扇風機

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様々なタイプの扇風機

扇風機(煽風機、せんぷうき)とは、回転する羽根によってを発生させる機器[1]。通常、扇風機という場合には、小型電動機羽根をつけ、その回転によってを起こす装置をいい[2]、電気扇風機のことをいう。なお、サーキュレーターとは目的や構造が異なる[3]エアサーキュレーター参照)。

概説

電気扇風機は、モーター羽根ファンプロペラ)をつけ、そのモーターによってファンを回転させ、を作りだしている。

歴史

日本では、江戸時代には団扇を複数枚使った手回し扇風機が作られていたが、世界初の電気扇風機は19世紀後半、モーターの発明とほぼ時を同じくしてアメリカで発売開始された。直流に執着し、直流による発送電を行っていたトーマス・エジソンは直流モーターの扇風機を発売するが、交流発送電が主流になるにつれて、交流式モーターのものが主流となった。

日本ではゼネラル・エレクトリック(GE)の技術で芝浦製作所東芝の前身)が1894年(明治27年)に発売したものが最初である[4]。本体に電球を備え付け、スイッチを入れるとプロペラが回るとともに電球が点灯する直流モーターの扇風機であった[5]。電球はプロペラを回す直流モータの回転を安定させるための抵抗であったとされる[6][7]1913年(大正2年)には、川北電気企業社から12インチの交流電気扇風機が発売された。大正時代には三菱電機富士電機日立製作所などのメーカーも参入し、本格的に国産扇風機が量産され始めた。また、昭和初期には川崎造船所(川崎重工業の前身)が、左右だけで無く上下の首振りも同時にする、2軸リンクの扇風機を発売した[8]。当時は「電気扇」「電扇」などと呼ばれていた。

扇風機は家屋鉄道車両内などで広く利用され、夏の風物詩のひとつともなった。詩歌で「扇風機」は夏を示す季語である[2]。夏目漱石の日記でも「扇風機が頭の上で鳴る」などと書かれている[2]

高度成長期、あるいは昭和後半〜平成期に冷房機能を備えたエアコンが低価格化し普及すると、扇風機が使用される機会が減ったが、2011年東日本大震災以降、節電省エネルギーエコロジーなどが強く意識されるようになるとともに扇風機の良さが再評価され、再び使用台数・販売台数が伸びてきた。

2017年現在、従来の誘導電動機よりも効率が良く、消費電力が小さいブラシレス直流モーターを採用した扇風機が多数登場している。

特長・用途

扇風機には、電気料金がエアコンに比べて安価である、を開放した状態で使用できる、部屋に快適な風の通り道をつくり体感温度を下げることができる、エアコンに比べ設置場所を選ばず移動が簡便、初期投資も安い、等々の利点がある。

また、クーラーの場合、足元ばかりが冷えてしまい、いわゆる「冷え性」の人がひどく苦しんだり、部屋の内外での気温差が大きくなりすぎて、営業職などで出入りの激しい人が体調を崩してしまう症状(いわゆる冷房病)が起きがちだが、扇風機の場合、そうした心配が無い。

扇風機は、室内の空気を撹拌し冷暖房を補助するエアサーキュレーターとして使われることもある。また、洗濯物に風を当てて早く乾かすための道具として使われることもある。

(数十年前からだが)電池駆動の携帯型もある。「マニキュア/ネイルの乾燥に最適」などと謳っている商品も存在する。USB方式で5Vの電源を用いるタイプも増えている。

構造と機能

羽根

ごく一般的な電気扇風機のプロペラファンの枚数は、直線で構成できる2翅の他は、長らく3翅が主流であった。近年では5翅が多い。これは、正三角形正五角形のように、対角線が一筆書きになる図形を基にした放射線の方が、図面上配列を均一にしやすいことや、成型時に中心を取りやすく、かつ、工作精度の限界による図形上の中心と重量上の中心のズレが発生しても偏回転を起こしにくく、設計・製造の両面で有利であったためである。

これに対して、4翅、6翅といった偶数のものは、同様の理由から少数派である。4翅は普及黎明の商品に見かけることがあるが、金属プレス加工やプラスチック一体成型のプロペラが主流になるにしたがって姿を消していった。

唯一、東芝だけがプラスチック一体成型のプロペラ全盛期に至っても一貫して4枚羽根を採用し続けてきた。主に東急車輛製造(一部、日本車輌製造)製の鉄道車両のオート扇に4翅扇風機が見られるのは、東芝が同社に電装品を納入している関係による。

また、2011年に東芝は、7翅(家庭用)の販売も始めた[9]

なお、羽根のない扇風機も存在する[10]

モーター

商用電源(単相100V)用のモーターとして大正時代から使用されたのが、不平衡三相により三相巻線を駆動する誘導電動機(モノサイクリック始動形単相誘導電動機)であった。1955年(昭和30年)にコンデンサモーターの扇風機が発売されると、始動トルクが大きく、回転も滑らかになり扇風機用モーターの主流になった。小型の扇風機には、くま取りコイルモーターが使用される。構造が簡単で安価であるが、効率が悪いため大型の扇風機に使用することはできない。2011年以降の節電ブームで、効率の高いDCブラシレスモーターを使用した扇風機も人気となった。DCブラシレスモーターは広い速度範囲での変速運転が可能で、低速度でも安定して回転する。ただし、直流を作るための回路やモーターの駆動回路が必要となるため、コンデンサモーターを使用した扇風機に比べると高価になる。

ガード部

ガード部分は、前後面ともに中心から放射状に骨が張られているのが主流だが、(乳幼児などの指が入らないよう)目を細かく菱形格子状に設計している商品もある。

なお、ガード部に被せる網目状のネットも市販されている。

機能

  • 風量は、微風、弱風、中風、強風などに区分した段階式のものが多い。
  • 強弱をつける「リズム風」の機能をもつものもある。
  • タイマー機能を有するものもある。
  • 自動の首振り機能を有するものもあり、首振り角度を調整できるものもある。
  • 仰角から俯角まで角度調節できるものもある。
  • 支持部を上下に伸縮させることができるものもある。
  • リモコンを付属させたものもある。

種類

座敷扇・リビング扇

(あくまで日本での、日本的な呼称だが)座敷等で使用することを目的とした比較的背の低い自立型のもの[1]は、座敷扇(ざしきせん)と呼ばれ、高さ70cm程度が一般的であるが、首を伸ばすことで更に20cm程度高くすることができる。これに対して、リビングルーム(居間)等で用いられる比較的背の高い自立型のものは、リビング扇(-せん)と呼ばれる。

  • 羽根は、一般に3枚〜5枚程度で、直径は約30cm〜35cm。
  • 風量(羽根の回転速度) - 一般的に3〜5段階程度の切り替えができる。無段階で風量を変えられるものや、自動的に風量が増えたり減ったりするもの、1/f ゆらぎで風量が変化するものなどもある。「リズム風」などともあるほか1970年代ごろの扇風機の一部にはかなりの低速で回転が出来る「超微風」(一部メーカーでは「超低速」)というモードがあり、これらが現在の「うちわ風」(日立)、「ゆっくり風」(東芝)、「ベビー風」(三菱電機)などが継承している。DCモーター扇風機ではほとんどの機種で装備されている。
  • 風向 - 上下方向への角度調節、左右への自動首振りができる。中には首振り角度が調節できるものやクランクの固定位置を変えて高角度で首振りができるもの、360度回転するもの、8の字に首振りするものもある。
  • タイマー - 機種にもよるが、手回しは30分〜3時間程度、マイコン式は30分〜8時間程度の範囲で任意の時間に設定できるタイマーを内蔵し、指定時間経過後に自動的に電源を切る機能を備えるものも多い。
    • ワイヤレスリモコン付きのものもある。以前は超音波式リモコンや有線リモコンが使用されたことがあるが、現在は赤外線リモコンが主流。
    • 子供(特に乳幼児)への安全対策 - 1970年代頃の機種の中には、自動停止機能「タッチストップ」付きのものもあった。本体にセンサーが内蔵されており、カバー部に素手で触れると安全装置が働き、回転が自動停止する、というものであった。このような機能が搭載されたものは長らく市場から姿を消していたが、その後2009年三洋電機からタッチストップ機能付きの機種が発売されていた。なお三洋電機はパナソニックの子会社になり2012年から三洋製のデザインを受け継ぎパナソニックブランドで発売されている。ただしタッチストップ付は廃止された。2015年6月現在、タッチストップ機能を搭載したものは、山善、ユアサプライムス、トヨトミから発売されている一部機種のみである(なお、乳幼児の安全対策として、ホームセンターなどで扇風機用ネット(網)が売られており、それを被せれば、タッチセンサー式でなくとも子供の指が入らず十分に安全であるほか一部の製品はメッシュガード式になっている物もある)。
    • 人感センサーによって周囲に人が来た時だけ動く節電タイプなどもある。


フロア扇

主に洋間等で使用するもので支柱が極めて長い又は支柱の中間から上部に操作部があるもの[1]。機能については座敷扇とほぼ同じ。

壁取付扇・壁掛扇

に取り付けて使用するもの[1]で、壁取付扇[1]壁掛扇と呼ばれる。高所にあるため、首を斜め下に向けて使用する。また、操作には引き紐(プルスイッチ)や、リモコンを用いる。床に設置スペースをとらないので、邪魔にならない。

1980年頃に発売された壁掛け扇風機には、赤外線でなく超音波を使用したリモコンのものもある。

天井取付扇・天井扇

天井に取り付けて使用するもの[1]で、天井取付扇[1]天井扇とも呼ばれる。シーリングファンとも言い天井に取り付ける大型のもので直径は、1m前後である。エアコンが普及するまで官公庁や病院デパートなどで一般に見られた。エアコンと同時に使うと、室内の温度がより均一になり、冷却および暖房効率が上がる。軸が天井固定でモーター本体に羽根がついて回転する形式が多い。ハワイなど南国では一般的に使われている。照明と一体になったデザインのものもある。現在ではレトロな雰囲気を出すためにインテリアとして設置する例が見られる。人は風が当たると同じ温度でも涼しく感じるので、夏場は下向き、冬場は上向きに風を送るようにすると効果的である。

卓上扇

卓上で用いる小型の扇風機。電源はコンセント式だけでなく乾電池式やUSB式もある。

クリップ扇

大きな洗濯ばさみ状のクリップによって固定するものはクリップ扇(クリップせん)と呼ばれる。

  • 羽根は直径15cm程度と小さく、上下方向への角度調節ができる。
  • 左右への自動首振りができるもの、風量・羽根の回転速度は2段階程度の切り替えができるものもある。
  • 一部のメーカー製品では壁掛け扇になる場合もある。
  • アクセサリーソケットを使用して自動車の車内で使用できるものもあり、エアコンを使用するより低燃費であることを謳って販売している店舗もある。
  • USBでパソコンに接続して使用するものもあるが、電力供給能力の限界上、かなり小さなものになる(USB扇風機を参照)。


ボックス扇

その名の通り四角いに入っている。形は換気扇と似ている。1980年に三洋電機から発売された「EF-01000」などはお洒落な外観から人気を集めた[11]

首振り機構は無く、その代わりにルーバーが回転する。左右の角度調節は本体を動かすしかないが、上下は垂直から水平までできるものもある。夜間、窓際に設置して冷たい外気を室内に取り入れるウィンド・ファンとして利用可能である。青色の抗菌蛍光灯付きの製品も発売されていた。脚とボックス本体の間に回転軸を設け首振りを可能にした製品も発売されている。 一部の鉄道車輌において冷房改造時後に装着されていた。

多翼扇

多数の羽根をドラム状に構成した遠心式の扇風機[1]。タワーファンとも呼ばれる。ブロワーファンやクロスフローファン、シロッコファンを採用した、柱状の扇風機。送風機ともいわれる。

オート扇

サイクル扇とも呼ばれる、天井に固定して使用する扇風機で、銭湯鉄道車両ホームなどに取り付けられていた。

クランクなどを使用し、モーターを歳差運動させる。大抵は、電源を入れると同時に旋転を始めるが、古いものでは、スイッチで旋転を停止させる機構がついているものもある。パナソニックや日立はオート扇を、三菱電機はサイクル扇を品名に使っている。

エアマルチプライアー

エアマルチプライアーイギリスダイソン社により発表された扇風機で、羽根は本体内部にあり利用者が見えるところには無い。リングの中に周囲の空気を巻き込みながらモーターで加速して風を発生させる構造。

工業扇

工場などで使われる大型の物で、羽根の直径は様々。小型のものもあり(羽直径 10 - 20cm)、45cm程度のものもあるが、もっとはるかに巨大なものもある。家庭での半田煙ラッカー塗料のガスを吹き飛ばすのに使用される。異臭やホコリ、チリを吹き飛ばすほど強力なタイプもあり、主に工場で用いられるが、45cm程度のものならホームセンターでも容易に入手できるので、多くの人が集まる集会場や一般家庭でも使われている場合がある。電源は単相100Vや200V、三相200Vを使用することが多い。

霧放出扇

扇風機の前方から水蒸気を放出する器具を装着した扇風機である。「ミスト扇」とも呼ばれる。蒸発熱(気化熱)の効果を狙った製品でもある。

扇風機を製造しているメーカー

日本のメーカー

外国のメーカー

  • HATARI - 1980年に誕生したタイのメーカー[12]

規格

日本工業規格(JIS)C 9601「扇風機」"Electric Fans"は、扇風機の形状・性能・安全基準・試験方法などについて規格化している。

扇風機の形状により、卓上用・座敷用・床上用・壁掛用・天井吊り下げ首振り形の5種類をまず定義している。座敷用と床上用はともに床置き形であるが、首の高さ調節機構による最大高さが1.3メートル未満のものを座敷用、それ以上のものを床上用としている。その他は前述のとおりである。このほか、「扇風機前方の風速分布が同心円状とは大きく異なる」[13]もの特殊形としている。

羽根の大きさは直径20・25・30・35・40センチメートルの5種類が定義されている。各大きさによる風速風量の最大およびその状態での消費電力の最大は以下の通りである。測定方法や条件、測定値の許容範囲等は規格による。

羽根直径 風速 風量 消費電力
20cm 115m/min以上 12.5m3/min以上 35W以下
25cm 145m/min以上 18m3/min以上 50W以下
30cm 170m/min以上 28m3/min以上 65W以下
35cm 190m/min以上 38m3/min以上 80W以下
40cm 205m/min以上 54m3/min以上 100W以下

トピック

扇風機の火災事故

古い扇風機は、経年劣化により火災を引き起こす可能性もあるため、製品評価技術基盤機構(NITE)などの団体が注意を呼びかけている[14]

特に、安全対策が施されていない「くま取り型モーター」を採用した扇風機(安価な製品に多い)に対し、課題を感じている専門家もいる(構造的には強いが、コンデンサの劣化や電気配線に損傷が発生すると短絡出火につながる)[15]。扇風機に採用されているモーターの種類には、他に「誘導モーター」「整流子モーター」がある。

また、火災原因の一つへの対応としては、「ホコリ防止加工」が施されている商品もある。

2010年(平成22年)以降、消費者庁が報告を受けた62件の扇風機による火災事故で、15年以上の使用による事故32件のうち、28件が製造から35年以上経過した製品であり、それらの製品については、製造メーカが使用の即時中止を呼びかけている[16]。そのため、電気用品安全法電気用品の技術上の基準を定める省令が改正され、2009年4月以降に製造された扇風機については、長期使用製品安全表示制度により製造年と設計上の標準使用期間が記載されている[17]

節電

2011年には、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震東日本大震災)及び東京電力福島第一原子力発電所での事故による電力危機で、初夏以降、日本国内各地で(エアコンより省エネの)扇風機の需要が急増、品薄状態となった[18]

他の動力による扇風機

  • かつては手回式の扇風機が用いられたこともある。
  • (日本語訳不明)石油ランプによるスターリングエンジンを使った扇風機がホットエアーファンで、日本では馴染みが無いがアメリカでは普及していた。電気扇風機の出現と送電網の発達で役目を終えた。

派生的表現

  • 転じてプロ野球空振りを繰り返すバッターを揶揄する単語としても使用される。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 意匠分類定義カード(D4) 特許庁
  2. 2.0 2.1 2.2 広辞苑 第六版【扇風機】
  3. テクの雑学 第153回 扇風機とはここが違う〜サーキュレータを使って暖房費を節約〜 TDK
  4. 日本初の電気扇風機”. 東芝未来館. . 2017年7月17日閲覧.
  5. この当時、商用電源は直流送電されていた
  6. 大西正幸「電気の歴史をひもとけば 第44回 電気扇風機の歴史」、『電気計算』第85巻第8号、電気書院、2017年8月12日、 97頁、 ISSN 0385-7050。“白熱灯は、直流モータの回転数を安定させる抵抗である”
  7. 日本初の白熱電球暗闇を照らす一筋の光”. 東芝未来館 (2015年10月21日). . 2017年7月17日閲覧. “当時電気を使うということはまだ日常的なことではなかったので、電気を使う機械だということをアピールする狙いがあったなどいろいろな説がありますが、現在では、直流モーターが使われており電流が不安定だったため抵抗としてつけた、という説が一番有力だとされています”
  8. 県下の優良国産品(三)内地だけでなく海外へ好売行の川崎造船の扇風機 - 神戸新聞 1930年8月27日
  9. 熱帯夜向き? 7枚羽の静かな扇風機でスヤスヤ|DIGITAL DIME デジタルダイム|ダイム発!トレンドスキルを磨くデイリー情報
  10. ダイソン社
  11. 『昭和55年 写真生活』(2017年、ダイアプレス)p110
  12. 【タイ】タイでは生活の必需品の扇風機も安い” (2015年10月11日). . 2018閲覧.
  13. JIS C 9601-1990より引用。
  14. 節電:古い扇風機にご注意! 火災の恐れあり - 毎日新聞
  15. 火災調査探偵団 扇風機の火災
  16. 長期使用の扇風機で火災が発生しています消費者庁、平成25年9月6日
  17. 長期使用製品安全表示制度について一般社団法人日本電機工業会
  18. 節電:家庭、扇風機頼み 被災地も首都圏も品薄 5月輸入、過去最高の321万台 - 毎日新聞 2011年7月2日 東京朝刊

関連項目

外部リンク