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(関連項目: 「アルゼンチン航空386便食中毒事件」を追加。「機内食が原因で、コレラによる食中毒が発生した」という事件。)
 
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{{Otheruses|感染症|[[カレリア]]の歴史的部族|コレラ族}}
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[[FIle:Cholera bacteria SEM.jpg|thumb|left|コレラ菌]]
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  | Name    =コレラ
 
  | Name    =コレラ
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| Caption    =コレラ患者。脱水により手は枯れている。
 
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'''コレラ'''(Cholera、'''虎列剌''')は、[[コレラ菌]](''Vibrio cholerae'')を病原体とする経口[[感染症]]の一つ。日本では「[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律]]」(感染症新法)の指定感染症である(2006年(平成18年)12月8日公布の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」により二類感染症から三類感染症に変更<ref>[http://www.pref.aomori.lg.jp/welfare/health/ao_kansen.html 感染症のページ(青森県)]</ref>)。日本ではコレラ菌のうちO1、O139血清型を原因とするものを行政的にコレラとして扱う。治療しなければ患者は数時間のうちに死亡する場合もある<ref name=whofact>{{Cite report|publisher=WHO |title=Fact sheet - Cholera |date=2017-10  |url=http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs107/en/ }}</ref>。
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'''コレラ'''(Cholera、'''虎列剌''')
 
 
<!-- Prevention and treatment -->
 
予防には、衛生改善と清潔な水へのアクセスが必要である<ref name=Lancet2012>{{cite journal|last1=Harris|first1=JB|last2=LaRocque|first2=RC|last3=Qadri|first3=F|last4=Ryan|first4=ET|last5=Calderwood|first5=SB|title=Cholera.|journal=Lancet|date=30 June 2012|volume=379|issue=9835|pages=2466–76|pmid=22748592|doi=10.1016/s0140-6736(12)60436-x|pmc=3761070}}</ref>。 経口コレラ[[ワクチン]]は、投与するとおよそ6か月効果が続き<ref name=WHO2010>{{cite journal|title=Cholera vaccines: WHO position paper|journal=Weekly epidemiological record|date=March 26, 2010|volume=85|issue=13|pages=117–128|pmid=20349546|url=http://www.who.int/wer/2010/wer8513.pdf|deadurl=no|archiveurl=https://web.archive.org/web/20150413020218/http://www.who.int/wer/2010/wer8513.pdf|archivedate=April 13, 2015|df=}}</ref>、またその他一部の[[大腸菌]]による下痢も予防できる<ref name=WHO2010/>。主な治療法は経口水分補給であり、加糖加塩の液体により電解質を補充する<ref name=WHO2010/>。補充には米食ベースの選択が好まれる<ref name=WHO2010/>。児童には[[亜鉛]]サプリメントも推奨される<ref name=CDC2014Zinc>{{cite web|title=Cholera – Vibrio cholerae infection Treatment|url=https://www.cdc.gov/cholera/treatment/index.html|publisher=[[Centers for Disease Control and Prevention]]|accessdate=17 March 2015|date=November 7, 2014|deadurl=no|archiveurl=https://web.archive.org/web/20150311042338/http://www.cdc.gov/cholera/treatment/index.html|archivedate=11 March 2015|df=}}</ref>。重症例では静脈輸液(乳酸リンゲル液など)が求められ、また抗生物質も効果がありうる<ref name=WHO2010/>。抗生物質の感受性試験は、治療選択の支援となりえる<ref name=CDC2015Pro>{{cite web|title=Cholera – Vibrio cholerae infection Information for Public Health & Medical Professionals|url=https://www.cdc.gov/cholera/healthprofessionals.html|publisher=[[Centers for Disease Control and Prevention]]|accessdate=17 March 2015|date=January 6, 2015|deadurl=no|archiveurl=https://web.archive.org/web/20150320052724/http://www.cdc.gov/cholera/healthprofessionals.html|archivedate=20 March 2015|df=}}</ref>。
 
 
 
<!-- Epidemiology and society -->
 
全世界の患者数は毎年3-5百万人であり、年間28,800–130,000人の死者を出している<ref name=WHO2010/><ref name=GBD2015De>{{cite journal|last1=GBD 2015 Mortality and Causes of Death|first1=Collaborators.|title=Global, regional, and national life expectancy, all-cause mortality, and cause-specific mortality for 249 causes of death, 1980–2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015.|journal=Lancet|date=8 October 2016|volume=388|issue=10053|pages=1459–1544|pmid=27733281|doi=10.1016/s0140-6736(16)31012-1|pmc=5388903}}</ref>。[[パンデミック]]には分類されておらず、先進国ではまれな病気である<ref name=WHO2010/>。最も影響を受けるのは児童である<ref name=WHO2010/><ref>{{cite web|title=Cholera – Vibrio cholerae infection|url=https://www.cdc.gov/cholera/index.html|publisher=[[Centers for Disease Control and Prevention]]|accessdate=17 March 2015|date=October 27, 2014|deadurl=no|archiveurl=https://web.archive.org/web/20150317031930/http://www.cdc.gov/cholera/index.html|archivedate=17 March 2015|df=}}</ref>。コレラはアウトブレイクを起こす病気でもあるが、特定の地域では一般的な病気であり<ref name=WHO2010/>、現在もリスクがある地域は、アフリカ、東南アジアである<ref name=WHO2010/>。 死亡リスクはたいてい5%以下であるが、医療アクセスに乏しい地域では50%ほどに高まる<ref name=WHO2010/>。歴史的な記録は、紀元前5世紀の[[サンスクリット]]にまで確認される<ref name=Lancet2012/>。
 
 
 
== 原因 ==
 
[[FIle:Cholera bacteria SEM.jpg|thumb|left|コレラ菌]]
 
[[コレラ毒素]]を産生するコレラ菌によって発症する。コレラ菌のffなどでO1型の大部分とO139型のごく一部、その他コレラ毒素遺伝子を持つ物がこれに相当する。
 
 
 
コレラ菌は、コンマ状の形態の[[桿菌]]で、[[鞭毛]]により活発に[[運動]]する。従来、[[アジア型]](古典型)と[[エルトール型]]が知られていたが、[[1992年]]に新たな菌であるO139が発見された。強い感染力があり、特にアジア型は高い死亡率を示し、[[ペスト]]に匹敵する危険な感染症であるが、ペストと異なり、自然界ではヒトを除いて感染しない。流行時以外にコレラ菌がどこで生存しているかについては諸説あり、[[海水]]中、人体に[[不顕性感染]]の形で存在する、あるいは[[甲殻類]]への[[寄生]]が考えられる。
 
 
 
最も重要な感染源は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物である。[[消化管]]内に入ったコレラ菌は、[[胃]]の中で多くが胃液のため死滅するが、少数は[[小腸]]に到達し、ここで爆発的に増殖してコレラ[[毒素]]を産生する。コレラ菌自体は小腸の上皮部分に定着するだけで、[[細胞]]内には全く侵入しない。しかしコレラ毒素は上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と[[電解質]]が大量に流出し、いわゆる「'''米のとぎ汁様'''」の猛烈な[[下痢]]と[[嘔吐]]を起こす。
 
 
 
== 症状 ==
 
[[潜伏期間]]は5日以内。普通は2~3日だが、早ければ数時間である。症状が非常に軽く、1日数回の下痢で数日で回復する場合もあるが、通常、突然腹がごろごろ鳴り、水のような下痢が1日20~30回も起こる。下痢便には塩分が混じる。また、「米のとぎ汁」のような白い便を排泄することもある。腹痛・発熱はなく、むしろ[[低体温]]となり、34度台にも下がる。急速に脱水症状が進み、血行障害、[[血圧]]低下、[[頻脈]]、[[筋肉]]の痙攣、虚脱を起こし、死亡する。極度の脱水によって[[皮膚]]は乾燥、しわが寄り「[[洗濯婦の手]](指先のしわ)」、「[[コレラ顔貌]]」と呼ばれる特有の老人様の顔になる。
 
 
 
治療を行わなかった場合の死亡率はアジア型では75~80パーセントに及ぶが、エルトール型では10パーセント以下である。胃切除がある場合は胃酸による殺菌効果が無いため菌が小腸に達しやすく危険である。現在は適切な対処を行なえば死亡率は1~2パーセントである。
 
 
 
== 治療方法 ==
 
=== 水分の補給 ===
 
[[Image:Cholera rehydration nurses.jpg|thumb|経口補液を受けるコレラ患者]]
 
コレラにおいて直接の死亡原因になるのは、大量の下痢と嘔吐による水と[[電解質]]の損失によっておきる[[脱水症状]]である。このため、失われた水と電解質を補給することでコレラによる死亡はきわめて効果的に抑制できる。
 
 
 
コレラに対し'''経口補液'''(Oral rehydration)と呼ばれる方法によって治療する国もある。経口補液とは、[[経口補水塩]](ORS, Oral rehydration solution)と呼ばれる電解質液(水1リットルに対して、[[ブドウ糖]] 20g、[[塩化ナトリウム]]3.5g、[[炭酸水素ナトリウム]]2.5g、[[塩化カリウム]]1.5gの割合で溶解したもの)を与え、下痢などで体外に排泄した水分を補給するために飲ませるものである。古い時代では現在の様な経口補液が確立されておらず、専ら[[食塩]]を溶かした塩水を飲用させる事でこれに代えた。蘭方医学に基づいた[[西洋医学]]書に記されていた塩水飲用法を用いて治療を行った事で、死亡率を著しく低下させる事に成功した事例も残っている([[海水]]を薄めて与えるなど)。[[明治]]時代の日本では、[[ラムネ (清涼飲料)|ラムネ]]が症状の緩和に用いられていた。
 
しかし、現在ではORS治療は先進国ではまったくおこなわれない。コレラ罹患時には脱水のみならず消化管を休めることが大切なので、先進国医療では絶食・水分経口摂取禁が基本である。米国ではコレラに対しORSで治療し患者を死亡させた医師が敗訴している。患者が意識を失う重症例では、点滴による[[輸液]]で水分と電解質の補給を行う。重症コレラは無治療では死亡率が80パーセントという疫学調査もある。これらの補液や輸液による治療はコレラ菌そのものの排除には直接つながらず、患者からは大量のコレラ菌が排出されつづけるが、時間の経過によって患者がコレラ菌に対する免疫を獲得すると症状も緩解し、コレラ菌毒素の排出も収まる。
 
 
 
=== 治療薬 ===
 
[[抗生物質]]による治療は脱水症状の改善とは無関係である。Vibrio choleraeの菌体数を減らし、毒素産生を減らす。点滴治療と組み合わせてつかう。[[テトラサイクリン系抗生物質]]や[[クロラムフェニコール]]などがこの目的で利用される。[[テトラサイクリン系抗生物質]]及び[[クロラムフェニコール]]に対するVibrio choleraeの耐性株は分子生物学的にはまだ一株も確認されていない。
 
 
 
== 予防 ==
 
[[経口感染]]であるため、飲食に気をつける。最大の感染源は患者の[[排泄物]]だが、通常の接触では人から人への感染の危険性は低い。不衛生な食材や調理環境で危険性が高く、流行地域では[[アイスクリーム]]や生もの([[サラダ]]や[[果物]]、十分加熱しない[[魚介類]]など)、生水や氷(凍った生水)は避け、また体調維持に努める。
 
 
 
=== ワクチン ===
 
[[コレラワクチン|ワクチン]]は現在2種類が存在する。コレラが発生している、または発生する地域への渡航には経口ワクチン接種が賢明である。経口ワクチンは国内未承認であるが、[[個人輸入]]に対応している[[医療機関]]で申し込むことにより接種可能である。また、現地の薬局で販売されている事もある。
 
* [[注射]]ワクチン: 旧来型のフェノールによる全菌体死菌ワクチン
 
: [[1960年]]頃実用化された[[ワクチン#不活化ワクチン|不活化ワクチン]]で、アメリカ、日本などで使用されている。5~7日間隔で2回皮下接種する。免疫獲得率50パーセント、有効期間6ヶ月と小さい上に14~40パーセントに副反応が見られ、また近年はそれほど致命的でないエルトール型が流行の大半である事などから[[2001年]]にWHOが使用中止を勧告し、現在、販売はされていない。
 
* [[経口]]ワクチン(OCVs): 不活化ワクチンと、[[ワクチン#生ワクチン|生ワクチン]]がある。
 
** WC/rBS: 商品名Dukoral®で[[1990年]]頃[[スウェーデン]]で実用化され、EUやカナダ、南アジア、中南米など各国で認可されている。接種後4ヶ月は[[旅行者下痢]]症の責任菌のひとつである、[[大腸菌#病原性大腸菌|病原性大腸菌]]139型に対する予防効果も実証されている。
 
*: 接種は、1~6週間隔で2回服用する。コレラに対しては2~3年に一度の追加接種、病原性大腸菌139型に対しては3~4ヶ月毎に追加接種を受けることができる。副反応も少なく、有効率は85~97パーセントと報告され、有効期間も2~3年である。
 
*: 不活化コレラ菌と[[リコンビナント]]([[遺伝子]]組み替え体による製法)による[[コレラ菌#コレラ毒素|コレラ毒素]]のBサブユニット(毒素を構成する2つのタンパク質のうち、毒性がない方)を組み合わせたもの。ベトナムではこれを抜いた安価($0.1)なワクチンが使用されている。イナバとオガワ株の熱処理抗原、エルトール(イナバ)とオガワ株のホルマリン処理抗原の4抗原を含有する。病原性大腸菌139型に効果があるのは、毒素原性大腸菌(ETEC)の毒素(易熱性エンテロトキシン)がコレラ菌のそれと共通点が多いことによる。
 
** CVD 103-HgR:商品名Orochol®またはMutacol®で[[1995年]]頃発売された。認可国や有効率・有効期間はWC/rBSと同様。接種は1回で済むが、生ワクチンであるため管理が重要。Aサブユニット生成能力を無くしたイナバ株による、リコンビナント弱毒変異株生ワクチン。現在、製造・販売は中止されている。
 
**そのほか、ベトナムなどで製造されているものもあるが、WHO pre-qualificationはまだ取得できていない。
 
 
 
日本では、東京大学医科学研究所の研究チームが米に遺伝子組換え技術を用いてコレラ毒素B鎖を発現させたコレラワクチン米を開発しており、常温保存可能な経口ワクチンとして臨床応用が期待されている。また、国内ではガンマ線照射による照射ワクチンの研究も行われている。熱や薬品による不活化と違い運動性を確保できる点が特徴で、腸管粘膜での抗体産生を促す力が強いという。
 
 
 
*制酸剤服用者、胃の摘出術を受けた者は腸管感染症のリスクが高まるので、腸チフスワクチンやコレラ・渡航者下痢ワクチン(Dukoral®)の接種がのぞましい。
 
 
 
== コレラの歴史 ==
 
[[Image:Cholera.jpg|thumb|コレラを残忍な死神として描いている。]]
 
[[Image:Cholerabaracke-HH-1892.gif|thumb|コレラ病棟([[1892年]] [[ハンブルク]]]]
 
コレラの感染力は非常に強く、これまでに7回の世界的流行(コレラ・[[パンデミック]])が発生し、2006年現在も第7期流行が継続している。2009年1月29日現在、[[ジンバブエ]]で流行中のコレラの死者が3000人に達し、なお増え続けている。
 
 
 
アジア型は古い時代から存在していたにもかかわらず、不思議なことに、世界的な流行(パンデミック)を示したのは[[19世紀]]に入ってからである。コレラの原発地は[[インド]]の[[ガンジス川]]下流の[[ベンガル地方|ベンガル]]から[[バングラデシュ]]にかけての地方と考えられる。最も古いコレラの記録は[[紀元前300年]]頃のものである。その後は、[[7世紀]]の[[中国]]、[[17世紀]]の[[ジャワ]]にコレラと思われる悪疫の記録があるが、世界的大流行は[[1817年]]に始まる。この年[[コルカタ|カルカッタ]]に起こった流行はアジア全域から[[アフリカ]]に達し、[[1823年]]まで続いた。その一部は日本にも及んでいる。[[1826年]]から[[1837年]]までの大流行は、アジア・アフリカのみならず[[ヨーロッパ]]と南北[[アメリカ合衆国|アメリカ]]にも広がり、全世界的規模となった。以降、[[1840年]]から[[1860年]]、[[1863年]]から[[1879年]]、[[1881年]]から[[1896年]]、[[1899年]]から[[1923年]]と、計6回にわたるアジア型の大流行があった。しかし[[1884年]]には[[ドイツ]]の[[細菌学]]者[[ロベルト・コッホ]]によってコレラ菌が発見され、[[医学]]の発展、防疫体制の強化などと共に、アジア型コレラの世界的流行は起こらなくなった。
 
 
 
だがアジア南部ではコレラが常在し、なお流行が繰り返され、中国では[[1909年]]、[[1919年]]、[[1932年]]と大流行があり、またインドでは[[1950年代]]まで持ち越し、いずれも万人単位の死者を出すほどであった。一方、エルトール型コレラは[[1906年]]に[[シナイ半島]]のエルトールで発見された。この流行は[[1961年]]から始まり、[[インドネシア]]を発端に、[[開発途上国|発展途上国]]を中心に世界的な広がりを見せており、[[1991年]]には[[ペルー]]で大流行<ref>ペルーの大流行は、水道水の[[塩素消毒]]中止が関係していると考えられている(「{{PDFlink|[http://www.oita-nhs.ac.jp/journal/PDF/1_2/1_2_9.pdf  環境リスクをどう読むか]」甲斐倫明 大分県立看護科学大学 人間科学講座 「大分看護化学研究」1(2), 47-48(2000)}}</ref>が発生したほか、先進諸国でも散発的な発生が見られる。[[1992年]]に発見されたO139菌はインドとバングラデシュで流行しているが、世界規模の拡大は阻止されている。
 
 
 
[[ハイチ]]では、[[ハイチ地震 (2010年)]]以降、突然、コレラが流行して1万人以上が死亡した。2016年12月1日、国連は地震後に支援にあたっていた[[ネパール]]の[[PKO|平和維持活動部隊]]がコレラを持ち込んだことを認め謝罪する声明を出している<ref>[http://www.cnn.co.jp/world/35093127.html?tag=top;topStories ハイチでのコレラ流行、国連が責任認め謝罪]CNN(2016年12月2日)</ref>。 ([[ハイチのコレラ流行]])
 
 
 
2017年、[[モザンビーク]]では、3年連続でコレラの流行が深刻化なものとなった。2017年1月から3月の間に1,222人が感染、2人が死亡している<ref>{{Cite news|url=http://www.afpbb.com/articles/-/3121512 |title=モザンビークでコレラ流行、1222人感染 |newspaper=AFP |date=2017-03-15}}</ref>。
 
 
 
2017年、[[イエメン]]では、政権側と[[イスラム教]][[シーア派]]武装組織の[[フーシ]]による内乱が長期化し、国内の衛生状態が極端に悪化。[[国際連合児童基金]]への報告によればコレラの流行が深刻化し、同年5月前後の1カ月間に約7万件の感染、うち600人近くが死亡している<ref>[http://www.asahi.com/articles/ASK635G7HK63UHBI01T.html イエメン、コレラの拡大止まらず、1カ月で600人死亡] 朝日新聞デジタル(2017年6月3日)2017年6月4日閲覧</ref>。
 
 
 
== 日本におけるコレラ ==
 
日本で初めてコレラが発生したのは、最初の世界的大流行が日本に及んだ[[1822年]]([[文政]]5年)のことである。感染ルートは[[朝鮮半島]]あるいは[[琉球]]からと考えられているが、その経路は明らかでない。[[九州]]から始まって[[東海道]]に及んだものの、[[箱根]]を越えて[[江戸]]に達することはなかった。2回目の世界的流行時には波及を免れたが、3回目は再び日本に達し、[[1858年]]([[安政]]5年)から3年にわたり大流行となった。
 
 
 
1858年(安政5年)における流行では九州から始まって東海道に及んだものの、箱根を越えて江戸に達することはなかったという文献が多い一方、江戸だけで10万人が死亡したという文献も存在するが、後者の死者数については過大で信憑性を欠くという説もある。[[1862年]]([[文久]]2年)には、残留していたコレラ菌により3回目の大流行が発生、56万人の患者が出た。この時も江戸には入らなかったという文献と、江戸だけでも7万3000人〜数十万人が死亡したという文献があるが、これも[[倒幕]]派が政情不安を煽って意図的に流した[[噂|流言蜚語]]だったと見る史家が多い。
 
 
 
1858年(安政5年)の流行は相次ぐ異国船来航と関係し、コレラは異国人がもたらした悪病であると信じられ、中部・関東では秩父の[[三峯神社]]や[[武蔵御嶽神社]]など[[ニホンオオカミ]]を眷属とし憑き物落としの霊験を持つ[[眷属]]信仰が興隆した。眷属信仰の高まりは憑き物落としの呪具として用いられる狼遺骸の需要を高め、捕殺の増加はニホンオオカミ絶滅の一因になったとも考えられている。
 
 
 
コレラが空気感染しないこと、そして[[江戸幕府|幕府]]は箱根その他の[[関所]]で旅人の動きを抑制することができたのが、江戸時代を通じてその防疫を容易にした最大の要因と考えられている。事実[[1868年]]([[明治]]元年)に幕府が倒れ、明治政府が箱根の関所を廃止すると、その後は2 - 3年間隔で数万人単位の患者を出す流行が続く。[[1879年]](明治12年)と[[1886年]](明治19年)には死者が10万人の大台を超え、日本各地に[[避病院]]の設置が進んだ。[[1890年]](明治23年)には日本に寄港していた[[オスマン帝国]]の軍艦・[[エルトゥールル号]]の海軍乗員の多くがコレラに見舞われた。また[[1895年]](明治28年)には軍隊内で流行し、死者4万人を記録している。
 
 
 
このような状況が改善され、患者数も1万人を切ってコレラの脅威が収まるのは1920年代になってからである。その後は、[[第二次世界大戦]]直後にアジア各地から復員兵や引揚者の帰国がはじまると、彼らによって持ち込まれたコレラで多数の死者を出した。
 
 
 
コレラ患者が出ると検疫のために40日間沖に留め置かれる。この船を俗に「コレラ船」と呼び、これは当時の[[俳句]]や[[川柳]]で夏の[[季語]]にもなるほどだった<ref>月明や沖にかゝれるコレラ船 [[日野草城]]「花氷」所収</ref>。1960年代頃まで使われていた<ref>「天声人語」朝日新聞2014年8月7日朝刊</ref>。
 
 
 
[[1977年]]([[昭和]]52年)には[[和歌山県]]下で感染経路不明のエルトール型の集団発生があった<ref>{{Cite web |url= http://www1.iph.pref.osaka.jp/ophl2/upload/109/277wakayama.html |title=『有田市を中心として発生したコレラ』(大阪府立公衆衛生研究所のサイト) |language=日本語 |accessdate=2009年8月9日 }}</ref>ほか、海外からの帰国者が発病する孤発例が時折見られる。[[1978年]](昭和53年)以降、[[神奈川県]]の[[鶴見川]]をはじめ、[[埼玉県]]や[[千葉県]]の河川水からコレラ菌が検出される事例はあったが、発病者は生じていないという説もある。しかし、実際には、海外渡航歴のない人の国内感染事例が年間: 数事例から十事例報告されている。これらの中には、コレラ毒素(CT)産生Vibrio cholerae O1汚染食品からの感染とされた事例がある<ref>{{Cite journal|和書|title=国内感染と考えられたコレラ菌O139初発事例-広島市|journal=IASR |volume=28 |pages=86-88 |date=2007-03 |url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/325/kj3251.html  }}</ref><ref>{{Cite journla|和書 |title=2004年12月~2005年9月の間に三重県で発生した死亡事例を含む4例のコレラ |journal=IASR|volume=27 |pages= 6-7 |date=2006-01|url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/311/dj3112.html }}</ref>。
 
 
 
また、[[2001年]]([[平成]]13年)6月~7月に、[[隅田川]]周辺に居住し、日常の煮炊きをはじめ生活用水として公園の[[身体障害者]]用トイレの水を利用し、隅田川で採れた[[カメ|亀]]を数人で調理して食用としていた[[路上生活者]]2名がコレラを発病し、2006年6月にも、路上生活者1名がコレラを発病した。いずれも、感染経路は明確でないが、国内で感染したと推測されている<ref>{{Cite journal |和書|author=大西健児 |author2=高橋華子 |author3=相楽裕子 |journal=IASR | |title=国内で感染したと推測されるコレラの3事例 |volume=27 |pages=273-274 |date=2006-10 |url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/320/kj3201.html}}</ref>。
 
 
 
[[2007年]](平成19年)[[6月1日]]から施行された改正感染症法においてコレラは三類感染症に分類された(事実上の格下げ)。この変更に伴って、検疫法の対象病原体から除外され、空港・港湾[[検疫所]]では病原コレラの検出そのものが行われなくなった。コレラ菌の感染症の統計は医師(医療機関)のみに公開されている。
 
 
 
== 名称 ==
 
コレラという名前は、[[ヒポクラテス]]が唱えた[[四体液説]]の中の一要素である、黄色[[胆汁]]を意味するkholに由来する。四体液説では人間の体液を[[四元素説]]に対応した四種類([[血液]]、[[粘液]]、[[黄色胆汁]]、[[黒色胆汁]])に分類したもので、黄色胆汁は四元素のうち「火」に対応した、熱く乾いた性状を持つものと考えられていた。コレラは当初、この性状に合致する熱帯地方の[[風土病]]だと考えられており、また米のとぎ汁様の下痢が胆汁の異常だと考えられたことから、この名がついた。
 
 
 
日本では、最初に発生した[[文政コレラ]]のときには明確な名前がつけられておらず、他の疫病との区別は不明瞭であった。しかしこの流行の晩期には[[オランダ]]商人から「コレラ」という病名であることが伝えられ、「虎列刺」などと字を当てたが、それまでの疫病とは違う高い死亡率、激しい症状から、「鉄砲」「見急」「三日コレラ」などとも呼ばれた。
 
 
 
また「コロリと死んでしまう」の連想から「虎狼痢」「[[虎狼狸]]」などの呼び名も広く用いられたが、これはコレラからの純粋な転訛ではない。
 
 
 
[[浅田宗伯]]は『古呂利考』にて「古呂利は本と皇国の俗語にて卒倒の義を云ひて、古より早く病に称し来る事なり。元正間記に云、元禄十二年の頃、江戸にて古呂利と云ふ病はやり…」と、コロリはコレラ渡来以前からの頓死の総称であることを記しており、[[斎藤月岑]]は『増訂[[武江年表]]』(安政六年)で「東都の俗ころりといふは、頓死をさしてころりと死したりといふ俗言に出て、文政二年痢病行はれしよりしかいへり。しかるに西洋にコレラといふよしを思へば、おのづから通音なるもをかし」と、コロリとコレラが混用されてしまっていることを指摘している。
 
 
 
== 脚注 ==
 
<references />
 
 
 
== 参考文献 ==
 
*『[[細菌の逆襲]]』 [[吉川昌之介]] 著、[[中公新書]]
 
*『[[日本人の病歴]]』 [[立川昭二]] 著、中公新書
 
*『[[病気の社会史]]』 立川昭二 著、[[NHKブックス]]
 
*『[[コレラワクチン]]』 徳原大介 著、[[BIO Clinica]]
 
その他多数
 
  
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コレラ菌による[[感染症]]。旧[[伝染病予防法]]の[[法定伝染病]]の一つで,今日では[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律]]で 3類感染症に分類される。患者の排泄物など,コレラ菌で汚染されたものから経口感染する。アジアコレラ,[[エルトールコレラ]]などに分けられるが,今日ではエルトールコレラが流行の主体。[[潜伏期]]は 1~3日で,激しい水様性[[下痢]]を主症状とし,[[脱水症]]に陥る。治療としては,[[輸液]]のほか,[[抗生物質]]を投与する。海外渡航者を対象にした[[予防接種]]がある。サハラ以南のアフリカや南アジア,特に[[インド]]や[[バングラデシュ]]でときおり流行する。旅行者が国外感染して日本にも持ち込まれることもある([[輸入感染症]])。1883年にロベルト・[[コッホ]]がコレラ菌を発見し,感染源となる飲料水を汚染から守るなどの対策がとられるようになったが,過去 2世紀の間に 7回の世界的流行があった。日本では「ころり」(虎狼痢)とも称され,安政5(1858)年,1877~79年,1886年などに大流行,1877年以降,さまざまな防疫規則が施行された。
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== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
 
*[[伝染病]]
 
*[[伝染病]]
 
*[[コレラ菌]]
 
*[[コレラ菌]]
 
*[[豚コレラ]]
 
*[[豚コレラ]]
*[[コレラタケ]] - コレラに似た症状を発症する毒キノコとして
 
*[[プリマハム#過去の不祥事|血清豚事件]]
 
*[[神田下水]] - 各地で[[下水道]]建設のきっかけとなった
 
*[[アルゼンチン航空386便食中毒事件]]
 
 
== 外部リンク ==
 
{{Commons}}
 
* [http://www.who.int/cholera/en/ Cholera] - [[WHO]]{{En icon}}
 
* [https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/402-cholera-intro.html コレラとは] - [[国立感染症研究所]]
 
* [http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-01.html コレラ]|[[厚生労働省]]
 
* [http://www.msf.or.jp/news/cholera.html コレラについて]|[[国境なき医師団|国境なき医師団日本]]
 
* {{青空文庫|001600|53757|新字新仮名|コレラの伝染様式について}}({{仮リンク|スノウ ジョン|en|John Snow}}著、水上茂樹訳)
 
  
 
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2018/8/30/ (木) 23:18時点における最新版

コレラ菌
コレラ病棟(1892年 ハンブルク

コレラ(Cholera、虎列剌

コレラ菌による感染症。旧伝染病予防法法定伝染病の一つで,今日では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で 3類感染症に分類される。患者の排泄物など,コレラ菌で汚染されたものから経口感染する。アジアコレラ,エルトールコレラなどに分けられるが,今日ではエルトールコレラが流行の主体。潜伏期は 1~3日で,激しい水様性下痢を主症状とし,脱水症に陥る。治療としては,輸液のほか,抗生物質を投与する。海外渡航者を対象にした予防接種がある。サハラ以南のアフリカや南アジア,特にインドバングラデシュでときおり流行する。旅行者が国外感染して日本にも持ち込まれることもある(輸入感染症)。1883年にロベルト・コッホがコレラ菌を発見し,感染源となる飲料水を汚染から守るなどの対策がとられるようになったが,過去 2世紀の間に 7回の世界的流行があった。日本では「ころり」(虎狼痢)とも称され,安政5(1858)年,1877~79年,1886年などに大流行,1877年以降,さまざまな防疫規則が施行された。

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