裁判所
裁判所(さいばんしょ、英:Law court)は、裁判官によって構成され司法権を行使する国家機関[1]、及びその庁舎を指す。日本語の「裁判所」は、1890年に公布された裁判所構成法(明治23年法律第6号)から一般的な呼称になった。
Contents
概説
「裁判所」には司法行政上の官署としての裁判所、司法行政上の官庁としての裁判所、裁判機関としての裁判所の3つの意味があり、前二者をまとめて国法上の意味の裁判所ともいう[1]。
国法上の意味の裁判所
官署ないし官庁としての裁判所を国法上の意味の裁判所という[1][2]。
- 官署としての裁判所
- 官署としての裁判所とは裁判官を中心として裁判所職員やその設備の全体を含む意味での裁判所をいう[2]。
- 官庁としての裁判所
- 官庁としての裁判所とは司法行政上の国家意思を決定しこれを表示する国家機関をいう[2]。
裁判機関としての裁判所
実際にある個別的・具体的な争訟(訴訟)を審理する裁判体。裁判機関としての裁判所は当該裁判所の裁判官により構成される[3]。
日本の裁判所
日本国憲法下の裁判所
司法権の帰属
日本国憲法第76条第1項は「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」とする。裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する[4]。
特別裁判所の禁止
日本国憲法第76条第2項前段は「特別裁判所は、これを設置することができない。」とする。日本国憲法が特別裁判所を禁じている趣旨は、法廷の平等(公平・平等の原則)、司法の民主化、法解釈の統一性を考慮したものである[5]。
日本国憲法にいう「特別裁判所」とは、特定の地域・身分・事件等を対象として通常の裁判所(通常裁判所)の系列から独立して設置される裁判機関をいう[5]。したがって、最高裁判所の系列下にある家庭裁判所や知的財産高等裁判所はこれにあたらない[5](家庭裁判所に関する判例、昭和31年5月30日最高裁大法廷判決刑集第10巻5号756頁)。
憲法上の例外として、公の弾劾による罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために国会に設けられる弾劾裁判所がある(日本国憲法第64条)[5]。
行政機関の終審での裁判禁止
日本国憲法第76条第2項後段は「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」とする。
終審でなければ行政機関が準司法手続を行うこともできる(行政審判)。
裁判所職員
裁判所に勤務する者を裁判所職員といい、主なものとして以下がある。
国法上の「裁判所」
最高裁判所、各高等裁判所、各地方裁判所または各簡易裁判所がこれにあたる。
- 最高裁判所
- 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する(日本国憲法77条1項)。
- 高等裁判所
- 地方裁判所
札幌高等裁判所(北海道地方) | 仙台高等裁判所(東北地方) | 東京高等裁判所(関東地方) | 名古屋高等裁判所(中部地方) |
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札幌地方裁判所 函館地方裁判所 旭川地方裁判所 釧路地方裁判所 |
仙台地方裁判所 【宮城県】 福島地方裁判所 【福島県】 山形地方裁判所 【山形県】 盛岡地方裁判所 【岩手県】 秋田地方裁判所 【秋田県】 青森地方裁判所 【青森県】 |
東京地方裁判所 【東京都】 横浜地方裁判所 【神奈川県】 さいたま地方裁判所 【埼玉県】 千葉地方裁判所 【千葉県】 水戸地方裁判所 【茨城県】 宇都宮地方裁判所 【栃木県】 前橋地方裁判所 【群馬県】 静岡地方裁判所 【静岡県】 甲府地方裁判所 【山梨県】 長野地方裁判所【長野県】 新潟地方裁判所 【新潟県】 |
名古屋地方裁判所 【愛知県】 津地方裁判所 【三重県】 岐阜地方裁判所 【岐阜県】 福井地方裁判所 【福井県】 金沢地方裁判所 【石川県】 富山地方裁判所 【富山県】 |
大阪高等裁判所(近畿地方) | 広島高等裁判所(中国地方) | 高松高等裁判所(四国地方) | 福岡高等裁判所(九州地方) |
大阪地方裁判所 【大阪府】 京都地方裁判所 【京都府】 神戸地方裁判所 【兵庫県】 奈良地方裁判所 【奈良県】 大津地方裁判所 【滋賀県】 和歌山地方裁判所 【和歌山県】 |
広島地方裁判所 【広島県】 山口地方裁判所 【山口県】 岡山地方裁判所 【岡山県】 鳥取地方裁判所 【鳥取県】 松江地方裁判所 【島根県】 |
福岡地方裁判所 【福岡県】 佐賀地方裁判所 【佐賀県】 長崎地方裁判所 【長崎県】 大分地方裁判所 【大分県】 熊本地方裁判所 【熊本県】 鹿児島地方裁判所 【鹿児島県】 宮崎地方裁判所 【宮崎県】 那覇地方裁判所 【沖縄県】 |
裁判機関としての「裁判所」
裁判官1人からなる「一人制」と裁判官3人・5人又は15人からなり、裁判長が訴訟指揮を担う「合議制」とに区分される。ただし、裁判員裁判対象事件では、裁判官と裁判員からなる合議体が「裁判所」を構成し、心神喪失者等医療観察法の処遇事件では、裁判官と精神保健審判員からなる合議体が「裁判所」を構成する。
最高裁の場合、各「小法廷」又は「大法廷」が、訴訟法上の「裁判所」と一致すると考えて大過ない。下級裁判所の場合、合議制の「裁判所」の裁判官は、通常、個々の「民事○部」や「刑事○部」(○に数字が入る。)などの部や支部ごとに、その部又は支部に所属する裁判官からなり[6]、その裁判長は、その部の事務を総括する裁判官(部長)又は支部長が務めることになる[7]。
大日本帝国憲法下の裁判所
アメリカ合衆国の裁判所
アメリカ合衆国では連邦制がとられており、連邦と州の二重の司法制度を有している[8]。
アメリカ合衆国憲法修正第10条は「本憲法によって合衆国に委任されず、また州に対して禁止されなかった権限は、それぞれの州または人民に留保される」としており、州裁判所は連邦裁判所から独立して管轄権を行使する[8]。
連邦裁判所は、アメリカ合衆国憲法、アメリカ連邦議会の制定法、これらを解釈する連邦裁判所判決によって特に与えられたものに限り管轄権を有する[8]。
連邦裁判所
- 連邦最高裁判所(Supreme Court)
- 連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals)
- 連邦地方裁判所(District Court)
- 特別裁判所
- 連邦議会は連邦請求裁判所など特定の種類の訴訟を扱う特別な連邦下級裁判所を創設している[10]。
州裁判所
州によって州裁判所の種類や数は異なっている[10]。典型的には、最上級裁判所を頂点に、中間上訴裁判所、一般管轄裁判所(事実審裁判所)で構成されることが多い[10]。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 新堂幸司 1991, p. 81.
- ↑ 2.0 2.1 2.2 中武靖夫 1987, p. 14.
- ↑ 新堂幸司 1991, p. 82.
- ↑ 裁判所法第3条第1項
- ↑ 5.0 5.1 5.2 5.3 渋谷秀樹 & 赤坂正 2016, p. 97.
- ↑ 下級裁判所事務処理規則5条1項
- ↑ 下級裁判所事務処理規則5条2項
- ↑ 8.0 8.1 8.2 モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 2006, p. 6.
- ↑ 9.0 9.1 9.2 9.3 9.4 9.5 9.6 モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 2006, p. 9.
- ↑ 10.0 10.1 10.2 モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 2006, p. 10.
参考文献
- 『憲法2 統治 第6版』 有斐閣、2016年。
- 『注釈民事訴訟法 第1巻 裁判所・当事者1(第1条〜第58条)』 有斐閣、1991年。ISBN 9784641017313。
- 『注解刑事訴訟法 上巻 全訂新版』 青林書院、1987年。ISBN 9784417007265。
- モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 『アメリカの民事訴訟 第2版』 有斐閣、2006年。ISBN 9784641134805。