「金融工学」の版間の差分

提供: miniwiki
移動先:案内検索
ja>レトルト戦闘糧食味見
(関連項目)
 
 
(同じ利用者による、間の1版が非表示)
1行目: 1行目:
{{出典の明記|date=2011年6月}}
 
'''金融工学'''(きんゆうこうがく、[[英語]]:financial engineering、computational finance)は、[[資産運用]]や取引、[[リスクヘッジ]]、[[リスクマネジメント]]、[[投資]]に関する意思決定などに関わる[[工学]]的研究全般を指す。
 
  
== 概要 ==
+
'''金融工学'''(きんゆうこうがく、[[英語]]:financial engineering、computational finance)
[[金融経済学]]([[:en:financial economics|financial economics]])や[[数理ファイナンス]]を理論的バックグラウンドとして持ち、[[金融機関]]が事業活動を通じて取り扱う様々なリスクを計測し、適切に管理することを目的として発展した。
 
  
金融工学は新しい学問領域であるといわれるが、その淵源は[[マンハッタン計画]]といわれる。これは金融工学が[[1950年代]]以降、[[経済学]]・[[会計学]]・[[工学]]・[[数学]]など様々な学問領域と接点を持ちながら形成されてきたためである。金融工学の中でも画期的な研究としては、1950年代に[[ハリー・マーコウィッツ]]が示した[[現代ポートフォリオ理論]]や、[[1970年代]]に[[フィッシャー・ブラック]]や[[マイロン・ショールズ]]らによる[[デリバティブ]]の価格理論、Harrison、Kreps、Pliskaらによる確率同値における無裁定性と均衡などが有名である。
+
将来起こるかどうかわからないリスクを確率や統計といった数学的手法を駆使して分析し、株式や債券などの資産運用について、工学的手法で研究する学問。金融経済学などに比べ、資産管理や運用など実務的問題を扱う技術的側面が強い。金融工学は金もうけにつながる学問との誤解があるが、あくまでリスクを避けて効率的なリターン(収益率)を追究する学問である。
 
 
金融工学における[[プライシング理論]]は、[[一物一価の法則|一物一価]]の考え方に基づくところである。経済学での議論における[[需要]]と[[供給]]の関係において[[アロー・ドブリュー証券]]の仮定を置くことにより、同時点での将来価値が同値な[[財]]は同じ現在価値を持つ、という前提を組み立てる。たとえば、株のコール[[オプション]]と[[債券]]と[[株式]]を保有している投資家は、'''[[ポートフォリオ_(金融)|ポートフォリオ]]'''の組み合わせによって、瞬間的に[[超過収益]]を得ることができない。この関係から、3者の価格においては均衡式を得ることができるのである。金融工学の理論は、金融実務と密接に結びついており、金融工学理論から得られた算式は[[プライシング]]・[[リスク管理]]・[[会計]]の実務でも広く用いられており、金融工学の発展の背後には、金融実務への適用がある。
 
 
 
== 産業での利用 ==
 
金融工学が用いられる主な分野として、
 
 
 
* [[投資銀行]]における企業価値の測定
 
* [[デリバティブ]]([[先物]]、[[先渡]]、[[オプション取引|オプション]])取引
 
* [[機関投資家]]の最適投資戦略
 
* [[不動産担保証券]]などのプライシング
 
* [[リアルオプション]]([[:en:Real options analysis|Real options analysis]])によるプロジェクト価値の測定
 
* [[金融機関]]の[[リスクマネジメント]]
 
 
 
が挙げられる。
 
 
 
== 関連項目 ==
 
*[[金融]]
 
*[[数理ファイナンス]]
 
*[[現代ポートフォリオ理論]]
 
*[[デリバティブ]]
 
*[[伊藤清]]
 
*[[伊藤の補題]]
 
*[[ブラウン運動]]
 
*[[エドワード・オークリー・ソープ]]
 
*[[マイロン・ショールズ]]
 
*[[フィッシャー・ブラック]]
 
*[[ブラック–ショールズ方程式]]
 
*[[NAG]]
 
*[[IMSL]]
 
*[[MATLAB]]
 
*[[R言語]]
 
*[[貸借対照表]]
 
*[[損益計算書]]
 
*[[キャッシュフロー計算書]]
 
* [[マネー革命]]
 
  
 +
 1950年代にアメリカのH・M・マルコビッツが「リスク」と「リターン」を数学的に定義し、分散投資が資産運用に役だつことを統計学的に証明。投資リスクを予測・評価する物差しが生まれ、金融工学の研究がスタートした。1970年代には、1997年のノーベル賞受賞対象となる「ブラック・ショールズ・マートンの方程式」が登場。将来の資産価格を売買するオプションなど金融派生商品(デリバティブ)の価格を簡単に計算できるようになり、デリバティブ市場拡大とともに、金融工学の隆盛につながった。さらに一段と精緻(せいち)化した「ハリソン・クレプス・プリスカの無裁定原理と同値マルチンゲール測度理論」が誕生し、金融工学を駆使してさまざまな金融商品が開発されるようになった。
 +
 +
 ただ1998年に、金融工学でノーベル賞を受賞した学者が設立に加わったアメリカのヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻(はたん)。金融工学で開発されたサブプライム住宅ローン関連商品が2008年の世界金融危機の引き金になるなど、最近は金融工学を見直す機運も高まっている。金融工学の基礎となるリスクの数値化はあくまで過去の平均値を基準とするため「100年に一度」といわれる危機を予測することはできないうえ、世界的な「カネ余り」現象がバブル経済を招き、人々のリスク意識を鈍らせたとする反省もある。このため最近では脳科学などを応用して、金融工学の新領域を開拓する試みも進んでいる。
 +
 +
 日本では、江戸時代に大坂・堂島(どうじま)で先物取引の一種が行われていたほか、ブラック・ショールズ・マートンの方程式を導き出すには、数学者の伊藤清(1915―2008)がみつけた基本定理を使わねばならないなど、金融工学の素地は昔からあったとされる。しかし東京大学などで金融工学の専門研究部門が誕生したのは1990年代と、欧米に比べて実用化や人材育成面で10年以上後れをとっているとされる。
 +
 
{{DEFAULTSORT:きんゆうこうかく}}
 
{{DEFAULTSORT:きんゆうこうかく}}
 
[[Category:数理ファイナンス|*きんゆうこうかく]]
 
[[Category:数理ファイナンス|*きんゆうこうかく]]
 
[[Category:工学の分野]]
 
[[Category:工学の分野]]
 
[[Category:金融]]
 
[[Category:金融]]

2019/4/25/ (木) 16:30時点における最新版

金融工学(きんゆうこうがく、英語:financial engineering、computational finance)

将来起こるかどうかわからないリスクを確率や統計といった数学的手法を駆使して分析し、株式や債券などの資産運用について、工学的手法で研究する学問。金融経済学などに比べ、資産管理や運用など実務的問題を扱う技術的側面が強い。金融工学は金もうけにつながる学問との誤解があるが、あくまでリスクを避けて効率的なリターン(収益率)を追究する学問である。

 1950年代にアメリカのH・M・マルコビッツが「リスク」と「リターン」を数学的に定義し、分散投資が資産運用に役だつことを統計学的に証明。投資リスクを予測・評価する物差しが生まれ、金融工学の研究がスタートした。1970年代には、1997年のノーベル賞受賞対象となる「ブラック・ショールズ・マートンの方程式」が登場。将来の資産価格を売買するオプションなど金融派生商品(デリバティブ)の価格を簡単に計算できるようになり、デリバティブ市場拡大とともに、金融工学の隆盛につながった。さらに一段と精緻(せいち)化した「ハリソン・クレプス・プリスカの無裁定原理と同値マルチンゲール測度理論」が誕生し、金融工学を駆使してさまざまな金融商品が開発されるようになった。

 ただ1998年に、金融工学でノーベル賞を受賞した学者が設立に加わったアメリカのヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻(はたん)。金融工学で開発されたサブプライム住宅ローン関連商品が2008年の世界金融危機の引き金になるなど、最近は金融工学を見直す機運も高まっている。金融工学の基礎となるリスクの数値化はあくまで過去の平均値を基準とするため「100年に一度」といわれる危機を予測することはできないうえ、世界的な「カネ余り」現象がバブル経済を招き、人々のリスク意識を鈍らせたとする反省もある。このため最近では脳科学などを応用して、金融工学の新領域を開拓する試みも進んでいる。

 日本では、江戸時代に大坂・堂島(どうじま)で先物取引の一種が行われていたほか、ブラック・ショールズ・マートンの方程式を導き出すには、数学者の伊藤清(1915―2008)がみつけた基本定理を使わねばならないなど、金融工学の素地は昔からあったとされる。しかし東京大学などで金融工学の専門研究部門が誕生したのは1990年代と、欧米に比べて実用化や人材育成面で10年以上後れをとっているとされる。