シオマネキ

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シオマネキ(潮招、望潮)は、エビ目(十脚目)・スナガニ科・シオマネキ属 Uca に分類されるカニの総称。オスの片方の鋏脚(はさみ)が大きくなることで知られる分類群である。日本ではこの中の一種 Uca arcuata (De Haan, 1833) に「シオマネキ」の標準和名が充てられる。

特徴

横長の甲羅をもち、甲幅は20mmほどのものから40mmに達するものまで種類によって差がある。複眼がついた眼柄は長く、それを収める眼窩も発達する。地表にいるときは眼柄を立てて周囲を広く見渡す。歩脚はがっちりしていて逃げ足も速い。オスの片方の鋏脚とメスの両方の鋏脚は小さく、をすくうのに都合がよい構造をしている。

成体のオスは片方の鋏脚が甲羅と同じくらいまで大きくなるのが特徴で、極端な性的二形のためオスとメスは簡単に区別がつく。鋏脚は個体によって「利き腕」がちがい、右が大きい個体もいれば左が大きい個体もいる。生息地ではオス達が大きな鋏脚を振る「ウェービング(waving)」と呼ばれる求愛行動が見られる。和名「シオマネキ」は、この動作が「潮が早く満ちてくるように招いている」ように見えるためについたものである。英名"Fiddler crab"の"Fiddler"はヴァイオリン奏者のことで、やはりこれもウェービングの様子を表した名前といえる。

中国では、古来から「招潮子」(潮を招くもの)の名称で知られており、『太平御覧』巻943引『嶺表録異』では、「招潮子、また蜞蟛の属にして、殻白色を帯ぶ。海畔の潮多きに、潮来るを欲すれば、皆坎を出でて螯を挙げて望むが如し。故に俗に招潮と呼ぶなり。」(招潮子は岩ガニの仲間であり、殻は白色を帯びている。海辺の潮間帯で、満潮が訪れようとする際、皆穴を出て鋏脚を挙げて満潮を待ち受けるようである。そのため俗に潮を招くものと呼ぶのである。)との記述がある。

熱帯亜熱帯地域の、河口付近の海岸穴を掘って生息する。種類ごとに好みの底質があり、干潟マングローブ砂浜・転石帯でそれぞれ異なる種類が生息する。巣穴は通常満潮線付近に多く、大潮の満潮時に巣穴が海面下になるかどうかという高さにある。潮が引くと海岸の地表に出てきて活動する。食物は砂泥中のプランクトンデトリタスで、鋏で砂泥をつまんで口に入れ、砂泥に含まれる餌を濾過摂食する。一方、天敵はサギシギカラスなどの鳥類や沿岸性の魚類である。敵を発見すると素早く巣穴に逃げこむ。

海岸の干拓埋立浚渫などで生息地が減少し、環境汚染などもあって分布域は各地で狭まっている。風変わりなカニだけに自然保護のシンボル的存在となることもある。

おもな種類

日本産シオマネキ類は10種類ほどが知られるが、九州以北では西日本にシオマネキとハクセンシオマネキの2種類だけが分布する。南西諸島小笠原諸島では多くの種類が見られる。

シオマネキ Uca arcuata (De Haan, 1833)
甲長(縦の長さ)20mm、甲幅(横の長さ)35mmに達し、日本産シオマネキ類の最大種。ハクセンシオマネキに比べて左右の眼柄が中央寄りで、甲は逆台形をしている。オスの大鋏表面には顆粒が密布し、色はくすんだ赤色だが、泥をかぶり易く色が判別しにくいこともある。
静岡県以西の本州太平洋岸、四国九州南西諸島朝鮮半島中国台湾の各地に生息地が点在する。泥質干潟のヨシ原付近・泥が固まった区域に生息するが、人間の活動が大きな脅威となり生息域が減少している。環境省2000年に発表した無脊椎動物レッドリストでは準絶滅危惧(NT)とされていたが、絶滅のおそれが増大したとの判断から2006年の改訂で絶滅危惧II類(VU)となった。
有明海沿岸地方ではタウッチョガネ、ガネツケガニ、マガニなどと呼ばれる。アリアケガニヤマトオサガニなどと共に漁獲され、「がん漬」という塩辛で食用にされる。
ハクセンシオマネキ U. lactea lactea (De Haan, 1835)
甲幅18mmほどで、シオマネキよりだいぶ小さい。神奈川県以西の本州太平洋岸、四国、九州、朝鮮半島に分布し、河口付近の泥まじりの砂浜や転石海岸に生息する。オスのウェービングが白い扇子を振って踊るように見えるためこの和名がついた。環境省レッドリストではシオマネキと同じく準絶滅危惧から絶滅危惧II類に改訂されたが、21世紀初頭の時点ではシオマネキより生息地が多い。
亜種オキナワハクセンシオマネキ U. lactea perplexa (H. Milne Edwards, 1837) は、南西諸島からフィリピンバヌアツまで分布するが、独立した種 U. perplexa とすることもある。
ヒメシオマネキ Uca vocans (Linnaeus, 1758)
甲幅20mmほど。オスの大きなはさみは上半分が白色、下半分が橙色をしている。オスの大鋏は噛みあわせに小さな歯があるが、闘争などで鋏が脱落すると噛み合わせに歯がない大鋏が再生する。南西諸島から台湾フィリピンパラオまで分布する。
ベニシオマネキ Uca chlorophthalma crassipes (Adams et White, 1848)
甲幅15mmほど。和名通りオスの大鋏が鮮紅色をしている。甲羅もいが、ほぼ全面が赤い個体から全面が黒い個体まで個体差が大きい。脚は黒い。インド洋と西太平洋の熱帯域に広く分布し、日本では南西諸島と小笠原諸島に分布する。マングローブ地帯に生息する。
ルリマダラシオマネキ Uca tetragonon (Herbst, 1790)
甲幅25mmほど。和名のとおり甲羅は鮮やかな水色で、青い小斑点が散在する。鋏脚はくすんだ橙色、脚は褐色。インド洋・西太平洋の熱帯域に分布し、日本では南西諸島に分布する。小石の多い砂浜海岸に生息するが、個体数は少ない。
ヤエヤマシオマネキ Uca dussumieri
甲幅25mmほど。オスの大鋏の下半分が赤いことが特徴。沖縄県のマングローブ付近に生息する。

参考文献

  • 「原色日本大型甲殻類図鑑 II」三宅貞祥 保育社 ISBN 4-586-30063-9
  • 「川の生き物図鑑 鹿児島の水辺から」鹿児島の自然を記録する会編 南方新社 ISBN 4-931376-69-X

外部リンク