査証
査証(さしょう)又はビザ(英: visa、仏: visa、露: Виза、西: visa、中: 签证/簽證)とは、国家が自国民以外に対して、その人物の所持する旅券が有効であり、かつその人物が入国しても差し支えないと示す証書である。多くの国では入国を保証するものではなく、入国許可(上陸許可)申請に必要な書類の一部となっている。大多数の国が同様の制度を運用しているが、同時に一定の条件内で査証免除が行われている場合が多い。
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概説
査証の主目的は、入国しようとする外国人が入国するにふさわしいかを事前判断する身元審査である。犯罪歴があるなど身元審査で不適格と判断された者には査証が発行されず、その場合原則として入国は許可されない。また査証は、事前段階における入国許可申請証明のあくまで一部であり、査証を持っていても入国を拒否されることがある。
査証は在留許可(ないしは滞在許可)と混同されがちだが、査証が入国申請を行うための要件の一つであるのに対し、在留許可は『入国するため、或いは入国後滞在を続けるための資格』である。また、旅券は『国籍証明』と考えると理解しやすい。混同の原因として、一般的に査証の項目に滞在目的・滞在資格が併記されていたり、また一部の国では査証と在留許可が同時に与えられることが挙げられる。最終的な在留・入国許可は、国境検問所や港や空港にいる入国審査官の裁量で決定する。
査証の審査や発行
査証は外国人が入国する前に行われるため、その審査や発行は、原則在外公館(大使館・領事館など)で行われる。一部の国家を除き、旅行対象国が世界中に持つすべての在外公館において受給が可能である。遠く離れた国家にある在外公館よりも、旅行者の交流が多い隣国にある在外公館の方が、申請を受けてから発給されるまでの所要日数が短いことが多く、発行手数料も安いことが多い。そのため、旅行中に隣国の在外公館を訪れて発給申請できる。
国家によっては、国境や空港の入国審査所(付近を含む)において即時発行が可能なことがある。ただし、この場合も即時発行できる地点が限られていることが多い。国家によっては、旅行者の居住国あるいは国籍国の在外公館でのみ査証を発行する国もある。
また、滞在目的に応じて審査基準が異なり、数日間の観光・通過滞在目的ならば比較的発行されやすいが、留学・就労・長期滞在目的での申請の場合、その受け入れ保証(入学許可、申請者の学歴、ないし雇用企業の招聘状など)がなければ発行されないことが多い。背景には、外国人労働者の安易な導入は、自国民の雇用に悪影響を与えるという発想がある。
通常、査証の発行には手数料が必要である。基本的には互恵主義による。手数料は発行国や査証の種類、国籍によって違い、また同一国であっても発行場所によって違うことも多い。国家によっては、手数料のほかに特別料金を上乗せして支払うことにより、通常よりも短い日数で、あるいは即時発行できることもある。反対にロシア連邦等は、早期に申請すれば手数料を軽減、あるいは無料にするところや、全て無料で行う国家もある。
査証の発行には旅券・申請書のほか、証明写真が必要であることが多く、その他にも国家や旅券の種類によって申請に必要なものが異なることがある。同一国の同一種類の旅券であっても、発行場所によって申請に必要なものが異なることさえある。
近年では、査証受付業務を大使館外の民間企業にアウトソーシングしている例もある(これらは「ビザ申請センター」を名乗ることが多い)。この場合、査証手数料のほかに、別途手数料が徴収される。ただし、ビザ申請センターでは受付、受領業務のみを行い、実際の審査、発行業務は従来通り大使館が行う。
査証発行の格差
査証免除
一部の国には、観光目的で尚且つ短期間の滞在あれば、査証の発行を受けずに入国することが可能である。ただし、入国審査に於いて査証が無くとも良いという意味であり、入国申請や在留許可は別に必要である。また査証免除を認めている国の間では、旅行代理店による代理申請を認めている場合もある。
ビザ無しで渡航できる国の数は、所持するパスポートの発行国により異なる。コンサルティング会社のヘンリー・アンド・パートナーズは国際航空運送協会(IATA)の資料に基づき2008年以降、ビザ無し渡航できる国数を示す「パスポート指数」を公表している。2018年4月時点では、日本とシンガポールが首位(180カ国)で、ドイツ(179カ国)が続く。朝鮮民主主義人民共和国は40カ国[1]で、国の経済水準や治安、対外政策、国内体制による差が大きい。
- 滞在国の永住権を持っている場合。この場合は、母国の旅券と永住権を付与された国の許可証等を提示することになり、出入国管理上はそれぞれの国への“帰国”。
- 欧州連合(EU)加盟国(未加盟国のスイスやノルウェーも含む)の国民は、査証申請をせずに別の欧州連合加盟国に居住し、就労することが可能である。
- 当該国間で密接な友好関係がある場合。当該国間で渡航者が非常に多く、大きなトラブルを起こさず、商業上重要な関係を持っている場合、短期の渡航については、相互主義により査証取得が免除される。
- 滞在国が特定国に対して、観光客や投資の誘致を目的とした、一方的に優遇政策を取っている場合。条件によっては更に、第三国行きの航空券を入国審査時に所持している場合。
- 特殊な政治的理由に起因する場合。
- 例 : 日本の北方領土旧住民に対するロシア連邦(旧ソビエト社会主義共和国連邦)当局の査証免除、いわゆる「ビザなし渡航」。北方領土への渡航に際し、ロシア連邦政府より査証の交付を受けたならば、当該土地がロシア連邦の領土であることを認めたものと解釈されるため。
- 国際博覧会、FIFAワールドカップ、オリンピックなどといった、世界的な大イベントが開催される場合、開催期間中に限り査証なしでの入国を可能とする措置が取られることが多い。この場合は母国の選手証や選手団員証・職員証、アクレディテーションカード(資格認定証)が、査証として扱われる。
- 日本が中華人民共和国からの30日以内滞在予定の修学旅行生(中国国内の小中高校に相当する学校の生徒が対象)のみ短期滞在査証を免除している例など、特別な条件の団体のみ査証免除を行う場合がある。
- 地域を限定して、その地域(周辺地域も含む)にのみ滞在する場合、査証免除にしている場合がある。
査証が発行されない場合
特定の国家が、特定の国家に対して査証の発行を行わない、またはその条件が厳しいことがある。
- 敵対している国家に対しての場合
- 政治上の理由(情報統制や国家体制維持など)による場合
- 宗教上の理由による場合
- 犯罪抑止対策の理由による場合
国家元首
外国の国家元首は、国際慣例によりパスポートなしで入国を認めるため、査証も不要。
査証の種類
日本
在留資格については報道や教育、スポーツ関係など個々のケース毎に細かく規定されているため、詳細は後述の外務省サイトを参照のこと。
- 就労が認められる在留資格
- 外交査証
- 公用査証
- 就業査証
- 留学査証(学業が本来の目的なので、1週間28時間迄の労働制限時間が付く)
- 就労が認められない在留資格
- 観光査証
- 一般査証
- 短期滞在査証
- 通過査証
- 医療滞在査証
- 就労が認められるかどうかは個々の許可内容によるもの
- 特定査証
アメリカ合衆国
- 非移民査証
- 外交 (A)
- 短期商用 (B-1)
- 短期観光 (B-2)
- 通過 (C)
- 乗務員 (D)
- 商用駐在員・貿易家 (E-1)
- 商用駐在員・投資家 (E-2)
- 商用駐在員・オーストラリア人専用 (E-3)
- 学生 (F-1)
- 国際機関関係者 (G)
- 短期就労者・専門職 (H-1B)
- 短期就労者 (H-2B)
- 研修 (H-3)
- 報道関係者 (I)
- 交流訪問者 (J-1)
- 婚約者 (K)
- 系列企業内転勤・管理職 (L-1A)
- 系列企業内転勤・専門職 (L-1B)
- 専門学校生 (M-1)
- 特別移民関係者 (N)
- 卓越能力 (O-1)
- 運動競技者・芸能家 (P)
- 認定プログラム参加者 (Q)
- 宗教活動家 (R)
- 奴隷貿易被害者 (T)
- 移民査証(永住権を参照)
- 家族呼び寄せ
- 雇用
- 移民多様化プログラム(永住権抽籤)
査証の形式
押印・別紙・貼付と、データ化がある。
押印
旅券の査証欄に押印する形式。観光や通過などの種類ごとに違うスタンプを用意している場合と、あらかじめスタンプに複数記されている種類の欄をレ印でチェックする方法などがある。有効日数や発効日などは、手書きの場合や回転日付印を使用する場合などがある。偽造防止のため、領事やその代理人・領事館員などの署名などが記されることも多いものの、それでも偽造は防ぎにくいため、近年は減少傾向にある。無効となった場合は「VOID」とスタンプが押される。
別紙
旅券冊子とは全く別の「スリップ」などと称される紙で、発給する形式。入国時に半券を回収し、出国時に残りを回収する形式が多い。査証に、旅券所持人の顔写真を貼付することもある。
現在では、朝鮮民主主義人民共和国が査証発行の際、外交関係のない日本国籍や韓国国籍の者(大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国は、相互に相手を国家として認めていないので、第三国で申請する事になる)などが、査証を申請した場合に行われている。出入国スタンプの押印も査証に行われ、出国時に査証は回収されるため、パスポートには朝鮮民主主義人民共和国出入記録が一切残らない(朝鮮民主主義人民共和国と外交関係のある国の国民が申請した場合、シール形式の査証がパスポートに貼り付けされ、出入国スタンプの押印も行われる)。中東では、イスラエルと対立関係にあるアラブのイスラム圏諸国では、互いに入国履歴があるパスポートでは入国ができなくなる場合があるため、上述した様な旅券の二重取得という方法の他に、別紙が利用されることも多い。
かつてソビエト連邦が採用し、ロシア連邦でもしばらく引き継がれた例があるが、近年は使用例が少ない。出国時にすべて回収されるため、旅券に査証の記録が残ることがない。ただし、出入国スタンプの押印は、旅券にも行われる場合がある。
また、中華民国旅券所持者に対して、中華人民共和国への配慮から、別紙にて発給し、出入国スタンプもそこに押印している国がある(マレーシア等)。
貼付
旅券の査証欄に、シール形式の査証を貼付する方式。他人の旅券に貼り替えられる悪用を防ぐために、シールとページに跨る様に署名や契印を押印することや、シール面に本来の被交付者の証明写真、氏名を記すことなどが行われる。近年は印刷技術の進歩により、偽造防止のため、紙幣同様の印刷が使用されることが多く、ホログラム等が施されることもある。有効日数や発効日などは、近年はパーソナルコンピュータ等による印字が普及したため、あらかじめ印字されている形式が多い。無効となった場合は「VOID」とスタンプが押される。
電子データ
インターネットの発達により、生まれた形式。インターネットなどで提出された査証申請により、査証をサーバ上に保存し、入国時などの必要な時に、端末操作により取り出す。この形式も、旅券には記録が残らない。
脚注
- ↑ 【Econo Graphics】ビザなし渡航国数、日本がシンガポール首位に『日経ヴェリタス』2018年4月29日(50項)。
- ↑ 海外安全基礎データ リビア 外務省 2013年8月10日閲覧