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| − | [[Image:Yodo-dono cropped.jpg|thumb|250px|『伝淀殿画像』（[[奈良県立美術館]]所蔵）]]
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| | '''淀殿'''（よどどの、[[永禄]]12年（[[1569年]]）?{{Efn|生年については、浅井家の記録である『浅井三代記』に茶々の誕生に関する記述が全くないため、長らく[[永禄]]10年（[[1567年]]）と推測されてきたが、近年では永禄12年（[[1569年]]）誕生説が有力になっている。また、永禄9年（[[1566年]]）生まれの説もある。}} | | '''淀殿'''（よどどの、[[永禄]]12年（[[1569年]]）?{{Efn|生年については、浅井家の記録である『浅井三代記』に茶々の誕生に関する記述が全くないため、長らく[[永禄]]10年（[[1567年]]）と推測されてきたが、近年では永禄12年（[[1569年]]）誕生説が有力になっている。また、永禄9年（[[1566年]]）生まれの説もある。}} |
| − | {{Efn|江戸時代に書かれた『翁草』に、茶々が慶長20年（[[1615年]]）の大坂の夏の陣で死亡した時49歳だったと記され、母の市が長政に嫁いだのが永禄10年（1567年）頃とされているため、市の連れ子で長政以前に嫁いだ時に産まれたという説がある。また市を信長の妹ではなく従妹とする資料もあるため、茶々は信長と市の娘とする説もある。また、淀殿の兄と言われる[[浅井万福丸]]が市の子であるかどうか明記した史料はない。ただしいずれも十分な史的考察に裏付けられている訳ではない。}} - [[慶長]]20年[[5月8日 (旧暦)|5月8日]]（[[1615年]][[6月4日]]））は、[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]から[[江戸時代]]初頭の人物。[[豊臣秀吉]]の[[側室]]{{Efn|この時代の史料で、淀殿を側室または愛妾などと記述するものは存在せず、秀吉没後、正室[[高台院]]と共に「両御台所」と記した史料（『佐竹古文書』一四五）が存在する{{Sfn|福田|2006|pp=5-6, 165-166}}}}。 | + | {{Efn|江戸時代に書かれた『翁草』に、茶々が慶長20年（[[1615年]]）の大坂の夏の陣で死亡した時49歳だったと記され、母の市が長政に嫁いだのが永禄10年（1567年）頃とされているため、市の連れ子で長政以前に嫁いだ時に産まれたという説がある。また市を信長の妹ではなく従妹とする資料もあるため、茶々は信長と市の娘とする説もある。また、淀殿の兄と言われる[[浅井万福丸]]が市の子であるかどうか明記した史料はない。ただしいずれも十分な史的考察に裏付けられている訳ではない。}} - [[慶長]]20年[[5月8日 (旧暦)|5月8日]]（[[1615年]][[6月4日]]）） |
| − | 位階は[[従五位|従五位下]]とされるが、諸説あり。本名は '''浅井 茶々'''（あざい ちゃちゃ）および'''浅井 菊子'''（あざい きくこ）。[[浅井三姉妹]]の一人。
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| − | == 概要 ==
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| − | [[近江国]]の[[戦国大名]]・[[浅井長政]]の娘{{Efn|『[[浅井氏家譜大成]]』によると、永禄10年（1567年）以前は信長と長政は面識が全くなかったとある。これが茶々の永禄9年（1566年）生まれの説の基となっている。また浅井家の菩提寺である徳勝寺には、三姉妹の内、淀殿の位牌のみない。}}。
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| − | 母は[[織田信長]]の妹・[[お市の方|市]]。
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| − | | |
| − | 同母妹に初（[[常高院]]、[[京極高次]]正室）と江（[[崇源院]]、[[徳川秀忠]]正室）、異母弟妹には[[京極竜子]]の侍女（姥）となった[[浅井くす|くす]]、千姫の乳母となった[[刑部卿局]]と[[浅井井頼]]がいる。
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| − | | |
| − | 子には棄（[[豊臣鶴松|鶴松]]、夭折）と拾（[[豊臣秀頼|秀頼]]）、[[猶子|猶女]]には[[豊臣完子|完子]]{{Efn|妹の江と[[豊臣秀勝]]の間の娘。}} がいる。
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| − | | |
| − | 乳母は[[大蔵卿局]]（[[大野治長]]の母）、[[饗庭局]]（大叔母にあたる海津殿の次女）、大局（[[前田利家]]の弟にあたる[[佐脇良之]]の室）の三人が明らかになっている。
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| − | | |
| − | == 生涯 ==
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| − | === 父・母の死 ===
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| − | 近江国[[小谷城|小谷]]（現在の[[滋賀県]][[長浜市]]）に生まれる。[[天正]]元年（[[1573年]]）に父・長政が伯父・[[織田信長]]に敵対して攻められ、小谷城が落城すると母妹らとともに[[藤掛永勝]]に救出された。この時、父と祖父・[[浅井久政|久政]]は自害、兄の[[浅井万福丸|万福丸]]は捕らえられ、信長の命で[[豊臣秀吉|羽柴秀吉]]によって処刑されている。その後は伯父の[[織田信包]]のもとにおかれ、[[伊勢国|伊勢]][[津城|安濃津城]]<!--（信包の居城）、-->または[[尾張国|尾張]][[清洲城]]<!--（信包監督下にあった）-->{{Sfn|桑田|1958|p=25}}で保護されていたとされていたが、近年の研究によると尾張[[守山城 (尾張国)|守山城]]主で信長の叔父にあたる[[織田信次]]に預けられたとされている（『[[渓心院文]]』）{{Sfn|宮本|2010|pp=66-74}}。
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| − | | |
| − | 信長が[[本能寺の変]]で家臣の[[明智光秀]]に攻められ自刃した天正10年（[[1582年]]）、母・市が織田氏家臣の[[柴田勝家]]と再婚すると、茶々は母や妹達とともに[[越前国]][[福井城|北の庄城]]（現在の[[福井県]][[福井市]]）に移る。
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| − | | |
| − | 勝家が羽柴秀吉と対立し、天正11年（[[1583年]]）の[[賤ヶ岳の戦い]]に敗れると、市は勝家共々自害したが、茶々ら三人の娘は逃がされて秀吉の保護を受けた{{Efn|秀吉の直接的な庇護を受ける前、三姉妹は前田家の[[越前府中城]]に保護されていたとも、長政の長姉・[[昌安見久尼]]（阿久姫）により北近江の実宰院で保護されていたともいう。実宰院に保護されたのは小谷落城後とも北庄落城後とも言われているが、昌庵尼は後に姉妹を保護した恩賞に秀吉から知行を賜っている。}}。
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| − | また北の庄城落城後に三姉妹は[[遥の谷]]に匿われた上で羽柴秀吉に知らされ、これを聞いた秀吉が直ちに迎えを出して、三姉妹を[[安土城]]に入城させ(『玉興記』)、その後は秀吉ではなく[[織田信雄]]が三姉妹を後見して面倒をみたともいわれている{{Sfn|宮本|2010|pp=112-115}}。この時に一年間程、茶々の世話をしたのが、信長の妹の[[お犬の方]]である(『大雲山誌稿』){{Sfn|宮本|2010|pp=120-121}}。また、叔父の[[織田長益]]（有楽、または有楽斎）の庇護を受け{{Sfn|桑田|1958|p=33}}、[[安土城]]に住み、後に[[聚楽第]]で伯母の[[京極マリア]]の縁を頼って[[京極竜子]]後見の元にいたともいわれている。もっとも、[[福田千鶴]]によれば、いずれの説も一次史料による裏付けに欠け、この時期の三姉妹の所在については不明である<ref>{{Harvnb|福田|2006}}{{要ページ番号|date=2016年12月}}</ref>。
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| − | === 秀吉の側室に ===
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| − | [[ファイル:Yodokoj2.jpg|thumb|[[妙教寺]]の境内にある淀古城の石碑]]
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| − | 天正16年（[[1588年]]）頃、秀吉の側室となる。
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| − | 天正17年（[[1589年]]）、捨（[[豊臣鶴松|鶴松]]）を生む。この懐妊を喜んだ秀吉から[[山城国|山城]][[淀古城|淀城]]を賜り、以後「淀の方」と呼ばれるようになった{{Efn|現在残っている淀城の遺構は江戸時代に再建された淀城跡である。}}。鶴松は天正19年（[[1591年]]）に死亡するが、[[文禄]]2年（[[1593年]]）に拾（[[豊臣秀頼|秀頼]]）を産み、秀吉の死後は秀頼の後見人として政治に介入して[[大蔵卿局]]・[[饗庭局]]らを重用して[[豊臣氏]]の家政の実権を握った{{Efn|当時の武家社会に於いて現当主の生母は優遇されるためである、また通説では秀吉の正室・高台院とは確執があったと言われるが、近年の研究によって豊臣家存続という共通の目的のもと助け合っていたとされる。詳細は[[高台院#淀殿との関係]]の項目を参照。}}。
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| − | なお、鶴松を産んだ時に[[高野山]]・[[持明院]]へ父母の肖像画をおさめるが奉納者である淀殿の記名はない。これは淀殿の豊臣政権に対する自発的な配慮によるものである{{Sfn|宮本|2010|pp=34-35}}。秀頼を産んだ時に父母ら血縁の菩提を弔うために、[[養源院]]（養源院とは浅井長政の院号であり、開基は一族の[[成伯]]）を建立した。秀吉の死後、高野山などの修復にも当たっている。
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| − | === 関ヶ原の戦い ===
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| − | {{seealso|関ヶ原の戦い}}
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| − | [[慶長]]5年（[[1600年]]）に元[[五奉行]]の[[石田三成]]が[[大谷吉継]]とともに、会津に向けて出征中の[[徳川家康]]に対する挙兵を企てているという情報が入った際に、7月27日付の[[榊原康政]]から[[秋田実季]]に宛てた書状によると、三成と吉継が謀反を企てているので、事態を沈静化させるために急いで家康に上洛をするように淀殿と三奉行（[[増田長盛]]、[[長束正家]]、[[前田玄以]]）から書状を送っていることがわかる{{Sfn|笠谷|2010|pp=51-52}}。このことから淀殿には家康・秀忠父子を主軸とした秀吉遺言覚書体制、すなわち内府（家康）・五奉行（ないし三奉行）体制による政権運営を是認する､確たる意思があったことが窺える{{Sfn|宮本|2010|pp=184-186}}。その後、大坂城に入った輝元が石田方（西軍）の総大将となり三奉行もそれに同調するが、淀殿は石田方が切望したと思われる秀頼の墨付きの発給や秀頼の出陣などは許さず、石田方の動きを認めつつも豊臣家としては観望する姿勢を保った。なお家康は淀殿らからの書状を石田・大谷の動きが謀叛であると諸大名に主張する材料とし、その後、三奉行が家康糾弾の『内府ちかひの条々』に署名したが、淀殿からは先の書状を覆す文書が発給されなかったことも、家康に「秀頼様の御為」という大義名分を維持させることとなった。
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| − | [[9月15日 (旧暦)|9月15日]]の[[関ヶ原の戦い]]における徳川方（東軍）の勝利の後、家康は[[大野治長]]を大坂城に送り、淀殿と秀頼が西軍に関与していないと信じていることを述べさせ、淀殿はこれに対して感謝の旨を返答している。毛利輝元の大坂城退去後に家康が大坂城に入るが、そこで家康を饗応した際に、淀殿は自らの酒盃を家康に下した後に、その盃を秀頼に与えるよう強く求め、家康は秀頼の父親代わりたるべきと公に宣言した。
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| − | | |
| − | 慶長6年（[[1601年]]）になると「気鬱」が激しくなり、胸の痛み、摂食障害、頭痛に悩まされ、[[曲直瀬玄朔]]から薬を処方をされた（『[[玄朔道三配剤録]]』）<ref name="田端">{{Harvnb|田端|2003}}</ref>。
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| − | | |
| − | === 徳川家康との対立、大坂の陣 ===
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| − | [[ファイル:HideyoriYodoJijinM0678.jpg|thumb|大阪城公園にある淀殿・秀頼自害の地の石碑]]
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| − | | |
| − | 家康は豊臣家の[[蔵入地]]を関ヶ原の戦いの恩賞として諸将や自らで分配し、豊臣家は支配地を減らすことになる。淀殿は秀頼の後見人として、家康ら[[五大老]]・五奉行の去った大坂城の主導権を握る。
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| − | | |
| − | [[江戸]]に武家政権を構築し始めた家康とは対立。暗に臣従を求める秀頼の上洛要求などを拒否し、そのようなことを余儀なくされるならば、秀頼を殺して自害すると主張した。慶長19年（[[1614年]]）、関東との交渉役・[[片桐且元]]と淀殿侍女の大蔵卿局の家康の意図解釈の齟齬をきっかけとして[[大坂の陣]]が勃発。淀殿は武具を着て3、4人の武装した女房を従え番所の武士に声をかけ激動していたが（『当代記』）<ref name="田端"/>、期待した諸大名の加勢がない中で大坂城本丸への砲撃を受け、講和を指示する。しかし翌慶長20年（1615年）の再戦（大坂夏の陣）で大坂城は落城し、秀頼や大野治長らと共に自害した。
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| − | | |
| − | 墓所は[[京都市]][[東山区]]の養源院、[[大阪市]][[北区 (大阪市)|北区]]の[[太融寺]]。戒名は'''大虞院英厳大禅定尼'''、'''大虞院花顔妙香'''、'''大広院殿英嵓'''と伝わる。
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| − | しかし淀殿の最期を目撃した者の証言や記録などは存在せず、また遺体も確認されなかったため、秀頼と同様に彼女にも逃亡・生存説などの伝説が生まれるようになった。落ち延びた先としては、島津氏を頼り[[薩摩国]]に落ち延びた説{{Sfn|桑田|1972|pp=55-56}}と[[上野国]]厩橋まで遁れてきたという説がある{{Efn|上毛史談会の調査によると前橋市の近くに淀君神社と称し淀殿を祀った神社があるという{{Sfn|桑田|1972|p=56}}}}。
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| − | | |
| − | == 名称について ==
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| − | [[諱]]は'''茶々'''（お茶とも）及び'''菊子'''。前者は生涯で一貫して名乗った名で、後者は[[朝廷]]より従五位下を賜った際に授かった名である。ただし「菊子」は公の場面のみで使用されたもう一つの諱であって、「茶々」から「菊子」へ改名したという訳ではない。
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| − | | |
| − | また生存中には、居場所の変化に伴って'''淀の方'''（よどのかた、他に「淀の者」「淀の女房」など{{Sfn|桑田|1958|p=45}}）、'''二の丸殿'''（にのまるどの）、'''西の丸殿'''（にしのまるどの）などと通称された。鶴松・秀頼の出産後は'''御袋様'''、'''御上様'''、'''御台様'''などとも。秀吉の死後に[[落飾]]して'''大広院'''（だいこういん、'''大康院'''とも）と名乗っていたという説もある<ref>『浅井系統一覧』による。</ref>。
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| − | | |
| − | 現在最も一般的に用いられる'''淀殿'''、過去に用いられた'''淀君'''の名は、同時代の史料には一切見られず、いずれも江戸時代以降の呼び名である{{Sfn|桑田|1958|pp=45-46}}。
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| − | | |
| − | 「淀君」という呼称が広く普及して一般に定着するのは、[[明治時代]]に[[坪内逍遥]]の戯曲『[[桐一葉]]』が上演された以降のことである。[[二木謙一]]が「淀殿が淀君などというへんてこな名前をつけられ、悪女に仕立てられたのは、豊臣家を滅ぼした徳川氏時代の産物」とし<ref>{{Cite journal|和書 |author = 二木謙一 |authorlink= 二木謙一 |year = 1981 |title = 虚構の系譜 |journal = 歴史と人物 |volume = 11巻 |issue = 3号}}</ref>、「淀君」の呼称については、悪女、淫婦というイメージと共に売春婦の呼称（「遊君」、「辻君」など）と結びつけて定着したと[[小和田哲男]]が主張し{{Sfn|小和田|1997|p=75}}、[[田中貴子 (国文学者)|田中貴子]]が追随した<ref>{{Cite book|和書 |author = 田中貴子 |authorlink = 田中貴子 |year = 2004 |title = あやかし考―不思議の中世― |publisher = 平凡社}}</ref>。ただし、幕末に編纂された『徳川幕府家譜』で徳川家康の[[継室]]・[[朝日姫]]が「朝日君」、秀忠の継室・崇源院が「於江与君」とされているなど、「君」がすぐさま蔑称だと断定するには一定の留保が必要である{{Sfn|福田|2006|p=4}}。
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| − | [[福田千鶴]]は、彼女の呼称についての検証をした結果、本名を「浅井茶々」、通称を「淀」と号した{{Efn|『御当家紀年録 訳注日本史料』（[[児玉幸多]]編、[[集英社]]、[[1998年]]、成立は[[1664年]]）に「長政女、号淀」（長政の女（＝娘）、淀と号す）との割注があり、江戸前期の記録「御当家紀年録」に、呼び名が「淀」であったとの認識が示されている。}}とみなすのが適切ではないかとし、生存中に「淀殿」と記した史料はなく、「様」付けで呼ばれていることから、同時代的な呼び方としては「淀様」とするのが正しいとしている{{Sfn|福田|2006|pp=1-24}}。
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| − | 昭和35年（[[1960年]]）に発表された[[井上靖]]の小説『[[淀どの日記]]』以降、「淀殿」の使用が一般的となり<ref name="田端"/><ref>{{Citation|和書|author=北川央|chapter=浅井三姉妹の長女―淀殿|editor=小和田哲男|title=戦国の女性たち|publisher=河出書房新社|year=2005}}</ref>、一般への影響力が大きい[[大河ドラマ|NHK大河ドラマ]]でも昭和62年（[[1987年]]）に放送された『[[独眼竜政宗 (NHK大河ドラマ)|独眼竜政宗]]』を最後に「淀君」という呼称は一切使われていない。平成28年（[[2016年]]）に放送された『[[真田丸 (NHK大河ドラマ)|真田丸]]』においては秀吉存命時には「茶々様」、秀吉死後は「御上様（おかみさま）」と呼称された。映画『[[GOEMON (映画)|GOEMON]]』では「浅井茶々」の呼称が使用された。
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| − | == 人物像 ==
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| − | * 母の市は戦国一の美女と謳われたが、[[桑田忠親]]は長女である淀殿は持明院所蔵の肖像画を見る限り父親の浅井長政の面影を受け継いでいたといえ、美女とは思えないとしている{{Sfn|桑田|1958|pp=9-11}}。
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| − | * 京都で放浪していた従兄の[[織田信雄]]を大坂城に招いて住まわせた。
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| − | * 末妹の督（江）が[[徳川秀忠]]に再嫁する際に前夫・[[豊臣秀勝|羽柴秀勝]]との間にできていた[[豊臣完子|完子]]を引き取って育てた事も知られる。後に完子を猶子として五摂家の[[九条幸家|九条忠栄]]に嫁がせるという、高度に政治的な婚姻を仕立て、その政治力を発揮している{{Sfn|宮本|2010|pp=171-173}}。
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| − | * 淀殿が[[醍醐の花見]]の際に詠んだ[[和歌]]が三首残されている。
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| − | ** 「はなもまた 君のためにとさきいでて 世にならひなき 春にあふらし」{{Sfn|桑田|1958|p=103}}
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| − | ** 「あひをひの 松も桜も八千世へん 君かみゆきのけふをはしめに」{{Sfn|桑田|1958|p=102}}
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| − | ** 「とてもないて 眺めにあかし深雪山 帰るさ惜しき 花の面影」
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| − | : この時、従姉妹である松の丸殿(京極竜子)と杯の順番で争ったという事件が起こっている（『陳善録』）{{Sfn|桑田|1958|pp=103-107}}。[[田端泰子]]はこの事件は妾同士の対立というよりは、女性はいつまでも生家を背負っていたことを感得する出来事と分析している<ref name="田端"/>。
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| − | * 淀殿と大野治長とは[[乳兄弟|乳兄妹]]であり、二人の密通が噂されていたという記録も残る（『萩藩閥閲録』九九の二）{{Sfn|桑田|1958|pp=114-115}}<ref>栗田元次『江戸時代史』{{要ページ番号|date=2016年12月}}</ref>。そのため、秀頼は秀吉の実子ではなく治長と淀殿の子であるとする説が、当時からささやかれていた{{Efn|片桐且元の子とする説もある{{要出典|date=2016年9月}}。}}。[[姜コウ|姜沆]]による『[[看羊録]]』では、秀吉の遺命によって家康が淀殿を娶ろうとしたが、治長の子を身ごもっていた淀殿が拒否したため、家康が治長を流刑にし殺したとの、虚実を交えた風説の記録がある{{Efn|治長は家康暗殺謀議の嫌疑で関東に流されたが、殺されてはいない。}}。
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| − | * 『川上久国雑記』によると、大坂の陣直前に、徳川と豊臣の何れが勝つがと問われた[[細川忠興]]が、「秀頼は乳飲子なり、お袋（淀殿）専制なり」と答えたとされる。当時の秀頼はゆうに青年であったが、豊臣家を淀殿が支配していたという認識があったことを伺わせる。
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| − | == 関連作品 ==
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| − | ; 小説
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| − | :*『淀どの日記』（[[井上靖]]）
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| − | :*『わが恋せし淀君』（[[南条範夫]]、1958年、講談社）
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| − | :*『もしかして時代劇』（ [[宮本昌孝]]、1988年、早川書房、ISBN 4150302839）
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| − | :*『戦国姫 茶々の物語』([[藤咲あゆな]] 2016年、集英社みらい文庫)
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| − | :
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| − | ; 映画
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| − | :* [[茶々 天涯の貴妃]]（[[2007年]]・[[東映]]、演：[[和央ようか]]）
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| − | :* [[GOEMON (映画)|GOEMON]]（[[2009年]]・[[松竹]]、演：[[広末涼子]]）
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| − | :
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| − | ; TVドラマ
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| − | :* [[戦国艶物語]]（[[1969年]]・[[朝日放送テレビ|朝日放送]]、演：[[岩下志麻]]）
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| − | :* [[大坂城の女]]（[[1970年]]・[[関西テレビ放送|関西テレビ]]、演：[[木暮実千代]]）
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| − | :* [[徳川家康と三人の女]]（[[2008年]]・[[テレビ朝日]]、演：[[星野真里]]）
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| − | :* [[江〜姫たちの戦国〜]]（[[2011年]]・[[大河ドラマ|NHK大河ドラマ]]、演：[[宮沢りえ]]）
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| − | :* [[真田丸 (NHK大河ドラマ)|真田丸]]（[[2016年]]・NHK大河ドラマ、演：[[竹内結子]]）
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| − | ; 舞台
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| − | :*『[[桐一葉]]』 作：[[坪内逍遥]]
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| − | :
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| − | ; 漫画
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| − | :* 『淀君―戦国時代の悲劇の姫君（学研まんが人物日本史 桃山時代）』（画：[[さかぐち直美]]）
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| − | :* 『華の姫 茶々ものがたり』（[[小学館]][[フラワーコミックス]]・[[わたなべ志穂]]）
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| − | == 脚注 ==
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| − | === 注釈 ===
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| − | {{脚注ヘルプ}}
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| − | {{Notelist}}
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| − | === 出典 ===
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| − | {{脚注ヘルプ}}
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| − | {{Reflist|2}}
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| − | | |
| − | == 参考文献 ==
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| − | ; 研究書
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| − | * {{Citation|和書 |last = 桑田 |first = 忠親 |author-link = 桑田忠親 |year = 1958 |title = 淀君 |publisher = 吉川弘文館}}
| |
| − | * {{Citation|和書 |last = 桑田 |first = 忠親 |year = 1972 |title = 桃山時代の女性 |publisher = 吉川弘文館}}
| |
| − | * {{Citation|和書 |last = 小和田 |first = 哲男 |author-link = 小和田哲男 |year = 1997 |title = 戦国三姉妹物語 |publisher = 角川書店 |isbn = 4047032867}}
| |
| − | * {{Citation|和書 |last = 福田 |first = 千鶴 |author-link = 福田千鶴 |year = 2006 |title = 淀殿 - われ太閤の妻となりて |publisher = ミネルヴァ書房 |series = ミネルヴァ日本選評伝 |isbn = 4-623-04810-1}}
| |
| − | * {{Citation|和書 |last = 宮本 |first = 義己 |author-link = 宮本義己 |year = 2010 |title = 誰も知らなかった江 |publisher = 毎日コミュニケーションズ}}
| |
| − | * {{Citation|和書 |last = 笠谷 |first = 和比古 |author-link = 笠谷和比古 |year = 2000 |title = 関ヶ原合戦と近世の国制 |publisher = 思文閣出版 |isbn=978-4784-21067-1}}
| |
| − | ; 論文
| |
| − | * {{Cite journal|和書 |author = 田端泰子 |authorlink = 田端泰子 |year = 2003 |title = 「大阪冬・夏の陣」に収斂する淀殿の役割 |journal = 京都橘女子大学女性歴史文化研究所紀要 |issue = 11号 |ref = {{SfnRef|田端|2003}}}}
| |
| − | * {{Cite journal|和書 |author = 跡部信 |year = 2006 |title = 高台院と豊臣家 |journal = 大阪城天守閣紀要 |issue = 34号}}
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| − | | |
| − | == 関連項目 ==
| |
| − | {{commonscat|Yodo-dono}}
| |
| − | *[[太融寺]]
| |
| − | *[[養源院]]
| |
| − | *[[住吉大社]]
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| − | {{豊臣政権}}
| + | 安土（あづち）桃山時代の女性。豊臣（とよとみ）秀吉の側室。呼び名は茶々（ちゃちゃ）。浅井長政（ながまさ）の長女。母は織田信長の妹お市。1573年（天正1）父長政が信長に攻められ小谷（おだに）城（近江（おうみ）国）で自殺したとき、母と2人の妹とともに救出され尾張（おわり）に移住。82年、お市が柴田（しばた）勝家に再嫁したので、姉妹3人ともに越前（えちぜん）北庄（きたのしょう）城に移った。翌年、勝家が賤ヶ岳（しずがたけ）の戦いに敗れ落城したとき、お市は勝家とともに自殺したが、姉妹は救出され秀吉に預けられた。88年ころに秀吉の側室となり、89年ころには山城（やましろ）の淀城に住し、世に淀殿とよび、淀の局（つぼね）と称した。この年棄丸（鶴松）を産み（夭死（ようし））、ついで93年（文禄2）秀頼（ひでより）を産み、秀吉の寵愛（ちょうあい）を一身に受け、世継ぎの「お袋様」として正室をしのぐほどの威勢を誇るに至る。秀吉の没後は、遺言により秀頼を擁して伏見（ふしみ）城より大坂城に移り（1596）、豊臣氏2世秀頼の母公として権勢を振るい政治にも容喙（ようかい）して豊臣氏の天下を危うくし、大坂冬の陣・夏の陣を経て、1615年（元和1）5月7日、秀頼とともに城を枕（まくら）に自害した。 |
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