積乱雲

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積乱雲(せきらんうん)とは、何らかの原因で発生した強い上昇気流によって積雲から成長して塔あるいは山のように立ち上り、雲頂が時には成層圏下部にも達することがあるような、巨大なのことである[1][2]。積乱雲の鉛直方向の大きさは雲の種類の中でも最大であり、最高部から最低部までの高さは1万メートルを超えることもある。また、他に雷雲(らいうん)、入道雲(にゅうどうぐも)などの言い方がある。

概要

基本雲形(十種雲形)の一つ。ラテン語学術名はcumulus(積雲)とnimbus(乱雲)を組み合わせたCumulonimbus(キュムロニンバス)で、略号はCb。

雲は輪郭がはっきりしていて、雲底は非常に暗く、雲の下では激しい、冷たい突風がもたらされ、雲の内外でが発生するのが特徴。降水量は乱層雲に比べて格段に多く、短時間で大量の雨(驟雨性の雨)を降らせるのが特徴。集中豪雨のほとんどが積乱雲によるものである。

概要

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発達し、下部が真っ黒になった積乱雲

積乱雲の発生原因は様々であるが、多くの場合は地上付近と上空の温度差がもたらす大気の不安定によって生じる(すなわち不安定を解消しようとして生じる)対流性の上昇気流によるものであるが、地形の影響を受けることもある。よって、積乱雲は多くの場合、地上と上空の温度差が大きくなる夏場に見られるが、日本海側では暖かい海面上に冷たい季節風が流れ込むことによって生じることもある。積乱雲は大きく発達した積雲雄大雲)がさらに発達したものである。雄大雲がさらに発達すると雲内に氷晶(氷の粒)やが多く形成され、それらや雨粒が次第に落下して下降気流が発生するが、激しい上昇気流も分布している。このように対流活動が活発になり、氷晶や霰が形成されて激しい降水や雷を伴いやすくなったものを積乱雲と呼ぶが、雄大雲と雲頂が対流圏界面に達する前の段階の積乱雲を外観上で区別することは困難である。 また、雄大雲からニワカ雨(驟雨)が降ることもあるが、雷は伴わない[3]

積乱雲の雲頂高度は高緯度地域で4〜10km、日本を含む中緯度地域で5〜16km、低緯度地域で6〜19km付近に達し、たびたび航空機航路上の障害物となる。 さらに、赤道付近など上昇気流の激しい場所では局所的に20〜22km程度の高さにまで成長することがある(これは一般的なジェット旅客機の巡航高度のおよそ2倍の高さ)。 雲頂高度が20km前後の巨大な積乱雲が観測されやすい場所として、オーストラリアダーウィン沖が挙げられる。

 積乱雲は対流圏界面の高さまで達するほど鉛直方向のスケールが大きいが、通常の場合は積乱雲の雲頂が成層圏に突入しそこからさらに発達し続けることはない。したがって、対流圏界面が天井のような形になり、そこから雲はどんどん水平に広がっていく。全体的に見るとかなとこのような形をしていることから、この雲をかなとこ雲(anvil cloud、かなとこ巻雲と呼ばれる場合もある)という。

かなとこ雲は、その付近の低温によって氷晶で構成されている。雲が圏界面付近で成層圏に突入せず、水平に広がる理由は対流圏上部と成層圏下部の温度の違いによる。すなわち、対流圏上部では気温が-70℃前後であるのに対して成層圏下部はオゾン層の影響で相対的に気温が高い。この気温差によって雲頂は成層圏に突入することができず、圏界面を境に水平に広がる。かなとこ雲が発生しているということは、その積乱雲の活動が非常に活発であり、地上では激しい雷雨を伴う場合が多い。すなわち、かなとこ雲が発生している積乱雲は後に述べる積乱雲の成熟期の姿である。

また、積乱雲の多くはその雲頂あたりに、強いジェット気流の影響を受けて氷晶でできた巻雲などを伴う場合がある。この巻雲は「積乱雲の毛羽立ち」と表現され、毛羽立ちがあるものを多毛雲、ないものを無毛雲と呼ぶ。無毛雲と多毛雲は雲種の1つ。

積乱雲が広範囲を覆うと、その中は太陽光が遮られて暗くなり、時には日中でものようになることがある。また、雲の中では激しい対流が起こっており、その下降気流が地上まで達してダウンバーストなどの突風を発生させたり、漏斗雲をともなった竜巻を発生させたりすることがある。

積乱雲の一生

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積乱雲(四国上空)

積乱雲の一生は、夕立ゲリラ豪雨などの約十分程度のものから、台風を伴うような巨大なものでは数日間に及ぶことがある。したがって、積乱雲は気象学では通常メソスケールの気象擾乱として区分されていることが多い。

積乱雲は地上から見ると一つの大きな雲の塊のように見えるが、積乱雲がかかっている付近では雨が弱まったり強まったりしており、1つの大きな積乱雲の中にいくつもの小さな積乱雲が存在していることが知られている。この小さな積乱雲を細胞に例えて降水セル(precipitation cell)と呼ぶ。積乱雲の寿命が数時間なのに対して降水セルはスケールが相対的に小さいため寿命は約30分から60分である。降水セルの一生は(1)成長期、(2)成熟期、(3)減衰期の三過程に分類される。

成長期(積雲期)

成長期は名前のとおり、降水セルが上昇気流によって発達していく過程である。すなわち、雲頂が上昇気流によってどんどん上昇していく。この段階では降水セルは上昇気流だけを伴い、雨粒などが発生しても上昇気流によって上方に運ばれるので、地上付近での降水はない。

成熟期

時間が経過すると成長期にある降水セルの雲頂が対流圏上部に達し、氷晶や雨粒なども十分に成長する。よって、これらの雨粒などは上昇気流に逆らって落下運動を始めるのだが、その際に摩擦によって周辺の空気も一緒に引きずり落とし、下降気流を発生させる。この下降気流が発生したとき降水セルは成熟期になる。この段階では一つの降水セルの中で下降気流と上昇気流が共存する。したがって、上昇気流によって下方から運ばれてくる氷晶などと落下中の氷晶が衝突してしまうことになる。この衝突時の摩擦によって静電気が発生し、これが何度も起こることにより積乱雲が電気を帯びる。積乱雲と地上との電荷の違いによって、電圧が高まると結果的に放電が起きる。これが積乱雲によるの始まりである。地上で激しい雷雨が起きるのは、降水セルの成熟期である。下降気流は下降する雨粒などの摩擦によって生じるが、氷が乾燥した層を通過すると昇華熱で周りの空気を冷やすために下降気流を増加させる。これらが次々と起こることから下降気流はどんどん強まる。なお、落雷は雲の真下でなくとも発生する場合もある。上空(真上)は晴れていても近辺(20キロ程度以内)にある積乱雲から落雷が起きる場合もあるので注意が必要である。

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かなとこ状多毛積乱雲(Cumulonimbus capillatus incus)の全景

減衰期

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アーチ雲を伴ったガストフロント、メキシコ ユカタン半島にて
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2000年台風7号のもととなった積乱雲の列、マーシャル諸島近海

このような過程を経て強まった下降気流はもともと上空にあったため、また昇華によっても冷やされているので非常に低温である。結果的にこの低温の下降気流が雲の底に集まり、部分的に高圧状態となる。このような下降気流によって部分的に気圧が高まった場所をメソ・ハイ(メソスケールの高気圧という意味。雷雨性高気圧とも)と呼んでいる。この空気が雲底から地上に向けて一気に流れ出す(冷気外出流)。最終的には上昇気流よりも下降気流のほうが強くなり、上昇気流が弱まってくる。これが減衰期の始まりである。減衰期になると降水セルは収束に向かう。

また、メソ・ハイから空気が地上に向けて一気に流れ出すとき、周りの比較的暖かい空気と衝突して、冷たい空気が暖かい空気に入り込むような形をする。これは寒冷前線の発生のメカニズムに似ている。したがってこの部分では小型の寒冷前線のようなものができ、この線に沿って突風が吹くこともある。この線をガストフロントという[4]。この際地上では、下降気流が増すことによって、残っていた雨粒がしとしとと降るなどし、最後に雲が消えるのである。こうして降水セルは一生を終える。

激しい降水が数分続いてその後突風を伴い、降水が弱まるという気象現象は多く観測されている。しかし、降水セルの一生が今述べた三段階を経るかどうかは大気の状態に依存する。三段階はかなり活発な積乱雲において起こるのであり、降水セルによっては成長期からすぐに消滅に向かうこともある。

また、先ほど述べた原因によって起こる下降気流が極端に強くなり、地上に被害をもたらすこともある。積乱雲に伴う下降気流が極端に強い場合、これをダウンバーストという。ガストフロント付近では、突風により局所的に気流の渦が多数生まれ、このうちごく少数が竜巻となって、稀に被害をもたらす場合がある。

降水セル及び積乱雲が消滅しても、先ほど述べたガストフロントは残ることがある。ガストフロントはメソ・ハイが原因で起きたものなので、周りより冷たい空気からなっている。ガストフロントにさらに湿った暖かい空気が流れ込んだ場合、再びその部分に上昇気流が発生し、新たな積乱雲が発生することもある。もとの積乱雲を原因として新たな積乱雲が発生するので、積乱雲の世代交代と呼ばれる。

積乱雲の世代交代には次の様な場合もある。二つの積乱雲が並行して存在するとき、両者の積乱雲のメソ・ハイによって下降気流が同時期に発生することがある。すると二つの下降気流がぶつかるため、空気は上にいくしかなくなり、上昇気流が発生し、この上昇気流によって積乱雲が発生するのである。このような世代交代は衛星画像で見ると分かりやすい。一つの積乱雲の塊を先頭にして、その後ろにいくつもの積乱雲が続くような場合である。このような積乱雲は今述べたメカニズムによって発生していることが多い。

派生する雲形

雲種
雲副変種

さまざまな積乱雲

脚注

関連項目

外部リンク

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