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シリア騒乱

シリア騒乱(シリアそうらん)

シリア2011年3月15日より始まり、現在も続くシリア政府軍と、シリアの反体制派及びそれらの同盟組織などによる武力衝突.

概要

混乱により破壊されたホムス市内

シリアにおける騒乱は、2011年にチュニジアで起きたジャスミン革命の影響によってアラブ諸国に波及したアラブの春のうちの一つであり、シリアの歴史上「未曾有」のものといわれている[1][2]。チュニジアのジャスミン革命とエジプト民主化革命のように、初期はデモ行進ハンガーストライキを含むさまざまなタイプの抗議の形態をとった市民抵抗の持続的運動とも言われた[3]。初期の戦闘はバッシャール・アル=アサド政権派のシリア軍と反政権派勢力の民兵との衝突が主たるものであったが、サラフィー・ジハード主義勢力のアル=ヌスラ戦線とシリア北部のクルド人勢力の間での衝突も生じている[4]。現在は反政権派勢力間での戦闘、さらに混乱に乗じ過激派組織ISILやアル=ヌスラ戦線、またクルド民主統一党(PYD/Partiya Yekitiya Demokrat)をはじめとしたシリア北部のクルド人勢力ロジャヴァが参戦したほか、アサド政権の打倒およびISIL掃討のためにアメリカフランスをはじめとした多国籍軍、ロシアイランもシリア領内に空爆を行っており、内戦は泥沼化している。また、トルコサウジアラビアカタールもアサド政権打倒のために反政府武装勢力への資金援助、武器付与等の軍事支援を行い内戦に介入している。

反体制派からの情報を収集する[5]英国拠点の反体制派組織[6]シリア人権監視団は2013年8月末の時点で死者が11万人を超えたと発表している。国際連合により、2012年5月下旬の時点でもはや死者数の推計は不可能と判断されている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計によると、2017年までに元の居住地を離れて約630万人が国内で避難生活を送り、500万人以上が国外に逃れた。こうした難民の主な行き先としてはトルコ(320万人)、レバノン(100万人)、ヨルダン(65万人)、イラク(24万人)、エジプト(12万人)で、トルコなどを経由してヨーロッパなどに渡った人々も多い[7]日本には2014年6月20日時点で52人が難民申請しているが、日本政府は一人も認めていない[8]

反政府武装組織の一つ自由シリア軍により教会が破壊されたとされる事例[9]をはじめ、反政府主義者によるキリスト教徒(その大半は正教非カルケドン派東方典礼カトリック教会といった東方教会の信者)への排撃が問題となる局面も出てきている[10][11]

2014年に入り、ISILと、シリア反政府勢力との間で戦闘が激化した。当初、ISILは、シリア反政府勢力から歓迎されていたが、ISILが他の反体制派組織を支配下に置こうとして内紛が起きた。さらには、ISILが一般市民も巻き込んで暴力をふるうようになり、関係は悪化している。反体制派の主要組織である「国民連合」は、ISILとの戦闘を全面的に支持している[12]。急速に勢力を拡大させたISILに対し、反体制派が依然として内紛を繰り返す状況で、シリア国内では唯一ISILに対抗できる存在であるアサド政権の国際的価値が高まり、欧州各国や国連、シリア国内の反体制派ですら、当初の要求であったアサド大統領の退陣を要求しなくなっている[13]。しかしアサド政権が4月4日に行ったカーン・シェイクン化学兵器攻撃を受けてアメリカ軍はアサド政権のシャイラト空軍基地攻撃を行った[14]。また、実態として西側諸国が穏健派とする反政府武装勢力やアルカイダ系組織・ISILの間に明確な線引きをするのは難しく、各勢力が強固な組織を基盤としているわけではない。さらに、いずれも反アサド政権・反世俗主義・反シーア派・反少数派イスラム教(アラウィー派ドゥルーズ派等)、反キリスト教スンニ派イスラム主義組織であるという共通点があることから、資金力の増減や戦況の良し悪しによって戦闘員の寝返りや武器交換も相互に行われている。そのためあくまでもISILも反政府武装勢力のうちの一つととらえた方が実態に近く、イスラム国の残虐性だけが突出しているわけではない。さらに、シリア政府側に立つ組織もシリア軍の他にシーア派民兵やヒズボラやイランのイスラム革命防衛隊なども参戦しており、これもまた統率が取れているわけではない。実際に、アルカイダは自由シリア軍などの反政府勢力と協力している。さらに、アルカイダ系武装集団は、2013年9月に協力体制にあったはずの自由シリア軍に攻撃を仕掛けるなど、アサド政権・反政府勢力の双方と敵対し、シリア国内は三つ巴の戦いになりつつある[15]。更にアルカーイダと協力関係にあった武装集団ISIL(イラク・レバントのイスラム国)が、2013年5月に出されたアルカイダの指導者アイマン・ザワーヒリーの解散命令を無視してシリアでの活動を続けているなど、アルカーイダやアル=ヌスラ戦線との不和も表面化している[16]。他にも、クルド人などのシリア国内の少数民族も武装化して、政府軍やアルカーイダ系の武装集団を襲撃して事実上の自治を行っており[17]、さらにイラククルド人自治区のような正式な自治区を作ろうとしている[18]

シリアで内戦が激化している理由として、主に4つがあげられる。まずは、アラブイスラム世界の中で敵対関係にあるイスラエルなどと国境を接するという地政学的事情。次にシリアバース党政権が一貫した親露、親イランである一方、親欧米・親NATO諸国であるサウジアラビアを中心としたスンニ派の湾岸諸国とは激しく対立している点。3つ目としては、トルコ政府と対立するクルド人の問題。さらに4つ目はアサド大統領がシーア派の分派でありキリスト教の影響も強いアラウィー派で、イスラム色の薄いスンニ派も含めた世俗派主体に支持者が多いのに対し、反政府勢力はスンニ派イスラム主義勢力が多く、世俗主義とイスラム主義の対立や宗派対立の様相も呈していることにある[19]

レバノンの3月14日勢力en:March 14 alliance)は、反政府抗議者たちに財政支援をしたとして非難されているが[20]、自らはこれを否定しており[21]非難の応酬となっている[22]。シリアによるレバノンへの武器輸送を阻むためとして、イスラエルがシリア国内の軍事基地を何度も空爆している[23]。レバノンに敵対しているイスラエルは、これを自衛のためとしている[24]。また、戦闘による流れ弾がトルコの街に着弾し、トルコ軍が反撃を行うなど、隣国との戦闘も発生している[25]

脚注

  1. Syria funeral hit with teargas, protesters wounded: report”. Agence France-Presse (via Google News) (2011年3月19日). . 19 March 2011閲覧.
  2. Syrian Protests Add to Pressure on Assad Regime”. The Wall Street Journal (2011年3月23日). . 23 March 2011閲覧.
  3. “UN Chief Slams Syria's Crackdown on Protests”. Al Jazeera English. (2011年3月18日). http://english.aljazeera.net/news/middleeast/2011/03/2011318231622114396.html 
  4. “17 dead as al-Qaeda loyalists attack Syrian Kurds in Turkish border town of Ras al-Ain”. Hurriyet. (2013年8月17日). http://www.hurriyetdailynews.com/17-dead-as-al-qaeda-loyalists-attack-syrian-kurds-in-turkish-border-town-of-ras-al-ain.aspx?pageID=238&nID=52716&NewsCatID=352 . 2013閲覧. 
  5. “シリア軍がアレッポで大規模掃討、反体制派の撤退情報も”. ロイター. (2012年8月9日). http://jp.reuters.com/article/idJPTYE87706Y20120808 . 2012閲覧. 
  6. “シリア:北部で200人死亡…8日間攻防 市民の犠牲増加”. 毎日新聞. (2013年3月3日). オリジナル2013年5月1日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/OduDy . 2013閲覧. 
  7. シリア、戻らぬ難民 解放された「イスラム国首都」治安不安定、他国に定住も”. 『日本経済新聞』朝刊(2017年10月25日). . 2017-11-1閲覧.
  8. “2014年6月20日(金) 世界難民の日 “シリア難民”日本にも”. NHK. (2014年6月20日). http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2014/06/0620.html . 2014-8-5閲覧. 
  9. Nothing safe, nothing sacred: Syrian rebels desecrate Christian churches? (PHOTOS) — RT News 2013年3月21日閲覧
  10. Can Syria's Christians Survive? ウォール・ストリート・ジャーナル、2013年3月21日閲覧
  11. BBC News - Syria's Christians cautious in conflict 2013年3月21日閲覧
  12. “シリア内戦、反体制派3派が連合してISILと激しい戦闘”. AFPBB News. (2014年1月5日). http://www.afpbb.com/articles/-/3005977 . 2014-7-12閲覧. 
  13. Sammy Ketz (2015年3月15日). “シリア内戦5年目、優先事項ではなくなったアサド政権打倒”. AFPBB News. http://www.afpbb.com/articles/-/3042509 . 2015-3-15閲覧. 
  14. “米軍、シリアへミサイル攻撃 「サリン」使った「化学攻撃」に反応”. BBC news. (2017年4月7日). http://www.bbc.com/japanese/39523891 . 2017-6-20閲覧. 
  15. アルカイダ系が台頭…北部、IS弱体化に乗じ” (2017年9月13日). . 2017-11-1閲覧.
  16. “アル・カーイダ系組織に不和…シリアで活動”. 読売新聞. (2013年11月9日). オリジナル2013年11月9日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/G7aDW . 2013-11-9閲覧. 
  17. “クルド人武装組織がイラク国境制圧 シリア北東部”. 産経新聞. (2013年10月26日). http://sankei.jp.msn.com/world/news/131026/mds13102621170006-n1.htm . 2013-11-9閲覧. 
  18. “シリア、クルド人勢力とイスラム武装組織が衝突”. AFPBB News. (2013年10月27日). http://www.afpbb.com/articles/-/3002177 . 2013-11-9閲覧. 
  19. “焦点:イスラム世界で開いた「パンドラの箱」、宗派戦争に終わり見えず”. ロイター. (2014年6月30日). http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0F50ZA20140630 . 2014-6-30閲覧. 
  20. Lebanon news - NOW Lebanon -Hashem: March 14 has “malignantâ€? intent toward Syria”. NOW Lebanon (2011年4月28日). . 8 May 2011閲覧.
  21. Lebanon news - NOW Lebanon -March 14 slams Hezbollah over Syria reports”. NOW Lebanon (2011年4月15日). . 8 May 2011閲覧.
  22. Hezbollah is aiding false Syria campaign: March 14”. Daily Star. . 8 May 2011閲覧.
  23. “イスラエル、またシリア空爆か ミサイルの輸送阻む狙い”. 朝日新聞. (2013年11月1日). http://www.asahi.com/articles/TKY201311010023.html . 2013-11-2閲覧. 
  24. “イスラエル軍:シリア軍事施設を空爆 米CNN報道”. 毎日新聞. (2013年11月1日). オリジナル2013年11月2日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/AW2BX . 2013-11-2閲覧. 
  25. “トルコ軍、迫撃砲で反撃 シリアのアルカイダ系”. 産経新聞. (2013年10月17日). http://sankei.jp.msn.com/world/news/131017/mds13101709520002-n1.htm . 2013-11-9閲覧. 

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