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'''人工妊娠中絶'''(じんこうにんしんちゅうぜつ、{{lang-en-short|induced abortion}})は、人工的な手段を用いて意図的に[[妊娠]]を中絶させることを指す。[[妊娠中絶]]の一つであり、[[刑法]]では堕胎(criminal abortion<ref>{{Citation |和書 | author =真柄正直 | author2 =真柄婦美 | date =1953-11-07 | title =発音・解説付 英和医語中字典 | place =東京都文京区 | publisher =文光堂}}</ref>)と言う。俗語で「堕ろす(おろす)」とも呼ばれる。本稿では、人工妊娠中絶を中絶と表記する。
+
'''人工妊娠中絶'''(じんこうにんしんちゅうぜつ、{{lang-en-short|induced abortion}}
  
== 中絶方法 ==
+
胎児が子宮外で生育不可能な時期に,人工的に妊娠を中断して,胎児とその付属物を子宮外に出すこと。現在では,妊娠 22週未満を子宮外生育不能な期間とみなしている。妊娠3ヵ月までは,機械的に子宮口を開き,内容を除去する手術が行われるが,4~5ヵ月では,出産と同じように陣痛を起させ,子宮筋の力で頸管を開き,内容を排出させる方法がとられるので時間がかかり,危険度も高くなる。日本では,[[母体保護法]] (旧優生保護法) によって指定された医師が,暴行で妊娠した場合,妊娠の継続や分娩が身体的,経済的理由で母体の健康をそこなうおそれのある場合は,合法的に中絶手術を受けることができる。
[[ファイル:Vacuum-aspiration.svg|thumb|150px|真空吸引法]]
 
[[ファイル:Dilation and curettage.svg|thumb|150px|子宮掻爬法]]
 
=== 初期中絶(妊娠11週目程度まで) ===
 
[[ドイツ]]<ref>[http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/15562/1/44(6)_p339-365.pdf ドイツにおける妊娠中絶法の改革 -国際的比較法的観点において-] エーザー, アルビン; 今井, 猛嘉(訳) 北大法学論集, 44(6): 339-365</ref>、[[フランス]]、[[イタリア]]などのように、法定中絶期限または医学上の理由を除く任意の中絶期限を、この初期中絶相当の時期までに制限する国もある。
 
====薬物による中絶====
 
この時期は主に[[ミフェプリストン]](RU-486)という人工流産を引き起こす内服薬が使われる([[:en:Medical abortion|薬剤による妊娠中絶]])。[[メトトレキセート]]も同様の効果を持つ<ref name="pmid18522946">{{cite journal |last1=Mol |first1=F. |last2=Mol |first2=B.W. |last3=Ankum |first3=W.M. |last4=Van Der Veen |first4=F. |last5=Hajenius |first5=P.J. |title=Current evidence on surgery, systemic methotrexate and expectant management in the treatment of tubal ectopic pregnancy: a systematic review and meta-analysis |journal=Human Reproduction Update |volume=14 |issue=4 |pages=309–19 |year=2008 |pmid=18522946 |doi=10.1093/humupd/dmn012}}</ref>。海外では[[ミフェプリストン]]や同様の効果を持つ<ref name="pmid18522946">{{cite journal |last1=Mol |first1=F. |last2=Mol |first2=B.W. |last3=Ankum |first3=W.M. |last4=Van Der Veen |first4=F. |last5=Hajenius |first5=P.J. |title=Current evidence on surgery, systemic methotrexate and expectant management in the treatment of tubal ectopic pregnancy: a systematic review and meta-analysis |journal=Human Reproduction Update |volume=14 |issue=4 |pages=309–19 |year=2008 |pmid=18522946 |doi=10.1093/humupd/dmn012}}</ref>[[メトトレキセート]]などの薬剤も使われる。共に不全流産や出血のリスクがあるが、発生頻度は自然流産と同等とされる。
 
====掻爬術と吸引法====
 
日本やポーランド、アイルランド等のミフェプリストンが未認可の国々では、掻爬術あるいは吸引処置が選択される。[[ラミナリア]]による経管拡張には時間がかかり、通常1日間の留置が行われる。子宮頚管をラミナリア等で拡張後に、産婦人科器具(胎盤鉗子やキュレット、吸引器など)で胎児を物理的に直接除去する。苦痛を伴うために通常経静脈的に鎮静剤の投与が必要とされる。掻爬術は、英語で「拡張と掻爬」という意味で D&C(Dilation and Curettage)とも呼ばれ、ドイツ語ではAuskratzungと呼ばれる。子宮穿孔や出血などの合併症のリスクが高く安全性において「薬物による中絶」に大きく劣る。ミフェプリストンが開発される以前は、妊娠初期であっても吸引術や掻破術がファーストチョイスとして選択されていたが、ミフェプリストンが認可された国々ではリスクの問題のためにファーストチョイスとされない。また、術後に[[アッシャーマン症候群]]を起こすことがあり、不妊症となるケースがあるのも欠点である。
 
 
 
=== 中期中絶(妊娠12週程度~21週目まで) ===
 
この時期は胎児がある程度の大きさとなるため、[[分娩]]という形に近づけないと中絶ができない。そのため[[ラミナリア]]やメトロイリンテルなどで[[子宮頚部]]を拡張させつつ、プロスタグランジン製剤(膣剤、静脈内点滴)により人工的に陣痛を誘発させる方法がある。また、海外では中期中絶にも器具を用いるD&E(Dilation and Evacuation;「拡張と吸引」)と呼ばれる手法がしばしば行われ、WHOも陣痛誘発法より優先すべきことを推奨している。日本では妊娠12週以降は[[死産#法規|死産に関する届出]]によって死産届を妊婦は提出する必要がある。
 
 
 
=== 後期中絶(妊娠22週以降~) ===
 
妊婦側の申し出による中絶は法的に認められておらず、また医療上の理由で母体救命のため速やかな胎児除去の必要性が生じた場合でも、[[早産]]の新生児が母体外でも生存可能な時期以降は[[帝王切開]]など胎児の救出も可能な方法を優先すべきである。しかし、それが不可能な状況のとき又は他の方法を施しても胎児の生存の見込みが無いと判断されたとき、胎児の体を切断したり頭蓋骨を粉砕して産道から取り出す等の緊急措置が行われることも想定される。胎児縮小術、回生術、部分出産中絶 ([[:en:partial-birth abortion|partial-birth abortion]])、D&X([[:en:dilation and extraction|dilation and extraction]];「拡張と牽出」)といった名称で呼ばれる。かつて医療水準が低かった時代には、分娩時に手足が引っ掛かった[[逆子]]や胎児の頭が大きすぎて骨盤を通過できず母体が体力を消耗して生命の危機にさらされたとき、こうした救済措置がとられることがあった。
 
 
 
== 中絶胎児 ==
 
=== 処理方法 ===
 
12週未満の大部分の中絶胎児は[[医療廃棄物|医療廃棄物(感染性廃棄物)]]として廃棄され、12週以上の死胎は、[[墓地、埋葬等に関する法律|墓地埋葬法]]に規定する「[[死体]]」として火葬・埋葬される。2004年、横浜市の産婦人科が[[一般廃棄物]]として中絶胎児を処分していた疑いで捜索されたことを受け、環境省および厚生労働省は法的な処理規定が曖昧だった12週未満の中絶胎児の取扱いについて各自治体へアンケートを実施し、「12週未満であっても[[生命の尊厳]]に係るものとして適切に取り扱うことが必要であり、火葬場や他の廃棄物とは区別して焼却場へ収集している自治体の事例を参考とするように」との見解を示した<ref>[http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=5295 「妊娠4か月(12週)未満の中絶胎児の取扱いに関するアンケート調査結果及び今後の対応について」] 環境省 報道発表資料(平成16年9月24日)</ref>。
 
 
 
=== 先端医療への中絶胎児組織の利用 ===
 
中国やアメリカでは、中絶処置で摘出された胎児の組織を利用して、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療などの研究に使用されている<ref>捨てられるいのち、利用されるいのち : 胎児組織の研究利用と生命倫理 生活書院 2009年2月</ref><ref name="nhk200504">NHKスペシャル:2005年4月12日放送 中絶胎児(細胞)利用の衝撃 NHKオンライン</ref>。アメリカではそのための法整備もされており、網膜色素変性症などの一部の難病においては人体への臨床試験が実施され視力が回復した症例もある。日本でも一部の大学で動物研究が行われている<ref name="nhk200504"/>。一方、こういった行為に対して「胎児売買に繋がる」として、反対する団体もある。アメリカでは中絶胎児の組織の利用については住民投票が行われた州もあり<ref name="nhk200504"/>、推進する州と禁止する州にわかれている。バイオメーカーが集まるカリフォルニア州では研究に州の予算が投入されている<ref name="nhk200504"/>。このような研究についてドイツでは明確に禁止している<ref name="nhk200504"/>。日本では「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」が立ちあげられ議論が進められているが<ref name="nhk200504"/>、3年間-20回を超す会合を行っても堂々巡りの議論を繰り返すだけで、先進国で日本だけが2005年現在で「認可するか禁止するか」の結論が出ていない<ref name="nhk200504"/>。そのため日本国内で唯一研究をしていた大阪医療センターでも<ref name="nhk200504"/>、中絶胎児から採取した細胞の培養の提供を中止してしまい<ref name="nhk200504"/>、さらに先進国に遅れる事態となっている<ref name="nhk200504"/>。中国では法規制が殆ど無いために、既に脊髄損傷やALSなどへの使用がビジネスとして成功しており<ref name="nhk200504"/>、世界中から患者が殺到している。中国で実施されている治療の効果に対しては意見が分かれている<ref name="nhk200504"/>。
 
 
 
== 中絶を回避する諸制度や試み ==
 
=== 特別養子縁組 ===
 
{{main|特別養子縁組}}
 
中絶に至る人の中には、妊娠したものの社会的なバックアップを得られず、子供を育てる自信を失って中絶に至るケースが多い。その他女性の状況や妊娠経緯などの様々な事情により、子供を育てられないもしくは育てるのが現実的でない場合に、子供の生命と利益と福祉を守るための制度として[[特別養子縁組]]制度がある。この制度は海外では一般的であり、例えば[[アメリカ]]では実施件数は年間12万件を超え<ref>U.S. Department of Health and Human Services, [https://www.childwelfare.gov/pubs/adopted0708.pdf How many children were adopted in 2007 and 2008?]</ref>、[[アップル (企業)|アップルコンピューター]]を創業した[[スティーブ・ジョブズ]]や映画監督の[[マイケル・ベイ]]など養子出身の有名人も多い<ref>[http://www.crank-in.net/movie/news/33207 マリリン・モンロー、マイケル・ベイ監督など、実は養子だった意外な有名人]</ref>。日本では[[宮城県]][[石巻市]]の[[菊田昇]]医師が中絶を希望してきた女性に出産を奨励し、子供のいない夫婦に斡旋していたことをきっかけに養子縁組の法的枠組みが整備され、1987年に法律が制定され、現在では養子縁組支援団体も多数存在し、経緯や障害の有無を問わず多数の養子縁組が実施されている。費用は無償であり、出産後の一定期間は意思が変わった場合は縁組を取り止めることもできる<ref>視点・論点 「特別養子斡旋に法の規制を」</ref>。支援団体の中には出産費用の一部援助(なお日本では出産後に出産育児一時金として産んだ子供1人につき42万円が戻ってくるほか、出産時にお金が用意できなくても出産一時金直接支払制度や自治体の入院助産制度を利用すれば、産む時に費用が直接病院に支払われる)や住む場所がない女性のために住まいを提供する団体もある。日本における縁組は支援団体や児童相談所が中心となって行うことが多く、医療機関であっせんを行っているのは一部の医師会や産婦人科医のみであったが、2013年9月に[[あんしん母と子の産婦人科連絡協議会]]が設置されるなど特別養子縁組の担い手としての医療機関の存在感も増している。同協議会は、14道府県の計20の産婦人科病院や医師が参加し、連携して特別養子縁組に取り組むネットワークである<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0900V_Z00C13A9CR0000/ 養子縁組 20施設が参加 養父母紹介へ協議会発足]</ref>。日本ではまだ特別養子縁組制度の認知度が低いため、認知度を高めるために[[日本財団]]が4月4日を養子の日と制定して毎年養子縁組への理解と深めてもらう周知啓発イベントを行っているほか、「養子縁組推進法」の制定へ向けた政策提言などを行っている<ref>[http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/img/39/31_2.pdf 特別養子縁組の普及および啓発~子どもたちに温かい家庭を~]</ref>。
 
 
 
他の中絶や新生児殺害をなくす動きには、[[こうのとりのゆりかご]](通称赤ちゃんポスト)の設置が挙げられる。これは様々な事情のために育てることのできない新生児を匿名で引き取り特別養子縁組を行うための設備であり、日本では熊本県熊本市の[[医療法人]]聖粒会が経営する[[慈恵病院]]が運用している。この設置に当たってはドイツにおける同様の施設であるベビークラッペが参考にされた<ref name="yurikagokumamoto"/>。2006年12月15日、[[慈恵病院]]は設置申請を熊本市に提出。2007年4月8日に熊本市から設置の許可を受け、2007年5月10日から運用を開始し、同時に慈恵病院は予期せぬ妊娠や赤ちゃんの将来のことを相談する窓口「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」の運用を開始した。2014年に行われた同病院の医師である蓮田太二理事長による講演によると平成19年から平成25年11月までの同病院が相談を受けた事例やゆりかごの使用者のうち、養子縁組に至った事例や自分で育てることに決めたケースがともに200件前後あり、累計で453人の赤ちゃんの命が中絶などから救われた<ref name="yurikagokumamoto">「こうのとりのゆりかごとSOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」日本財団2014.01.20 更新</ref>。
 
 
 
=== 里親制度 ===
 
{{main|里親}}
 
18歳までの子供を(自分の生活が安定するまでなどの)一時的に子供を育ててもらう制度に[[里親制度]]があり、里親制度に関する条例は多くの[[都道府県]]や[[自治体]]が制定をしており、希望すれば利用できる。
 
 
 
里親制度には18歳までの子どもを実親が引き取って家庭復帰できるまで家庭内で養育する養育里親、親の病気などの理由などで一定期間だけ家庭を離れなければならない子どもを数日~数年の範囲で預かって養育する短期里親、将来的に里子との養子縁組を希望する養子縁組里親、子どもの3親等以内の親族(祖父母、叔父、叔母など)が里親になる親族里親(この場合叔父叔母など扶養義務のない親族ならば里親手当も支給される)などがある<ref>公益財団法人全国里親会 里親の種類と要件</ref>。また類似制度として自治体が短期間子どもを預かるショートステイがある。
 
 
 
== 各国の堕胎 ==
 
[[File:Abortion Laws.svg|thumb|right|250px|各国の人工妊娠中絶に対する法律
 
{{legend|#3465a4|合法}}
 
{{legend|#73d216|合法。強姦、母親の生命・生活、健康、精神状態、社会的理由、胎児の状態}}
 
{{legend|#edd400|合法か違法。強姦、母親の生命・生活、健康、精神状態、胎児の状態}}
 
{{legend|#c17d11|非合法。例外は、強姦、母親の生命・生活、健康、精神状態}}
 
{{legend|#f57900|非合法。例外は、母親の生命・生活、健康、精神状態}}
 
{{legend|#cc0000|非合法。例外なし}}
 
{{legend|#2e3436|地域による}}
 
{{legend|#b9b9b9|不明}}
 
]]
 
=== アジア ===
 
==== 日本 ====
 
中絶が制度化される以前は、民間によって中絶が行われていた。何度か堕胎禁止の指導があったが止まることはなく、看板を掲げて中絶を商売にする者すら出てきたため<ref>[{{NDLDC|1920323/261}} 下谷白鼠横丁、堕胎施術を商売]新聞集成明治編年史. 第一卷、林泉社、1936-1940</ref>、[[明治政府]]は[[1868年]]12月24日に、富国強兵などの理由もあり、産婆の売薬・堕胎を禁止する法令を公布<ref>[{{NDLDC|1920323/144}} 産婆、売薬禁止、堕胎禁止]新聞集成明治編年史. 第一卷、林泉社、1936-1940</ref>。[[1880年]](明治13年)の旧刑法と[[1907年]](明治40年)の現行刑法において「[[堕胎罪]]」を制定した。しかしその後も隠れて行なわれており<ref>[{{NDLDC|1920337/198}} 堕胎組ゾロゾロ出頭]新聞集成明治編年史. 第三卷、林泉社、1936-1940</ref>、大正末期には、大阪で医院と製薬会社と旅館が結託し大規模な堕胎手術を行なっていたとして摘発された<ref>[{{NDLDC|976131/42}} 戦慄すべき堕胎事件]朝日年鑑、大正16年</ref>。
 
 
 
[[第二次世界大戦]]後、[[引揚者]]の中で[[朝鮮人]]や[[赤軍|ソ連]][[兵士|兵]]、[[中国人]]等による度重なる強姦を受けた日本人女性に[[堕胎]][[手術]]や[[性病]]の[[治療]]が[[二日市保養所]]で行われた<ref name=hasi/>。当時[[堕胎]]は違法行為([[堕胎罪]])であったが施設閉鎖まで500件の堕胎手術が実施された<ref name=hasi/>。[[優生保護法]]の施行に伴い、全国の指定医師が中絶手術を行えるようになったため、[[1947年]](昭和22年)秋頃に二日市保養所は閉鎖した<ref name=hasi>[http://www.news-postseven.com/archives/20150619_328325.html 引揚途中の強姦被害者47人 加害男性の国籍は朝鮮、ソ連など] [[SAPIO]]2015年7月号、[[NEWSポストセブン]]2015年6月19日</ref>。{{main|二日市保養所}}
 
 
 
昭和23年、優生保護法が成立し、中絶が合法化された。優生保護法第14条には、
 
# 本人又は配偶者が[[精神病]]、[[知的障害|精神薄弱]]、[[精神病質]]、[[遺伝]]性疾患又は遺伝性[[奇形]]を有する場合
 
# 本人又は配偶者の4[[親等]]以内の[[血族]]関係にある者が精神病、精神薄弱、精神病質、遺伝性疾患又は遺伝性奇型を有する場合
 
# 本人又は配偶者がらい疾患([[ハンセン病]])に罹っているもの
 
の中絶も認められていた。だが、これらの中には病気と遺伝との関係に対するあからさまな誤解や偏見に基づく項目も混じっており、また、「[[障害者]]であればこの世に生まれてこないよう抹殺すべきである」といった差別的な考えを助長する虞があるとの障害者団体からの反発が根強かったことから、法改正に伴って削除された。
 
 
 
1996年(平成8年)優生保護法は[[母体保護法]]として改正された。指定医師が合法的に人工妊娠中絶を行っている。母体保護法では人工妊娠中絶を「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出すること」と定義し、下記2つを正当な中絶の理由として定めている。違反したものは堕胎罪に問われる。
 
# 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
 
# 暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
 
 
 
母体保護法の第2条第2項には、人工妊娠中絶を行う時期の基準は、「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」と定められており、妊娠22週未満とされた。以前は昭和51年までは通常28週未満、昭和51年-平成2年は通常24週未満、昭和53年に「妊娠満23週以前」の表現へ修正、平成2年以降に未熟児の生存可能性に関する医療水準の向上を受け、通常22週未満と基準期間が短縮された。また、個々の事例での生存可能性については、母体保護法指定医師が医学的観点から客観的に判断を加味すべきことも、付記および保健医療局精神保健課長からの同日通知で示された。一般に中絶というと未婚若年者のイメージが強いが、妊娠者が中絶を実施する割合は10歳代と並んで40歳代が高くなっている。1975年頃には、10歳代の妊娠でも出産の割合が過半数なのに対し、40歳代では9割近くが中絶している<ref>[http://homepage3.nifty.com/m-suga/abortion.html リプロヘルス情報センター]</ref>。ただし絶対数では、妊娠者自体の多さから20-30歳代が大半を占める。件数は厚生労働省の統計によれば、1955年に約117万件、1965年に約84万件、1980年に約60万件、1990年に約46万件、2000年に約34万件<ref>[http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001048208 母体保護統計報告(優生保護統計報告) 平成9年母体保護統計報告(優生保護統計報告) 年次 1997年 ]</ref>、近年は減少しており2013年は約18万件である<ref>[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/13/dl/kekka6.pdf 「6 母体保護関係」『平成25年度 衛生行政報告例の概況』 厚生労働省:政府統計]</ref>。
 
 
 
==== 韓国 ====
 
{{要出典範囲|[[韓国]]では、[[儒教]]的観点(女児ならば中絶する。などの性別判別)から禁止されている|date=2015年7月}}。そのため、2009年10月に韓国の産婦人科医が違法手術を告発する会を結成し、韓国政府は中絶を通報するコールセンターを設置した。また大統領府の主宰する会議は[[少子化|出生率低下]]に対する対応策の一つとして堕胎を取り締まると発表した。政府の調査によると、毎日1000件の違法な中絶が行われており、違法な中絶は年間34万件とされている<ref>[http://media.daum.net/society/others/view.html?cateid=1067&newsid=20110920214214584&p=imbc 현장M출동] 무차별 낙태 심각‥60만 원에 '불법 낙태']</ref>。
 
 
 
==== 中華人民共和国 ====
 
{{Main|中華人民共和国における妊娠中絶}}
 
[[中華人民共和国]]においてかつては儒教的価値観から人工妊娠中絶は事実上禁止されていたが、[[一人っ子政策]]の施行後は公的に認められている。これに伴い、跡継ぎの男児を希望する農村部を中心に、妊娠中の性別検査で女児と判明した胎児を中絶する事例が多発し、[[一人っ子政策#政策によって引き起こされた問題|人口構成が偏る社会問題]]が起きている。一方、地下教会である{{ill2|家の教会|en|House church (China)}}のクリスチャン達は現行の中絶に抵抗している<ref>カール・ローレンス、ディビッド・ワング共著『中国リバイバルの躍進』8章「罪なき者たちの虐殺」アジア・アウトリーチ</ref>。
 
 
 
==== インド ====
 
インドでは妊娠20週までの中絶が認められている<ref name="afpbb201705"/>。妊娠20週以降については母体に生命の危険があるときのみ中絶が認められているが<ref name="afpbb201705"/>、未成年に対する性的虐待などのケースでは司法判断により20週以降の妊娠中絶が認められる場合もある<ref name="afpbb201705">[http://www.afpbb.com/articles/-/3128436?utm_source=yahoo&utm_medium=news&cx_from=yahoo&cx_position=r1&cx_rss=afp&cx_id=3128535 義父の性的虐待で妊娠、10歳女児が司法に中絶の許可求める インド AFPBB News 2017年05月16日 20:05] 2017年5月23日閲覧</ref>。
 
 
 
=== アフリカ ===
 
==== モロッコ ====
 
[[モロッコ]]では、人工妊娠中絶はタブー視され違法行為でもあり、中絶した女性には2年以下の実刑を科している。オランダの女性権利団体はモロッコの法の制限を回避するために、領海外でモロッコ人女性の中絶を行う「妊娠中絶船」を運行した。安全な方法で中絶を施し、違法中絶による健康リスクから女性を救うことを目的とする船であるが、モロッコでは大きな抗議デモが起きた<ref name="moro2012"/>。モロッコでは年間600-800件の違法中絶が行われているが、医学的に適切な方法で中絶されているのは財力のある200例程度の女性に限られるとされ、WHOの統計では不適切な中絶によって毎年平均78人の女性が死亡しているとされる<ref name="moro2012">[http://www.afpbb.com/articles/-/2905971?pid=9635853 オランダの「妊娠中絶船」がモロッコで物議 2012年10月05日 19:45 発信地:Smir/モロッコ]</ref>。
 
 
 
=== ヨーロッパ ===
 
==== ルーマニア ====
 
[[共産主義]]時代の1966年に[[ニコラエ・チャウシェスク|チャウシェスク]]政権が人口増加を狙って[[ニコラエ・チャウシェスク#堕胎と離婚の禁止|人工妊娠中絶と離婚を禁止]]したが、「チャウシェスクの子供たち」や「マンホールチルドレン」と呼ばれる社会問題を引き起こす誘因となった。
 
 
 
==== アイルランド ====
 
カトリック教徒が大多数を占める[[アイルランド]]では中絶は「中絶禁止法」という法律により事実上禁止されていたが、医療上必要な中絶処置を受けられずに31歳の妊婦が死亡した事件をきっかけに議論が進み、2013年に母体の安全を脅かす危険がある場合は中絶を認めるとする法律が成立した<ref>[http://www.cnn.co.jp/world/35034623.html アイルランドで人工妊娠中絶を一部合法化 2013.07.12 Fri posted at 15:49 JST]</ref>。それでも年間4000人が中絶するために海外に渡航しているとされる<ref name="prm1507210003"/>。
 
 
 
==== ドイツ ====
 
ドイツでは刑法で原則的に中絶は禁止されているが<ref name="deutschland"/>、妊娠葛藤相談所の相談を受けその後一定期間を経た者についてのみ認められている<ref name="deutschland">[http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8677797_po_02600005.pdf?contentNo=1 ドイツにおける秘密出産の制度化 : 匿名出産及び赤ちゃんポストの経験を踏まえて]</ref>。ドイツには出産に関して他国では見られない法律があり、例えば子供を育てられない女性のために養子縁組が公的制度として定められているところは諸外国と同様だが、それ以外の選択肢として秘密出産(匿名出産)の規定があることである<ref name="deutschland"/>。これは妊婦が自分の身元を明らかにせずに行う出産であり、母親は自分の仮の名前を作成する。また子供の名前を希望することもできる。出産後に母親は匿名をやめることもでき、養父母への養子縁組が行われる生後約2か月目までならば考え直した場合は産んだ子供を引き取ることができる<ref name="deutschland"/>。それ以外にはベビークラッペと呼ばれる、いわゆる赤ちゃんポストの設置が挙げられる。現行の形のものは2000年に設置が始まり、現在では設置数はドイツ国内に100か所を超える。
 
 
 
==== フランス ====
 
フランスでは中絶は合法であり<ref name="aeataga">幻の中絶薬RU-486の効能 発見に強い風当たり 嵐の中の胎児 1990年02月27日 AERA 13頁 写図有(全1720字)</ref>、女性の権利とされている<ref name="aeataga"/>。カトリック教会や中絶反対派は中絶反対を唱えている<ref name="aeataga"/>。
 
 
 
==== ポーランド ====
 
ポーランドは、社会主義政権下では人工中絶認められていたが<ref name="prm1507210003">[http://www.sankei.com/premium/news/150721/prm1507210003-n1.html カトリック国に舞い降りた中絶ドローン 「教会は現実を見つめよ!」2015年7月21日 11:00【日々是世界】産経ニュース 2016年10月18日閲覧]</ref>、民主化後の1993年から原則的に禁止する法律が施行された<ref name="prm1507210003"/>。国民の90%がカトリックである影響が強いとされる<ref name="newsweekjapan201507p"/><ref name="huffingtonpost20161007"/>。合法とされるのはレイプ被害者や近親相姦、母体に健康リスクがある、胎児の先天的異常などの一部のケースだけである<ref name="prm1507210003"/><ref name="newsweekjapan201507p"/>。そのため年間5万人の女性が、非合法の危険な中絶手術を受けてたり、海外に移動して中絶を受けるなどしている<ref name="prm1507210003"/><ref name="newsweekjapan201507p"/>。殆どのヨーロッパ諸国で認可されているミフェプリストンは2015年現在認可されておらず<ref name="thestar20151064654"/>、オランダの非営利のプロチョイス団体がドローンを使ってミフェプリストンを密輸しポーランド国内の女性に配布するという「中絶ドローン(Abortion Drone)」を2015年から飛ばしている<ref name="prm1507210003"/><ref name="newsweekjapan201507p">[http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/07/post-3766.php 「中絶ドローン」がポーランドへ飛ぶ German 'Abortion Drone' to Drop Pills to Polish Women ニューズウイーク日本語版 2015年7月13日(月)18時49分] 2016年10月18日閲覧</ref><ref name="thestar20151064654">[https://www.thestar.com/news/world/2015/06/25/abortion-pills-being-delivered-to-poland-by-drone.html Abortion pills being delivered to Poland by drone] Thu., June 25, 2015 thestar.com 2016年10月18日閲覧</ref>。2016年10月に、中絶禁止法案を更に強化し、中絶が母体に危険が及ぶ場合だけに限定する改正が与党「法と正義」によって試みられた<ref name="huffingtonpost20161007"/>。反中絶の活動団体が45万人の署名を集めたことが法案改正の源になったが<ref name="huffingtonpost20161007"/>、反対運動が国内のあちこちで起き、首相も憂慮するコメントを発表するなど規制強化に反対する動きが広まった<ref name="huffingtonpost20161007"/>。同年10月6日、強化法案は下院議会で反対多数で否決された<ref name="huffingtonpost20161007">[http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/07/poland_n_12385068.html ポーランドで中絶をほぼ全面禁止する法案に抗議する10万人デモ、政府も可決阻止へ] 2016 The Huffington Post Japan 2016年10月06日 12時31分 JST 2016年10月19日閲覧</ref>。
 
 
 
=== 南北アメリカ ===
 
==== アメリカ合衆国 ====
 
{{See also|ロー対ウェイド事件}}
 
[[ピューリタン]]の多いアメリカでは、堕胎はタブーであり、[[1900年]]までは[[ケンタッキー州]]を除くすべての州で堕胎禁止法が施行されていた(実際には非合法に行われ、その危険性から年間1万5千人程度の女性が死亡していたとされる)<ref>[http://ci.nii.ac.jp/els/110007055970.pdf?id=ART0008986093&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1373930963&cp= William FaulknerのThe Wild PalmsとRichard Wrightの"Down by the Riverside"における1927年のミシシッピ川大洪水]中地幸、都留文科大学研究紀要 64, 67-81, 2006-00-00</ref>。1973年、連邦最高裁のRoe v. Wade判決で中絶が合法化された。一方でキリスト教系[[宗教右派]]の活動家による根強い抵抗があり、中絶を行う医師を射殺したり<ref name="19930511hoka">米の中絶反対運動、暴力化-医師殺害事件も発生。クリントン政権の容認、保守派を強く刺激。保険適用で進む“緩和”『北海道新聞』1993年05月11日朝刊全道 6頁 朝六(全1,118字)</ref>、病院に異臭物を投げ込んだり放火したり爆破するテロなども多発し<ref name="19930511hoka"/>、殆どの病院で爆発物専門スタッフが雇用され郵便物の開封は慎重に行うことなどを強いられている<ref name="19930511hoka"/>。医師の住所や電話番号、自動車ナンバーを記載した誹謗中傷ビラが配布されたり<ref name="19930511hoka"/>、医師の家族や子供にまで脅迫され<ref name="19930511hoka"/>、結果的に病院閉鎖に至るケースもある。そのため中絶を実施している施設数は減少傾向にあり、中絶を望む女性が中絶可能な環境にアクセスし難くなっているとされる。2013年3月26日、[[ノースダコタ州]]では、{{仮リンク|ジャック・ダルリンプル|en|Jack Dalrymple}}知事が、中絶禁止法に署名、成立した。この新しい法律は、[[強姦]]や[[近親相姦]]による妊娠や、母体の健康に危険がある場合、胎児異常により結果的に胎児を失う恐れがある場合でも中絶を認めないとしており、アメリカで最も厳しい内容とされる<ref>{{cite news |title=米ノースダコタ州、全米で最も厳しい中絶禁止法律が成立 |author=Mira Oberman |newspaper=[[フランス通信社|AFPBB News]] |date=2013-3-28 |url=http://www.afpbb.com/article/politics/2936064/10507887 |accessdate=2013-3-28}}</ref>。テキサス州では2013年に、中絶を行う施設と医師に対して非常に厳しい認定基準を課した州法が成立したために41あった中絶対応施設が19に減った<ref name="newsweekjapan20160628459"/>。2016年6月、アメリカ最高裁はこの州法が「女性が憲法で保障された権利を行使する上で不当な負担を強いられている」として無効を言い渡した<ref name="newsweekjapan20160628459">[http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5396.php アメリカ最高裁、中絶制限のテキサス州法を無効と判断] newsweekjapan 2016年6月28日(火)10時53分] 2016年10月18日</ref>。
 
 
 
==== カナダ ====
 
1988年までは、中絶する場合に中絶手術委員会の承認を得ることが必要だった<ref name="canadaabortion20161461"/>。しかし1988年、カナダ最高裁はその中絶関連法案を、女性のプライバシー侵害として法案無効の判断を下した<ref name="canadaabortion20161461">カナダ 最高裁、中絶認める 母親は決定待たず手術 1989.08.10 中日新聞 朝刊 5頁 臨時2面(全599字)</ref>。これにより人工妊娠中絶が、妊婦の裁量で実施できるようになった<ref name="canadaabortion20161461"/>。1989年春、元恋人の中絶を止めさせようとして、男性側が「胎児にも人権がある」として中絶差し止め裁判を起こした。ケベック州の裁判所は男性側(父親)の訴えを認め「胎児は人であり、ケベック州法に基づく人権がある」として、中絶差し止め判断を示した<ref name="canadaabortion20161461"/>。しかし女性側(母親)が上告したカナダ最高裁で判決が覆った<ref name="canadaabortion20161461"/>。1989年8月8日、カナダ最高裁は男性側の訴えを却下し、女性の自由意志としての中絶を認めた<ref>女性は最高裁の判決が下される前に中絶してしまっていた</ref><ref name="canadaabortion20161461"/>。この判例によって、女性の中絶の権利がより強く主張されることになることが予想された<ref name="canadaabortion20161461"/>。
 
 
 
==== ブラジル ====
 
ブラジルでは2014年現在、妊娠8週以内のレイプ被害者と命に危険のある母親、無脳症胎児のみに中絶が認められている<ref>[http://www.afpbb.com/articles/-/3011791 「露出の多い女性はレイプされて当然」、ブラジル世論調査 写真1枚 国際ニュース AFPBB News]</ref>。人工妊娠中絶には殺人罪が適用される。2000年から2008年までの間に、中絶の犯罪で130人の女性が起訴された。カトリック教会の影響が強い<ref>クーリエ・ジャポン 2010年4月号</ref>。2013年には1523件の合法的な人工妊娠中絶手術が実施された一方、80万人の女性が違法な中絶処置を受け、19万6000人が不適切な処置のために追加治療が必要になったとされる<ref name="sanpau">人工妊娠中絶の合法化 医師の間でも賛否両論 株式会社 サンパウロ新聞社 2014年10月24日付</ref>。2013年連邦医師審議会は妊娠12週までなら人工妊娠中絶を女性が選択できるようにすべきという声明を発表し、上院議員で構成する刑法改正特別委員会で審議されているが、医師や政治家の間でも意見が分かれており反対意見も多い<ref name="sanpau"/>。一方、シングルマザーを集めて違法な養子縁組を結び、子供の国際的な人身売買を行っていた[[孤児院]]が摘発されるなどもしている<ref>孤児院経営者の夫婦 子供の人身売買容疑で捜査 株式会社 サンパウロ新聞社 2015年7月15日</ref>。
 
 
 
==== エルサルバドル ====
 
カトリック教徒の多い[[エルサルバドル]]では、人工妊娠中絶は固く禁じられており、違反すると禁錮50年という厳しい罰則がある<ref>{{cite news |title=最高裁、中絶認めず=「命の危機」の妊婦反発-エルサルバドル |newspaper=[[時事通信]]|date=2013-5-31 |url=http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013053100165 | accessdate=2013-5-31}}</ref>。2013年5月29日、母子ともに病に冒され(母が[[全身性エリテマトーデス]]、子が[[無脳症]])、子を生んでも、子は出産直後に死亡する可能性が高いと診断された女性が裁判所に中絶、および中絶を行った医師の刑事免責などの特別許可を求めていたが、裁判所はこの要請を不許可とし、中絶は認められないとした。この件では、エルサルバドルの閣僚も、中絶を許可するよう裁判所に要請していたが、裁判所は中絶厳禁の姿勢を変えなかった<ref>{{cite news |title=エルサルバドル最高裁、難病女性の中絶認めず |newspaper=[[フランス通信社|AFPBB News]]|date=2013-5-31 |url=http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2947088/10826222 | accessdate=2013-5-31}}</ref>。この女性は2013年6月3日に女児を[[帝王切開]]で出産、女児は数時間後に死亡した。母体は健康である<ref>{{cite news |title=中絶申請却下の女性が帝王切開、新生児は死亡 エルサルバドル |newspaper=[[フランス通信社|AFPBB News]]|date=2013-6-4 |url=http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2947803/10848132 | accessdate=2013-6-4}}</ref>。
 
 
 
==== パラグアイ ====
 
カトリック教徒が多い関係で母体に生命の危険がない限り中絶は認められない。2015年には体重34kgの10歳の女児が義父にレイプされて妊娠したケースがあり、中絶を認めない政府と母体への影響を訴えるNGO団体等の間で議論を呼んだが<ref>10歳少女の堕胎認めず=義父からレイプ被害-パラグアイ 時事通信 2015年5月9日</ref>、中絶は認められなかった。国内の中絶に関する論争の影響を避けるために女児はTVが見られない施設に長期収容され、2015年8月に帝王切開で出産した<ref>レイプ被害の11歳少女出産=中絶認められず-パラグアイ 時事通信 2015年8月14日</ref>。
 
 
 
== 宗教からみた中絶 ==
 
=== キリスト教 ===
 
[[キリスト教]]は、初代教会から一貫して中絶を[[殺人]]と見なし非難している<ref name="church">マイケル・J・ゴーマン『初代教会と中絶』すぐ書房 ISBN 4880682152</ref><ref>『現代カトリック事典』エンデルレ書店</ref>。[[ディダケー]]は、「中絶、殺害によって、子を殺してはならない」と述べる。[[バルナバの手紙]]も「堕胎によって子供を殺してはいけない、また生れた子供を殺してはいけない」<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110000195654 バルナバの手紙]</ref>と述べ、中絶が殺人であると表明している<ref name="church" />。[[アレクサンドリアのクレメンス]]は、胎内の子どもを人間とみなした<ref name="church" />。[[テルトゥリアヌス]]は、[[ルカによる福音書]]1:41、46節、[[エレミヤ書]]1:5から、胎児が人間であることを証明し、未形成の胎児でも生きた存在として認めるべきだとした<ref name="church" />。シリアの神学者[[エフライム]]は中絶の罪を犯した者に死刑を宣告した。[[314年]]のアンカラ会議は、形成された胎児と未形成の胎児と区別をしないと決定した。[[カイサリアのバシレイオス]]は、中絶した女は殺人の罪に問われなければならないとし、また胎児の発達段階に勝手に区別を設けて、妊娠初期などの段階に応じて中絶を認めるという中絶観は、キリストの愛と矛盾するとし、形成胎児と未形成の胎児を区別する議論を退けた<ref name="church" />。ただし、歴史的にはキリスト教圏でも、教会法が中絶に厳しくなったのは近世から近代にかけてであり、世俗的には中絶も密かに行われていた。動機としては不道徳な性交を隠すため、自分の財産を贈与・相続させないため、生活のため、性的魅力の維持のため、母体の健康の保護のためなどであったとされる<ref name="church" />。これら中絶を行った者に対するキリスト教会の対応として、カトリック教会では[[破門]]になり<ref>「ごく初期のころから、教会の宗規では、人工妊娠中絶の罪を犯した者に罰則を課すとしてきました。多少なりとも厳しい処罰を伴うこの方針は、歴史上さまざまな時点で確認されました。一九一七年版の『教会法典』は、人工妊娠中絶は破門に処すと規定しました。改訂された教会法規定でもこの伝統は保持され、「堕胎を企てる者にして、既遂の場合は、伴事的破門制裁を受ける」との法令が定められました。破門は、刑罰が課されることを承知のうえでこの犯罪を犯す者すべてに及びます。そして、その手助けがなければその犯罪が犯されなかったと思われる場合には、共犯者たちにも及びます。」教皇[[ヨハネ・パウロ2世 (ローマ教皇)|ヨハネ・パウロ二世]]回勅[http://japan-lifeissues.net/writers/doc/gol/gol_evangeliumvitae-ja5.html 『いのちの福音』''Evangelium Vitae''「第三章:殺してはならない」]</ref>、プロテスタントでは[[戒規]]の対象となる。[[教派]]を超えた協力の動きとしては[[2009年]]11月、[[正教会]]、[[カトリック教会]]、[[福音派]]の指導者が[[アメリカ合衆国]]で[[マンハッタン宣言]]を発表し、人間の生命の神聖、結婚の尊厳、良心と信仰の自由を守り、信者に対してこれを圧迫する勢力を斥けることを求めている<ref>[http://manhattandeclaration.org/ The Manhattan Declaration]</ref>。
 
 
 
==== カトリック教会 ====
 
[[カトリック教会]]は、1869年の[[ピウス9世]]の勅書 ''[[:en:Apostolicae Sedis|Apostolicae Sedis]]'' は中絶を例外なく殺人と見なしている。これは胎児は受精後直ちに〈人間になる〉存在であるとの見解を示したものであり、ローマ・カトリック教会は公式に他の主張を退けている。20世紀にはこの見解が公教会の教える所のものとなり、医療現場における中絶従事者の破門処分が教会法に明記されている。さらに21世紀に連なる教会の立場を示したのは1965年の[[第2バチカン公会議]]であり、ここでは生命をその胚胎から尊重する意味で中絶は罪であるとされ (''Gaudium et Spes'')、中絶を禁ずる根拠が姦淫の罪の隠蔽だけではなく生命の尊重へと深化した。また1968年には[[パウロ6世]]が回勅『[[フマーネ・ヴィテ]]』(''[[:en:Humanae Vitae|Humane Vitae]]'') で同様に生命の尊重と人工的な産児制限への反対を表明した。これら以降の中絶の議論においては、胎児が中絶の時点で〈人間であるか否か〉という主張は退けられ、1970年代から21世紀まで続く[[生存権]]を背景にする反中絶の立場、すなわち胎児は受胎(受精)の瞬間から〈生命〉であるためその生存する権利を侵すことはできない、仮に様々な事情で親が育てならない場合は養子縁組をすることで中絶はせず子供も生存できるとする立場を教会はとっており、これを受けて今日では多くの[[プロライフ]]団体が中絶の廃止に向けて活動している<ref name=Pennington/>。そして、[[カトリック教会|カトリック]]系の[[大学]]である[[上智大学]]において、1991年4月に[[プロライフ]]の立場から[[国際生命尊重会議]]が実施され1991年4月27日に[[胎児の人権宣言]]が宣言された<ref>[http://www.geocities.jp/lovethelordchristchurch/pljm/right 胎児の人権宣言]</ref>。生殖と無関係な性交は常に断罪されてきた。ただし、妊娠初期の中絶についてはカトリック教会内ではかつて議論が存在した<ref name=Pennington>{{cite web|url=http://faculty.cua.edu/Pennington/Law111/CatholicHistory.htm|title=Abortion and Catholic Thought: The Little-Told History|author=Ken Pennington|publisher=The Catholic University of America|date=1996|accessdate=2009-12-09|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120218195040/http://faculty.cua.edu/Pennington/Law111/CatholicHistory.htm|archivedate=2012年2月18日|deadlinkdate=2017年9月}}</ref>。それは5世紀の[[アウグスティヌス]]、中世の神学者[[トマス・アクィナス]]、[[ヴィエンヌ公会議]]にあった議論である<ref name=Pennington/>。しかし、今日のローマ・カトリック教会においてこれらの主張は退けられている。1588年にローマの風紀の悪化を重く見た[[シクストゥス5世]]により中絶や避妊を殺人の罪に相当する「[[破門]]」に処すとの勅書 (''Effraenatam'') が発せられるが、3年後の1591年に[[グレゴリウス14世]]によって緩和された。この時に「殺人および魂を宿した胎児が関わっていない件については、教会法および市民法よりも厳しい罰は課さない」旨の勅書 (''Sedes Apostolica'') が発せられ、これは1869年まで効力をもった。17世紀においても胎児が受胎から期間を経て〈人間になる〉との見解を支持する立場があったが、教会は姦淫の罪を隠蔽するものとしての中絶には厳しい態度で臨み、[[インノケンティウス11世]]はたとえ妊娠した少女がこれを咎めた両親による殺害に直面したとしても中絶は容認されないとしている<ref name=Pennington/>。
 
 
 
==== プロテスタント ====
 
[[プロテスタント]]は[[ジャン・カルヴァン]]や[[マルティン・ルター]]以来、初代教会と同様に人工妊娠中絶を殺人の罪と見なしてきた。1960年代の後半以降には中絶を容認する[[プロチョイス]](選択派)の立場もあり、その見解を反映して様々な運動団体が組織されている<ref name=Ehrich>{{cite web
 
|url=http://www.usatoday.com/news/opinion/editorials/2006-08-13-forum-abortion_x.htm
 
|author=Tom Ehrich
 
|title=Where does God stand on abortion?
 
|publisher=USA TODAY
 
|date=2006-08-13|accessdate=2009-12-09}}</ref><ref>{{cite web
 
|url=http://www.nrlc.org/news/1999/NRL199/sween.html
 
|author=Kathleen Sweeney
 
|title=The Protestant Churches on Abortion
 
|publisher=National Right to Life
 
|date=1999
 
|accessdate=2009-12-09}}</ref>。[[自由主義神学]]や[[フェミニスト神学]]はプロチョイスの立場をとるとされる<ref>[[山我哲雄]]『これだけは知っておきたいキリスト教』洋泉社 p.136</ref>。一方、保守的なプロテスタントは中絶に強く反対しており、その立場は[[プロライフ]](生命尊重)と呼ばれ、日本にはプロライフ団体の[[小さないのちを守る会]]などがある<ref>[[辻岡健象]]『小さな鼓動のメッセージ』いのちのことば社</ref>。また、20世紀後半の[[アメリカ合衆国]]における人工妊娠中絶の合法化を巡る議論では福音主義者・根本主義者などを中心にした[[保守的キリスト教]]の立場が、この論点を主要な課題として掲げ、プロライフ(生命尊重)を主張している<ref>{{cite book|author=Robert Wuthnow, Robert C. Liebman (eds.)|title=The New Christian Right|publisher=Transaction|date=1983|pages=Introduction|isbn=978-0-202-30308-6}}</ref>。
 
 
 
=== イスラム教 ===
 
イスラム教では中絶は母体を救うという目的以外はハラーム(禁止)であると記述されている。また一部の宗派においては胎児が受精120日以内では入魂していないので道義的には悪であることには変わりないが、宗教法で罰せられるハラーム(禁止)ではないとの立場を取ると記述されている<ref>[http://www.bbc.co.uk/religion/religions/islam/islamethics/abortion_1.shtml]</ref><ref name=Ehrich/>。
 
 
 
=== 仏教 ===
 
中絶は[[仏教徒]]において最も重要な戒律である不殺生戒に触れるため、伝統的な仏教では中絶に反対している<ref name="Buddhism2013">[http://dbts.edu/blog/abortion-in-buddhism/ Abortion in Buddhism Posted on January 13, 2013 by Ben Edwards]</ref>。これの根拠は仏教宗派殆どすべての系列で受け入れられている上座部の経典において、中絶に僧が関与した7つの案件に関して全て例外なく、釈迦はサンガからその僧侶を追放するべしとの結論をだしたとの記述が存在するからである<ref name="Buddhism2013"/>。さらに詳しく述べれば、生命の始まりは性行為、女性の生理、輪廻の魂の入魂が合致した時に成立するとされる。この文面から、受精し胚になった段階で生命とみなし、それを破壊することは殺生であるとの考え方が一般的である<ref name="Buddhism2013"/>。
 
 
 
=== ヒンズー教 ===
 
ヒンズー教の主要経典では、中絶に関する直接の記述が存在する。中絶は、親や僧を殺すに当たる大罪であるや、中絶を行った女性はカーストを喪失するなど、中絶がヒンズー教の不殺生の重大な違反であるという立場を明確にしている<ref>[http://www.bbc.co.uk/religion/religions/hinduism/hinduethics/abortion_1.shtml]</ref>。
 
 
 
=== ユダヤ教 ===
 
[[ユダヤ教]]は民族が経験した苦難の歴史から子供、および子孫繁栄に大きな価値をおく宗教となっているものの、胎児は完全な人間であるとはみなさないので妊娠初期の中絶には一定の理解を示す、妊娠中期以降は反対との立場をとる<ref>[http://www.bbc.co.uk/religion/religions/judaism/jewishethics/abortion_1.shtml BBC Abortion Last updated 2009-07-15]</ref>。{{要出典範囲|中絶を女性の選択肢として認める立場は主に、アメリカなどの改革派のユダヤ教徒の立場である|date=2015年7月}}。
 
 
 
=== ゾロアスター教 ===
 
聖典[[アヴェスター]]の『[[ウィーデーウ・ダート]]』第十五章9-15では堕胎を行うこと、また家族が堕胎を行わせることを禁じている。妊娠した女性が相手の男性に妊娠を告げ、その後男性側が、老婆(流産をもたらす薬効に通じた人物)に堕胎させてもらえ、と女性に言い、女性が「老婆」に依頼し、堕胎が完了したとする。この場合、女性、男性、施術を行った人物は三人とも等しく罪をおかしたことになるとされる。たとえ妊娠させた相手が未婚だとしても男性側は子供が生まれるまで世話しなければならない<ref>[[岡田明憲]]『ゾロアスター教の悪魔払い』平河出版社、229頁</ref>。
 
 
 
== 中絶をめぐる論議 ==
 
=== 医学的生命倫理問題 ===
 
今後[[出生前診断]]が一般化した場合、先天的な異常を持つ児を中絶することが「生命の選択」にあたるのではないかという論議がある([[障害者#日本]]参照)。また、不妊治療の副作用として増加している[[多胎妊娠]]において、一部の胎児のみを人工的に中絶する「[[減数手術]]」をどう考えるかも論議の対象になっている。強姦被害や避妊具の破損などの不測事態が発生した際、[[経口避妊薬#モーニングアフターピル|緊急避妊薬(モーニング・アフター・ピル)]]や[[IUD|IUD(子宮内避妊具)]]の事後挿入等による緊急避妊が行われる場合がある。これらは[[受精卵#生命倫理|受精卵の成立を以って生命の発生と考える立場]]の人々は、中絶の一種であると非難している<ref>[http://www.cbcj.catholic.jp/jpn/doc/cbcj/101202.htm]</ref>。ただしメーカー側は主な作用機序が排卵の抑制であり、受精卵阻害作用などは副次的な効果であると主張している。
 
 
 
=== 中絶とメンタルヘルス ===
 
==== 影響を否定する調査 ====
 
大規模な多施設臨床研究の結果、予期せぬ妊娠によって引き起こされるうつ病などの[[メンタルヘルス]]への影響は、出産した場合と中絶した場合で差がないことが判っており、中絶がメンタルヘルスに及ぼす影響は否定されている<ref name="apa-2008">{{cite web | url = http://www.apa.org/pi/women/programs/abortion/index.aspx | title = Mental Health and Abortion | publisher = [[American Psychological Association]] | year = 2008 | accessdate = April 18, 2012}}</ref><ref name="nyt-aug-2008"/><ref name="nccmh">{{PDFlink|[http://www.aomrc.org.uk/doc_view/9432-induced-abortion-and-mental-health Induced Abortion and Mental Health: A systematic review of the evidence]}} 2015年8月29日閲覧</ref>。中絶が精神的負担になるかどうかは、女性の元々の背景(生活環境や社会的支援、中絶に対する思想)に影響される<ref name="APA89">{{cite journal |author=Adler NE, David HP, Major BN, Roth SH, Russo NF, Wyatt GE |title=Psychological responses after abortion |journal=Science |volume=248 |issue=4951 |pages=41–4 |year=1990 |pmid=2181664 |doi=10.1126/science.2181664}}</ref><ref>{{cite journal | journal=Fam Plann Perspect | title = Abortion Study Finds No Long-Term Ill Effects On Emotional Well-Being | last = Edwards | first = S | volume = 29 | issue = 4 | pages = 193–194 | year = 1997 | url=http://findarticles.com/p/articles/mi_qa3634/is_199707/ai_n8772240 | doi=10.2307/2953388 | jstor=2953388}}</ref><ref>{{cite journal |author=Steinberg JR, Russo NF |title=Abortion and anxiety: what's the relationship? |journal=Soc Sci Med |volume=67 |issue=2 |pages=238–52 |date=July 2008 |pmid=18468755 |doi=10.1016/j.socscimed.2008.03.033 |url=}}</ref>。1990年、アメリカ心理学会 ([[:en:American Psychological Association|American Psychological Association]]; APA) は、中絶によって精神的に重度の悪影響が出ることは非常に稀であることを見出し、普段の日常生活にありふれたストレスに準じた影響であるとした<ref name="moreonkoop">{{cite journal |title=More on Koop's study of abortion |journal=Fam Plann Perspect |volume=22 |issue=1 |pages=36–9 |year=1990 |pmid=2323405 |doi= 10.2307/2135437|jstor=2135437}}</ref>。アメリカ心理学学会は更に2008年に追加調査を実施し、初回の予期せぬ妊娠による中絶はメンタルヘルスへの悪影響が無いことを発表した<ref name="apa-2008"/><ref name="nyt-aug-2008">{{cite news | work= [[New York Times]] | url = http://www.nytimes.com/2008/08/13/health/research/13brfs-ABORTIONDOES_BRF.html | title= Abortion Does Not Cause Mental Illness, Panel Says | last = Carey | first = Benedict | date= 2008-08-12 | accessdate= 2008-08-12}}</ref>。これらの質の高い大規模臨床研究 (high-quality studies) で、中絶とメンタルヘルスとの因果関係は一貫して否定されているが、質の悪い研究 (poor-quality studies) では因果関係を認める傾向があることも判っている<ref name="charles-2008">{{cite journal |author=Charles VE, Polis CB, Sridhara SK, Blum RW |title=Abortion and long-term mental health outcomes: a systematic review of the evidence |journal=Contraception |volume=78 |issue=6 |pages=436–50 |year=2008 |pmid=19014789 |doi=10.1016/j.contraception.2008.07.005}}</ref>。2011年12月、イギリスの国立メンタルヘルス共同センター ([[:en:National Collaborating Centre for Mental Health|National Collaborating Centre for Mental Health]]) も、入手可能なエビデンスと系統的論文より同様に中絶はメンタルヘルスに悪影響を及ぼさない (abortion did not increase the risk of mental-health problems) とした<ref name="nccmh"/><ref name="bbc-nccmh">{{cite news | publisher = [[BBC]] | title = Abortion 'does not raise' mental health risk | first = Jane | last = Dreaper | date = December 9, 2011 | accessdate = April 18, 2012 | url = http://www.bbc.co.uk/news/health-16094906}}</ref>。これらの量の医学的知見があるにも関わらず、[[プロライフ]]派の人権擁護団体は「中絶とメンタルヘルス」の因果関係を主張し続けている<ref name="stotlandreview">{{cite journal |author=Stotland NL |title=Abortion and psychiatric practice |journal=J Psychiatr Pract |volume=9 |issue=2 |pages=139–49 |year=2003 |pmid=15985924 |doi=10.1097/00131746-200303000-00005}}</ref>。度々討論されるこの問題は、もはや医学的問題ではなく、思想に基づいた政治的な論争の問題とされる<ref name="Bazelon"/><ref name="now">{{cite news | url = http://www.pbs.org/now/shows/329/index.html | title = Post-Abortion Politics | publisher = [[PBS]] | work = [[NOW (PBS)|NOW with David Brancaccio]] | date = 2007-07-20 | accessdate = 2008-11-18 | archiveurl = https://web.archive.org/web/20081020233750/http://www.pbs.org/now/shows/329/index.html | archivedate = 2008年10月20日 | deadurl = no | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref>。プロライフ派の活動家の中には、中絶後にメンタルヘルスに悩む人がいるとして「中絶後症候群」(PAS; post-abortion syndrome) という概念を提唱して<ref>1981年プロライフ活動家の[[:en:Vincent Rue|Vincent Rue]]が最初に提唱</ref>広報活動を行ったが<ref name="Bazelon">{{cite news | work = [[New York Times Magazine]] | url = http://www.nytimes.com/2007/01/21/magazine/21abortion.t.html | title = Is There a Post-Abortion Syndrome? | last = Bazelon | first = Emily | authorlink = Emily Bazelon | date = 2007-01-21 | accessdate = 2008-01-11 | archiveurl = https://web.archive.org/web/20080113140609/http://www.nytimes.com/2007/01/21/magazine/21abortion.t.html | archivedate = 2008年1月13日 | deadurl = no | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref><ref name="Mooney">{{cite news | url = http://www.washingtonmonthly.com/features/2004/0410.mooney.html | title = Research and Destroy: How the religious right promotes its own 'experts' to combat mainstream science | last = Mooney | first = Chris | authorlink = Chris Mooney (journalist) | work = [[Washington Monthly]] | date = October 2004 | archiveurl = https://web.archive.org/web/20080404034430/http://www.washingtonmonthly.com/features/2004/0410.mooney.html | archivedate = 2008年4月4日 | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref><ref name="BostonG">{{cite news | url = http://www.boston.com/news/nation/washington/articles/2005/07/31/science_in_support_of_a_cause_the_new_research/?rss_id=Boston+Globe+--+National+News | title = Science in support of a cause: the new research | last = Kranish | first = Michael | work= [[Boston Globe]] | date = 2005-07-31 | accessdate= 2007-11-27}}</ref>、プロライフ派の中だけで使用されているに過ぎず、アメリカ心理学会とアメリカ精神医学会は実際の症候群としてその存在を認めず、ICD-10などにも病名として採用されていない。一部の医師や[[プロチョイス]]の活動家は、「中絶後症候群」は、政治的目的のためのプロライフの支持者の戦術であるとしている<ref name="stotlandreview"/><ref name=stotland_1404747>{{cite journal |author=Stotland NL |title=The myth of the abortion trauma syndrome |journal=JAMA |volume=268 |issue=15 |pages=2078–9 |date=October 1992 |pmid=1404747 |doi= 10.1001/jama.268.15.2078|url=}}Mooney</ref><ref>{{cite news | last = Cooper | first = Cynthia |url = http://www.msmagazine.com/aug01/pas.html | title = Abortion Under Attack | work= [[Ms. (magazine)|Ms.]] | date = August–September 2001 | accessdate = 2008-11-18}}</ref><ref name="JSoc2">{{cite journal |author=Russo NF, Denious JE |title=Controlling birth: science, politics, and public policy |journal=J Soc Issues |volume=61 |issue=1 |pages=181–91 |year=2005 |pmid=17073030 |doi=10.1111/j.0022-4537.2005.00400.x}}</ref>。1987年、アメリカの[[ロナルド・レーガン]]が公衆衛生局長官に指名した、[[:en:C. Everett Koop|エリザベット・クープ]](小児外科医であり[[プロテスタント]][[福音派]]中絶反対論者であった)<ref name="nlm">{{cite web | url = http://profiles.nlm.nih.gov/ps/retrieve/Narrative/QQ/p-nid/88 | archiveurl = https://www.webcitation.org/60GpKCVAq?url=http://profiles.nlm.nih.gov/ps/retrieve/Narrative/QQ/p-nid/88 | archivedate = 2011年7月18日 | title = The C. Everett Koop Papers: Reproduction and Family Health | publisher = [[National Library of Medicine]] | accessdate = June 18, 2011 | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref>は、中絶の精神衛生へのリスクに関する報告書を発表した。この発表はレーガンの補佐をしていた人物によって計画され、[[ロー対ウェイド事件]]の布石のため中絶反対のプロライフ運動を推進する目的だった<ref name="washingtonmonthly">{{cite news | url = http://www.washingtonmonthly.com/features/2004/0410.mooney2.html | title = Bucking the Gipper | last = Mooney | first = Chris | authorlink = Chris Mooney (journalist) | work = [[Washington Monthly]] | date = October 2004 | accessdate = 2008-02-18 | archiveurl = https://web.archive.org/web/20071210062344/http://www.washingtonmonthly.com/features/2004/0410.mooney2.html | archivedate = 2007年12月10日 | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref>。クープは乗り気では無かったが、最終的にレーガンの中絶反対政策の為に250以上の報告を議会で発表した。これらの論文は「クープレポート」と呼ばれたが、議会証言に前後してクープ自身が、その研究報告はあまりにも拙劣で、統計的な検討に耐えうる内容ではなかったと述べるなど、様々な問題を含んだ内容でだった<ref name="times3-17-89">{{cite news | url = http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=950DEEDF1F3CF934A25750C0A96F948260 | title = Koop Says Abortion Report Couldn't Survive Challenge | last = Leary | first = Warren | work= [[New York Times]] | date = 1989-03-17| accessdate = 2008-02-18}}</ref>。クープは、中絶後にメンタルヘルス障害を発症する女性が実在することは認めたが、中絶がメンタルヘルス障害のリスクを増やすことを証明できなかった。クープは、個々の個人にとっては中絶は大きな問題となる事もあるが、公衆衛生上の統計的観点で見ると、そのリスクは非常に小さいと述べている<ref name="Bazelon"/><ref name="APA89"/><ref name="washingtonmonthly"/><ref name="newscientist">{{cite news | url = http://www.newscientist.com/article/mg12416951.000-reagans-officials-suppressed-research-on-abortion-.html | title = Reagan's officials 'suppressed' research on abortion | last = Joyce | first = Christopher | work = [[New Scientist]] | date = 1989-12-16 | accessdate = 2008-02-18 | archiveurl = https://web.archive.org/web/20080314235047/http://www.newscientist.com/article/mg12416951.000-reagans-officials-suppressed-research-on-abortion-.html | archivedate = 2008年3月14日 | deadurl = no | deadlinkdate = 2017年9月 }}</ref>。議会の委員会は、中絶が精神衛生上有害だったという証拠を提出出来なかったクープを非難し、レーガンの試みは失敗に終わった。クープはレーガンへの手紙の中で、渡されたレポートは中絶のメンタルヘルスへの影響を証明するには不完全なものだったと主張している。イギリスの医学専門誌「British Journal of Obstetrics and Gynaecology」では、女性が中絶後に抱く心境として最も多いものは「解放感(70%)」や「満足感(36%)」であったとしている<ref name="newsweek20161018">[http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161018-00178924-newsweek-int 中絶してホッとする女性はこんなに多い──ネットで買える中絶薬利用、終身刑のリスクも] ニューズウィーク日本版 2016年10月18日(火)19時0分配信 同日閲覧</ref>。
 
 
 
==== 影響を指摘する調査 ====
 
一方でメンタルヘルスへの影響を指摘する研究結果も世界に多数ある。[[アメリカ合衆国]]と[[フィンランド]]における調査によると、中絶した女性は心に問題を起こし、また中絶後に自殺率が増加するという調査結果がでている<ref>[http://japan-lifeissues.net/writers/rea/rea_35suicidesabortion-ja.html 中絶後に女性の自殺率が上昇、新たな調査結果]</ref>。な精神的反応としては、[[罪悪感]]、[[羞恥心]]、[[不安感]]、無力感、深い悲しみや[[良心の呵責]]、泣くことを自制できない、怒り、苦々しい思い、恨みの念、不信感や裏切り感、自尊心の低下、赤ん坊や小さな子どもに関連する物事を避ける、中絶経験の[[フラッシュバック]]、悪夢にうなされる、睡眠が不規則になる、憂うつ感、性的機能不全、食生活の乱れ自虐的行為、人間関係の破綻、自殺を考える、または自殺しようとする傾向などがある<ref>For more information about studies documenting these symptoms, see the list of resources on the back page of this insert. You can also visit the web site of the Elliot Institute for Social Sciences Research at www.prolife.org/afterabortion/ for documents on post-abortion research.</ref>。特に10代の場合は影響が大きくなり、自己非難、[[うつ]]、社会逃避、[[引きこもり]]などの行動に走ることがある。中絶した女性の手術後8週目の調査によると多くが罪の意識を表し、44%が[[精神異常]]を訴え、36%が[[不眠症]]にかかっており、31%が中絶した事を後悔し、11%が主治医から向精神薬を処方されている<ref>Ashton, "The Psychosocial Outcome of Induced Abortion", British Journal of Ob & Gyn. (1980), vol. 87, p. 1115-1122.</ref>。カナダの2つの州における調査では、中絶を経験した女性の25%は[[精神科医]]に足を運んでおり、そうでない女性は3%だった<ref>Badgley, et.al., Report of the Committee on the Operation of the Abortion Law (Ottawa: Supply and Services, 1977) p.313-321.</ref>。また毎年中絶した日や、迎える事のなかった出産予定日が巡ってくる事によって突発的に精神的な危機が起こることがある<ref>Reardon, Aborted Women-Silent No More, (Chicago: Loyola University Press, 1987)</ref>。また堕ろさないと別れるといった様な脅しを受け、異性を引き留めておきたいからという理由で中絶する場合があるが、この場合多くが中絶をしたことにより結局関係が破たんするという研究もある<ref>Linda Bir Franke, The Ambivalence of Abortion (New York: Random House Inc., 1978) p. 63. See also Reardon, Aborted Women, 45.</ref>。男性にも精神的な影響があり、人間関係の破綻、性的機能不全、自己嫌悪、危険な行動、時を越えて増す悲しみ、無力感に[[罪悪感]]、憂うつ感、怒りやすく暴力的になりやすいという傾向などがある<ref>Strahan, Thomas, "Portraits of Post-Abortive Fathers Devastated by the Abortion Experience," Assoc. for Interdisciplinary Research in Values and Social Change, Nov./Dec. 1994.</ref>。
 
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== その他の観点 ==
 
{{複数の問題|section=1
 
|出典の明記=2015年7月
 
|大言壮語=2015年10月
 
|言葉を濁さない=2015年10月
 
|観点=2015年10月}}
 
 
 
=== 左派の観点 ===
 
左派は圧倒的に中絶に賛成の立場であり、中絶の権利の習得のために闘った各国のフェミニストは歴史的にいつも右派保守政治家に反対された。例えば、現在、過激キリスト教と関連するフランスの右翼団体が反中絶デモ (Anti-IVG) を行っている一方、左派は中絶は女性の重要な権利であると唱え、保守系の反中絶活動に断固反対する。現在においても衝突が激しい。{{要検証範囲|date=2015年10月|ただし、当然のことではあるが、左派が中絶の権利をフェミニズムや女性解放と結びつけるのは、(それが当初カウンターの対象として意図していた、子供の権利を重視する保守思想同様)国民国家時代からポスト国民国家時代の先進国の、とりわけキリスト教世界(それに限ったことではないにせよ)の中流知識人の言論の中であって、歴史的には、プロライフやプロチョイスなどではなく、単に育てる価値のない子供は殺すべきという理由で中絶をしていたし、今もしている。プロライフやプロチョイスは何の関係もなかったし、今もない。それゆえに、多少こういう事情に通じた人間からは、極右(堕胎肯定、男尊女卑、子は親の所有物)や極左(理想主義、避妊推進)や中間派を問わず、近現代の自称先進社会における中絶反対の右派は似非保守、中絶賛成の左派は似非リベラルと蔑称される。}}
 
 
 
=== 進化生物学的観点 ===
 
{{要検証範囲|date=2015年10月|進化生物学的にいえば、人間の子供は多大な投資を必要とするため、育てるには愛情と資源が必要であり、そのことが裏を返せば、その子供を育てる価値があるかどうかを吟味し、育てる価値のない子供は殺すことを適応的とする。これに宗教や右派や左派やフェミニズムはなんら関係ない。実際にほとんどの社会は、中絶や間引きを多く行っていたが、フェミニズムは無く、女性優位でもなかった。無論、中絶や嬰児殺を多く行っていた以上、ヒューマニズムや生命倫理も薄い。}}
 
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== 中絶を希望する女性と人身売買 ==
 
インドでは、人工妊娠中絶を希望して来院した女性に対して<ref name="INDEA"/>、病院スタッフが出産するように説得し、その乳児を闇市場に売却して人身売買を行っていた事件があった<ref name="INDEA">[http://www.afpbb.com/articles/-/3091068 字幕:病院から闇市場へ売られる新生児、インド中部 2016年06月20日 16:11 発信地:グワリオル/インド] AFPBB NEWS 2016年6月20日閲覧</ref>。書類上は死産扱いとして処理していた<ref name="INDEA"/>。日本でも中絶を考えている女性に対して、「インターネット赤ちゃんポスト」を名乗る団体が「産めば最大200万円援助する」という内容で特別養子縁組を斡旋している<ref name="intesato">[http://news.livedoor.com/article/detail/10930520/ 赤ちゃんポスト名乗る団体「産めば200万円」に人身売買と批判も 2015年12月9日 6時0分 女性自身]2016年6月20日閲覧</ref>。実際に120万円ほどが支払われた事例もあり<ref name="intesato"/>、マッチングに使用するスマホアプリの使用料や養子縁組成立時の謝礼金50万円などで年間15億円の売り上げ予定としているが<ref name="intesato"/>、人身売買ではという指摘もあり地方自治体から再三の指導を受けている。
 
 
 
== 脚注 ==
 
{{脚注ヘルプ}}
 
{{Reflist|2}}
 
 
 
== 関連項目 ==
 
{{Commonscat|Abortion|人工妊娠中絶}}
 
{{columns-list|2|
 
* [[生命倫理学]]
 
* [[優生学]]
 
* [[産児制限]]
 
* [[流産]]
 
* [[水子]]
 
* [[堕胎罪]]
 
* [[赤ちゃんポスト]]
 
* [[避妊]]
 
* [[性科学]]
 
* [[産婦人科学]]
 
* [[プロライフ]]
 
* [[プロチョイス]]
 
* [[小さないのちを守る会]]
 
* [[国際生命尊重会議]]
 
* [[胎児の人権宣言]]
 
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[[Category:産科学]]
 
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[[Category:人権侵害]]
 
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[[Category:宗教と女性]]
 
[[Category:宗教と女性]]
 
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[[de:Schwangerschaftsabbruch]]
 
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[[he:הפלה מלאכותית]]
 
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[[sk:Interrupcia]]
 
[[sw:Utoaji mimba]]
 
[[tr:Kürtaj]]
 

2019/4/27/ (土) 18:56時点における最新版

人工妊娠中絶(じんこうにんしんちゅうぜつ、: induced abortion

胎児が子宮外で生育不可能な時期に,人工的に妊娠を中断して,胎児とその付属物を子宮外に出すこと。現在では,妊娠 22週未満を子宮外生育不能な期間とみなしている。妊娠3ヵ月までは,機械的に子宮口を開き,内容を除去する手術が行われるが,4~5ヵ月では,出産と同じように陣痛を起させ,子宮筋の力で頸管を開き,内容を排出させる方法がとられるので時間がかかり,危険度も高くなる。日本では,母体保護法 (旧優生保護法) によって指定された医師が,暴行で妊娠した場合,妊娠の継続や分娩が身体的,経済的理由で母体の健康をそこなうおそれのある場合は,合法的に中絶手術を受けることができる。



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