操作

中性子

中性子
{{#invoke:InfoboxImage|InfoboxImage|image=200px|size=|sizedefault=frameless|alt=}}
ナイーブなリチウム原子の原子模型。青い球体が中性子を表す。ただし、正確な縮尺ではなく、電子が定まった軌道を回っているわけでもない。
組成 テンプレート:粒子の記号テンプレート:粒子の記号d
粒子統計 フェルミ粒子
グループ バリオン
反粒子 反中性子(テンプレート:粒子の記号)
理論化 アーネスト・ラザフォード (1920)
発見 ジェームズ・チャドウィック (1932)
記号 テンプレート:粒子の記号
質量 {{safesubst:#invoke:val|main}}[1]
{{safesubst:#invoke:val|main}}[2]
平均寿命 {{safesubst:#invoke:val|main}}[3](核子や中性子星以外)
崩壊粒子 陽子
電荷 0
スピン 12
ストレンジネス 0
アイソスピン12
超電荷 12
パリティ +1

中性子(ちゅうせいし、: : : : : neutron)とは、原子核を構成する粒子のうち、無電荷の粒子の事で、バリオンの1種である。原子核反応式などにおいては記号 n で表される。質量数原子質量単位で約 {{safesubst:#invoke:val|main}}、平均寿命は約15分でβ崩壊を起こし陽子となる[3]。原子核は、陽子と中性子と言う2種類の粒子によって構成されている為、この2つを総称して核子と呼ぶ[注 1]

概要

中性子の発見は1920年のアーネスト・ラザフォードによる予想に始まり、その存在の実験的証明は1932年にケンブリッジ大学の物理学者ジェームズ・チャドウィックによってなされた[注 2]。その実験とは、ベリリウムに高速のα粒子を当てる事で次の核反応

<ce>{}_4^9{Be}+{}_2^4He->_{6}^{12}{C}+{}_0^1n</ce>

を起こし、ここで発生する粒子 n をパラフィンなどで受け、原子核と衝突させる事でさらに陽子を飛び出させ、この荷電粒子である陽子を検出するというものであった[4]。チャドウィックは上記の核反応で発生する粒子(当時はまだベリリウム線と呼ばれていた)n が、陽子とほとんど同じ質量で中性(電荷を持たない)の新しい粒子からなる粒子線である事を確認し、これを中性子 (neutron) と名付けた[5]

中性子は、電荷を持っていない事から[注 3]、他の電荷をもつ陽子などに比べて、入射した物質の原子核と容易に直接反応する事が出来る。電磁気力の影響を受けない中性子線は透過性が高く、原子核の核変換に使う粒子として重要である[注 4]

特徴

原子核の外ではわずかな例外を除いて中性子は不安定であり、平均寿命 {{safesubst:#invoke:val|main}}(約15分)[3]半減期約10.3分[6]で陽子と電子および反電子ニュートリノに崩壊し、それを反応式で表すと

[math]\ce{n-\gt p\ +{e}^-+\bar{\nu}_{e}}+0.78\,\mathrm{MeV}[/math]

となる[注 5]。中性子はバリオンの一種であり、ヴァレンス・クォーク模型の見方をとれば、2個のダウンクォークと1個のアップクォークと言う3個のクォークによって構成されている[7]。中性子は全体として電荷を持たないが、内部では正負の電荷が分布しており、その広がりは約 テンプレート:1e- m である[7]

電荷を持たない中性子と原子との相互作用は、非常に短距離でのみ働く核力によるものがほぼ全てである[注 6]。また、核力の到達範囲はせいぜいπ中間子の換算コンプトン波長 h/2πmπc である約 {{safesubst:#invoke:val|main}}[8] 〜 {{safesubst:#invoke:val|main}}[6] 程度、即ち中性子の電荷分布の広がりである {{safesubst:#invoke:val|main}}[7] 程度しかない。従って、物質中を移動する自由な中性子は、原子核と「正面」衝突するまで直進する。原子核の断面積は非常に小さい為衝突はまれにしか起こらず、中性子は衝突までに長い行程を飛ぶ事になる。生成した中性子が他の原子核と衝突するまで移動する距離を平均自由行程: mean freepath)という指標で表す[注 7]

弾性衝突を起こすような場合、運動量保存則に従い、ビリヤードのボールが互いに衝突するように振る舞う。もし衝突された核が重い場合は核の加速は比較的少ない。中性子とほぼ等しい質量をもつ陽子(水素原子)と衝突した場合、陽子はもともとの中性子が持っていた運動量のほとんどを受け取りはじき出される。一方、中性子はほとんどの運動量を失うが、この衝突の結果生じる二次的に放射された粒子が電荷を持っている場合、電離作用がある為、検知する事が可能である。

電気的に中性である為、観測だけでなく中性子を制御するのも難しい。荷電粒子に対しては電磁場によって加速、減速、軌道修正などの操作や制御が可能であるが、中性子にはそれが使えない。自由中性子を制御し、減速、進路の変更、吸収などの結果を得るには進路に原子核を配置するしかない。この事は平均自由行程と併せて原子炉核兵器を設計する際、非常に重要である。

諸定数

中性子の質量などは、物理定数の1種としてCODATAより4年に1度のペースでNISTのWebページを介して公開されている[9]

質量

中性子の質量 mn

[math]\begin{align}m_\text{n}&=1.674\ 927\ 471(21)\times 10^{-27}\,\mbox{kg}\\ &=939.565\ 4133(58)\,\mbox{MeV}/c^2\end{align}[/math]

であり[1][2]、統一原子質量単位で表すと {{safesubst:#invoke:val|main}} となる[10]

また、陽子の質量 mp電子の質量 me に対する比は

[math]\begin{align}&\frac{m_\text{n}}{m_\text{p}}=1.001\ 378\ 418\ 98(51)\\ &\frac{m_\text{n}}{m_\text{e}}=1838.683\ 661\ 58(90)\end{align}[/math]

である[11][12]

更に、中性子の質量 mn は同じ核子である陽子の質量 mp よりわずかに大きい程度で、その差は僅か

[math]m_\text{n}-m_\text{p}=2.305\ 573\ 77(85)\times 10^{-30}\,\mbox{kg}[/math]

である[13]。但し、中性子は陽子とは異なり、電気的に無電荷(中性)である為、陽子や電子が持っている様な比電荷と言う値を持たない。

コンプトン波長

中性子のコンプトン波長 λn や換算コンプトン波長 λn/2π

[math]\begin{align}&\lambda_\text{n}=\frac{h}{m_\text{n}c}=1.319\ 590\ 904\ 81(88)\times 10^{-15}\,\mbox{m}\\ &\frac{\lambda_\text{n}}{2\pi}=0.210\ 019\ 415\ 36(14)\times 10^{-15}\,\mbox{m}\end{align}[/math]

である[14][15]

磁気モーメント

中性子は電気的には無電荷で中性であるが、磁気モーメントを持っており、その値 μn

[math]\mu_\text{n}=-0.966\ 236\ 50(23)\times 10^{-26}\,\mbox{J}\,\mbox{T}^{-1}[/math]

である[16]。電気的には中性である中性子が磁気モーメントを持つ理由は、中性子を構成する3個の各クォークの磁気モーメントの和として説明される[8]

また、核磁子 μN に対する比(異常磁気モーメント)は

[math]\frac{\mu_\text{n}}{\mu_\text{N}}=-1.913\ 042\ 73(45)[/math]

である[17]

中性子温度による分類

中性子はその運動エネルギー(運動速度)に応じて大体[注 8]以下のように分類される[18][6]

中性子の運動エネルギーによる分類
中性子温度English版に応じた名称 エネルギー (E) の範囲(電子ボルト
冷中性子 (cold neutrons) E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
熱中性子 (thermal neutrons) 0.001 < E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
熱外中性子 (epithermal neutrons) 0.1 < E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
低速中性子 (slow neutrons) 0.1 < E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
中速中性子 (intermediate neutrons) 1 < E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
高速中性子 (fast neutrons) 0.5 < E < {{safesubst:#invoke:val|main}}
超高速中性子 (ultrafast neutrons) {{safesubst:#invoke:val|main}} < E

歴史

1914年イギリスラザフォードは、重い原子核ではα線を接近させてもクーロン力によって弾き返されてしまうが、軽い原子核では原子核かα粒子いずれかの破壊が起こるのではないかと考え、1917年から1919年にかけて、様々な条件下で空気に対してα線を当て、ZnSシンチレーションを利用して破壊の影響で生ずる可能性のある粒子を発見しようと試みた結果、水素の原子核が発見された[19]。この水素の原子核は、α線が空気中の窒素の原子核に当たった際に

<ce>_2^4He\ +_{7}^{14}N->_{8}^{17}O\ +_1^1H</ce>

と言う核反応によって生ずるものである。この結果を受けてラザフォードは、翌1920年ロンドン王立協会に於いて行なった講義の中で、原子核を構成する粒子には陽子の他に陽子とほとんど同じ質量で中性の粒子が存在すると予想した[20][21]

それから10年後の1930年ドイツW・ボーテH・ベッカーは、ポロニウムから放出されるα線を、リチウムベリリウムホウ素などの軽元素に当てると非常に強い透過力をもった放射線(当時はまだベリリウム線と呼ばれていた)が放出される事を発見した[22][21]。2人はベリリウム線の正体はγ線であると推測し、そのエネルギーは普通のγ線の大体2倍程度であると結論付けた[23][21]

その翌年の1931年に、ジョリオ=キュリー夫妻(イレーヌと夫のフレデリック)は、パリのラジウム研究所において、このベリリウム線をパラフィンセロファンなどの水素を含む物質にあてると、これから高速度の水素核すなわち陽子が飛び出す事を発見した[24][21]。2人もやはりボーテとベッカーと同じくベリリウム線の正体はγ線であると考えていたが[25][7][21]、実験から様々な矛盾が出て来た[注 9]。その結果を受ける形で、同年、ケンブリッジ大学の Webster によって、ベリリウム線の放出がγ線の放出と全く異なる事が示された。

これらの実験結果を総合して、同年に同じくケンブリッジ大学の物理学者ジェームズ・チャドウィックは、それら矛盾はベリリウム線をγ線と仮定している事に起因している事に気付き、これが陽子とほとんど同じ質量で中性(電荷を持たない)の新しい素粒子からなる粒子線である事を実験的に確認し[26][21]、これを中性子 (neutron) と名付けた[27][5][7]

中性子の発見により、ソ連のドミトリー・イワネンコEnglish版は直ちに原子核の構造についての従来の見解を改変し、「原子核の中には中性子と陽子だけが含まれており、電子は存在しない」という説を提唱した。ヴェルナー・ハイゼンベルクもこれを支持し、以後の原子核理論の方向性を決める事になったと言われる彼の3部作の論文『原子核の構造について1〜3(Über den Bau der Atomkerne Ⅰ-Ⅲ)[28][29][30]』の基本仮定として採用される事となった[31][7]

脚注

注釈

  1. 陽子1個で出来ている [[水素|テンプレート:SubSupH]] と陽子3個で出来ている [[リチウム3|テンプレート:SubSupLi]] の2つを例外として、2015年現在の時点で発見報告のある原子の内、最も重い [[オガネソン|テンプレート:SubSupOg]] までの全ての"既知の"原子核は陽子と中性子の2種類の核子から構成されている。
  2. チャドウィックによる実験的確証を得るまでの経緯については、チャドウィックによる中性子の発見が詳しい。
  3. 電荷を持たない為、直接的に観測する事が難しく、中性子の発見は電子や陽子と比べて遅れた。
  4. 尚、通常の状態では荷電していない原子は中性子と同じ様には利用する事が出来ない。何故ならば、正電荷を持つ原子核の周りに負電荷を持つ電子が広く分布している事から、原子は中性子よりも約1万倍も大きいものとして扱わなくてはならない為である。
  5. 同様な崩壊(β崩壊)が何種類かの原子核においても起こる。核内の粒子(核子)は、中性子と陽子の間の共鳴状態であり、中性子と陽子は互いにπ中間子を放出・吸収して移り変わっている。これは、アイソスピンと言う考え方に基づいたもので、陽子と中性子は質量や核力がほぼ等しいので、ともにアイソスピンが ±1/2 の核子と言う1つの粒子の異なる荷電状態であり、+ の状態が陽子で − の状態が中性子であるとする考え方の事である。
  6. 陽子、電子やα粒子などの荷電粒子や、γ線のような電磁波は、物質中を通過する際に電磁気力によって通過する物質の原子をイオン化する為、エネルギーを失ってしまう。イオン化に費やされたエネルギーは即ち、荷電粒子の失ったエネルギーであり、その結果、荷電粒子は減速し、γ線は吸収されるが、中性子はその様な過程でエネルギーを失う事はない。
  7. 空気中で {{safesubst:#invoke:val|main}}、軽水の場合は {{safesubst:#invoke:val|main}}、重水では {{safesubst:#invoke:val|main}}、ウランでは {{safesubst:#invoke:val|main}} である。
  8. 厳密な分類ではなく、ほぼその領域で分けられるという意味である。
  9. 夫妻は陽子が飛び出して来る理由を、γ線が陽子に当たった際に発生するコンプトン効果であると考えた。そこで、飛び出して来る陽子のエネルギーからそのエネルギーを計算してみると、γ線の持つエネルギーが {{safesubst:#invoke:val|main}} となった[21]

出典

  1. 1.0 1.1 CODATA Value
  2. 2.0 2.1 CODATA Value
  3. 3.0 3.1 3.2 {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  4. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  5. 5.0 5.1 {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  6. 6.0 6.1 6.2 化学小事典
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 日本大百科全書
  8. 8.0 8.1 物理小事典
  9. 2014CODATA推奨値(一覧)
  10. CODATA Value
  11. CODATA Value
  12. CODATA Value
  13. CODATA Value
  14. CODATA Value
  15. CODATA Value
  16. CODATA Value
  17. CODATA Value
  18. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  19. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  20. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  21. 21.0 21.1 21.2 21.3 21.4 21.5 21.6 チャドウィックによる中性子の発見
  22. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  23. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  24. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  25. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  26. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  27. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  28. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  29. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  30. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}
  31. {{#invoke:Footnotes | harvard_core }}

関連文献

原論文

アーネスト・ラザフォード
ヴァルター・ボーテ及びH.ベッカー
イレーヌ・ジョリオ=キュリーフレデリック・ジョリオ=キュリーの夫妻
ジェームズ・チャドウィック
ヴェルナー・ハイゼンベルク

参考文献

書籍

洋書
和書

関連項目

外部リンク

テンプレート:原子力利用 テンプレート:粒子の一覧