悪逆

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悪逆(あくぎゃく)は、中国と日本の律令に定められた犯罪類型で、父母など目上の親族に対する殺人や暴行のうち重大なものを含む。一つの犯罪ではなく、いくつかの犯罪をまとめた分類名である。中国では十悪の4番目、日本でも八虐の4番目の重大犯罪とされた。君主や国家に対する犯罪でない一般犯罪ではもっとも重い犯罪類型である。

悪逆の範囲

尊属に対する重大犯罪が悪逆だが、行為と近親の度合いによって、悪逆になるかどうかが決まる。父母と父方の祖父母に対する場合、殺(現代的に言えば殺人罪)、謀殺(殺人の予備罪[1])、殴(殴る、蹴るなどの暴行罪、その結果としての傷害罪)が悪逆となる。

伯叔父(おじ)・姑(父方のおば)・兄・姉・外祖父すなわち母方の祖父母・夫・夫の父母に対する場合、殺人を実行した場合にのみ悪逆となる。妻や妻の父母に対しては、殺しても悪逆にはならない。この分け方は、日本の養老律でも中国の唐律でも同じである[2]

伯叔父などに対する謀殺と殴は、日本律では八虐の5番目の不道、唐律では十悪の8番目の不睦に分類されるが、対象親族の範囲や危害・敵対行為の詳細などに異同が多い。

八虐・十悪の罪は、身分・官位・扶養義務などを考慮した減刑や贖罪の対象にならず、恩赦の対象から外されたり扱いが不利になる[3]

量刑

尊長の度合いや危害の程度により量刑に幅があるが、以下は日本律について説明する。

人を殺して悪逆または不道となれば、みな死刑になり、ただかの処刑方法に差があるだけである。

謀殺においては、悪逆となる父母・祖父母と、不道の一部である外祖父母・夫・夫の父母が極刑である斬となるが、嫡母(庶子にとっての正妻)・継母(前妻の子にとっての後妻)に対する計画は伯叔父・姑・兄・姉に対するときと同じ扱いで、遠流となる[4]

暴行・傷害は被害の程度により刑が異なるが、悪逆・不道であっても条文上の量刑に違いはなく、遠流かそれより下の刑が下る[5]

日本律での悪逆の範囲と刑
実父母・養父母・祖父母 継母・嫡母 外祖父母・夫・夫の父母 伯叔父・姑・兄・姉
殺(殺人) 悪逆・斬 悪逆・絞 悪逆・斬 悪逆・絞
謀殺(殺人予備) 悪逆・斬 悪逆・遠流 不道・斬 不道・遠流
殴(暴行・傷害) 悪逆・遠流以下 悪逆・遠流以下 不道・遠流以下 不道・遠流以下


参考文献

脚注

  1. 律の用語で謀は犯罪の計画で、現代的に言えば予備罪にあたる。律では計画段階の謀と、着手段階とを区別し、未遂は重視しない。
  2. 『養老律』名例律第一、6八虐条。『日本思想大系 律令』新装版16-17頁。
  3. 詳しくは八虐を参照。
  4. 『養老律』賊盗律第七、6謀殺祖父母条。『日本思想大系 律令』新装版90頁。
  5. 『養老律』盗訟律第八、3闘以兵刃条から5闘殴殺人条。『日本思想大系 律令』新装版119-121頁。

関連項目