テーメノス

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テーメノス古希: Τήμενος, Tēmenos, 英語: Temenus)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してテメノスとも表記される。ヘーラクレイダイの1人で、アリストマコスの息子。クレスポンテースアリストデーモスと兄弟。ヘーラクレースの玄孫であり、ヘーラクレイダイ一族によるミュケーナイへの五度目の攻撃及び最終攻撃を指揮した。彼は後にアルゴスの王となり、カラノス、パルセス、アグラエウス、ケイソス、ヒュルネトの父となった。カラノスは後にマケドニア王国の創設者となり、アルゲアス朝の始祖となった。アルゲアス朝は紀元前356年アレクサンドロス大王を生み、彼がヘーラクレースの血筋を主張するのも、テーメノスの息子であるカラノスが祖先だからである。

神話

ペロポネソスへの帰還

ヘーラクレースの子孫であるヘーラクレイダイは、ミュケーナイ王エウリュステウスペロポネソスを追放されて久しく、その末裔であるテーメノスはペロポネソスへの帰還を使命としていた。テーメノス、アリストデーモス、クレスポンテースは帰還する術をデルポイの神託に伺った。ところが返ってきたのは、祖先らが授かった神託と同じものであった。祖先たちはその神託に従ったのに、未だにペロポネソスへの帰還を果たせていない。テーメノスは怒って「父祖は神の告げたとおりにしたのに行動したのに死んでしまったではないか、なぜ同じお告げなのか」と非難した。すると神託は、彼らが死んだのは神託を正しく理解できなかったためであり、3度の収穫の後とは、3世代(ヒュロスクレオダイオス、アリストマコス)の後という意味であり、狭き場所とは、コリントス地峡の西の細長い海(コリントス湾)のことであると告げた。

神託の意味を理解したテーメノスは海を渡るため、ポーキスで軍船を建造した。その地はテーメノスが軍船を建造した故事によってナウパクトス(nau:船+ pak:建造する)と呼ばれるようになった。 しかしナウパクトスにとどまっている間、ヘーラクレイダイに災難が降りかかった。まず、アリストデーモスが双子の子供たちプロクレースエウリュステネースを残して死んでしまった。原因はに撃たれたとも[1]アポローンに射殺されたとも、ピュラデースとエーレクトラーの子供たちに殺されたとも言われる[2]

また、ヘーラクレイダイの前に神がかった予言者が現れて予言の言葉を叫んだが、ヘーラクレイダイは彼をペロポネソス側の人間の陰謀ではないかと疑って殺してしまった。するとヘーラクレイダイに災厄が降りかかり、建造した軍船はことごとく破壊され、兵も飢饉で離散してしまった。神託は災厄の原因は予言者の殺害にあり、殺害者を追放することで清めとし、3つ眼の男を帰還の案内人とすることを告げた。そこでテーメノスは殺害者ヒッポテースを追放し、3つ眼の男を探すと、片眼の馬に乗ったオクシュロスという男に出会った。この男はゴルゲー(ヘーラクレースの妻デーイアネイラの姉妹)の子孫で、殺人の罪でアイトーリアからエーリスに逃亡していた。テーメノスはオクシュロスが予言の男だと考え、ペロポネーソス半島へ案内を依頼した[3]

オクシュロスはコリントス地峡を通って陸路から帰還するのではなく、海を渡ってペロポネーソス半島に帰還することを勧め、海を渡るのに適したアイトーリアのモリュクリオンに案内した。ヘーラクレイダイはオクシュロスがエーリスを欲していることを知り、案内の返礼に、帰還を果たすことができたなら彼にエーリスを与えることを約束した[4]。その後、オクシュロスの案内でペロポネーソス半島に帰還を果たすと、当時のミュケーナイ王ティーサメノスオレステスヘルミオネの子)との戦いに勝利し、殺したとも[5]、追放したともいわれる。

後者の説によればヘーラクレイダイは、ラケダイモーンとアルゴスを支配していたティーサメノスと、メッセニア地方を支配していたネーレウスの子孫を追放したとされ、ティーサメノスはアカイア地方へ、ネーレウスの子孫はアテーナイへ去ったという[6]。その後、テーメノスと、アリストデーモスの2子プロクレース、エウリュステネース、そしてクレスポンテースはどの土地を得るかをくじを引いて決め、テーメノスはアルゴスを、プロクレースとエウリュステネースはラケダイモーンを、クレスポンテースはメッセニアを得た[7]

その後

くじ引きによって、テーメノスはアルゴスの王となった。テーメノスは自分の息子よりも娘ヒュルネートーの夫デーイポンテースを重用したが、これはテーメノスが王位をデーイポンテースに譲るのではないか、という猜疑心を彼の息子たちに与えた。息子ケイソスたちはデーイポンテースとヒュルネートーを殺して王位を奪った。その後、アルゴスのヘーラクレイダイはケイソスの子メドーンから10代後に民衆たちによって王権を奪われた[8][9]

系譜

テンプレート:ヘーラクレイダイの系図

脚注

  1. アポロドーロス『ギリシア神話』2巻8・2。
  2. パウサニアス3巻1.6
  3. アポロドーロス2巻8.3
  4. パウサニアス5巻3.6
  5. アポロドーロス2巻8.3
  6. パウサニアス2巻18.9
  7. アポロドーロス2巻8.4
  8. パウサニアス、2巻19・1-2。
  9. パウサニアス、2巻28・3-28・6。

参考文献