1902 かつて火星に運河があった?

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天文学者は長い間,火星地球の表面が驚くほど似ているとみなしていたし,そうであってほしいと願ってもいた。彼らの推測では,火星の表面の明るい部分が大陸で,暗い部分が海洋のはずだった。ジョバンニ・スキアパレリは,海洋とされる複数の部分が細い線状の模様で結ばれているという大発見をした。スキアパレリはその模様を「カナリ(イタリア語で水路の意)」と命名。この言葉が誤って「運河」と英訳されたせいで,線状の模様は火星人がつくったものだという解釈が生まれた。だが,スキアパレリが作成した複数の火星地図を比べたり,パーシバル・ローエルの地図とスキアパレリの地図を比較すると,線状の模様が完全には一致していないことがわかる。エドワード・エマソン・バーナードはリック天文台の大口径の望遠鏡を用いた観測結果をもとに,運河説を否定している。最先端の機器による観測では,微小な点が不規則に,大量に散らばっているだけで,線状の模様は確認できない……。

火星の模様が点なのか線なのかという論争は,視覚の特質を考えることで決着をつけられるかもしれない。たとえば,人物の表情などを点刻法で描いた美術作品を少し離れた場所から眺めると,点ではなく,連続した光と影の像のように見える。しかし,拡大鏡を通して同じ作品を見ると,線ではなく,点の集合にしか見えない。要するに,人間の目には,隣り合って並んだ一続きの点が線のように映るのだ。

火星の表面に関する現在の定説をまとめると,以下のようになるだろう。(1) 火星の暗い部分は,海洋ではない。暗い部分は火星表面の固体の色だと考えるべきだろう。火星が太陽から受ける単位面積あたりの熱量は,地球が受ける熱量の 2分の1未満だ。地球を取り巻く大気の密度がもっと低いか,水蒸気が少ないと,地表の平均温度は現在より低くなると一般的に考えられている。したがって,大量の水が液体として存在できるほど,火星の表面の温度が高いということはまずありえない。(2)火星地図に描かれているような「運河」や「水路」が実際に存在する可能性は低い。火星表面の影や色合いの不規則な変化が線状の模様と誤認されただけだろう。