多角形
初等幾何学における多辺形または多角形(たかっけい、英: polygon; /ˈpɒlɪɡɒn/)は、閉折れ線あるいは閉曲線を成す、線分の閉じた有限鎖で囲まれた平面図形を言う。多角形を構成するこれら線分をその多角形の辺 (edge, side) と呼び、それらの二つの辺が交わる点をその多角形の頂点 (vertex, corner) と呼ぶ。n 個の辺を持つ多角形は n-辺形 (n-gon) と呼ぶ。例えば三角形は三辺形である。多角形は、より一般の任意次元における超多面体の二次元の例になっている。
多角形に関する基本的な幾何学的概念は特定の目的に応じて様々な方法で適応されてきた。数学においてはしばしば有界な閉折れ線や自己交叉を持たない単純多角形に限って問題にするため、そのようなもののみ多角形と呼ぶこともある。他方、多角形の境界が自分自身と交わることを許す流儀もあり、その場合星型多角形やその他の自己交叉多角形が形作られる。その他の多角形の一般化については後述。
多角形 (polygon) の語は、「多い」を意味する希: πολύς と「角」を意味する希: γωνία に由来する[1]
Contents
歴史
多項式は古代より知られてきた。正多角形は古代ギリシアにおいて既に知られており、また五芒星のような非凸正多角形(星型多角形)も早くも紀元前7世紀ごろ、アリストノトスのクラテール(カエレにおいて発見され、現在カピトリーノ美術館に収蔵されている)に描かれている[2][3]。
一般の非凸多角形の系統的研究として最初に知られたものは、14世紀にトーマス・ブラドワーディンによって為された[4]。
1952年にジェフリー・コリン・シェファードは多角形の概念を複素平面C2 上に一般化(各実次元に虚次元を一つずつ追加)したものとして複素多角形の概念を導入した[5]。
用語
- 頂点 : 上で述べられている、線分の端点のこと。
- 辺 : 上で述べられている、線分のこと。
- 面 : 多角形によって囲まれた領域。3. より多角形が閉じていることがわかることから定義できる。
- 内角 : 多角形のある頂点における内角とは、その頂点を端点に持つ二つの辺が作る二つの角のうち、多角形の内部にあるほうをいう。
- 外角 : 多角形のある頂点における外角とは、その頂点を端点に持つ二つの辺のうち一方を延長してできる直線と、もう一方の線分がなす角の事。外角は二つあるが、その大きさは共に等しい。外角の大きさと内角の大きさを加えたものは180度(ラジアン角ではπ)に等しい。
- 対角線 : 一つの多角形の2頂点を端点に持つ線分のうち、多角形の辺ではないものをその多角形の対角線という。
- 対角 : 一つの多角形の1頂点における内角に対して、この頂点と対角線で結ばれた頂点を持つ内角をいう(例:4角形には、2組の対角がある)。
- 対辺 : 奇数の辺に囲まれた一つの多角形においては、1頂点に対して、その頂点のちょうど反対側にある辺をいう(例:5角形には、頂点とその対辺が5組ある)。一方、偶数の辺に囲まれた一つの多角形においては、1辺に対して、その辺のちょうど反対側にある辺をいう(例:6角形は、3組の対辺によって囲まれた図形である)。
- n角形 : 多角形の辺の数を文字数nで表すとき、その多角形をn 角形と呼ぶ。ここで、nは3以上の整数である。n角形は、n個の頂点を持つ。正多角形の場合には、正n角形と表現する。n は、n角形となったとき名詞となるので、基本的には漢数字で表記される(例:「3角形」ではなく「三角形」)。
分類
辺の数
多角形は第一義的にその辺の数で分類できる。
凸性・凹性
多角形をその凸性あるいは凹性によって特徴付けることができる:
- 凸多角形: この多角形を横切る(辺や角に接することのない)任意の直線は、その多角形と境界においてちょうど二回交わる。その帰結として、凸多角形の内角は 180° より小さい。同じことだが、凸多角形の境界上に両端点を持つ任意の線分は、一方の端点から多角形の内点のみを通ってもう一方の端点に達する。
- 非凸多角形: その多角形の境界と二回以上交わる線分を見つけることができる。同じことだが、境界上の二点を結ぶ線分でその多角形の外側を通過するものが存在する。
- 単純多角形: その多角形の境界は自分自身と交わらない(閉曲線として単純)。任意の凸多角形は単純である。
- 凹多角形は、単純非凸多角形を言う。少なくとも一つの内角が 180° 以上である。
- 星状多角形: その多角形の内部の全てを少なくとも一点から辺と交わることなく見込むことができる。星状多角形は単純でなければならないが、凸の場合も凹の場合もあり得る。
- 自己交叉多角形: 多角形の境界が自身と交わる。
- 星型多角形: ある種の正則性を持つ自己交叉多角形。多角形が星型かつ星状となることができない。
等値性・対称性
- 等角多角形: 全ての角の角度が等しい。
- 共円多角形: 全ての頂点が同一円周上にある。そのような円は外接円という。
- 同角 (isogonal) または頂点推移的多角形: 全ての角が同一の対称変換軌道に属する。頂点推移的多角形は等角かつ共円である。
- 等辺多角形: 全ての辺が同一の長さを持つ。等辺多角形は凸多角形とは限らない。
- 外接多角形: 全ての辺が内接円に接する。
- 同辺 (isotoxal) または辺推移的: 全ての辺が同一の対称軌道に属する。辺推移的多角形は等辺かつ円に外接する。
- 正多角形: 同辺かつ同角な多角形。同じことだが、共円かつ等辺な多角形、あるいは等辺かつ等角な多角形と言ってもよい。非凸な正多角形は星型正多角形と言う。
その他
- 直角多角形: 多項式の辺は直角に交わる。すなわち、任意の内角が 90° または 270°。
- 与えられた直線 L に関する単調多角形: L に直交する任意の直線が、その多角形と二回より多くは交わらない。
多角形の内角の和/外角の和
n 角形の内角の総和は、多角形の形状に関わらず(凸であれ凹であれ) [math](n-2) \times 180^\circ \,[/math] である。これはどのような多角形でも、対角線で適当に区切ることで (n-2) 個の三角形に分割できることから導かれる。正 n 角形の内角は全て等しいので、正 n 角形の内角は [math] \frac{n-2}{n} \times 180^\circ \,[/math] である。 n 角形の外角の総和は、nの値によらず、常に360度(ラジアン角では2π)である。
面積公式
多角形の面積は、頂点の位置ベクトルから外積を用いて計算することができる。 多角形の頂点を反時計回りに並べて、それらの位置ベクトルを[math]\vec{p}_1,\dots,\vec{p}_n[/math]とすると、その面積は
- [math]\frac{1}{2} \sum_{k=1}^n \vec{p}_k \times \vec{p}_{k+1}[/math]
という式になる。ただし、[math]\vec{p}_{n+1}=\vec{p}_1[/math]とする。
この式を使うと凹多角形でも問題なく計算できるが、自己交差を持つなどの特殊な場合には適用できないので注意が必要である。 ちなみに、時計回りの時は負になるだけなので、どちら回りかよく分からないときには全体の絶対値をとればよい。
合同条件
辺の数が同数の二つの多角形 P , P' があるとする。この二つの多角形に対し合同関係が定義できるが、次の条件を満たすとき、二つの多角形は合同である。
- P , P' に関して、それぞれある単純閉路 C , C' が存在して、通った辺の順に、その長さをそれぞれ (l1,l2,…,ln) , (l'1,l'2,…,l'n) とすれば、l1 = l'1 , l2 = l'2 , … , ln = l'n が成り立つ。
- P , P' に関して、それぞれある単純閉路 C , C' が存在して、通った頂点の順に、その対応する角の大きさをそれぞれ (θ1,θ2,…,θn) , (θ'1,θ'2,…,θ'n) とすれば、θ1 = θ'1 , θ2 = θ'2 , … , θn = θ'n が成り立つ。
また、辺の数に関係なく、二つの多角形の面積が等しければ、適当に分割することによって、二つの多角形を合同にすることができる。(ボヤイの定理)
相似条件
辺の数が同数の二つの多角形 P , P' があるとする。この二つの多角形に対し相似関係が定義できるが、次の条件を満たすとき、二つの多角形は相似である。
- P , P' に関して、それぞれある単純閉路 C , C' が存在して、通った辺の順に、その長さをそれぞれ (l1,l2,…,ln) , (l'1,l'2,…,l'n) とすれば、ある定数 k が存在して、l1 = kl'1 , kl2 = kl'2 , … , ln = kl'n が成り立つ。
- P , P' に関して、それぞれある単純閉路 C , C' が存在して、通った頂点の順に、その対応する角の大きさをそれぞれ (θ1,θ2,…,θn) , (θ'1,θ'2,…,θ'n) とすれば、θ1 = θ'1 , θ2 = θ'2 , … , θn = θ'n が成り立つ。
一覧
3 ≦ n ≦ 20 のn角形の一覧を示す。
三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、十角形、十一角形、十二角形、十三角形、十四角形、十五角形、十六角形、十七角形、十八角形、十九角形、二十角形
コンピュータグラフィック
直線のみから成る多角形は、コンピュータグラフィックで多用される射影変換に対して閉じている(元が多角形であれば、変換先も曲線になったりせず多角形になる、ということ)ことから、サーフェスモデルのプリミティブなどとして多用されている。詳細はポリゴンの記事を参照のこと。
一般化
多角形の概念はいくつかの観点から一般化される。重要なものをいくつか挙げる:
- 球面多角形は球面上の点を頂点に持ち、大円弧を辺とする閉路を言う。球面上では、平面では存在できない二つの角と二つの辺を持つ二角形(二辺形)が存在できる。球面多角形は地図学において重要であり、また一様多面体に関するワイソフ構成において重要である。
- 非平面多角形は平面上に載っておらず、三次元以上の空間にジグザグにはみ出している。正多胞体のペトリー多角形がよく知られた例である。
- 無限辺形は辺と角からなる無限列で、それらは両方向に無限に伸ばせるから、閉じているのではなくて端点が存在しない。
- 非平面無限辺形は平面上に載っていない辺と角の無限列である。
- 複素多角形は、通常の多角形の配置的対応物(複素化)で、複素二次元(実二次元+虚二次元)の複素平面 Cテンプレート:Exp 上に存在する。
- 抽象ポリトープは、(頂点、辺、面、などの)種々の部分とそれらの繋がり方を表現する代数的半順序集合。通常の実幾何学的多角形は、対応する抽象多角形の「実現」であると言う。写像の取り方に依存して、ここで述べた任意の一般化は実現が取れる。
- 多面体は面としての平面多角形に囲まれた三次元立体で、二次元における多角形の三次元版と考えられる。四次元あるいはそれ以上の次元において対応する図形は多胞体(あるいは超多面体)と呼ばれる。
参考文献
- ↑ (1849) A new universal etymological technological, and pronouncing dictionary of the English language. Oxford University. Extract of page 404
- ↑ Heath, Sir Thomas Little (1981), A History of Greek Mathematics, Volume 1, Courier Dover Publications, p. 162, ISBN 9780486240732. Reprint of original 1921 publication with corrected errata. Heath uses the spelling "Aristonophus" for the vase painter's name.
- ↑ Cratere with the blinding of Polyphemus and a naval battle, Castellani Halls, Capitoline Museum, accessed 2013-11-11. Two pentagrams are visible near the center of the image,
- ↑ Coxeter, H.S.M.; Regular Polytopes, 3rd Edn, Dover (pbk), 1973, p.114
- ↑ Shephard, G.C.; "Regular complex polytopes", Proc. London Math. Soc. Series 3 Volume 2, 1952, pp 82-97
関連項目
外部リンク
- Weisstein, Eric W. “Polygon”. MathWorld(英語). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- polygon in nLab
- polygon - PlanetMath.(英語)
- テンプレート:ProofWiki
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