「群論」の版間の差分

提供: miniwiki
移動先:案内検索
(1版 をインポートしました)
(内容を「'''群論'''(ぐんろん、{{lang-en|group theory}}) 群の理論およびその応用に関して研究する数学の一分科をいう。歴史的には 18世紀...」で置換)
(タグ: Replaced)
 
1行目: 1行目:
{{Groups}}
+
'''群論'''(ぐんろん、{{lang-en|group theory}}
'''群論'''(ぐんろん、{{lang-en|group theory}})とは、[[群 (数学)|群]]を研究する学問。
 
群の概念は[[抽象代数学]]における中心的な概念。
 
  
[[環 (数学)|環]]・[[可換体|体]]・[[ベクトル空間]]などは、[[演算]]や[[公理]]が付与された群と看做すことができる。
+
群の理論およびその応用に関して研究する数学の一分科をいう。歴史的には 18世紀末の J.ラグランジュらによる高次方程式の代数的解法に関連して,まず置換群の概念が導入された。やがて N.アーベルや E.ガロアによる代数方程式の研究では,群の概念がその中心的な役割を果すこととなり,群の重要性が認識されるようになった。その後,A.コーシーらの研究により,19世紀なかばに群概念の基本的な完成がみられた。しかし群の理論が一般化され,数学全般に影響をもつようになったのは,その後の研究,特に A.ケーリー,L.クロネッカー,F.クライン,M.リーなどの業績によるものである。
 
 
群論の方法は[[代数学]]の大部分に強い影響を与えている。
 
 
 
[[線形代数群]]と[[リー群]]の理論は群論の一分野。
 
特に発展を遂げており、独自の適用範囲を持っている。
 
 
 
[[結晶]]や、[[水素原子]]などの構造の多くは、[[対称性の群]]([[:en:symmetry group|symmetry group]])で表現できる。このように、群論は、[[物理学]]や[[化学]]の中に多くの実例・応用例がある。
 
 
 
1960年代~80年代に発表された総計1万ページを超える論文によって、完全な[[有限単純群の分類]]が達成された。これは多くの数学者の共同作業の賜物であり、20世紀の数学の最も重要な業績の一つ。
 
 
 
== 研究史 ==
 
{{Main|{{仮リンク|群論の歴史|en|History of group theory}}}}
 
群論は、歴史的に3つの源泉がある。[[数論]]、[[代数方程式]]論、[[幾何学]]である。数論の系統は、[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]に始まり、[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]の[[合同式]]の理論、および[[二次体]]に関係した加法群・乗法群の研究によって発展した。
 
 
 
[[置換群]]に関する初期の研究成果は、[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ|ラグランジュ]]、[[パオロ・ルフィニ|ルフィニ]]、[[ニールス・アーベル|アーベル]]らの、代数方程式の一般解の研究の過程で得られた。
 
 
 
[[エヴァリスト・ガロア]]は「群」という用語を作った。
 
彼は、初期の群論と現在の[[体論]]を結びつけた。
 
 
 
幾何学については、群はまず[[射影幾何学]]で、のちに[[非ユークリッド幾何学]]で重要になった。
 
[[フェリックス・クライン]]は[[エルランゲン・プログラム]]において、
 
群論は幾何学の原理を統合するものになることを予言した。
 
 
 
1830年代、エヴァリスト・ガロアが初めて、[[代数方程式]]の可解性の判定に、群を導入した。
 
[[アーサー・ケイリー]]と[[オーギュスタン=ルイ・コーシー|コーシー]]はこの研究を発展させ、
 
[[置換群]]の理論を創設した。
 
 
 
歴史的な2番目の源泉としては、[[幾何学]]方面からの流れがある。
 
可能な幾何学([[ユークリッド幾何学]]、[[双曲幾何学]]、[[射影幾何学]])へ群を適用したのは、
 
フェリックス・クラインの[[エルランゲン・プログラム]]に始まる。
 
 
 
1884年、[[ソフス・リー]]は群(現在リー群として知られている)を[[解析]]的問題に適用した。
 
三番目に、群は(最初は暗黙的に、後に明示的に)[[代数的整数論]]に用いられた。
 
 
 
これら初期の源流では、観点が違っていたので、そのため群に対する観念も違ったものとなっていた。
 
1880年頃から群の理論の統合がなされてくる。
 
そして、群論の影響はますます増大し、20世紀初期には[[抽象代数学]]、[[表現論]]など多くの派生分野が成立した。
 
[[有限単純群の分類]]は、20世紀中頃より膨大な量の研究がなされ、ついに完成に至った。
 
 
 
== 群の主なクラス ==
 
{{Main|群 (数学)}}
 
群の範囲は、有限[[置換群]]や[[行列群]]の特殊な例から、生成系と基本関係で[[群の表示|表示]]される抽象群まで、いくつかのクラスに分かれていると考えることができる。
 
 
 
=== 置換群 ===
 
初めて系統的な研究のなされた群のクラスは[[置換群]]である。
 
任意の集合 ''X'' と、''X'' からそれ自身への[[全単射]]('''置換'''とも呼ばれる)の集まり ''G'' で合成と反転に関して閉じているようなものが与えられたとき、''G'' は ''X'' に[[群作用|作用]]する群であるという。
 
 
 
''X'' が''n'' 個の元からなり、''G'' が置換'''全体'''からなるならば、''G'' は ''n''-次[[対称群]] ''S''<sub>''n''</sub> と呼ばれる。
 
一般の置換群 ''G'' は ''X'' の対称群のある部分群となっているものをいう。
 
[[アーサー・ケイリー|ケイリー]]による初期の構成では、
 
任意の群は(左[[正則表現 (数学)|正則表現]]の意味で)''X'' = ''G'' として自分自身に作用する置換群として提示された。
 
 
 
多くの場合、置換群の構造は対応する集合への作用の性質を用いて調べられる。
 
例えば、''n'' &ge; 5 に対する[[交代群]] ''A''<sub>''n''</sub> が[[単純群]]である。
 
つまり、真の[[正規部分群]]を持たない。
 
次の方法で示すことができる。''A''<sub>''n''</sub> が単純であるという事実は、[[アーベル-ルフィニの定理|高次一般代数方程式の根の冪根による表示の不可能性]]において重要な役割を果たす。
 
 
 
=== 行列群 ===
 
次に重要な群のクラスは'''行列群'''あるいは[[線型代数群]]と呼ばれるものである。ここでは群 ''G'' は[[可換体|体]] ''K'' 上の与えられたサイズの[[正則行列]]からなる集合で、積と逆をとる操作について閉じているようなものである。そのような群は ''n''-次元ベクトル空間 ''K''<sup>''n''</sup> に[[線型変換]]として作用する。この作用により、行列群は概念的には置換群とよく似たものとなり、また作用の幾何学は群 ''G'' の性質を示すのに最大限有効に利用することができる。
 
 
 
=== 変換群 ===
 
 
 
置換群や行列群は、群が空間 ''X'' にその内在的な構造を保つように作用するという、[[変換群]]の概念の特別の場合である(置換群の場合は ''X'' は集合で、行列群の場合は ''X'' は[[ベクトル空間]]であった)。変換群の概念は[[対称変換群]](あるいは「対称性の群」)の概念に近い関係にある。変換群というとある構造を保つ変換「全体」の成す群を意味することが多い。
 
 
 
変換群の理論は群論と[[微分幾何学]]とを結びつける橋渡しの役割を果たすものである。[[多様体]]上の[[同相]]あるいは[[微分同相]]としての群作用の考察は、[[ソフス・リー|リー]]および[[フェリックス・クライン|クライン]]に始まり、膨大な研究がなされている。ここで扱う群それ自体は、[[離散群]]かもしれないし[[連続群]]となるかもしれない。
 
 
 
=== 抽象群 ===
 
群論の発展の初期段階では、群としては、数、置換、行列などによって実現される「具体的」なものばかりが考察の対象であった。特定の公理系を満たす演算を備えた集合としての「抽象群」の概念が根付き始めるのは、19世紀後半になってからのことである。抽象群を特定する典型的な方法のひとつは、生成元と基本関係による[[群の表示|表示]]
 
: <math> G = \langle S\mid R\rangle</math>
 
を通して与えられる。抽象群を与えるための最も重要な方法は、群 ''G'' とその正規部分群 ''H'' による商群あるいは[[剰余群]]と呼ばれる群 ''G''/''H'' を構成する操作である。[[代数体]]上の[[イデアル類群]]は早くから扱われてきた剰余群の例であり、[[数論]]において非常に重要である。群 ''G'' が集合 ''X'' 上の置換群であるとき、その剰余群 ''G''/''H'' はもはや ''X'' に作用しないものだが、抽象群を考えることによってこのような問題を心配する必要も無くなる。
 
 
 
具体的な群から抽象群へ視点を移すことにより、その群がどのように実現されているかということとは無関係に(現代的な言葉で言えば、[[同型]]のもとで不変な)群の性質について考察することが自然なものとなった。またこのような性質による群の分類も、[[有限群]]、[[捩れ (代数)|捩れ群]]、[[単純群]]、[[可解群]]などといったものが考えられる。また、個々の群の性質を探ることよりも、群のクラスに対して広く適用できるような結果を確立する方法が求められた。このような新しいパラダイムは、数学の発展に対して傑出した重要性を持つものであり、[[ダフィット・ヒルベルト]]、[[エミール・アルティン]]、[[エミー・ネーター]]および彼らに師事した数学者たちによって、[[抽象代数学]]が構築されていく前兆となるものであった。
 
 
 
===位相群と代数群===
 
群に新たな構造を付け加えることにより、群の概念が発展することになった。新たな構造とは、特に、[[位相空間]]、[[可微分多様体]]、[[代数多様体]]などである。群演算(乗法 ''m'' と反転 ''i'')
 
: <math> m\colon G\times G\to G, (g,h)\mapsto gh, \quad i\colon G\to G, g\mapsto g^{-1}</math>
 
が、上記の構造と両立可能であるとき、つまりこれらが[[連続写像|連続]]、[[滑らかな関数|滑らか]]、(代数幾何学的な意味で)[[正則写像 (代数幾何学)|正則]]な写像となっているとすると、群 ''G'' はそれぞれ[[位相群]]、[[リー群]]、[[代数群]]と呼ばれるものになる<ref>このように新しい構造を付加する手順は、適切な[[圏 (数学)|圏]]における[[群対象]] ([[:en:group object|group object]]) の概念として定式化される。リー群は可微分多様体の圏における群対象であり、[[アフィン代数群]]はアフィン代数多様体の圏における群対象である。</ref>。
 
群に別種の構造を付け加えることによって、これらの種類の群と、数学の別の分野が関連づけられる。そして、違う手法を研究に適用することが可能になる。
 
 
 
== 組合せ論的群論と幾何学的群論==
 
群を記述するのには複数の方法がある。有限群は、可能な全ての積 {{nowrap|''g'' * ''h''}} によって構成される[[乗積表]]を書き出すことによって記述することができる。もう一つの主要な方法としては、「生成系(生成元)と関係式」によって群を定義する方法であり、これは[[群の表示]]と言われる。
 
 
 
群 ''G'' の生成系を与える任意の集合 ''F'' = {''g''<sub>''i''</sub>}<sub>''i'' ∈ ''I''</sub> が与えられたとき、''F'' の生成する[[自由群]]から群 ''G'' への全射準同型が存在する。この全射準同型の核は ''F'' のある部分集合 ''D'' で生成され、基本関係のなす部分群と呼ばれる。このような群の表示は、ふつう &lang;''F'' | ''D''&rang; と書かれる。例えば、整数全体の成す加法群 '''Z''' = &lang;''a'' | &rang; はただ一つの元 ''a'' (= &plusmn;1) によって生成され、基本関係を持たない(''n'' が 0 でない限り ''n''1 は 0 ではないから)群である。生成元に対応する記号からなる文字列は'''語''' (word) と呼ばれる。
 
 
 
[[組合せ論的群論]]は、群を生成元と基本関係の側面から研究する学問である<ref>{{harvnb|Schupp|Lyndon|2001}}</ref>。これは、特に何らかの有限性条件、例えば有限生成であるとか有限表示を持つ(つまり、有限生成かつ基本関係が有限個しかない)というような条件が仮定されている場合に有用である。この分野は、その[[基本群]]を通して[[グラフ理論]]との関係を利用することができて、例えば自由群の任意の部分群が自由であることが示せる。
 
 
 
群を生成元と基本関係によって与える方法から、いくつかの問題が自然に生じてくる。'''[[群の語の問題|語の問題]]'''というのは「群の生成元からなる二つの語が、いつその群の同じ元を定めるか」というものである。この問題を[[チューリングマシン]]に関連付けることにより、この問題を一般に解決することのできる[[アルゴリズム]]が存在しないことを示すことができる。同じくらい困難な問題に「異なる表示によって与えられる二つの群が、いつ互いに同型となるか」という'''同型問題'''がある。例えば、さきほどの加法群 '''Z''' は
 
: &lang;''x'', ''y'' | ''xyxyx'' = 1&rang;
 
とも表すことができるが、この表示と先ほどの表示とが同型な群を与えるということは、表示だけ見れば自明なことではない。
 
 
 
[[File:Cayley graph of F2.svg|thumb|right|150px|自由階数 2 の自由群 &lang; x, y ∣ &rang; のケイリーグラフ]]
 
[[幾何学的群論]]とは、語の問題や同型問題といった問題に対して、群を幾何学的対象として見たり、群が作用する適当な幾何学的対象を求めるといったような幾何学的な視点から解決を試みるものである{{sfn|La Harpe|2000}}。前者の方法としては、群の元を頂点とし、右からの乗法によって写りあう元を辺で結んだ[[ケイリーグラフ]]がある。二つの元が与えられれば、それらの元を結ぶ最短経路の長さとして[[語の距離]]が定義できる。後者のやり方として、[[ジョン・ミルナー|ミルナー]]と Svarc による、([[コンパクト多様体]]のような)[[距離空間]] ''X'' に適当な方法で作用する群 ''G'' が与えられれば、群 ''G'' は空間 ''X'' に[[擬等長]] (quasi-isometric) であるという定理がある。
 
 
 
== 群の表現 ==
 
{{main|群の表現}}
 
群 ''G'' が集合 ''X'' に[[作用 (数学)|作用]]するとは、''G'' の各元が、''X'' 上定義された[[全単射]]で群構造と両立するものを定めることをいう。ただし、''X'' にさらに構造が入っているときは、それに応じて表現の概念に制限を加えるほうが有効である。例えばよくある状況として、群 ''G'' の[[ベクトル空間]] ''V'' における(または ''V'' を表現空間とする)表現([[線型表現]])とは、[[一般線型群|''GL''(''V'')]] を ''V'' 上の正則[[線型変換]]全体の成す群として、群準同型
 
: &rho;: ''G'' &rarr; ''GL''(''V'')
 
のことをいう。これはつまり、群 ''G'' の各元 ''g'' に[[自己同型|線型自己同型]] ρ(''g'') が割り当てられていて、さらに ''G'' の別の任意の元 ''h'' に対して ρ(''g'') ∘ ρ(''h'') = ρ(''gh'')が成り立つということである。
 
 
 
この定義は二つの方向性で捉えることができて、いずれの仕方でも([[群コホモロジー]]や[[同変K-理論|同変 ''K''-理論]]のような)数学のまったく新たな領域を生じる。ひとつは、群 ''G'' について新たな情報をもたらすものである。例えば群 ''G'' における演算はしばしば抽象的に与えられるけれども、表現 &rho; を通じて(特に表現が[[忠実表現|忠実]]のとき)群演算は[[行列の乗法|行列の積]]という非常に具体的なものに対応付けられることになる。もうひとつは、よく知られた群が与えられ、それが複雑な対象に作用しているものとすれば、そのような対象を調べるのが簡単になるというものである。例えば、''G'' が有限群とすれば、表現空間 ''V'' が[[既約表現]]の直和に分解されるという[[マシュケの定理]]が知られているが、既約表現に対しては[[シューアの補題]]などが利用できるので、''V'' 全体を考えるよりもずっと扱いやすい。
 
 
 
与えられた群 ''G'' に対する[[表現論]]とは、''G'' の表現としてどのようなものが存在しうるかを問うものである。状況設定はさまざまで、どのような手法を使えるかとか、どのような結果が得られるかというようなことがそれぞれの場合で変わってくる。[[有限群の表現論]]および[[リー群の表現|リー群の表現論]]は表現論における二大主要テーマである。群の表現の全体像は[[群の指標]]によって統制されている。例えば、[[フーリエ級数|フーリエ多項式]]は、周期函数全体の成す[[Lp空間| ''L''<sup>2</sup>-空間]]に作用する、[[絶対値]] 1 の[[複素数]]全体の成す群[[ユニタリ群| ''U''(1)]] の指標として解釈することができる。
 
 
 
== 群と対称変換 ==
 
{{Main|対称変換群}}
 
与えられた任意の種類の構造を持つ対象 ''X'' に対し、その[[対称変換]](あるいは[[対称性]]、symmetry)とは対象 ''X'' からそれ自身の上への構造を保つ[[変換 (数学)|変換]]のことを言う。これは多くの場面で見つかるが、たとえば
 
# 対象 ''X'' が特に付加的な構造を持たないただの[[集合]]であるとき、''X'' の対称変換とは集合 ''X'' からそれ自身への[[全単射]]のことであり、その全体として[[対称群]]が得られる。
 
# 対象 ''X'' が[[距離函数|距離構造]]を備えた平面上の点の集合(あるいはもっとほかの[[距離空間]])であるとき、''X'' の対称性とは集合 ''X'' 上の[[全単射]]であって、''X'' 上の任意の二点間の距離を保つもの([[等長写像|等距変換]])のことである。これに対応する群は ''X'' の[[等距変換群]]と呼ばれる。
 
# 先ほどと同じ集合で距離の代わりに[[角度|角]]を保つものは共形写像あるいは[[等角写像]]と呼ばれる。等角写像の全体からは、例えば[[クライン群]]が得られる。
 
# 対称変換は何も幾何学的対象に限ったものではなく、代数的対象にも同様に定義することができる。例えば、方程式<div style="margin: 1ex auto 1ex 2em"><math>x^2-3=0</math></div>は二つの根 &plusmn;&radic;3 を持つが、このとき、この二つの根を入れ替えるという対称変換が考えられ、これによって得られる群が、この方程式に属する[[ガロワ群|ガロア群]]と呼ばれるものである。一変数の任意の代数方程式が、その根の上のある種の置換群としてのガロア群を持つ。
 
 
 
群の公理は[[対称変換]]の本質的な性質を定式化するものであり、対称変換の全体は群を成す。実際、対象に対称変換を施してからさらに別の対称変換を施せば、得られる結果は再び対称変換であるから、対称変換は[[写像の合成]]に関して閉じている。また、対称を固定して動かさない恒等変換はかならずそ対象の対称変換である。逆元の存在については、対称変換の取り消しができるということによって保証され、群演算の結合性は対称変換が空間上の写像であり、写像の合成が結合的であることから従う。
 
 
 
[[フルフトの定理]] (Frucht's theorem) は「任意の群は、ある[[グラフ理論|グラフ]]の対称変換群である」ことを主張するものである。従って任意の抽象群は、実際にある具体的な対象の上の対称変換の成す群として得られることになる。
 
 
 
対象の「構造を保存する」という言及は、[[圏 (数学)|圏]]で考えればもっと厳密に扱うことができる。つまり、構造を保つ写像とは[[射 (圏論)|射]]のことであり、対称変換群(対称性の群)とは考えている対象の[[自己同型群|自己射群]]である。
 
 
 
== 群論の応用分野 ==
 
群論の応用は広く、[[抽象代数学]]における殆ど全ての構造は群の特殊なものと見ることができる。例えば[[環 (数学)|環]]は[[アーベル群]](加法に対応)に第二の演算(乗法に対応)を合わせて考えたものと見ることができる。したがって、それらの代数的構造の理論の多くの部分が群論的な議論を下敷きとして行うことができる。
 
 
 
[[ガロワ理論|ガロア理論]]は群を多項式の根の対称性(もっとちゃんと言えば、根が生成する多元環の自己同型)を記述するのに用いる。[[ガロワの基本定理|ガロアの基本定理]]は[[体の拡大|体の代数拡大]]と群論との関係性を与えるものである。これにより、代数方程式の可解性の効果的な判定法が、対応する[[ガロワ群|ガロア群]]の可解性によって与えられる。例えば、5-次の対称群 ''S''<sub>5</sub> が可解でないということから、[[五次方程式|五次の一般方程式]]が(低次の方程式で可能であったようには)冪根を用いて解くことができないという事実が従う。ガロア群は歴史的には群論の起源の一つではあるが、未だ[[類体論]]などの領域で新しい結果を与えるなどの実りある応用がされている。
 
 
 
[[代数的位相幾何学]](代数トポロジー)は、その研究の対象となるものにはっきりと群が[[函手|付随]]しているもう一つの領域である。ここでは、群は[[位相空間]]のある種の[[不変量]]を記述するのに用いられる。「不変量」というのは、空間がある種の[[同相写像|変形]]を受けてもそれらが変化しないということを示すものである。例えば、[[基本群]]は、空間に本質的に異なる道がいくつあるかを「数える」ものである。(2002年と2003年に[[グレゴリー・ペレルマン]]によって証明がなされた)[[ポワンカレ予想]]はこのような考え方を用いた顕著な応用例であるが、その影響はこの方面に留まるものではない。たとえば、代数的位相幾何学では所定の[[ホモトピー群]]を備えた空間である[[アイレンバーグ-マクレーン空間]]が用いられる。同様に[[代数的K-理論|代数的 ''K''-理論]]は群の[[分類空間]]についての重要な手法を与える。あるいは、(無限群の)[[捩れ部分群]]という名称は、群論における古い形の位相幾何学の影響を示すものである。
 
 
 
[[File:Torus.png|thumb|right|200px|[[トーラス]]の[[アーベル群]]的な構造は以下の写像で表される。 {{nowrap begin}}'''C''' &rarr; '''C'''/('''Z'''+''&tau;'''''Z'''){{nowrap end}}, ''&tau;'' はパラメータである。]]
 
[[File:Caesar3.svg|thumb|left|150px| [[巡回群]] '''Z'''/26 は[[シーザー暗号]]の基礎となっている。]]
 
 
 
[[代数幾何学]]と[[暗号理論]]は、同じように群論を至る所で取り入れている。[[アーベル多様体]]は、群作用の存在によって、詳細な調査が可能になる。一次元の場合では、[[楕円曲線]]が詳細に研究されている。これらは理論的にも応用的にも興味深いものである<ref>[[ミレニアム問題]]の一つである[[バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想]]を見よ。</ref>。[[楕円曲線暗号]]では、非常に大きな素数位数の群が構成され、[[公開鍵暗号]]として役に立っている。
 
 
 
[[代数的整数論]]は、群論の特殊な場合である。例として、[[オイラー積]]の公式
 
:<math>\sum_{n\geq 1}\frac{1}{n^s} = \prod_{p:\text{prime}} \frac{1}{1-p^{-s}}</math>
 
は「任意の整数は[[素数]]の積にただ一通りに分解される」という[[算術の基本定理]]に基づく。これがもっと一般の[[デデキント環|環]]では必ずしも成立しないことで、[[イデアル類群]]や[[正則素数]]の概念が生じた。[[エルンスト・クンマー|クンマー]]が[[フェルマーの最終定理]]を扱う際に用いている。
 
*[[リー群]](数学者[[ソフス・リー]]の名前にちなむ)は、[[微分方程式]]と[[多様体]]の研究において重要である。これは、連続幾何的構造および解析的構造の対称性を記述するものである。リー群などの群の解析を[[調和解析]]という。[[ハール測度]](リー群の平行移動不変積分)は、これは[[パターン認識]]や[[画像処理]]に使われている<ref>{{Citation | last1=Lenz | first1=Reiner | title=Group theoretical methods in image processing | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Lecture Notes in Computer Science | isbn=978-0-387-52290-6 | year=1990 | volume=413|url=http://webstaff.itn.liu.se/~reile/LNCS413/index.htm | doi=10.1007/3-540-52290-5}}.</ref>。
 
*[[組合せ数学]]においては、置換群や群作用の概念がしばしば使われ、集合の個数を計測する助けになる。[[バーンサイドの補題]]も参照。
 
[[Image:Fifths.png|right|thumb|150px|[[五度圏]]は巡回群の構造を与える。]]
 
*[[五度圏]]には12[[周期群]]([[巡回群]])が現れる。
 
*[[物理学]]においては、群は物理の法則に現れる対称性を記述するために使われる。物理学者は、群の表現、特に[[リー群]]の表現に興味を持っている。なぜならそれはしばしば、「可能な」物理法則を指し示すからである。物理における群論の応用には、たとえば[[標準模型]]、[[ゲージ理論]]、[[ローレンツ群]]、[[ポアンカレ群]]などがある。
 
*[[化学]]、[[材料科学]]においては、群はおもに[[結晶構造]]や[[分子対称性]]を分類するのに使われる。構造に対応した点群により、物理的な性質([[極性]]や[[キラリティ]])や[[分子軌道]]を決定できる。[[ラマン分光法]]や[[赤外分光法]]も参照。
 
 
 
== 脚注 ==
 
{{Reflist}}
 
 
 
== 参考文献 ==
 
* {{Citation | last1=Borel | first1=Armand | author1-link=Armand Borel | title=Linear algebraic groups | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=2nd | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-0-387-97370-8 | id={{MathSciNet | id = 1102012}} | year=1991 | volume=126}}
 
* {{Citation | last1=Carter | first1=Nathan C. | title=Visual group theory | url=http://web.bentley.edu/empl/c/ncarter/vgt/ | publisher=[[Mathematical Association of America]] | series=Classroom Resource Materials Series | isbn=978-0-88385-757-1 | id={{MathSciNet | id = 2504193}} | year=2009}}
 
* {{Citation | last1=Cannon | first1=John J. | title=Computers in group theory: A survey | id={{MathSciNet | id = 0290613}} | year=1969 | journal=Communications of the Association for Computing Machinery | volume=12 | pages=3–12 | doi=10.1145/362835.362837}}
 
* {{Citation | last1=Frucht | first1=R. | title=Herstellung von Graphen mit vorgegebener abstrakter Gruppe | url=http://www.numdam.org/numdam-bin/fitem?id=CM_1939__6__239_0 | year=1939 | journal=Compositio Mathematica | issn=0010-437X | volume=6 | pages=239–50}}
 
* {{Citation | last1=Golubitsky | first1=Martin| last2=Stewart | first2=Ian | author1-link=Ian Stewart (mathematician)| title =Nonlinear dynamics of networks: the groupoid formalism |id={{MathSciNet | id=2223010}} |journal= Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) |volume=43 | year= 2006 | pages=305--364 | doi=10.1090/S0273-0979-06-01108-6}} Shows the advantage of generalising from group to [[groupoid]].
 
* {{Citation | last1=Judson | first1=Thomas W. | title=Abstract Algebra:  Theory and Applications | year=1997 | url=http://abstract.ups.edu }}  An introductory undergraduate text in the spirit of texts by Gallian or Herstein, covering groups, rings, integral domains, fields and Galois theory.  Free downloadable PDF with open-source [[GNU Free Documentation License|GFDL]] license.
 
* {{Citation | last1=Kleiner | first1=Israel | title=The evolution of group theory: a brief survey | id={{MathSciNet | id = 863090}} | year=1986 | journal=[[Mathematics Magazine]] | issn=0025-570X | volume=59 | issue=4 | pages=195–215}}
 
* {{Citation | last1=La Harpe | first1=Pierre de | title=Topics in geometric group theory | publisher=[[University of Chicago Press]] | isbn=978-0-226-31721-2 | year=2000}}
 
*{{Citation | author=Livio, M. | author1-link=Mario Livio | title= The Equation That Couldn't Be Solved: How Mathematical Genius Discovered the Language of Symmetry | publisher=Simon & Schuster | year=2005 | isbn=0-7432-5820-7}} Conveys the practical value of group theory by explaining how it points to [[symmetries]] in [[physics]] and other sciences.
 
* {{Citation | last1=Mumford | first1=David | author1-link=David Mumford | title=Abelian varieties | publisher=[[オックスフォード大学出版局|Oxford University Press]] | isbn=978-0-19-560528-0 | oclc=138290 | year=1970}}
 
*  [[Mark Ronan|Ronan M.]], 2006. ''Symmetry and the Monster''. Oxford University Press. ISBN 0-19-280722-6. For lay readers. Describes the quest to find the basic building blocks for finite groups.
 
*{{Citation | author=Rotman, Joseph  | title=An introduction to the theory of groups | location=New York | publisher=Springer-Verlag | year=1994 | isbn=0-387-94285-8}}  A standard contemporary reference.
 
* {{Citation | last1=Schupp | first1=Paul E. | last2=Lyndon | first2=Roger C. | title=Combinatorial group theory | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | isbn=978-3-540-41158-1 | year=2001}}
 
*{{Citation | author=Scott, W. R. | title= Group Theory | location=New York | publisher=Dover | year=1987 | origyear=1964 | isbn=0-486-65377-3}} Inexpensive and fairly readable, but somewhat dated in emphasis, style, and notation.
 
* {{Citation | last1=Shatz | first1=Stephen S. | title=Profinite groups, arithmetic, and geometry | publisher=[[Princeton University Press]] | isbn=978-0-691-08017-8 | id={{MathSciNet | id = 0347778}} | year=1972}}
 
* {{Weibel IHA}}
 
 
 
== 関連項目 ==
 
* [[群 (数学)]]
 
* [[環論]]
 
* [[体論]]
 
* [[抽象代数学]]
 
 
 
== 外部リンク ==
 
*{{PDFlink|[http://math.shinshu-u.ac.jp/~hanaki/edu/group/group2011pre.pdf 群論]}}
 
*{{PDFlink|[http://www.kaijo.ed.jp/education/subjects/mathematics/pdf/2011summer_2Ozawa.pdf 集合から群まで]}}
 
*{{PDFlink|[http://www.kaijo.ed.jp/education/subjects/mathematics/pdf/2011summer_4Haruki.pdf 1 図形の対称性と群]}}
 
*群論入門 {{PDFlink|[http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group1.pdf group1.pdf] [http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group2.pdf group2.pdf] [http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group3.pdf group3.pdf] [http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group4.pdf group4.pdf] [http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group5.pdf group5.pdf] [http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/group/group67.pdf group67.pdf] }}
 
*無機化学 {{PDFlink|[http://www.sit.ac.jp/user/appchem/aritani/pub/muki-kagaku4/6.pdf 無機化学 IV(J)] }} (群論の項)
 
 
 
*{{PDFlink|[http://www.mns.kyutech.ac.jp/~kishine/notes/1Aoyama_Lecture0809_1st_day.pdf 結晶対称性とランダウ理論]}}
 
*{{PDFlink|[http://mukiken.eng.niigata-u.ac.jp/satokougi/daigakuin/gunron.pdf 群論と結晶場]}}
 
 
 
*[http://www-history.mcs.st-andrews.ac.uk/history/HistTopics/Abstract_groups.html History of the abstract group concept]
 
*[http://www.bangor.ac.uk/r.brown/hdaweb2.htm  Higher dimensional group theory] This presents a view of group theory as level one of a theory which extends in all dimensions, and has applications in homotopy theory and to higher dimensional nonabelian methods for local-to-global problems.
 
*[http://plus.maths.org/issue48/package/index.html Plus teacher and student package: Group Theory] This package brings together all the articles on group theory from ''Plus'', the online mathematics magazine produced by the Millennium Mathematics Project at the University of Cambridge, exploring applications and recent breakthroughs, and giving explicit definitions and examples of groups.
 
 
 
{{群論}}
 
  
 +
{{テンプレート:20180815sk}}
 
{{DEFAULTSORT:くんろん}}
 
{{DEFAULTSORT:くんろん}}
 
[[Category:群論|*]]
 
[[Category:群論|*]]
 
[[Category:抽象代数学]]
 
[[Category:抽象代数学]]
 
[[Category:数学に関する記事]]
 
[[Category:数学に関する記事]]
 
[[ml:ഗ്രൂപ്പ് സിദ്ധാന്തം]]
 

2019/5/7/ (火) 22:12時点における最新版

群論(ぐんろん、英語: group theory

群の理論およびその応用に関して研究する数学の一分科をいう。歴史的には 18世紀末の J.ラグランジュらによる高次方程式の代数的解法に関連して,まず置換群の概念が導入された。やがて N.アーベルや E.ガロアによる代数方程式の研究では,群の概念がその中心的な役割を果すこととなり,群の重要性が認識されるようになった。その後,A.コーシーらの研究により,19世紀なかばに群概念の基本的な完成がみられた。しかし群の理論が一般化され,数学全般に影響をもつようになったのは,その後の研究,特に A.ケーリー,L.クロネッカー,F.クライン,M.リーなどの業績によるものである。



楽天市場検索: