カリストー

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アルテミスに変身してカリストーに近づくゼウス。フランソワ・ブーシェ作『ユピテルとカリスト』(1744年) プーシキン美術館所蔵。

カリストーあるいはカッリストー古希: Καλλιστώ, Kallistō)は、ギリシア神話に登場するニュムペーである。日本語では長母音を省略しカリストカッリストとも呼ぶ。イタリア語ではカッリスト (Callisto) 。「最も美しい」の意で、この名前は女神アルテミスの添名でもあったことから[1]、アルテミス自身の分身的な性格を持っていたと考えられる[2]

アルカディアリュカーオーンの娘で、ゼウスとの間にアルカスを生んだ。

神話

カリストーはその名の通りのとても美しい乙女だったが、身を飾ることや色恋にはまるで興味を示さず、アルテミスの従者として処女を誓い、狩りに明け暮れる生活をしていた。

しかしある日、その美しさゆえにゼウスに見初められる。よく知られた伝によれば、ゼウスはアルテミスの姿を借りることで男性への警戒心の強いカリストーに近づき、思いを遂げた。彼女は男と交わったことがアルテミスに知れるのを恐れてこのことをずっと隠していた。だが何ヶ月も経ったある日、狩りの最中にアルテミス達と沐浴をすることとなり、彼女も仲間入りを強要される。彼女はゼウスの子どもを身ごもっており、衣服を脱いだためにそれを知られてしまった。その結果、純潔を尊ぶアルテミスの怒りにより、あるいはゼウスの妃のヘーラーの嫉妬によって、恐ろしい呪いを受けることになる。哀れみを乞うカリストーの真っ白な腕は黒い毛皮で覆われ、両手は湾曲して鉤爪が伸びて獣の前肢となり、ゼウスがとりわけ愛でた口元は巨大な獣の顎となって喉からは言葉の替わりにおぞましい唸り声しか出せないようにされた。彼女はもとの美しい容姿とは似ても似つかぬ、の姿に変えられたのである。

カリストーが熊に変えられる経緯については諸伝がある。古い伝承では妊娠が発覚した時点で純潔の誓いに背いた罰としてアルテミスによって変身させられた、とするものが多い。ゼウスが彼女をアルテミス、ないしヘーラーの怒りから守るために変えたという説もある。最も流布しているオウィディウス『変身物語』中のエピソードでは、妊娠が発覚した時点ではアルテミスのお供から追放されるにとどまり、彼女が熊に変えられるのはアルカスを生んだ直後、ヘーラーによってである。この場合、ヘーラーが夫ゼウスの心を奪った彼女の美しさを妬んでの仕打ちである。

その後、熊にされたカリストーを、ヘーラーがアルテミスに猛獣として討つようにと説き伏せ殺させたとも、アルテミスが誓いを守らなかったことに怒り殺したともいわれ、ゼウスはカリストーの遺体の中から子供を取りだしマイアに預け、遺体を天にあげておおぐま座に変えた。

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ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『ディアナ(アルテミス)とカリストー』(1558年頃) スコットランド国立美術館所蔵。

また別伝(『変身物語』など)では、カリストーは熊にされた後も十数年間生き続けている。姿は熊であるため狩人たちからは獲物として狙われるが、心はもとの乙女のままであるため、他の熊たちも含めた野獣たちが怖くてならない、というみじめな思いを強いられた。その一方で彼女とゼウスの息子アルカスはマイア(一説ではリュカーオーン)の手によって立派に成人した。ある時アルカスが狩りを行っていたところ、牝熊にであい、これを射殺そうとした。この熊はアルカスの母カリストーであったため、ゼウスはそれを憐れんで、カリストーが射殺される前に二人を天にあげ、カリストをおおぐま座に、アルカスをこぐま座にした。アルカスはうしかい座アークトゥルスにされたという説もある。彼女をなお憎み続けるヘーラーは養父母の老海神オーケアヌスとテーテュースに頼み、この二つの星座が海に入って休むことができないようにさせたという。

一説によればアルカスの父はゼウスではなくパーンであるともされる。

系図

テンプレート:アルカスの系図

脚注

  1. パウサニアス、8巻35・8。
  2. 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.38a。

参考文献

  • パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
  • 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)

関連項目