寿命

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各国の平均寿命(2011年)
円の大きさ:人口
縦軸:女性の寿命
横軸:男性の寿命

寿命(じゅみょう)とは、がある間の長さのことであり、生まれてから死ぬまでの時間のことである。転じて、工業製品が使用できる期間、あるいは様々な物質・物体の発生・出現から消滅・破壊までの時間などを言うこともある。

言葉としての一般的用法

一般には、人間が生まれてから死ぬまでの時間のことを寿命という。この長さには非常に個人差があり、生まれてすぐ死ぬ人間もいれば、100年以上生きる人間もいる。しかし、あまりに短い場合、大抵は事故であったり、病気であったりと不本意な理由があるから、「あれさえなければもっと生きていたろうに」というふうに考えるものである。したがって、人間は特に問題がなければ老人になって衰えて死ぬものだとの考えから、老衰で死ぬことを寿命と言うことが多い。100歳の人が死ねば、大抵は「寿命だからね」と言われる。

言葉としては、寿命が短いことを短命(たんみょう・たんめい)、長いことを長命(ちょうみょう・ちょうめい)という。もちろん相対的な概念であり、絶対的な区別はない。短命に終わることを、夭折という。

生物学的用法

生物学における寿命には2つの考え方がある。たとえばアユ海水で育てると2年以上生き延びることが知られている。そこで、アユの寿命は実は2年くらい、というのは確かに正しいのであるが、実際の河川では、アユはほぼすべて1年で死ぬ。一年草も自然条件では1年で開花・結枯死するが、開花条件を満たさなければ何年も生きるものが多い。つまり、アユや一年草の寿命は1年とも、2年(もしくはそれ以上)ともいうことができる。そこで、条件を整えてやった場合に実現する寿命を生理的寿命、その生物が実際に生活している場で見られる寿命を生態的寿命として区別する。我々の見る一般的な動物個体老化して死に、人間と同じように生理的・生態的寿命を考えることができる。ただし、生物界全体を見渡した場合、生理的寿命があるものはむしろ少数派である。属する種の過半数に生理的寿命があるものは動物だけといってよく、動物の中でも海綿動物腔腸動物扁形動物では生理的寿命は認められていないものが多数を占める。

細胞の分裂回数の限界

一般に単細胞生物には寿命の概念がない。ただし例外的に繊毛虫ゾウリムシの仲間)では分裂後の隔離を繰り返して自家生殖接合を行わせないと細胞分裂ができなくなる現象が起こる。パン酵母にも同様の現象がある。同じく動物の一部種(おそらくは脊椎動物)の正常な体細胞では一定回数以上分裂できない現象がある。これらの動物体細胞では細胞分裂時に短くなる染色体上のテロメアと呼ばれる配列を延長できず、ある程度以上テロメアが短くなれば分裂できなくなる。これを動物ではヘイフリック限界といい、生理的寿命の原因ではないかとされている。よく誤解されるが原核細胞(細菌・古細菌)、多くの動物以外の真核細胞および動物の生殖細胞細胞、動物でも海綿動物腔腸動物扁形動物の細胞ではこのヘイフリック限界のような現象は認められず、無限に分裂できる。もちろん、これらの分類群の中にも上記の繊毛虫や酵母のように明確に分裂回数が有限であるものも存在する。ゾウリムシ[1]でも出芽酵母[2]でもテロメアは分裂回数の限界には関わってないことが示されているが、動物の老化時と共通した遺伝子発現もあり、分裂回数の有限性は動物の体細胞とは独立に獲得された似た現象であるのか、元々共通した現象であるのかは現段階では不明である。

ヒトの細胞の分裂限界(PDL:population doubling level)(=ヘイフリック限界)は50で最大寿命は約120年、ウサギではPDL20で最大寿命は約10年、ラットではPDL15で最大寿命は約3年で、PDLと最大寿命とが直線的な関係がみられる[3]

寿命の意義

動物などにおける寿命の進化要因は現在論争中で、充分に説得力のある仮説はない。しかし、以下の仮説がある。議論する上でよく有性生殖の意義との混同が起きるが、全く別のものである。有性生殖またはそれに当たる遺伝子交換は多くの生物で認められ、真核生物では認められないものの方が少数である点も寿命とは異なる。

個体使い捨て説
生理的寿命がある生物は体が複雑であるものが多い。動物でも体制が簡単な海綿と腔腸動物には生理的寿命が認められないものが多い。生理的寿命が認められるゾウリムシは単細胞生物としては異例の複雑かつ巨大な体を持っている。ここから、複雑な体はある程度以上壊れる(老化する)と当該個体の修復よりも新個体の生成のほうがコストが少ないため、個体(ゾウリムシの場合は大核)を捨ててしまうという説。上記のゾウリムシにおける無限に分裂ができる系統では定期的に大核の廃棄および再構成(オートガミー)がなされている。多くのゾウリムシ系統はこの廃棄と再構成が接合とリンクしているため接合がない場合は分裂能を失ってしまう。ただし、体制が単純な酵母などにも寿命があることがこれでは説明が付かない。
テロメア
動物(おそらくは脊椎動物のみ)の生理的寿命だけに成り立つ論であるが、細胞分裂のたびに染色体の端にあるテロメアが短くなり、ある程度以下になると細胞分裂できなくなる現象から。しかし、これは(他の真核生物は保持している)テロメラーゼを失うことにより動物が生理的寿命を設定している、という方が正しい可能性があり、原因と結果をはき違えている、という意見がある。また、脊椎動物でもテロメラーゼ活性が程度の差はあれ、認められる種も確認されている。
偶然説
祖先種においてたまたま(生理的)寿命があるものができ、それが特に(遺伝子の)生存に不利でなかったためたまたま創始者効果で広まったという説(つまり寿命に意義はない)。この例としては一年生(一回開花性)草本の寿命が上げられる。一年生草本では開花条件を満たすと開花結実し枯死するが、開花条件を満たさないと生存に適当な環境では長期間生残するもの(つまり生理的寿命が認められない。例:アサガオコリウスの多く)と、開花に不適な条件でも展葉枚数(葉齢)が一定数以上に達すると開花結実枯死のプロセスが止まらなくなるもの(つまり生理的寿命がある。例:シロイヌナズナCol-0系統やトウモロコシの多くの系統)がある。自然条件ではどちらも開花条件を満たす→開花枯死となるので生理的寿命の有無は遺伝子の生存や増加にはほとんど影響を及ぼさないであろう。上記のゾウリムシやパン酵母の例でも生存(分裂)に適した条件で接合相手が居ないことはごく低確率である、パン酵母では分裂した片方の細胞である母細胞は老化するがもう片方の娘細胞は若返る、アユのように動物では生理的寿命は生態的寿命より大幅に長いことが多いなど、生理的寿命の有無や長さは遺伝子の生存や増加には影響を及ぼしていないのではないかと思われる例が多い。ただし、この説では老化課程における遺伝子発現が整然としている、つまり積極的なプロセスに見える事象が多いことが説明が付かない。これに対しては、寿命を獲得した偶然は遺伝子の単なる故障ではないのではないか、という反論がある。例えばホヤ類では岩に固着するホヤ成体には生理的寿命が認められた種はないが、その分散形態であり運動性のあるオタマジャクシのような幼生には生理的寿命がある(時期が来ると岩に固着して変態し、脊索その他運動に必要な部分を捨て去る)。この変態はもちろん積極的な整然とした遺伝的プロセスであろう。その幼体が幼形成熟により、運動性形態のまま性成熟するようになったものがオタマボヤではないかとされている。そして同じ脊索動物(尾索動物)でありながらオタマボヤには生理的寿命がある。オタマボヤ脊椎動物に非常に近縁とされ、全ての脊椎動物には生理的寿命があるとされている。上記から、脊椎動物に生理的寿命があるのは祖先となったホヤ幼生の運動部分に寿命があったためという偶然と創始者効果のためであるという仮説が成り立つ(ただし、それぞれの分類群の分岐や着生ホヤの生理的寿命の有無を含め異論が多いことに注意)。老化→死に至る遺伝的なプロセスに整然としている部分が多いことも説明が付く。この仮説に従えば、上記の一年草の生理的寿命(開花スイッチが葉齢によっても入るようになっただけ)はもちろん、動物の別の分類群、例えば昆虫などの節足動物脱皮動物)の寿命は別途獲得されたことになる。ちなみに最近の研究では昆虫種の多くでは体細胞にもテロメラーゼが常時発現したりテロメラーゼとは異なる機構でテロメアを延伸していること(線虫(C. elegance。脱皮動物に含まれる)でも同様)、体細胞でも分裂の有限性は認められないことが昔から知られていること、なことなどから、脊椎動物の生理的寿命とは起源が異なることが強く示唆されている。

心拍数説

脊椎動物全般では、心拍数によって決まるという説もある。これは心拍数に上限があり、その上限が哺乳類は20億回で、それに達すると寿命だという。ただ、この値は指数関数的な概数であり厳密に当てはまるものではない。例えば一分間の脈拍60 - 80回程度の人間(ヒト)を当てはめると45 - 65年程度の寿命になる。

休眠がある場合

生物の中には、その生活史の中に非常に不活発で、生理作用も低レベルとなった状態である程度の時間を過ごす例がある。それを休眠と言うが、往々にして環境条件の悪化を耐え忍ぶために現れる。これは生活環の中で定期的、一定期間で行われるものもあるが、中には不定期に長期間をその形で過ごす例がある。その場合、この期間を含む寿命は非常に長くなる。例えば植物種子の中には条件が整えば半永久的な寿命を持つのではないかと考えられる例が存在する(植物種子は休眠個体であって決して卵ではない)。同様にクマムシ、別名でチョウメイムシ(長命虫)は、この動物が特殊な休眠(クリプトビオシス)の状態で数十年にわたって生き延びることが知られている。同様の卵でない個体休眠はネムリユスリカワムシでも知られている。

ルブナーの法則

大型動物ほど寿命が長いとの経験則があり、大型になるほど体重に比較して体表面の割合が小さくなり、体表面からのエネルギー損失が低くなる。このことにより、大型になるほど1日に必要なエネルギーを体重で割って得られる比代謝率が低くなる傾向となる。ルブナーの法則(en:Rate-of-living theory)とは、「限界寿命は比代謝率に逆比例する」ことである。Cを定数とすると次式で表される。

限界寿命 = C/比代謝率

哺乳類では体重で10万倍、寿命で60倍の相違が認められるが、Cの値の相違は小さい。霊長類と他の哺乳類と比較すると、霊長類のほうがCの値が2倍大きいところである[4]

寿命伸長の可能性

薬物摂取により、真に医学的に「寿命を延ばす」という事は、難しいと考えられてきた。しかし、2009年の研究で、抗生物質の一種であるラパマイシンマウスの寿命を伸長させる作用があるとのデータが得られ、薬剤によって(既に高齢化している)動物個体の寿命を伸長させることができることがわかった。

また、低カロリーの摂食は多くの動物平均寿命最長寿命English版を延ばすと言われている[5]栄養の不足は、細胞中でのDNA修復の増加した状態を引き起こし、休眠状態を維持し、新陳代謝を減少させ、ゲノムの不安定性を減少させて、寿命の延長を示すと言われている。

標高1000-3000 m程度の高地民族(世界三大長寿地域参照)には長寿が多く、また冠心疾患高血圧症の発生率が低いことが報告されている[6][7]。低酸素条件下の運動でグルコース酸化率の増加が認められた。低酸素条件下では、ミトコンドリアによる好気的酸化が抑制され、グルコースの嫌気的分解が亢進する。結果として、血糖値が低下し、インスリン分泌を抑制し、インスリン抵抗性が改善される[8][9]。また、平成22年の日本の長寿県第1位は、男女とも長野県である[10]

なお、1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた[11][12]。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化反応による影響は、例えば血管の主要構成成分であるコラーゲン水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。例えば白内障老化によって引き起こされるが、血糖が高い状況ではこの老化現象がより高度に進行することになる[11]。同様のメカニズムにより動脈硬化や微小血管障害も進行する。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させる[13]

村落単位で見た生活習慣では、労働が激しく、又は大豆を十分にとり、野菜海草を多食する地域は長寿村であり、の過剰摂取、魚の偏食の見られる地域は短命村が多いことが指摘されている[14][15][16]

人間の寿命

ファイル:Life Expectancy 2008 Estimates CIA World Factbook.svg
各国の平均寿命 (CIA World Factbook 2008 Estimates for Life Expectancy at birth (years).)
  80歳以上
  77.5 - 80歳
  75 - 77.5歳
  72.5 - 75歳
  70 - 72.5歳
  67.5 - 70歳
  65 - 67.5歳
  60 - 65歳
  55 - 60歳
  50 - 55歳
  45 - 50歳
  40 - 45歳
  40歳以下
  不明

平均寿命

平均寿命はある集団に生まれた人間が平均して何年生きられるかの期待値であり、0歳児の平均余命であるとも言える。具体的な計算法は、各年齢の人間の年間死亡率を求め、今年生まれた人間の人口がこの死亡率に従って毎年どれだけ死亡するかを求める。このシミュレーションでそれぞれの死亡した年齢を平均したものが平均寿命となる。

平均寿命は一般に先進国の方が開発途上国より長いが、これは発展途上国の新生児死亡率が先進国よりはるかに高いことが主な原因と考えられる。新生児死亡は死亡年齢の低さから平均値を大きく引き下げる働きがあるからである。また、戦争などで一時的に若者が多く死亡した場合、一時的に平均寿命が低くなる。若年層の死亡率がその時期だけ高くなり、同じく平均を強く引き下げることによる。

国別平均寿命ランキング

以下、WHOの世界保健報告発表による。


最長の人間の寿命

最長の人間の寿命は、生没年月日が判明している者では、ジャンヌ・カルマンの122年164日が最長である。

脚注

  1. Lack of telomere shortening during senescence in Paramecium.Proc Natl Acad Sci USA 1994 Mar 1;91(5):1955-8
  2. Fabrizio, P., Longo, V., D. (2003) The chronological life span of Saccharomyces cerevisiae. Aging Cell 2: 73-81.
  3. 田沼靖一 『アポトーシスとは何か』 p205-213、1998年6月25日、講談社現代新書、ISBN 4061493086
  4. 近藤宗平、「寿命はプログラムされている」、『日本老年医学会雑誌』 Vol.25 (1988) No.2 P97-104 , doi:10.3143/geriatrics.25.97
  5. G. López-Lluch, N. Hunt, B. Jones, M. Zhu, H. Jamieson, S. Hilmer, M. V. Cascajo, J. Allard, D. K. Ingram, P. Navas, and R. de Cabo (2006). “Calorie restriction induces mitochondrial biogenesis and bioenergetic efficiency”. Proc Natl Acad Sci USA 103 (6): 1768–1773. doi:10.1073/pnas.0510452103. PMC 1413655. PMID 16446459. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=1413655. 
  6. Baker PT: The adaptive fitness of high – altitude population. In: The Biodogy of High Altitude Peoples. Cambridge University Press, Cambridge, 1978, pp317-350.
  7. Leef A:長野敬 訳,現代の医学生と死『老化』.Science, 1981,別冊38: 31-40.
  8. 高櫻英輔、長崎成良、田辺隆一・他:高所環境における肥満治療(第3報)─高所と運動による影響─、登山医学、1999、19: 129-136.
  9. 片山訓博、大倉三洋、山﨑裕司 ほか、【原著】常圧低酸素環境が運動中の呼吸循環代謝応答に与える影響 理学療法科学 2012年 27巻 4号 p.357-361, doi:10.1589/rika.27.357
  10. 平成22年都道府県別生命表の概況、厚生労働省
  11. 11.0 11.1 坂本信夫、糖尿病合併症の成因と対策 日本内科学会雑誌 1989年 78巻 11号 p.1540-1543, doi:10.2169/naika.78.1540
  12. Sakamoto N, et al : The features of causes of death in Japanese diabetics during the period 1971-1980. Tohoku J Exp Med 141(Suppl) : 631, 1983
  13. 川上正舒、動脈硬化症の分子機構 糖尿病 2003年 46巻 12号 p.913-915, doi:10.11213/tonyobyo1958.46.913
  14. 香川靖雄、石黒源之、大川藤夫 ほか、日本の長寿地域の現状 (1976年) 栄養学雑誌 1976年 34巻 4号 p.163-172, doi:10.5264/eiyogakuzashi.34.163
  15. 近藤正二、第14回 日本医学会総会特別講演、p. 132 (1955) 医学出版協会
  16. 近藤正二、臨床と研究、33 684 (1954)

参考文献

  • 樋渡宏一『ゾウリムシの性と遺伝』,(1982),UPバイオロジー・シリーズ(東京大学出版)

関連項目

外部リンク