二十進法
二十進法(にじっしんほう、 vigesimal)は、20 を底(てい)とし、底およびその冪を基準にして数を表す方法である。
記数法
二十進記数法は、二十を底とする位取り記数法である。二十進法の位取りでは、通常では 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, A, B, C, D, E, F, G, H, I, J の計二十個の数字を用い、十から十九までを A から J までに充てて、二十を 10 、二十一を 11 と表記する。数字の意味する数は、左に一桁ずれると 20倍になり、右に一桁ずれると 1/20 になる。例えば、(15)20 という表記において、左の「1」は二十を表し、右の「5」は五を表し、合わせて二十五を意味する。I と 1 は紛らわしいので、十八や十九を表すのに I, J の代わりに J, K を用いることもある。
本節では慣用に従い、通常のアラビア数字は十進数とし、二十進記数法の表記は括弧および下付の 20 で表す。必要に応じて、十進記数法の表記を括弧および下付の 10 で表す。二十進記数法で表された数を二十進数と呼ぶ。
二十進表記では、(20)20 は 40 (2×201) を、(DA)20 は 270 (13×201 + 10×200) を、(100)20 は 400 (1×202) を、(22F)20 は 855 (2×202 + 2×201 + 15×200) を、(1000)20 は 8000 (1×203) を意味する。
マヤ文明では、二十進法の数詞に合わせて二十進記数法が用いられていた。マヤの数詞は内部に五進法を含んでおり、数字にもそれが反映されている。貝殻で零、点で一、横棒で五を表し、二十に至ると桁を繰り上げる。二十は貝殻の上に点一個で表記される。例えば、三十八は、上に「一」、下に「十八」で示される。
小数
桁が一つ動く度に数が20倍変わるため、二十進法の (0.1)20 は 1/20 (1×20-1) を、(0.5)20 は 5/20 (5×20-1) を、(0.01)20 は 1/400 (1×20-2) を、(0.0C)20 は 12/400 (12×20-2) を、(0.001)20 は 1/8000 (1×20-3) を意味する。
小数の (22.F)20 は「855/20」を意味し、小数の (2.2F)20は「855/400」という意味になる。従って、十進数の 42.75 は二十進数では (22.F)20 となり、十進数の 2.1375 は二十進数では (2.2F)20となる。前者は 42 + 75/100 (= 3/4) と 42 + 15/20 (= 3/4) が同値となり、後者は 2 + 1375/10000 (= 1375/104 = 11/80) と 2 + 55/400 (= 55/202 = 11/80) が同値になるからである。
- (22F)20 = 2×202 + 2×201 + 15×200 = (855)10
- (22.F)20 = 2×201 + 2×200 + 15×20-1 = 42 + 15/20 = 855/20 = (42.75)10
- (2.2F)20 = 2×200 + 2×20-1 + 15×20-2 = 2 + 40/400 + 15/400 = 855/400 = (2.1375)10
同じく、(25)20 は (45)10 を意味し、(2.5)20 は「45/20」、即ち (2.25)10 という意味になる。
- (250)20 = 2×202 + 5×201 = (900)10
- (25)20 = 2×201 + 5×200 = (45)10
- (2.5)20 = 2×200 + 5×20-1 = 45/20 = (2.25)10
- (0.25)20 = 2×20-1 + 5×20-2 = 40/400 + 5/400 = 45/400 = (0.1125)10
二十進数の (22.F)20÷(J)20 の商は (2.5)20 となるが、十進数では以下に相当する。
- (数式A)二十進数:(22.F)20÷(J)20 = (2.5)20
- (数式A)十進数:42.75÷19 = 2.25
- (数式B)二十進数:(22F)20÷(J)20 = (25)20
- (数式B)十進数:855÷19 = 45
命数法
二十進命数法は、20 を底とする命数法である。
数詞
自然言語で二十進命数法の数詞を持つものは比較的多く、また世界中に散らばっている。十進法が手の指の数に由来するのと同じように、二十進法は手足の指の数に由来する。二十進法の数詞では、1 から 20 まで独立の単語が 20 個あることはなく、必ず内部に五進法または十進法を含んでいる。
最も体系的な二十進法はメソアメリカに見られる。例えばマヤ語族のツォツィル語 (Tzotzil)やユト・アステカ語族のナワトル語[1]などがある。サポテカ文字、ラ・モハラの文字、マヤ文字などの記数法も上記のように点と棒を使った二十進法表記であった。マヤの長期暦では20 日をウィナルといい、1年弱の360日からなる周期(トゥン)は20日×18から構成される。トゥンより上の単位も二十進法に則し、20トゥンをカトゥン、400トゥン (= 202トゥン) をバクトゥンと呼んだ。
アジアではアイヌ語、ブルシャスキ語などがある。アイヌ語では 40 を tu-hotnep (2×20)、100 を asikne-hotnep (5×20) という。減算も一般的で、90 を wanpe easikne-hotnep (あと 10 で 5×20) と呼ぶ。
ヨーロッパでは、バスク語[2]、ケルト語派、フランス語、デンマーク語、アルバニア語、グルジア語などに二十進法が残っている。どれも、202 を表す数詞がなく、100 を表す数詞があるので、完全な二十進法ではなくなった。フランス語の数詞は 30 から 59 までは十進法だが、1 から 19 まで、そして 60 からは 20 進法であって、80 を quatre-vingts すなわち 4×20 と表現し、90 を quatre-vingt-dix すなわち 4×20 + 10 と表現する。ただし、スイスとベルギーのフランス語は十進法である(フランス語の数詞を参照)。デンマーク語では 60 を tres というが、これは tresindstyve すなわち 3×20 の略である。英語では、20 を表す古風な語 score があり、threescore (3×20)、fourscore (4×20) などの複合語がある。ゲティスバーグ演説の先頭が"Four score and seven years ago"で始まっている。
インド・ヨーロッパ語族には 11 から 19 までと 21 以上とで異なる語構成を持つ言語が少なくない。例えば英語では fifteen (5 + 10) に対して twenty-five (20 + 5)、ドイツ語では fünfzehn (5 + 10) に対して fünfundzwanzig (5 と 20) と呼ぶ。
ニューギニア島は最も言語密度の高い地域として知られ、エスノローグには 1071 個の言語が記されている[3][4]。このため命数法も多様で、アランブラック語 (Alamblak) など、二十進法の言語が存在する。
また、20 を意味する語が他の 10 の倍数と違う語構成を持つ言語がある。例えば日本語では 30 (みそ)から 90 (ここのそ)までは接尾辞「そ」が付くが、20 は「はた」と呼ぶ。20 歳、30 歳はそれぞれ「はたち」、「みそじ」である。上海語でも 30 以上は普通話と同じく「三十」から「九十」を用いるが、20 だけは「廿」を用いる。
以下に、ナワトル語とバスク語の数詞を示す。前者は五進法、後者は十進法を内部に含んでいる。
数 | ナワトル語 | バスク語 |
---|---|---|
1 | cë | bat |
2 | öme | bi |
3 | ëyi | hiru |
4 | nähui | lau |
5 | mäcuïlli | bost |
6 | chicuacë | sei |
7 | chicöme | zazpi |
8 | chicuëyi | zortzi |
9 | chiucnähui | bederatzi |
10 | mahtlactli | hamar |
11 | mahtlactli-on-cë | hamaika |
12 | mahtlactli-om-öme | hamabi |
13 | mahtlactli-om-ëyi | hamairu |
14 | mahtlactli-on-nähui | hamalau |
15 | caxtölli | hamabost |
16 | caxtölli-on-cë | hamasei |
17 | caxtölli-om-öme | hamazazpi |
18 | caxtölli-om-ëyi | hemezortzi |
19 | caxtölli-on-nähui | hemeretzi |
20 | cem-pöhualli | hogei |
21 | cem-pöhualli-on-cë | hogei ta bat |
40 | öm-pöhualli | berrogei |
単位系
二十進法の単位は散発的に使われる。イギリスでは古い通貨単位の 1 ポンドは 20 シリングであった。この他、ヤード・ポンド法において、1 トンは 20 ハンドレッドウェイト、1 トロイオンスは 20 ペニーウェイト、1 パイントは 20 液量オンスである。
加算表および乗算表
ここでは1810=J, 1910=Kとする。
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参考文献
- ↑ Jordan, David K., Inadequate Nahuatl Reference Grammar . 2007閲覧.
- ↑ Center for Basque Studies, ed., Basque Language Lesson 3, University of Nevada, Reno . 2007閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Languages of Papua New Guinea”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.), Dallas, Tex.: SIL International . 2008閲覧.
- ↑ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Languages of Indonesia (Papua)”, Ethnologue: Languages of the World (15 ed.), Dallas, Tex.: SIL International, オリジナルの2009年1月6日時点によるアーカイブ。 . 2008閲覧.