2017 投資ブームに沸くユニコーンの価値

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ベンチャーから巨額の投資を受けるユニコーン企業。上場後も企業価値を維持・発展できるかは疑問である。 2016年7月、ニューヨークに本社を置く調査会社CBインサイツが、評価額10億ドル以上のいわゆる「ユニコーン(一角獣)」と呼ばれる未上場企業168社のリストを作成した。このリストに含まれる企業の評価額は総額6000億ドル近くに上り、テクノロジー関連が大半を占めるこれら新興企業の価値は(少なくとも理論上は)未曾有の水準に達したといえる。こうした企業の多くは株式公開による資金調達という従来の手法を避け、非公開の資金に頼って運営されている。また、株式を上場したところで同様に高い評価を得られるか否かは不透明である。

ユニコーンの台頭

カリフォルニア州パロアルトのベンチャー・キャピタルで、新興企業の揺籃期から投資を行なっているカウボーイ・ベンチャーズの創業者アイリーン・リーは、2013年にテクノロジー系ブログサイト「テッククランチ」に、「ユニコーン・クラブにようこそ:10億ドルの新興企業から学ぶ」と題する記事を寄せた。この記事でリーは、過去10年間に設立されたソフトウェア会社39社が投資家から10億ドル超の企業価値を認められた事実に着目し、この企業群に「ユニコーン」というニックネームをつけた。リーによると、こうした企業の希少性と特殊性を表現することばを探していたという。

シリコンバレーやその他の地域で空前の高評価を得たテクノロジー系の新興企業が台頭した要因はいくつかある。一つは、一部のベンチャー・キャピタルの資金規模が拡大し、より高いリターンが求められるようになったことだ。ベンチャー・キャピタルは多数の小規模な未上場企業に対し草創期から投資をしてリスクを負担しているため、広範囲にわたる投資につきものの損失を補うべく、多額の利益を必要とするからである。

もう一つの要因は、2000年のITバブル崩壊後、コンピュータ関連の費用が下落したのに伴い、起業家たちが以前よりはるかに創業しやすくなったことだ。それが、スマートフォンなどのアプリケーション、ソーシャルメディア、クラウドコンピューティングといった最先端の分野に取り組む企業の急激な増加につながった。

リーの記事が掲載された2013年第3四半期には、アメリカ合衆国のソフトウェア新興企業468社にベンチャー・キャピタルが投資した金額は36億ドルに上り、2012年第3四半期と比べ73%の大幅増となった。これによりソフトウェア部門に対するベンチャー投資は、2000~01年のITバブルとその崩壊以降で最高の水準に達した。なお、この数字はプライスウォーターハウスクーパース(PwC)と全米ベンチャー・キャピタル協会(NVCA)がまとめた「マネーツリー・リポート」に基づくもので、データの出所はトムソン・ロイターである。

未上場企業への投資ブームの起源

ITバブルの崩壊以降、ソーシャルメディアの巨人フェイスブックやインターネット・サービス・プロバイダーのヤフーなどが、自社商品を拡充してさらに売り上げを伸ばそうと、ソーシャルメディアの新興企業に多額の資金を注入し始めた。フェイスブックは2012年、自社の新規株式公開(IPO)の1ヵ月前に、ユーザーを急拡大しながらその時点で売り上げがゼロだった写真・動画共有サービスのインスタグラムに10億ドルを投資した。翌2013年、ヤフーは、やはりユーザーを急増させながらも売上高がほとんどなかったブログサービスのタンブラーに11億ドルを投資した。この2例やその後の多様な新興企業への投資は、優れたアイデアをもつこれらの起業家や、彼らに資金を提供したベンチャー・キャピタルの先見の明を裏づけている。

他にさきがけてオンデマンド・エコノミーないしはシェアリング・エコノミーを切り開いた二つの未上場企業は、ユニコーンのなかでも最も企業価値の高い部類に入るだろう。2009年にサンフランシスコで設立されたウーバー・テクノロジーズは、契約したドライバーがスマートフォンのアプリを通じて客を拾い運賃を受け取る仕組みを構築し、タクシー業界の仕事を奪った。同じくサンフランシスコに本拠を置く空き部屋シェアサービスのエアビーアンドビー(Airbnb)は、ホテル業界や住宅不足に悩む都市に大打撃を与えた。住宅の所有者が空き家を売りに出すのをやめ、このサービスを利用して旅行者向けに短期で賃貸するようになったからだ。2016年にはウーバーは企業価値が推定620億ドルをこえる最大のユニコーン企業となり、一方のAirbnbも評価額が約255億ドルに達した。

これら2社は非上場企業向け投資ファンドから真っ先に巨額の資金注入を受けた。約20万ドルの元手で創業したウーバーは、2011年の初めには1100万ドル、年の後半には3700万ドルの資金を集めた。2013年8月にはさらに3億6200万ドルを確保し、企業価値は35億ドルに達した。2万ドルの元手で立ち上げたAirbnbは、2014年に5億ドル近くを集めて100億ドルまで企業価値を拡大したが、その資金はすべて未公開株により調達された。一連の取り引きは、未上場のテクノロジー企業への投資ブームの端緒となり、のちにはベンチャー以外のミューチュアル・ファンドや政府系投資ファンドもこれに加わって資金供給の担い手となっていった。

2015年2月、経済誌『ウォール・ストリート・ジャーナル』が企業価値10億ドル以上の新興企業リストの公表を開始し、その数はまもなく150社に達した。一方、カナダのバンクーバーでは、ガリバルディ・キャピタル・アドバイザーズの創業者で最高経営責任者(CEO)のブレント・ホリデーが、「ノーホエール・クラブ」と銘うった、企業価値10億カナダ・ドル(約8億ドル)以上のカナダ版ユニコーンのリストを作成した。ノーホエールとはイッカクと呼ばれる、カナダ北部の北極圏に生息する珍しい小型のクジラで、ホリデーは、この動物が長い牙で氷に穴を開けるさまが、カナダの新興企業の躍進ぶりを彷彿させると説明した。リストに含まれる企業には、創業者でCEOのスチュアート・バターフィールドに率いられたビジネス用メッセージソフトウェア開発のスラックなどがある。

2015年はまさに、ソフトウェア関連新興企業向けのベンチャー投資のピークとなった感がある。第2四半期にソフトウェア企業が集めた資金は75億ドルに達し、前回のピークだった2000年第2四半期の71億ドルを上回った。また、2015年の1億ドル以上の大型投資案件は計74件となり、2014年の50件から増加した。2015年はウーバーだけで110億ドルを調達したが、この額はほかの未上場企業のどこよりも大きかった。

公開市場との乖離

ユニコーン企業が株式の公開を免れているおもな理由は、2012年にバラク・オバマ大統領の署名により成立したJOBS法(Jumpstart Our Business Startups Act)の存在にある。JOBS法は規制緩和により小規模ビジネスへの支援を目指すものだ。従来は、株主数が500人以上になると未上場企業であっても企業情報の開示を義務づけられていた。このいわゆる500人ルールの存在が、2004年にはグーグル、2012年にはフェイスブックのIPOの引き金となった。JOBS法によって株主数の基準が2000人以上(非適格投資家500人以下の場合)に引き上げられた。

テクノロジー企業が証券取引所に上場した場合、上場前の企業価値と公開市場における株価との間に大幅な乖離が生じることがしばしばある。たとえば、ジャック・ドーシーが共同創業したモバイル決済サービスのスクエアは、2015年11月にIPOの公開価格を1株9ドルとしニューヨーク証券取引所に上場、この時点での時価総額は29億ドルとなった。上場前の最後の投資ラウンドでは、スクエアは1株15.46ドルで資金を調達し評価額も60億ドルであったから、その価値を大幅に下げたことになる。ところが、最終ラウンドで出資した投資家の多くは、ラチェット(「歯止め」の意)と呼ばれる利回り保証条項によって保護されていた。スクエアの公開価格は所定の水準(18.56ドル)に達しなかったためラチェットが発動され、投資家は埋め合わせのための追加の株式数百万株を受け取ることができたのだ。

将来の見通し

このように、投資家の一部はテクノロジー新興企業に対する投資を保護する契約によって守られたが、それほど幸運でなかった投資家もいた。2015年から2016年の初めにかけて、フィデリティ・インベストメンツなどのミューチュアル・ファンドは、ドロップボックス、クラウデラ、ゼネフィッツといった企業への投資に関連する損失を計上し始めた。

証券取引委員会(SEC)のメアリー・ジョー・ホワイト委員長は、2016年3月にスタンフォード大学で行なった講演で、「資本形成の新たなモデル」から生じる課題について警告し、さらに、ユニコーン企業がSECや投資家に新たな問題を突きつけていると加えた。ホワイトは「私たちが全員で取り組むべき課題は、目をみはるほどの巨額の評価の裏側を見すえ、このトレンドが、賃金の一部を株式やストックオプションで受け取る(ユニコーン企業の)従業員を含む投資家たちに及ぼす意味合いを注意深く検証することだ」と指摘、一部の企業や起業家が「ユニコーン」の名の獲得に集中しすぎることに警鐘を鳴らし、途方もなく高い評価を得ようとして実際の価値より高く見せる企業が出てくることに懸念を表明した。

2016年にはすでに、追加の金融支援を受けられず廃業する新興企業がいくつかあった。フェイスブックに初期から投資していたベンチャー・キャピタリストのジム・ブレイヤーは、世界経済フォーラム開催中のスイスのダボスでのニュースサイト「ビジネスインサイダー」とのインタビューで、ユニコーン企業の約9割は評価が見直されるか廃業する運命にあり、生き残るのは約1割にすぎないと予想した。数十億ドルの評価が適切とみなされている企業――ウーバーやAirbnbなど――ですら、将来は不透明とされている。こうした企業が株式を公開した場合にどう評価されるのか、投資家が財務諸表を分析する機会を与えられるのかは、なお大きな疑問である。