Source Han Sans
Source Han Sans は、AdobeがGoogleと共同開発したオープンソースの Pan-CJK フォントファミリー[1]。日本語名は源ノ角ゴシック(げんのかくごしっく[2])である。
概要
Source Han Sansは、Adobeによるオープンソースフォントファミリーの4番目にあたり、日本語と韓国語および中国語で用いる繁体字と簡体字のグリフに可能な限り対応したゴシック体である。加えて欧文としてSource Sansファミリーのラテン文字、ギリシャ文字、キリル文字も含まれる。
フォントファミリーとしてExtraLight(ウェイト 250)、Light(同 300)、Normal(同 350)、Regular(同 400)、Medium(同 500)、Bold(同 700)、Heavy(同 900)の7ウェイトが用意され、合計で約46万グリフとなる大規模フォントファミリーである。CIDキー方式(CID-keyed)のCFF(PostScript)アウトラインOpenTypeフォントとして開発・公開されている。
フォント名は英語のSource Han Sansに加えて対応する各言語ごとにも付けられており、日本語では「源ノ角ゴシック」、中国語では「思源黑体[3]」(簡体字表記)、「思源黑體[3]」(繁体字表記)、韓国語では「본고딕[4]」となっている。
開発はAdobeの西塚涼子を中心に[5]、漢字の日本語部分はAdobe、拡張部分にイワタ、中国語部分にサイノタイプ、韓国語部分にサンドルと各国のフォントメーカーと協力することで各言語への対応を実現している。
このフォントはオープンソースのフリーフォントとしてVersion 1.001以前はApache License 2.0で、Version 1.002は他のSourceフォントファミリー同様にSIL Open Font License 1.1のもとで公開されており、ライセンスを守ることで自由に再配布や修正、そして派生版の公開を行うことが可能である。
GoogleのNotoフォントファミリーの中では「Noto Sans CJK」として異なったフォント名で公開されている。フォント名と一部のウェイト表記以外はすべてSource Han Sansと同一である[6]。
仕様
Adobe初のPan-CJK(汎-中日韓)書体ファミリーとして公開[1]され、Unicodeの漢字統合で符号位置が重複しているが字形は異なる日本語、簡体字、繁体字、韓国語の漢字を別々のグリフとして持っている。
収録している主な文字は以下の通りである[7]。
- 日本語 Adobe-Japan1-6(JIS X 0208、JIS X 0213およびJIS X 0212)の漢字すべて
- 簡体字 GB 18030および通用規範漢字表の漢字すべて
- 繁体字 Big5(台湾)およびHKSCS(香港)の漢字すべて(台湾の国字標準字体に準拠した字体)
- 韓国語 各種ハングル文字、KS X 1001およびKS X 1002の漢字すべて
日本語は、IVS(Adobe-Japan1)14,678文字およびStandardized Variantsの漢字89文字で、Unicodeの異体字セレクタによる異体字切り替えに対応している[7]。
Source Han SansはCIDキー方式のOpenTypeフォントであるが、文字コレクションとしてはAdobe-Identity-0を採用しておりグリフセットはSource Han Sans独自のものである。そのため、Adobe-Japan1-6などといった他の文字コレクションと規格上の互換性はない[7]。
公開されているSource Han Sansは以下の4種類の形式に分かれている。
- 複数言語OTF版(Language-specific[8] OpenType/CFF〈OTF〉)
- Source Han Sansのグリフをフルセットで収納しており、デフォルトグリフ(cmapテーブルでUnicodeの符号位置と結びつけられたグリフ)を日・簡・繁・韓の各字体に設定したものがそれぞれ4つずつ各ウェイトで用意されている。デフォルトのグリフ以外の言語の字形に切り替える際は、GSUBのlocl(Localized Forms)機能を用いて切り替える。この機能を用いるには、Adobe InDesignなどといった対応したソフトウェアが必要である。なお、locl機能でのグリフ切替に対応しているのはUnicodeで漢字統合されたグリフのみであり、符号位置が分離している漢字(桟と栈など)には適用されない。そのためlocl機能ですべての漢字を日・簡・繁・韓のそれぞれの字体に切り替えられるわけではない。
- Version 1.002よりRegularとBoldの2ウェイトにのみ欧文など(U+0020 - U+007E, U+00A0, U+00A5, U+2011, U+20A9)に等幅半角グリフが割り当てられたHW版が用意されている。
- OTC版(OpenType/CFF Collection〈OTC〉)
- 複数言語OTF版の「ウェイトが同じ日簡繁韓の4つのフォントファイル」をフォントコレクション[9]として1つのファイルにまとめたもの。CFFテーブルを共有する構造なのでファイルサイズが小さくなっている。
- なお、OpenTypeのCFFアウトラインでのフォントコレクションは比較的最近策定された規格であるため、システム側が対応していない場合がある[10]。対応しているOSはOS X Mountain Lion 10.8以降、Windows 10 Anniversary Update以降[11]などである。
- スーパーOTC版(Super OpenType/CFF Collection〈Super OTC〉)
- OTC版を極限まで追求し、複数言語OTF版の全36ファイルを1つのファイルにまとめたもの。このスーパーOTC版がSource Han Sansの理想型である[12]。
- この形式もOTC版同様にシステム側が対応している必要がある。
- サブセットOTF版(Region-specific Subset OpenType/CFF〈Subset OTF〉)
- グリフをフルセットで収録するのではなく、日・簡・繁・韓それぞれのグリフを抜き出したサブセットとして収録している。そのため複数言語OTF版よりファイルサイズが小さくなっている。上記3種の形式ではlocl機能でそれぞれの言語の漢字の字形に切り替えていたが、この形式ではフォントそのものを切り替えることで各言語の漢字グリフを使い分ける。HW版は存在しない。Adobe Typekitで同期できるのは、この形式のみである。
複数言語OTF版、OTC版、スーパーOTC版はいずれもフォントファミリー名、PostScript名を共有しているため、先にインストールされた方のみが認識される。これら3種の形式を同時に使うことはできない。サブセットOTF版はフォント名が異なるので別フォントとして同時に使える。
Source Han Code JP
Source Han Sansの派生として作られた日本語等幅フォント。日本語環境におけるフォント名は「源ノ角ゴシック Code JP」。サブセットOTF版の日本語版をベースにして、欧文グリフを「2/3em(3文字で全角2文字分相当)にグリフ幅を変更した「Source Code Pro」に置き換えているのが特徴。Adobeのフォント開発チームに所属する服部正貴が個人的に開発を始めた[13]。Adobeのオープンソースフォントのひとつとして公開されている[14]。
なお、OS2テーブルのPANOSEでMonospaceの設定がされていないが、この設定はすべてのグリフが同じ幅である場合にのみ許されるものである。日本語グリフとラテングリフの幅が異なる日本語等幅フォントではそもそもここをMonospaceに設定できない。同じ日本語等幅フォントである「Osaka−等幅」も同様である。そして「Osaka−等幅」がNSFontクラスのfixedPitchプロパティでTureになるのは、単にフォント名に「Mono」があるからである。中には日本語等幅フォントでMonospaceに設定しているものもあるが、これはイレギュラーな実装である。Source Han Code JPがAPIで等幅フォントに分類されないのはこうした事情が背景にある。そして前述の理由で明示的に等幅の情報を設定できないが、服部氏自身は日本語等幅フォントとして開発している。
関連フォント
- Source Sans Pro - 最初のAdobeオープンソースフォントファミリー。ユーザーインターフェイス向けのサンセリフ体フォント
- Source Code Pro - Adobeオープンソースフォントファミリーの2番目。ソースコード表示向けの等幅サンセリフ体フォント
- Source Serif Pro - Adobeオープンソースフォントファミリーの3番目。Source Sans Proに合わせたセリフ体フォント
- Source Han Serif(源ノ明朝) - Adobeオープンソースフォントファミリーの5番目。Source Han Sansと対になる明朝体フォント
派生フォント
Source Han Sansのライセンスに基づき、改変と再配布を行っているフォントが複数存在する。個々のフォントについては配布先の説明を参照すること。
- 源真ゴシック・源柔ゴシック - TrueTypeアウトラインのOpenTypeフォント。
- 源暎ゴシック - 等幅版はTrueTypeアウトライン、それ以外はCFFアウトラインのOpenTypeフォント。
- Nasuフォント - TrueTypeアウトラインのOpenTypeフォント。
- Myrica - TrueTypeアウトラインのOpenTypeフォント。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 “Source Han Sansの紹介:オープンソースのPan-CJK書体 - Adobe Typekit Blog”. Adobe (2014年7月16日). . 2014年07月17日閲覧.
- ↑ “アドビ公式Twitterアカウント(@AdobeCS_jp)によるツイート - Twitter” (2014年7月16日). . 2014閲覧.
- ↑ 3.0 3.1 読みは"スーユェンヘイティ"。「黑体(黑體)」はゴシック体を意味する。
- ↑ 読みは "ボンゴディク"。「고딕」はゴシック体を意味する。
- ↑ “The Three Musketeers (三銃士) - Adobe CJK Type Blog” (2014年9月24日). . 2014閲覧.
- ↑ “Is it the same with Noto Sans CJK Fonts? (Issue #122 - adobe-fonts/source-han-sans - GitHub)”. . 2017閲覧.
- ↑ 7.0 7.1 7.2 “Source Han Sans Readme - GitHub (PDF)”. . 2017閲覧.
- ↑ v1.000で「Multilingual」と表記されていたが、v1.001で「Language-specific」に変更された。仕様は同一である。
- ↑ MS ゴシックやメイリオなどで使われているTrueType Collection (TTC) とほぼ同様のものである。1つのファイルだがOSやアプリケーションには複数のフォントとして認識される。
- ↑ OpenTypeではTrueTypeアウトラインでのコレクションフォントは以前よりサポートしていたが、CFFアウトラインでのコレクションフォントは2015年のOpenType 1.7で追加された
- ↑ “What’s new for Windows 10 Anniversary Update”. マイクロソフト. . 2017閲覧.
- ↑ “Source Han Sans: OTF, OTC, Super OTC, or Subset OTF? - Adobe CJK Type Blog” (2014年9月14日). . 2014閲覧.
- ↑ “Introducing Source Han Code JP - Adobe CJK Type Blog” (2015年6月11日). . 2017閲覧.
- ↑ “adobe-fonts/source-han-code-jp GitHub - adobe-fonts/source-han-code-jp at release”. . 2017閲覧.
外部リンク
- The Typekit Blog|Source Han Sansの紹介:オープンソースのPan-CJK書体
- GitHub - adobe-fonts/source-han-sans at release
- GitHub上のリリースページ。下部の説明文中に種類別リンクがあり、Region-specific Subset OTFs配下のJapanをクリックすることで日本語サブセット版をダウンロード可能。
- Source Han Code JP(源ノ角ゴシック Code)のGitHub Releaseページ。