製作委員会方式

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製作委員会方式(せいさくいいんかいほうしき)とは、アニメ映画テレビ番組などの映像作品や、演劇ミュージカルなどの舞台作品を作るための資金調達の際に、ひとつの大企業による単独出資ではなく、複数の企業に出資してもらう方式のことである。

また、そのように複数企業に出資してもらった場合に、出資企業全体をまとめて製作委員会と呼ぶ。

アニメ産業では、現在の主流の出資形態となっている。たとえるなら、建設業における共同企業体(JV)と同様の形態(パートナーシップ)のようなものである。

概説

名前こそ「製作委員会」などと特別な呼び名がついているが、要するに、映像コンテンツを作る際の出資スポンサー企業の団体である。

なお、放映時のスポンサーのことではなく(いわゆる「ごらんのスポンサー」ではなく)、放映前の時点での、作品をつくる資金を提供するスポンサーのことである。

単語の意味

まず、2000年以降のアニメ業界では、「製作」と「制作」とを、違う意味として区別する。

アニメーターを雇用しているアニメ会社がアニメをつくることを「制作」(「製作」の字ではない)という。また、そしてアニメ業界の用語では、アニメ会社などのことを、アニメ業界では「アニメーション制作会社」などと言う。

一方、そのアニメをつくるための出資企業の全般のことを「製作」という。そして、「制作」と「製作」は、別の行為として区別される。「製作」になる企業は、例えば、テレビ局、出版社、レコード会社、・・・である。そしてアニメ業界の用語では、このような出資企業のことを「製作会社」という。

「製作委員会」とは、製作会社の団体のことであり、つまり、アニメ出資企業によって構成される団体である。

なお、一般にアニメ業界では、アニメーション制作会社は、製作委員会として出資する事例は少ない。

ただし、「制作」と「製作」の区別は2000年以前は明確ではなく、たとえば1996年の機動新世紀ガンダムXでは、当時のテレビ放映時ではテレビ朝日が「制作」として紹介されている。

背景

一般に、アニメや映画などのエンターテインメント作品の製作にあたっては多額の費用を必要とする[1]

これらの資金調達をする際、資金提供の企業をまとめて、「〇〇製作委員会」(〇〇には作品名が入る)などと、企業名以外の団体が自称される場合がある。

経緯

「〇〇製作委員会」のような団体は、1995年に新世紀エヴァンゲリオンがヒットした後、その後、製作されたアニメ作品のスポンサー団体で使われ始め、そのアニメ番組のオープニング動画などでも制作会社などとともに紹介されるようになった。このような経緯のため、アニメ業界で「製作委員会」という用語が使われることが多い。

しかし、1995年以前にも「製作委員」との名前こそついてないものの、同様の内容のスポンサー団体は、エヴァンゲリオン以前から存在していた。

1992年放送の『無責任艦長タイラー』では、製作会社(出資企業のこと)を「タイラープロジェクト」として紹介し、これがテレビアニメ初の製作委員会方式であると考えられている(複数の出資企業がまとまって団体名を名乗る行為であるので)。

後の1995年以降では『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビアニメ版)がヒットして社会現象などとして報道された事などによって、日本の経済界ではアニメ産業への投資熱・出資熱が高まった。

そして、1990年代後半に作られたアニメで、オープニング動画のクレジットで「〇〇製作委員会」などと称して、出資企業が紹介される事が現れ始めた。 既に1997年の時点で、映画公開された劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』のクレジット紹介において「EVA製作委員会」の表記が見られる。

1997年以前は、実際には明らかに5社や場合によっては10社以上といった多数の企業がアニメに出資しているアニメ作品であっても、放映されたアニメ番組では、出資企業のうちの幹事的な1~3社だけを、オープニング動画などのクレジットで「製作会社」として紹介する場合が多かった。(放映当時のアニメグッズの販売企業の数や、キー局での放送時のスポンサーなどの数から、明らかに、公表された「製作」会社よりも多くの企業が作品に出資している。)

なお、1995年のエヴァンゲリオンの企画団体「Project EVA」は、ネット上の評論などで製作委員会と間違われやすいが、そもそも「Project EVA」は製作会社ではなく企画団体である。テレビ版エヴァンゲリオンの製作会社は、名義的には、テレビ東京とNASの2社である。これら製作会社とは別に、「Project EVA」がオープニング動画のクレジットで紹介されていることからも、別団体であることが分かる。

「Project EVA」の実態はキングレコードであり、この理由は、放映当時、キングレコードの大月俊倫プロデューサー(当時)がエヴァンゲリオンの企画に初期段階から携わってたことを一般メディアには非公表だったため、匿名的に名前を隠しただけである。

また、アニメグッズやアニメ広告などでも、丸Cなどの権利表示を行う際、出資企業が多数に渡る場合に、主要企業のほかは「〇〇製作委員会」などと省略される事なども起きた。

やがて、「製作委員会」という用語が定着するにつれ、エヴァンゲリオンやタイラー以前の従来から行われていた、複数のスポンサー企業によるアニメ産業への出資形態のことを「製作委員会方式」などと呼ぶようになった。

しかし、慣習的な理由により、エヴァンゲリオン・タイラー以前の作品については、たとえ出資形態が複数企業による出資であっても、「製作委員会方式」と呼ぶことは少ない。

このため、1995年ごろのタイラー・エヴァンゲリオン以降のアニメという条件で、かつ出資形態が複数企業の場合という条件のもとに、その出資形態を「製作委員会方式」と呼ぶようになった。

しかし、そもそもアニメ業界では一般に、ごく一部のアニメを除き、ほとんどのアニメ作品の出資企業は複数なので、事実上、ほぼすべてのアニメにおいて、「製作委員会」とは、そのアニメの出資者のこととなった。

近年では、アニメ以外の番組でも「製作委員会」という用語が使用されはじめ、深夜特撮番組『牙狼<GARO>』や、バラエティ番組では『週刊AKB[2]・『内村さまぁ〜ず』・『バナナ炎』、民放キー局であるテレビ東京では金曜深夜の『ドラマ24』・『テレビ東京月曜10時枠の連続ドラマ』では製作委員会方式を採用した。

手法

一般に、映像コンテンツの出資の募集では、主導権を持つ幹事会社が複数の会社に対し出資を募り資金リスクを分散する。

製作委員会方式では、もし利益が出た場合は、これを出資比率に準じて分配する。スポンサー企業にとっては1作品への投資を減らすことができるため、1社がより多くの作品に関与することが可能となり、制作プロダクションとしては映画製作費の調達を容易にもできる。

製作委員会方式を採用しているテレビアニメ番組では、放送局が製作に関与していない例も少なくない。また、最近のNHKで放送されるアニメにも製作委員会方式で制作される作品が登場している[3]。またTBS読売テレビのように自局では放送せず、自局放送対象エリア内の独立局を中心に放送を展開する例も一部ある。

民法上の問題と対策

製作委員会は、法律的には民法上の任意組合であり「組合員」である出資スポンサーは無限責任を負う。そのため、機関投資家や金融関係者などが参加しにくく、出資先を広げにくいという欠点がある。また、作品の著作権が各出資スポンサーに分散され、各種メディアでの事業展開の際に権利処理が煩雑になるという欠点がある(アンチコモンズの悲劇も参照)。

さらに、出資スポンサーが倒産・解散するなどした場合、「強制執行などの任意でない持分の移転により、予期せぬ著作権の流出が発生する」「権利の所在が不明となり、作品の二次利用ができなくなる」といった事態も起こりうる。

そこで最近では「特別目的会社」(SPC)や「有限責任事業組合」(LLP)を利用して、作品を製作するための会社を設立することも行われている。出資スポンサーは有限責任が保障されており、資金の流れが透明化されるため、機関投資家や金融関係者などが出資しやすくなり、出資スポンサーの多様化や製作予算の拡大が容易になる。また、作品の著作権の帰属がSPCやLLPに一本化されるため、将来誕生する新しいメディア媒体で事業展開する際にスピーディに対応できるという利点がある。代表例として『かいけつゾロリ』の「ゾロリエンターテイメント」[4]が挙げられる。また、株式会社方式では松竹主導で設立した同名映画作品のアナザヘヴン社もある。[5]

名称

製作委員会の名称は「○○製作委員会」が基本であるが、「○○プロジェクト」・「○○パートナーズ」・「○○フィルムパートナーズ」・「○○フィルム・コミッティ」・「Team○○」などの名称がある。

また、アニメ作品においては『銀河鉄道物語』の「銀河鉄道管理局」(第1作のみ)、『けいおん!』シリーズにおける「桜高軽音」、『たまこまーけっと』における「うさぎ山商店街」(このほか京都アニメーション製作のものには特に多い)や『ハヤテのごとく!』シリーズにおける「三千院家執事部」「白皇学院生徒会」、『イナズマイレブン』での「FCイナズマイレブン」、『トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察』での「ドライブヘッド」、『ご注文はうさぎですか?』での「ご注文は製作委員会ですか?」などのように作品のイメージ・世界観や劇中で登場する組織にちなんだ名称も見られる。

著作権表示における著作権者名は製作委員会への出資額の順に並べられることが多い(原作者・原作の著作権/出版社<漫画・小説が原作の場合>/制作局/○○製作委員会など)。

日本国外での製作委員会表記は「○○製作委員会」(production committee)、「○○フィルムパートナーズ」(Film Partners)と表記されることがある。

アニメ業界における製作委員会方式の将来像

2017年の「けものフレンズ」におけるトラブルでは、監督を支持するファン層・評論家などを中心として、製作委員会方式が批判された。

このトラブル以降、アニメ業界では製作委員会方式を否定する声が増え始めた。

けものフレンズでのトラブルに伴い、同作品の製作委員会を降板したアニメ制作会社ヤオヨロズのプロデューサー福原慶匡は、権利を事前に販売し、資金調達してから製作開始する、新たな「パートナーシップ方式」を提案した[6]

数々のアニメ作品の製作委員会に出資し、けものフレンズにも出資しているブシロードの創立者木谷高明は、アニメやブシロードが展開しているアプリゲームの制作費は格段に上がっているとし、プロジェクトによっては、この2種を合わせて企画すると15-20億円の費用が必要で、これは子ども向けアニメ1作品が1年分製作できる額であるとする。一方で製作委員会方式の場合、これだけの予算に対し、仮に5%・1,000万円出資している企業があったとしたら、その5%の企業にも“お伺い”を立てねばならず、時間をロスしており、デメリットであると指摘。そして、今後、アニメの製作委員会方式は少なくなり、100%出資作品が増えると予測している[7]

クリエイターであると同時に大阪成蹊大学造形芸術学科長で教授の糸曽賢志は、自身で100%出資した作品の資料を教育現場に提供、そのライセンス料を持って、完成した作品の公開前から製作費を回収してしまうという。これは自らで権利を有しているからできるのであって、製作委員会方式ではクリエイターが自由にビジネスを展開できないと指摘する[8]


類語

エヴァンゲリオンのヒットした1995年以降の1996年の時点でも、まだ製作委員会という用語が普及しておらず、幹事的な出資企業以外には別の用語が使われていた。

1996年放映の『セイバーマリオネットJ』および『天空のエスカフローネ』では、幹事的な製作会社以外の出資者を「製作協力」という用語も使われ、「製作協力」としてバンダイビジュアルが紹介されていた。(なお、「制作協力」と「製作協力」はアニメ業界では意味が違う。「制作協力」について詳しくはグロス請けを参照。)

1997年には、一部のテレビアニメで、オープニング動画などのクレジットで、「協力」という名義で、大手の商社が紹介される現象が起きた。1997年のアニメ『はいぱーぽりす』では「協力」として丸紅がクレジットされた。また同1997年、『エルフを狩るモノたちII』では、三菱商事が「協力」としてクレジットされた。

なお、1997年の『ネクスト戦記EHRGEIZ』のオープニング動画では、「製作」 が PROJECT EHRGEIZ としてクレジット紹介された。


脚注

関連項目

参考文献

  • 作花文雄 『著作権法 制度と政策』 発明協会、2008年4月、第3版、303-304頁。ISBN 978-4-8271-0890-3

外部リンク

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