社会民主主義

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テンプレート:民主主義 社会民主主義(しゃかいみんしゅしゅぎ、: social democracy)とは、社会主義思想、民主主義思想の一つであり、自由民主主義社会における中道左派思想の一つである。政治的目的としては、自由競争市場経済資本主義経済により発生する、労働者貧困失業などの問題を議会政府の管理と介入により軽減・解決し、実質・実態としての政治的・経済的・社会的な公正や機会平等、人権保護、環境保護、国際協調と国際社会との共生を追求する。また、実際に政治運動を進める際には特に労働運動との密接な繋がりの下に行う。

現代的な社会民主主義は欧州で生まれ、冷戦期の西欧北欧諸国を中心に発展してきた政治思想である。社会民主主義政党/社会民主党は、旧共産党が社会民主主義に転じた東欧諸国も含め、現在の欧州各国で与党や有力な野党となっている。アジアアメリカ合衆国カナダラテンアメリカ諸国にも社会民主主義政党は存在するが、これらの政党は欧州型の政党と規模や主張の点で大きく異なる部分がある。各国の社会民主主義政党の多くは、社会主義政党の国際組織である社会主義インターナショナルに加盟している。

社会民主主義は、暴力革命プロレタリア独裁のような過激な方法も肯定する共産主義とは異なり、穏健な改良主義である。

欧州の社会民主主義の歴史

社会民主主義」(Sozialdemokratie)という単語は、この語の生まれた19世紀においては「マルクス主義」や「共産主義」と同意語であった。但し、当時の「社会民主主義」や「共産主義」は、現代的な意味での社会民主主義あるいは共産主義とは大きく異なる。

誕生期

19世紀末にドイツ社会民主党(SPD)右派のエドゥアルト・ベルンシュタインが『社会主義の諸前提と社会民主主義の諸課題』(1899年)で、資本主義の崩壊と革命というマルクス主義における革命主義的な側面が不要になったことを主張して修正主義を唱えたが、これは当時SPDの理論的指導者であったカール・カウツキーらの正統派マルクス主義やSPD左派のローザ・ルクセンブルクらオスト・ロイテ達の立場と激しく対立し、1903年のドレスデン大会では当時党内の過半数を占めた革命主義的マルクス主義者に敗北して日の目を見ることはなかった。


この他、ドイツとは別にフェビアン協会など社会改良主義の流れを汲む英国社会主義の流れもあった。またフランスイタリアでは労働組合を基調とするサンディカリズムが強かった。

共産主義との差異化

1914年第一次世界大戦勃発と各国の社会民主党が自国の戦時体制を支持したことによる第二インターナショナルの崩壊後(「城内平和」)、各国の社会民主党から左派が分離し、ロシア十月革命の影響によって生じたボルシェヴィキとの繋がりから新たに共産党を名乗る一方、右派は引き続き社会民主党を名乗った。ここにおいて修正主義民主社会主義社会改良主義の流れを汲むものが「社会民主主義」と呼ばれるようになり、革命主義的マルクス主義としての「共産主義」と対比されるようになった。


第一次世界大戦から第二次世界大戦に至るまでの間、解散した第二インターナショナルの流れを汲む社会民主主義者とソ連系の第三インターナショナル(コミンテルン)への帰属意識を表明する共産主義者は、険悪な関係にあることが多かったが、最終的に、第二次大戦後の社会主義インターナショナルによる1951年の『フランクフルト宣言[1]では、『民主的社会主義の目的と任務』が採択され、議会制民主主義に立脚した修正主義的、非ソ連型の民主的社会主義の路線を採ることを明確にした。

戦後は、東西ドイツに分割された状況下で、ドイツ社会民主党は激しい党内論争の結果右派が勝利し、1959年に『バート・ゴーデスベルク綱領[2]を採択し、プロレタリア階級を基盤とする階級政党から西ドイツ国民の国民政党に脱皮、社会民主主義が同党の公的方針となった。また、フランス社会党1971年の『エピネ宣言』の採択などで、同じく社会民主主義政党に脱皮を遂げた。現在の社会民主主義思想や政策は、西欧ではドイツ社会民主党の『バート・ゴーデスベルク綱領』及び、フランス社会党の『エピネ宣言』以降定着した。

欧州の社会民主主義政党は、1962年の『オスロ宣言[3]で共産主義と完全に決別したが、日本社会党左派の反対で採択に参加せず[4]1966年に綱領的文書『日本における社会主義への道』でプロレタリア独裁を肯定するなど共産主義政党と類似した主張を行い続けた。1986年に至って『新宣言』を採択しマルクス・レーニン主義を放棄はしたが、その後も綱領には「社会主義革命」の文言は残った。

1989年にドイツ社会民主党は、緑の党の進出などエコロジー意識の高まりなどに強く影響された『ベルリン綱領』を採択。20世紀初頭のフォルマル思想や社会地域中心主義などにも目が向けられるようになった。

欧州社会民主主義の特徴

欧州の社会民主主義政党は、社会民主主義の政治的な目的を追求し実現するために、下記のような政治的方法と政策を追求・遂行している。

政治制度は、選挙権被選挙権を持った一定年齢以上の市民が選挙により議会行政府の長(議会は市民による直接選挙だが、行政府の長は市民による直接選挙型と議会による間接選挙型がある。)を選出し、複数政党制や政権交代を容認し、議会制民主主義議会政治非暴力的手段により、個別の問題や社会全体の漸進的な変革を目ざす。政策の実現は、広範な市民運動社会運動とともに、普通選挙とそれに基づく議会での多数派の形成により行われる。君主制廃止論を掲げていた政党もあり、党内に共和制支持者を持つ政党も多いが、イギリススウェーデンノルウェーデンマークオランダベルギースペインなどのように、政権獲得後も王室立憲君主制の統治形態を維持する場合が多い。政治と宗教の関わりにおいては、政教分離原則を支持し世俗主義の立場を採る。

経済政策は、自由競争市場経済を重視するとともに、自由競争市場経済により発生する弊害や社会全体としての非最適な状態を予防または是正するために、政府が自由競争市場経済を監視・管理・規制・禁止・介入も重視し、市場経済と政府が介入する経済を併用する政策(混合経済)を採用し、所得再分配による貧富の格差の予防や是正を目指し、特に高所得層や富裕層から貧困層や低所得層の人々への所得の再分配を重視する。この過程で社会民主主義政党が支持基盤とする労働運動労働組合の役割が大きいのも特徴である。

社会政策は、保健医療保育育児障害者介護失業時の所得保障と失業者に対する職業訓練と再就職支援、高齢者病気や障害による就労不可能者に対する年金などの社会保障政策を充実させ、社会政策福祉学校教育の費用に対する、政府による全額負担または大部分負担により、所得の高低や財産の大小に影響されずに、全ての市民が社会権を享受できる社会、市民の人生に発生する生活不安を解消する社会を目指す(福祉国家論大きな政府も参照)。

西欧では、社会民主主義政党が保守主義政党と並ぶ二大勢力として政権交代を繰り返し、北欧では、社会民主主義政党が長期間政権を維持・運営した実績が大きく、市場社会主義議会制民主主義の中で福祉環境医療などを重視した政策を実施している。その最も顕著な例がスウェーデン社会民主労働党政権である。冷戦終結後に欧州連合に加盟した東欧諸国でも、社会民主主義政党は主要な政治勢力の一つであり、社会民主主義政党が政権を維持・運営した実績がある。

ソ連型社会主義との差異

上記の社会民主主義の特徴や実績は、共産主義に基づいてソ連型社会主義を実施した国と比較して、著しく大きな差異がある。

ソ連型社会主義を実施した国は、マルクスやマルクスから派生したマルクス・レーニン主義レーニン主義スターリン主義)に基づき、多くの場合暴力革命により政権を奪取し、真の複数政党制、政権交代、三権分立を容認しない、民主集中制一党独裁制(形だけの複数政党制であるヘゲモニー政党制を含む)による政権が国家社会を統治していた。そこでは独裁政権に服従や協力しない市民、独裁政権に対して批判や反対する市民、独裁政権から反体制活動家とみなされた(誤認も含む)市民に対しては、政治的な処刑強制収容所への収監・拷問により、大量の殺害や自由の剥奪、人権の侵害を発生させた。また著しい環境破壊が発生し修復されず、自由競争市場経済を大きく制限して政府による管理統制計画経済を遂行した。資本主義経済を実施した国と比較して、経済の規模や発展において著しく大きな差をつけられ、社会主義共産主義の目的を実現できなかった。

そのようなソ連型社会主義の現実と比較して、社会民主主義は経済の発展と実質・実態としての政治的・経済的・社会的な公正や機会平等、人権保護、環境保護を実現または追求するとともに、国際協調と国際社会との共生を追求してきた。

社会主義以外との差異

上記の政治制度は社会民主主義に固有の制度ではなく、議会制民主主義の政治制度を採用している国は、どこの国でも同じである。また、上記の経済政策は社会民主主義に固有の政策ではなく、20世紀以降、自由主義保守主義の政党も社会政策を重視して古典的自由主義では否定されていた政府による経済介入や公的福祉制度を取り入れた政策を採用するようになった。

ただし社会政策を重視した保守主義である社会保守主義や、自由とともに公正を重視した自由主義である社会自由主義とは社会政策の根拠とする理念が異なり、また社会民主主義は私有財産の修正を視野に入れることがある点で自由主義や保守主義とは異なる。

環境主義は社会民主主義との親和性が高く、1980年代以降の社会民主主義政党の多くがエコロジーを理念に取り入れたほか、世界各国の緑の党の多くも社会民主主義または社会自由主義に近い政策を掲げる。ただし、欧州の緑の党の多くは反戦を理念に掲げる党が多く、安全保障政策をめぐって社会民主主義政党と対立することがしばしばある。

社会民主主義は社会的連帯を重視して社会保障制度を充実させ、その財源として市民の税金社会保険料の負担率が高く、特に所得税や社会保険料の企業負担を重視する高負担・高福祉政策は、社会民主主義の最大の特徴である。

欧州社会民主主義の外交政策

欧州の社会民主主義政党は、国内において追求・実現している政策を世界的にも追求・実現しようとして外交政策を遂行している。

政治制度に対しては、独裁政権による自国民に対する政治的な理由による人権侵害の予防や解消を働きかけ、非民主的政治制度の国に対する政治の民主化参政権の獲得を支援している。その結果として、独裁政権・軍事政権から民主的政治制度に変革した国は増加傾向である。

経済や産業に対しては、開発途上国低開発国に対して、貧困による自由権平等権社会権の侵害を予防し自由権・平等権・社会権を全ての諮問に実現するために、インフラストラクチャーの建設や産業育成や非識字の減少・根絶や教育水準の向上を支援し、そのための技術・資金・専門家による支援を政府や企業名NGOの活動として行っている。その結果として、先進国も開発途上国も低開発国も、乳幼児死亡率は減少し[7][8]平均寿命と平均健康寿命は上昇し[7][8]、非識字率は低下し中等高等教育を受ける率は増加し[9][10]、人口一人当たりの所得は増加し[9][10][11][12]、経済や財政に対する社会保障支出の割合が増加し[9][10]国際連合が規定する人間開発指数は向上する傾向である[9][10]

軍事政策

戦争武力紛争軍事に対しては、戦争や武力紛争の予防と現在進行中の戦争や武力紛争を終結させるための和平の提案や斡旋、大量破壊兵器や被害度が大きい通常兵器の禁止や規制、過剰な軍事力の縮小を提案している。その結果として、クラスター弾に関する条約の採択、パレスチナ紛争の解決を目ざすオスロ合意スリランカ内戦の和平斡旋などの成果になった。

イギリスの労働党アトリー政権は朝鮮戦争に参戦および核兵器の維持、ブレア政権はコソボ空爆・イラク飛行禁止区域への空爆・アフガニスタン戦争イラク戦争への参戦および核兵器の維持、フランスの社会党ミッテラン政権は湾岸戦争に参戦および核兵器の維持、オランド政権はマリ北部紛争に空爆で介入および核兵器の維持、ドイツのドイツ社会民主党シュレーダー政権はコソボ空爆・アフガニスタン戦争の国際治安支援部隊に参加、スウェーデンのスウェーデン社会民主労働党ペーション政権はアフガニスタン戦争の国際治安支援部隊に参加するなど、軍拡や自国の防衛以外の国外への戦争武力行使に参加した事例も多数存在する。

欧州以外での社会民主主義

アジア

アジアでは大韓民国民主労働党シンガポール人民行動党などの社会民主主義を掲げる政党は存在するが、これらの政党は様々な点で欧州型の社民政党と大きく異なる。韓国の民主労働党(社会主義インターナショナルには非加盟)は共産主義の流れを汲む北朝鮮との関係が深い点に特徴がある。こうした民主労働党の対北朝鮮政策に反発した党内のグループは2008年に進歩新党を結成している。またシンガポールの人民行動党はあまりの権威主義体制、言論や表現の自由に対する抑圧によって社会主義インターナショナルを追放され、実質的に保守政党と化した。また南アジアにはインド国民会議スリランカ自由党など社会民主主義(現地では主に民主社会主義という)を掲げる有力政党が存在するが、社会主義インターナショナルには加盟していない。いっぽうパキスタン人民党ネパール会議派など社会主義インターナショナルに加盟している政党もある。日本では、過去に日本社会党や同党から分離した民社党が社会主義インターナショナルに加盟して国会に一定の勢力を築いていたが、1990年代以後の政界再編により、現在、社会民主主義を標ぼうする政党は社会党の後継の社会民主党が僅かながらの議席を保持するに留まっている。

北アメリカ

アメリカ合衆国の社会民主主義勢力は群小政党のアメリカ民主社会党アメリカ社会民主党などで有力ではない。ただし現在、連邦上院に1名、社会主義(民主社会主義)を掲げる無所属のバーニー・サンダース議員が存在する。ほかに連邦下院民主党議員にも社会主義者がおり、民主党内左派の一部となっている。

カナダでは欧州型社民主義政党に近い政党として新民主党があり、保守主義カナダ保守党に次ぐ第2勢力となっている(2011年の総選挙リベラリズムカナダ自由党を上回る成績を挙げた)。またケベック州地域政党ブロック・ケベコワも社会民主主義を掲げている。

ラテンアメリカ

ラテンアメリカ(中南米)諸国には社会民主主義政党は多いものの、長くポピュリズムの影響が強いなど独自の色彩が強かったが、現在は多くの国で社会主義・共産主義勢力とも連携し左派ブロックを形成している。中南米での左翼政権の増加に大きく寄与しているが、同時にナショナリズム色も強い場合が多い。

アフリカ

アフリカ諸国にも社会民主主義政党はあるが、植民地から独立する前後に旧宗主国である西欧の強い影響下で結成されたものの、実際には特定の部族の利益を代表している場合が多い。しかし南アフリカ共和国で長い闘争によって白人支配のアパルトヘイト体制からの解放を勝ち取ったアフリカ民族会議のように、部族の枠を超えた国民政党に脱皮した例もみられる。

社会民主主義の変化・多様化(「第三の道」)

1980年代以降の新自由主義の台頭を受け、20世紀末の西欧では「新しい社会民主主義」と呼ばれる、市場の役割をより重視した中道左派政党による政権や、保守中道政党との連立政権が誕生した。

イギリスイギリス労働党トニー・ブレアが唱えた「第三の道」路線は、リベラル左派勢力が主張する社会自由主義的な思潮とも符合し、他の西欧社会民主主義政党にも少なからぬ影響を与えた。

ドイツドイツ社会民主党でも、ゲアハルト・シュレーダーが「新中道」路線を推し進めたが、これに反対する最左派の党員が離党し新党、「左翼党」を結成した。

イタリアでは東欧革命に前後して、イタリア共産党が衣替えして左翼民主党(左翼民主主義者に改称、現在は民主党)に改められた。

ハンガリー社会党などのように冷戦時代の東欧諸国の共産党が社会民主主義政党へと転換した例がある。

各国の社会民主主義政党

欧州社会党参加政党

参照: 欧州社会党

欧州社会党参加政党以外

ヨーロッパ

アジア

アメリカ州

オセアニア

アフリカ

脚注

  1. 社会民主主義の広場>海外の文献>Basic Documents of the Socialist International>民主的社会主義の目的と任務 [1]
  2. 社会民主主義の広場>海外の文献>Basic Documents of the Socialist International>バートゴーデスベルグ綱領 [2]
  3. 社会民主主義の広場>海外の文献>Basic Documents of the Socialist International>オスロ宣言 [3]
  4. 法政大学大原社会問題研究所>大原クロニカ>オスロ宣言 [4]
  5. 5.0 5.1 Revenue Statistics (Report). OECD. doi:10.1787/19963726. 
  6. OECD Social Expenditure Statistics (Report). OECD. (2011). doi:10.1787/socx-data-en. http://www.oecd.org/els/soc/expenditure.htm. 
  7. 7.0 7.1 WHO>Data and Statistics>World Health Statistics Report >World Health Statistics 2009>Table 1: Mortality and burden of disease [5]
  8. 8.0 8.1 UN>Department of Economic and Social Affairs>Population Division>World Population Prospects The 2008 Revision PDFの35~37ページ・文書の15~17ページ [6]
  9. 9.0 9.1 9.2 9.3 UNDP>Human Development Reports>HDR 2007/2008>HD data and animations>Indicator Tables HDR 2007/2008 PDFの1~126ページ・文書の229~354ページ [7]
  10. 10.0 10.1 10.2 10.3 UNDP>Human Development Reports>HDR 1990>Human Development Indicators 1 PDFの6~37ページ・文書の128~159ページ [8]
  11. IMF>Data and Statistics>World Economic Outlook Database>By Countries (country-level data)>All countries [9]
  12. IMF>Data and Statistics>World Economic Outlook Database>By Country Groups (aggregated data) and commodity prices [10]

関連項目

外部リンク