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衝突ルール(しょうとつルール)は、衝突防止のための野球規則をいう。コリジョンルール(collision rule)ともいう[1]。メジャーリーグベースボール(MLB)では、導入のきっかけとなった選手の名前から取ってポージー・ルールと呼ばれる[2]。日本野球機構(NPB)でも、導入のきっかけとなった選手の名前から取ってマートン・ルールと呼ばれることがある[1]。
規則
衝突ルールは、公認野球規則6.01(i)項に規定されている。
規則の大要は、本塁での衝突プレイについて、
- 得点しようとしている走者が、走路をブロックしていない捕手または野手に接触しようとして、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで、走路を外れることを禁じる
- ボールを保持していない捕手が、得点しようとしている走者の走路をブロックする行為を禁じる
である。1の場合は走者にアウトを宣告し、ボールデッドとなって、他のすべての走者は接触発生の時点で占有していた塁まで戻らなければならない。2の場合は走者にセーフを宣告する。
MLBで採用された最初のシーズンは、本塁の判定に関しビデオ判定が92回行われ判定が覆った事が11回あった。中には明らかにアウトのタイミングにも関わらず「捕手が走路をふさいだから」としてセーフになるなど、物議をかもすことも少なくなかった。2014年9月にMLB機構の野球運営部門が「捕手がボールを持っていない状態で本塁をブロックしたとしても、意図的に走路を妨害した明らかな証拠がなければ、走者をセーフにしないように」と通達し曖昧なルールに一定の基準が設けられた[3]。
日本プロ野球(NPB)では、規則を導入した2016年当初の運用・適用に対し意見書があったことから、同年7月に実行委員会で見直しが検討され[4][5][6]、22日より新たな運用基準が適用された[7]。
規則制定の背景
2011年にMLB公式戦において走者が本塁に走って来た際にサンフランシスコ・ジャイアンツのバスター・ポージー捕手が左足首じん帯を切る重傷を負った。この事故を切っ掛けに本塁でのクロスプレイに関する議論が高まり2014年に禁止事項としてルールに加えられ[8]、2015年に採用された。
NPBでは、2013年以降、阪神タイガースのマット・マートンの危険なタックルが問題視され、2015年7月の12球団監督会議でヤクルトの真中満監督が問題提起[注 1]した。故障防止を望む選手会からも同じ意見が出され、NPBのゲームオペレーション委員会で検討された。2015年秋のみやざきフェニックス・リーグで試験的に導入され、2016年1月に正式に導入が決まった[12][13][14]。
事例
日本プロ野球
- 初適用
- 適用第一号は、2016年3月15日のヤクルト対広島のオープン戦。2回表二死一・二塁、會澤翼の左前打で二塁走者の松山竜平が本塁を狙いアウトとなるが、ビデオ判定となり、捕手中村悠平が走路を塞いでいたとして、松山の生還が認められた[15][16]。
- 公式戦での初適用は、2016年5月6日の西武対日本ハム戦。3対2で迎えた6回表一死満塁、西川遥輝への2球目が暴投となり、三塁走者が生還。更に二塁走者の淺間大基が本塁へ突入。本塁上で待ち構えていた高橋光成が捕手炭谷銀仁朗から送球を受けると、滑り込んできた浅間にタッチしアウトを判定されたが、高橋が浅間に覆いかぶさる形で倒れこんだことから審判団が映像で検証。結果、高橋が走路を塞いでいたとして、浅間の生還が認められた。ルール適用で、初めて判定が覆った事例となった。基本的に衝突ルールは、捕手と走者の交錯を想定したものであったが、初適用されたのは投手であった[17]。
- セ・リーグの公式戦での初適用は、2016年5月11日の阪神対巨人戦。3回表二死二塁、脇谷亮太の中前打で二塁走者の小林誠司が本塁を狙いアウトとなったが、抗議とビデオ判定の後、捕手原口文仁がブロックし走路を妨害したとして、判定が覆った[18][19]。阪神はこの判定に対して、セ・リーグに意見書を提出したが、セ・リーグは判定は適切だったとの見解を示した[20]。
- 衝突ルール適用でサヨナラ
- 2016年6月14日の広島対西武、2対2で迎えた9回裏二死一・二塁。赤松真人の中前打で二塁走者の菊池涼介が本塁を狙いアウトとなるが、抗議とビデオ判定の後、捕手上本達之の足が走路を塞いでいると判断され、菊池の生還が認められた。コリジョンルール適用で判定が覆りサヨナラ勝利となった初の事例[21][22]。なお、西武はこの判定についてコリジョンルールの判定基準再確認を求め、パ・リーグに質問書を提出した[23]。
議論
日本
張本勲は、「百害あって一利なし」[24][25]として、このルールの導入に反対している。理由として選手や審判が困惑する、上手くなる走塁が少なくなる、迫力のあるプレイが見られないといった点を挙げている[26]。また、捕手の安全を守るというルールの目的を鑑みて「走者がはっきり激突すれば退場、何試合か出場停止、罰金などを審判が決めればいい」[26][27]と提案している。
関本賢太郎は、阪神タイガースに在籍したマット・マートンのタックルなどがルール導入のきっかけとなったという認識を示しつつも、かねて捕手が本塁上に座り込むような悪質なプレイはほとんどなかったため、その観点に立てば、捕手はこれまで通りプレイし、その上で本塁に覆いかぶさるような悪質なものに対して、ペナルティーを適用すべきだと語っている[28]。
西本聖は、2016年2月のキャンプで、ある球団の主力捕手が「(捕手に)みえみえのタックルをしてくるのは一部の外国人選手だけ」と発言していたことを紹介している。タックルをする選手が問題であるため、そういった選手を一発退場にすればよいと述べている[29]。
里崎智也は、NPBはMLBのチャレンジ制度のように抗議回数が制限されていないため、試合時間が長くなる恐れがあると指摘している[30]。
大久保博元は、衝突ルールが問題視されたのは、導入の仕方に一因があると述べている。1軍の試合でいきなり運用するのではなく、1年間は2軍の試合で運用してテストケースを集めて十分な議論をした上で、1軍の公式戦で導入すれば、ルールを巡るトラブルは最小限で済んだはずだと指摘。なお、大久保は元捕手の立場から「プロの捕手にとって、クロスプレーは最大の見せ場。いかに走者をブロックし、タッチして生還を阻むか。そのために日々練習している。」として、衝突ルールは不要だと述べている[31]。
デイリースポーツは、2016年6月23日付の記事で、衝突ルールが本来、選手の怪我防止が目的であり、ルール導入はもともと、選手や球団からの要望から行われたものであると述べている。また、導入に際してルール運用方法を決定するにあたっては、選手や球団の意見が取り入れられ、その上で2016年1月から2月にかけて各球団代表者や選手に対して、ルールについての説明が行われていることを指摘している[8]。
脚注
注釈
出典
- ↑ 1.0 1.1 ““マートンルール”成否のキーマンは外国人 「厳しい扱い」の被害者意識”. zakzak (産業経済新聞社). (2016年1月23日) . 2017閲覧.
- ↑ “ジ軍の鍵握るポージー “日本帰り”打撃コーチとの二人三脚”. 日刊ゲンダイ (日刊現代). (2014年10月4日) . 2017閲覧.
- ↑ “慣れるまで1年は必要?「コリジョンルール」の導入で起こる問題”. BASEBALL KING. (2016年3月2日)
- ↑ プロ野球 衝突防止ルールの見直し検討へ
- ↑ コリジョンルール 異例のシーズン中見直しへ 後半戦から新基準
- ↑ 衝突の有無で判断=新基準、球宴明けにも運用へ-コリジョン・ルール
- ↑ 「本塁での衝突プレイ」新たな運用基準の開始について - NPB.jp 日本野球機構
- ↑ 8.0 8.1 “「コリジョンルール」でプロ野球が変わる?オープン戦では“本塁”を巡る攻防に注目”. BASEBALL KING. (2016年2月20日)
- ↑ “ヤクルトと阪神に遺恨…田中雅、マートン爆弾タックルで骨折”. サンケイスポーツ. (2013年5月13日)
- ↑ “相川止めた怒ったマートンのタックル”. ニッカンスポーツ. (2013年9月15日)
- ↑ “ヤク真中監督、マートンタックルに激怒「日本のルールでやれ」”. スポーツニッポン. (2015年5月14日)
- ↑ “【これでいいのか!?コリジョンルール(上)】大久保博元氏、導入の仕方を問題視”. サンケイスポーツ. (2016年6月21日)
- ↑ “コリジョンルール導入の経緯を考えよう”. デイリースポーツ. (2016年6月23日)
- ↑ 2016年度 野球規則改正 - NPB.jp 日本野球機構
- ↑ “コリジョンルール適用1号、ビデオチェックでセーフ”. 日刊スポーツ. (2016年3月15日)
- ↑ “アウト判定覆り3失点!燕・中村「コリジョンルール」適用第1号”. サンケイスポーツ. (2016年3月16日)
- ↑ “コリジョンルール初判定覆った 捕手じゃなく西武・高橋光投手に適用”. スポニチ. (2016年5月7日)
- ↑ “【巨人】セで初のコリジョンルール適用!判定覆り追加点”. スポーツ報知. (2016年5月11日)
- ↑ “コリジョンルール適用でアウトがセーフに…阪神・金本監督が猛抗議”. サンスポ. (2016年5月11日)
- ↑ “阪神、セ・リーグに意見書 コリジョンルール適用で”. 朝日新聞. (2016年5月12日)
- ↑ “史上初!広島がコリジョンでサヨナラ”. デイリースポーツ. (2016年6月14日)
- ↑ “史上初!広島がコリジョンでサヨナラ 殊勲打の赤松10分待って「最高です」”. MSN. (2016年6月14日)
- ↑ “パ・リーグに質問書 コリジョンルールで再確認”. 毎日新聞. (2016年6月15日)
- ↑ “張本氏 サヨナラコリジョンに怒り”. デイリースポーツ. (2016年6月19日)
- ↑ “張本氏「百害あって一利なし」コリジョンに3度目喝”. 日刊スポーツ. (2016年6月19日)
- ↑ 26.0 26.1 “張本さんコリジョンルールに「喝!」”. デイリースポーツ. (2016年5月15日)
- ↑ “コリジョンルール導入に喝!張本氏「なんでこの規約を決めたのか」”. マイナビニュース. (2016年5月15日)
- ↑ “【関本賢太郎の目】個人的に“アウト” 大和スーパープレーがフイに”. スポーツニッポン. (2016年5月13日)
- ↑ “コリジョンルールで野球が変わる/西本聖氏に聞く”. 日刊スポーツ. (2016年3月22日)
- ↑ “コリジョンルールが及ぼす悪影響とは?”. グノシー. (2016年3月9日)
- ↑ “【これでいいのか!?コリジョンルール(上)】大久保博元氏、導入の仕方を問題視”. サンケイスポーツ. (2016年6月21日)