電車一般形電車
特急形電車

現在はその後に落成したE531系E233系なども新保全体系対象車両である[23]

導入にあたって

JR東日本では1993年(平成5年)初頭より、従来の車両の概念を大幅に変える「新系列車両」として209系の量産新製を開始した[22]。同系列はトータルライフサイクルコスト[24]の低減と車両の大幅な軽量化による省エネルギー化、さらには部品毎に寿命を考慮して最適なメンテナンスができる設計を採用した[21]

同系列の走行機器には三相誘導電動機を使用したVVVFインバータ制御、補助電源にはSIVの採用など電子機器を導入することで有接点機器と損耗部品の減少を図り、台車には構造の簡素化や損耗部品を減少させたボルスタレス台車を採用している[21]。特に車両の状態監視には多機能型モニタ装置を導入することでメンテナンス作業量の大幅な削減を可能としている[22]。これらの技術は、将来的に従来の検査体系を大幅に簡略化した「新保全体系」を導入することを考慮して設計したものである[22]

その後、実際に新保全体系を実施にあたっては、このような検査体系の実施に前例がないため、事前に209系2編成(走行距離約120万 キロメートル・新製から約7.5年)に対して精密な解体検査を実施して経年による機器の状態や寿命の予測等の検証を行った[21]

検証の結果、各機器の適正な検査周期を割り出す事ができたが、各機器に必要な検査周期は下記の通りバラバラであり、各検査時に全ての検査をすることは手間がかかり無駄である[21]。そのため、検査を迎える各機器ごとにグループ化(検査の必要な機器だけ検査をする)することで検査効率を向上させる方式とした[21]

各機器の検査を必要とする寿命[21]
  • 車輪 120万 キロメートル (120万 キロメートル毎に検査を実施)
  • 車軸軸受 180万 キロメートル(120万 キロメートル毎に検査を実施)
  • 主電動機(軸受) 180万 キロメートル以上(120万 キロメートル毎に検査を実施)
  • VVVF制御装置 240万 キロメートル(120万 キロメートル毎に検査を実施)
  • 空制弁類 120万 キロメートル以上(120万 キロメートル毎に検査を実施)
  • 車体屋根 240万 キロメートル(240万 キロメートル毎に検査を実施)
  • 冷房装置 60万 キロメートル以上(60万 キロメートル毎に検査を実施)

60万 キロメートルの寿命の機器は指定保全で検査を、120万 キロメートルの寿命の機器は装置保全で、240万 キロメートルの寿命の機器は車体保全で検査を実施する[21]。これは従来の検査体系(要部検査・走行距離60万 キロメートルまたは4年以内、全般検査・走行距離240万 キロメートル以内または8年以内)からの移行も考慮して走行距離60万 キロメートル毎に各検査周期を定めたものである[25]

以降に述べる保全内容はJR東日本を基本として記載したものであり、同様の保全体系を実施している他社では一部異なる場合もある。なお、各保全は走行距離毎に検査を指定するが、下記に記載する年数はおおむねであり、走行距離が満たない場合にはこの周期以上の車両もある。このうち、機能保全は各車両センター(電車区)にて実施するが、指定保全より上の保全は各総合車両センターで実施する。

機能保全

従来の交番検査(90日以内に実施する、月検査とも称する)に相当するもので、検査内容の違いで90日以内に実施する「機能保全(月)」と360日以内に実施する「機能保全(年)」がある[25]

「機能保全(月)」の場合には車両のモニタ装置の自己診断機能を使用した機能確認が中心となり、「機能保全(年)」の場合には従来の交番検査とほぼ同じ検査となる(より上位の検査)[25]。ただし、台車やドア関係の機器など重要なものは各機能保全毎に実施をしている[25]

指定保全

走行距離60万 キロメートル毎または2.5 - 4.5年程度毎に実施する保全で、パンタグラフ冷房装置など指定した装置の解体検査(分解検査)と在姿状態で機能確認検査を行う[25]。JR東日本の場合、入場から出場までは最短で5日程度となる。主な内容は

※上記に加え、特急車両では外板塗装、トイレ付き車両では汚物処理装置の解体検査を実施

装置保全

走行距離120万キロメートル毎または5 - 9年程度毎に実施する。指定保全の内容に加え、台車を含めた車両全体の解体検査を行う[25]。なお、従来は台車の解体検査について要部検査(走行距離60万キロメートル)毎に実施していたが、台車枠や車軸軸受などの走行装置類は120万キロメートル以上の機器寿命が確認されているため、車輪取り替え時期に合わせた装置保全時に実施する[25]。主な内容は

  • 台車枠の分解検査
  • 車輪取り替え
  • 車軸の探傷検査
  • 主電動機の軸受グリース交換
  • 基礎ブレーキの磨耗部品取り替え
  • 一部電子機器の部品交換
  • 空気圧縮機の空制弁類の分解検査

車体保全

走行距離240万キロメートル毎または10 - 18年程度毎に実施する。指定保全・装置保全の内容に加え、機器寿命を迎える電子機器の取り替えや車体全体の大規模修繕などを施工して、車両としての機能を回復させる検査である[25]。主な内容は

  • 車体アコモ修繕
  • 車軸軸受の交換
  • 駆動装置軸受、CFRPたわみ板交換
  • 主電動機軸受の交換、絶縁更新
  • 電子機器の分解検査
  • VVVF、SIV等の電子基板の交換
  • 屋根の塗り直し

上述した車体保全の内容は2002年4月の新保全体系開始時に考慮されたものであるが、実際に施工する時期を迎えた車両(209系転用改造やE217系など)への施工にあたっては、機器内の電子基板単位の細かな更新ではなく、VVVFインバータ装置やSIV装置などの主要機器一式を取り換える機器更新工事が同時施工されることがある[22]

今後の新保全体系

今後、JR東日本ではE233系をはじめとした新系列車両が増加したことや電子機器の寿命期間を従来よりも正確に判別できるようになったこと、また運用路線によっては車体保全の実施時期を10年程度で迎えてしまう車両が出てきてしまうことを受け、保全周期の見直しを計画している[26]

現行における装置保全は走行距離120万キロメートル毎に実施しているが、検証の結果、走行距離160万キロメートルまで保全周期を延長することが可能と判明している。また、元々車体保全は13 - 15年程度経年した車両に対して実施することを想定したものであり、10年程度での実施は早すぎてしまう。今後の保全周期のモデルは

  • 走行距離80万キロメートルで指定保全を実施
  • 走行距離160万キロメートルで装置保全を実施
  • 走行距離240万キロメートルで指定保全を実施
  • 走行距離320万キロメートルで装置保全および15年を超えない期間に車体保全を実施

上記の保全体系の最適化を目指した周期は、一般形車両でE231系以降、特急形車両ではE653系以降の車両を対象に実施する計画であり、2011年現在JR東日本では実施に向けて検証・準備を進めている[26]

新保全体系についての参考文献等

  • 山海堂刊行「詳解 鉄道用語辞典」(高橋政士 著)
  • 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」(JR東日本 運輸車両部 車両課 一木 剛 著)
  • レールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.132「JR東日本 車両保全・検修における現状と課題」(星 靖夫 東日本旅客鉄道株式会社 運輸車両部 車両保全計画グループ)
  • 日本鉄道技術協会「JREA」2011年10月号「JR東日本の車両保全体系の更なる最適化の取り組み」
  • 2007年第20回鉄道総研講演会 車両のメンテナンス(財団法人 鉄道総合技術研究所 車両構造技術研究部 部長 石塚 弘道)

脚注

注釈

  1. 1.0 1.1 1.2 特殊車とは、雪かき車、軌道試験車、レール運搬車などの特殊な目的のための使用される専用車両のこと[18]

出典

  1. 鉄道に関する技術上の基準を定める省令、最終改正:平成二四年七月二日国土交通省令第六九号”. 総務省の「法令データ提供システム」より検索. 国土交通省、総務省行政管理局. . 2015閲覧.
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 施設及び車両の定期検査に関する告示”. 国土交通省の「告示・通達データベースシステム」より検索. 国土交通省. 2016年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2015閲覧.
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 石塚 2007, p. 60.
  4. 井上 2012, pp. 40-45.
  5. 5.0 5.1 井上 2012, p. 43.
  6. 6.0 6.1 6.2 池口 2007, p. 80.
  7. 7.0 7.1 福村直登ほか「車両運用計画自動作成アルゴリズムの開発」、『鉄道総研報告』第22巻第6号、鉄道総合技術研究所、2008年6月、 5頁。
  8. 8.0 8.1 8.2 8.3 井上孝司 『新幹線が一番わかる』 技術評論社〈しくみ図解シリーズ〉、2009年、初版、172-173。ISBN 978-4-7741-3731-5。
  9. 車両メンテナンス業務”. 事業内容. JR東日本運輸サービス. . 2015閲覧.
  10. 10.0 10.1 宮本昌幸 『図解・電車のメカニズム』 講談社、2009年、初版。ISBN 978-4-06-257660-4。
  11. 池口 2007, pp. 67-68.
  12. 池口 2007, pp. 68.
  13. 13.0 13.1 13.2 井上 2012, p. 44.
  14. 鉄道総合技術研究所. “月検査 つきけんさ”. 鉄道技術用語辞典. . 2015閲覧.
  15. 15.0 15.1 データで見るJR西日本 - 西日本旅客鉄道 p.118
  16. 16.0 16.1 川辺謙一 『[超図解]鉄道車両を知りつくす』 学習研究社、2007年、74-75。ISBN 978-4-05-403569-0。
  17. JR東海N700A系N700系は、2015年(平成27年)3月23日より「45日または走行距離6万 キロメートル」に規程を改定
  18. 鉄道総合技術研究所. “特殊車 とくしゅしゃ”. 鉄道技術用語辞典. . 2015閲覧.
  19. 19.0 19.1 19.2 19.3 19.4 井上 2012, p. 45.
  20. 台枠ボイラの本格的な整備・修繕が必要な場合は半年程見積もられる他、修繕に多大な時間を要する場合はそれ以上が見込まれる
  21. 21.00 21.01 21.02 21.03 21.04 21.05 21.06 21.07 21.08 21.09 21.10 21.11 21.12 21.13 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号メンテナンス「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」17-18頁記事。
  22. 22.0 22.1 22.2 22.3 22.4 22.5 レールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.132「JR東日本 車両保全・検修における現状と課題」
  23. イカロス出版「首都圏新系列車両PROFILE」記事。
  24. 製造費用からメンテナンス費用、電力消費量、動力費など製造から廃車になるまでに車両に掛かる費用のこと。
  25. 25.0 25.1 25.2 25.3 25.4 25.5 25.6 25.7 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2002年10月号メンテナンス「JR東日本の新しい車両保全体系(新保全体系)の概要」19-20頁記事。
  26. 26.0 26.1 日本鉄道技術協会「JREA」2011年10月号「JR東日本の車両保全体系の更なる最適化の取り組み」

参考文献

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  • 池口英司、2007、『まるわかり鉄道用語の基礎知識850』初版、 イカロス出版 ISBN 978-4-87149-949-1
  • 石塚弘道 (2007年). “車両のメンテナンス (PDF)”. 第20回鉄道総研講演会. 鉄道総合技術研究所. pp. 59-69. . 2015閲覧.

関連項目