コペンハーゲン解釈

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コペンハーゲン解釈(コペンハーゲンかいしゃく)は、量子力学解釈の一つである。

量子力学の状態は、いくつかの異なる状態の重ね合わせで表現される。このことを、どちらの状態であるとも言及できないと解釈し、観測すると観測値に対応する状態に変化する(波束の収縮が起こる)と解釈する。

「コペンハーゲン解釈」という名称は、デンマークの首都コペンハーゲンにあるボーア研究所から発信されたことに由来する。

コペンハーゲン解釈の特徴

量子力学の各種実験結果は、粒子が空間的に一点に存在することを示している(厳密には位置だけでなく運動量についても言及しないといけないが、理解し易いように敢えて位置に絞って説明する)。同時に、空間的に広がりを持つ(あるいは、かつて広がりを持っていた)ことも示している。そして、いつどのようにして広がりを失ったかについては分からない。なぜなら、比較対象として観測前の状態を得ることが原理的に不可能だからである。そこで、観測前に波動関数に従った空間的広がりがあったことと、観測時点では一点に収束していること、収束の確率が確率解釈に依存することの三つの実験事実を合意事項として採用する解釈として、コペンハーゲン解釈が生まれた。なお、確率解釈は、波動関数から粒子の存在確率が求められることを示しているだけで、決して波動関数が実在する波であることを否定しているわけではない。

なお、量子力学において「観測」という場合は、人間の行為を指す一般的な語意とは違う意味で用いられることに注意する必要がある。量子力学的な「観測」は、例えば、シュレーディンガーの猫の思考実験に当てはめていえば、アルファ崩壊から生死の確認までの一連の流れ全体を指す。そして、重ね合わせ状態の確定する時期が「観測」のいつの時点であるかについては、理論的にも実験的にも確かなことは分かっていない。量子力学の説明では、定義を曖昧にしたまま「観測」という言葉を安易に使っている事例も多々見受けられる。

コペンハーゲン解釈では、量子が観測後に広がりを失ったように見える現象を波動関数の収縮(波束の収束)と呼ぶが、収縮がいつどのようにして起きるのかを説明することはできない。つまり、収縮が観測によって引き起こされたとは断定できないし、また観測が必須とも断定できない。ただ確実に言えることは、観測すると波動関数の収縮に相当する現象が確認できることだけである。いつどのようにして起きるのか分からない以上、収縮に必要な条件を理論的に予測することもできないので、現段階の科学の枠組みではこれ以上、波動関数の収縮について言及することはできない。そのため、シュレーディンガーの猫の思考実験が示すような未解決の問題を抱えることになる。

量子の運動を観測するには光子等を観測対象に衝突させる必要がある。しかし、詳細な観測をしようとすると、観測対象の運動量を大きく変えてしまい、実験環境に致命的影響を与えてしまう。その結果、観測の影響がない自然な状態での現象を継続的に観測することが不可能となる。また、一点に収束した状態でしか観測結果が得られないため、波動関数の広がりを直接的に観測することはできない。よって、波動関数が収縮する過程を実験で直接的に観測することは原理的に不可能である。

量子力学では状態を計算するときに波動関数を用いるが、コペンハーゲン解釈では波動関数の収縮を数学的に記述せず、収縮に合わせて境界条件の再設定を行なうことで現実の現象を近似的に表現する。シュレーディンガー方程式内に収縮の数学的要因がある可能性については、量子力学の数学的枠組みから収縮を導出することができないことがフォン・ノイマンによって証明されている。アルベルト・アインシュタインらは、波動関数に記述されていない未知の隠れた変数が存在するはずだと主張したが、今日において、隠れた変数説は極めて不利な立場に追い込まれている。ヒュー・エヴェレットは観測装置をも波動関数に組み込んだ定式化を行なった。この定式化では、収縮現象も通常の波動関数の時間発展と同様の変化として例外のない記述ができるので、理論の表現方法として従来の式より優れていると言える。ただし、その式の意味することは慎重に吟味する必要があるし、この定式化をもってしても現実に起きている現象に違いが生じるわけではなく、表現方法として優れているだけであって、理論として優れていることまでは意味しない。コペンハーゲン派の中にはこの定式化の成果を取り込もうとする者もいる。同様の結果をもつ現象を導出しようという試みられているが、十分な成功が得られているわけではない。

コペンハーゲン解釈では、波動関数が収束する原因は追究しない。しかし、この解釈を支持する全ての物理学者が追究を諦めたわけではなく、実際には多くの物理学者が原因をつきとめようとしている。以下にその試みの一部を紹介する。その試みは、しばしばコペンハーゲン解釈と対立する解釈であるかのように紹介されることがあるが、その内容はここまで説明した解釈の内容と何ら対立する物ではないので、狭義のコペンハーゲン解釈の一種と見なしてその流派の一つと呼ぶことが可能である。しかし一般には、意思説だけがコペンハーゲン解釈の一流派として扱われることが多く、他の試みは別の解釈と見なされることが多い。なおこれらの研究は、説明のつく原因を探っているだけであって、予測精度を高める目的はない。

他の解釈

量子力学について、コペンハーゲン解釈以外に以下のような解釈がある。現在のところ、確実な説は見つかっていない。

多世界解釈
エヴェレットの定式化に現実的意味を与えようとする試みの一つ。
コペンハーゲン解釈で「波動関数の収縮」として扱う現象は、多世界解釈では「多世界の干渉性の喪失」として扱われる。SF においてしばしば扱われる異なる時空に存在する平行宇宙のようなものではなく、宇宙は抽象的にただ一つ存在し、世界ごとに見える側面が異なるという考え方となる。多世界が干渉しあった宇宙全体はたとえばサイコロであり、それぞれの面上が各々の観測結果に属する世界である。多世界解釈の目標はこのサイコロに相当するものを数学的に記述することである。「多世界の干渉性の喪失」を数学的に完全に記述するには、自世界と他世界の区別を示す変数と、世界の干渉の度合いを示す時間関数が必要である。
影の光子
二重スリット実験で光の干渉が起こる、その干渉する粒子。
意思説
「人間の意思が量子の状態を決める」とする解釈。量子力学と哲学を関連づけて考えている者もいる。「人間が状態を認知した瞬間」が「量子の状態が決まる瞬間」であることを前提としているが、その前提には理論的裏付けがなく、実験による確認もされていない。複数の検証不可能な仮定の積み重ねに基づいており、科学理論としての要件を満たしているとは言い難い。量子コンピュータにおいて、外部から侵入した光子や電子の影響によって量子ビットの状態が確定してしまう量子エラーは人間の意思とは無関係に生じる。また、量子テレポーテーションでも同様のエラーが実験の障害となる。これら意思とは無関係に状態が確定する現象は、意思説を否定する有力な証拠となるとも言われている。
ド・ブロイ=ボーム解釈
「パイロット波」なる未知の波が粒子の運動に影響を与えているとして、量子力学を古典力学の枠内で説明しようとする試みであり、シュレーディンガーの猫の問題は完全に解決できる。一時は成功したかのように見えたが、二個以上の粒子の運動を想定すると古典力学にない非局所的長距離相関が強く現れることが分かり、現在では完全に下火となっている。
量子デコヒーレンス
外部環境からの熱ゆらぎなどが原因となって、極めて短い時間で波動関数が収束するとする理論。シュレーディンガーの猫の問題はほぼ解決しているが、完全な解決には至っていない。
確率過程量子化
古典論の粒子の酔歩によって波動性を説明する立場。酔歩の統計的性質は波動関数を再現するよう設定される。
粒子の波動性は一つの粒子に対する観測を幾千回、幾万回くり返し結果を集積することで現れる統計的性質に過ぎず、観測されなくても粒子一つ一つは必ず空間上のどこか特定の場所に存在していると考える。そして波動関数はその粒子の運動経路を確率的に表現するものと解釈する。この解釈の下では、量子論での1個の粒子の波動性は古典論での幾万もの粒子の挙動を平均化することで生じた錯覚ということになる。
素朴実在論ではあるが、決定論というわけでもない(決定論と解釈することもできる)。

関連項目

外部リンク