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− | {{独自研究|date=2008年4月}}
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− | [[ファイル:Kyoto dialect banner in Demachi.JPG|サムネイル|[[出町商店街]]にて。]]
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− | '''京言葉'''(きょうことば、'''京ことば'''とも表記)とは、[[京都]]で用いられる[[日本語の方言]]である。'''京都弁'''(きょうとべん)、古くは'''京談'''(きょうだん)とも。[[近畿方言]]の一種であり、[[大阪弁]]とともに[[上方言葉]]の中核をなす。広義には旧[[山城国]]の方言を指す。
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− | == 概要 ==
| + | '''京言葉'''(きょうことば、'''京ことば'''とも表記) |
− | [[京都]]は[[平安京]]が建設された[[平安時代]]から1000年以上にわたって日本の都があった地域であり、江戸時代中期まで京言葉は日本の中央語(事実上の[[標準語]])とされ、現代共通語の母体である[[東京方言]]を含め、日本各地の方言に強い影響を与えた。明治時代から昭和中期までの標準語普及政策の影響も少ない。
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− | 京都は伝統を重んじる保守的な街とされるが、古くからの大都市で京言葉は変化し続けており、平安時代以来の古語はあまり保存されていない。明治維新前後にも大きな変動があったとされ、代表的な京言葉「どす」「やす」「はる」も幕末以降に成立・普及した言葉と考えられている<ref>井上ほか (1996)、9-12頁。</ref>。現在では[[共通語]]化や[[関西共通語]]化(大阪弁化)も進み、伝統的な京言葉を用いるのは昭和中期以前に生まれた世代や花街の芸妓社会などに限られている。[[1993年]](平成5年)から[[1994年]](平成6年)にかけて実施した方言調査によると、「どす」に関して80歳代では「使用する」と回答した割合が49.2%なのに対し、10代では「聞いたこともない」が54.0%となっていることがわかった<ref>岸江信介・井上文子『京都市方言の動態』1997年、近畿方言研究会。</ref>。
| + | 京都の人の話す言葉。優美な言葉とされた。京都弁。 |
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− | == 分類 ==
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− | 京言葉は、大きく分けて御所で話された'''公家言葉'''([[御所言葉]])と、街中で話される'''町ことば'''(町方ことば)に分類される。前者の公家言葉は、宮中や[[宮家]]、[[公家]]のあいだで[[室町時代]]初期から[[女官]]によって話されたもので、明治以降も一部の[[門跡]]で継承されてきた。後者は、話者の[[職業]]や地域によって更に細かく分類することが出来る。
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− | ; 中京ことば(なかぎょうことば)
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− | : [[中京区]]を中心として、[[室町通|室町]]や[[新町通|新町]]の[[問屋]]街・商家などで話されることば。町ことばの代表とされる。
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− | ; [[職人]]ことば
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− | : [[西陣]]の[[織物]]産業([[西陣織]])に従事する織屋の人々のことば。
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− | ; [[花街]]ことば
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− | : [[祇園]]や[[宮川町]]などの[[京の花街|花街]]で、[[舞妓]]や[[芸妓]]によって話されることば。簡易的な[[手話]]の様な「身振り語」や、[[嶋原]]で用いられた「廓言葉(なます言葉)」がある。
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− | ; [[伝統工芸]]語
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− | : [[京焼]]、[[京友禅]]、あるいは[[伏見区|伏見]]の酒屋などの現場で話される職業語。
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− | ; [[農家]]ことば
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− | : [[大原 (京都市)|大原]]や[[八瀬 (京都市)|八瀬]]など京都周辺の農村部で話されることば。
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− | === 地域区分 ===
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− | 広義の京言葉は以下のように区分される。
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− | ; 京言葉(狭義)
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− | : [[京都市]]や[[乙訓郡|乙訓地域]]、[[宇治市]]など旧山城国北部の方言。
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− | ; 南山城方言
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− | :[[木津川市]]や[[南山城村]]など旧山城国南部の方言。[[伊賀弁]]や[[奈良弁]]に近い。
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− | == 発音 ==
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− | 京言葉が優雅であるとされる要因の一つとして、京言葉の持つ[[発音]]や[[アクセント]]があげられる。[[長母音]]や[[ウ音便]]を多用することから、全般的にテンポが遅く、ゆったりとした柔らかい印象を与えるのである。
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− | === 母音 ===
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− | ガッコー([[学校]])を「ガッコ」、サンショー([[山椒]])を「サンショ」とするなど、長母音を短く発音する。その一方で、一拍名詞を長く伸ばすことも盛んに行われ、カ([[蚊]])を「カー」、ノ(野)を「ノー」とする。
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− | [[母音]] i が e に転訛し、シラミ([[シラミ|虱]])が「シラメ」となることがある。その他にも、e が i に、u が o に、o が u に転訛する場合がある。[[連母音]]が転訛し、「見える」が「メール」となる場合もある。
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− | === 子音 ===
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− | シツレイ(失礼)を「ヒツレイ」とするなど、シの[[子音]] {{IPA|ʃ}} が {{IPA|ç}} に転訛することがあるほか、{{IPA|s}} が {{IPA|ʃ}} に転訛する例や {{IPA|m}} が {{IPA|b}} に転訛する例などがある。
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− | === 音便 ===
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− | 語呂を滑らかにするための関西特有の音便が多用される。
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− | ; ウ音便
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− | : 明るくなる→明る'''う'''なる、美しく咲く→美'''しゅう'''咲く、眠たくて仕方ない→眠と'''う'''て仕方ない、赤く染まる→あこ'''う'''染まる
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− | ; 促音便
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− | : えらいことや→えらいこ'''っ'''ちゃ おきばりやすや→おきばりや'''っ'''しゃ
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− | ; 撥音便
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− | : つかぬことを→つか'''ん'''ことを 坊さん→ぼ'''ん'''さん
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− | === アクセント ===
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− | 大阪弁などと同じく[[京阪式アクセント]]の典型であるが、大阪弁とは一部の表現でアクセントが異なる(左が京都、右が大阪のアクセント)。
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− | * 〜ました: 食'''{{高線|べ}}'''ました ←→ 食べ'''{{高線|ま}}'''した
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− | * 〜はった: 食'''{{高線|べ}}'''はった ←→ 食べ'''{{高線|はっ}}'''た
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− | * 東京: とおきょ'''{{高線|お}}''' ←→ '''{{高線|とおきょお}}'''
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− | * 頭: '''{{高線|あ}}'''たま ←→ '''{{高線|あた}}'''ま(近年では京都と同じアクセントも聞かれる)
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− | == 語法 ==
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− | === 活用 ===
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− | * 共通語と同様の命令形に加えて、連用形による命令表現がある。これは「〜なさい」を省略したものである。
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− | **(例)「走り」「早うし」
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− | * 否定の助動詞「へん」は、五段動詞にはア段に後続する。大阪弁では「行けへん」「走れへん」のようにエ段に後続することがある。京都では、エ段に後続する「へん」は「走れない」「行けない」といった不可能表現を表すため、コミュニケーションギャップが生じやすい。
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− | **(例)「あらへん」、「走らへん」、「行かへん」
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− | * [[上一段活用]]動詞、[[カ行変格活用]]動詞「来る」、[[サ行変格活用]]動詞「する」には、否定の助動詞は「ひん」とする。「いる」「見る」「来る」「する」など二拍語の場合は「イ段長音+ひん」とする。ただし、現在は大阪などの言い方に従って、「エ段長音+へん」とすることも増えている。ア段+「へん」、イ段+「ひん」、エ段+「へん」とも、未然形+「やへん」が変化したものである。
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− | **(例)「いーひん」(いない)、「きーひん」(来ない)、「しーひん」(しない)、「みーひん」(見ない)、「起きひん」(起きない)
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− | * 五段動詞で勧誘を示す場合、お段で伸ばさない。一段動詞の場合は短く「よ」を付ける。サ行変格動詞は「しょう」、カ行変格動詞は「こう」とする。
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− | **(例)「走ろ」、「行こ」、「見よ」、「寝よ」
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− | === 可能表現 ===
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− | * 共通語同様に「れる」、「られる」を付けて言える。不可能を表す形は「〜れへん」「〜られへん」がある。
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− | ** (例)「走れる」、「寝られる」、「走れへん」、「寝られへん」
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− | ** 「〜れへん」形は誤解を招きやすいが、京都では多く使われている。
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− | * 不可能を言う場合、「よう〜ん」、「よう〜ひん」の形を取ることが多い。
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− | ** (例)「よう走らん」、「よう寝ん」、「よう起きひん」
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− | === 敬語 ===
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− | 長らく[[御所]]が存在し宮中で話された[[御所言葉]]の影響が庶民にも広まったこと、古くからの都市社会であり封建的な社会階層化が進んだことなどから、[[敬語]]が非常に発達した。特に女性層で顕著であり、女性層では敬語に限らず常に丁寧な言葉遣いが好まれ、「食う」よりも「食べる」、「うまい」よりも「おいしい」を用いようと努めたり、「お豆さん」など日常生活の名詞にも盛んに敬称をつけたりする<ref>井上ほか (1996)、5-6頁。</ref>。
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− | ; …はる
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− | : 「なさる」の変形で、「'''なはる'''」とも。日常的に多用される尊敬語表現で、関西の他地域よりも使用頻度が高い。同時に敬意度は低くなっており、目上の人物だけでなく、目下や身内の人物、動物、天候などにも用いることがある。(例)「乗って来はるわ」 (乗って来られるよ)
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− | ; お…やす
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− | : 「はる」よりも敬意の高い尊敬語表現。敬意を伴った軽い命令表現として、特に[[挨拶]]などに多用する。相手への確認のための強調として、「'''やっしゃ'''」とも。(例)「お越しやす」、「おかけやしとおくれやす」(どうぞお掛けくださいませ)、持っといておくれやっしゃ(持っておいて下さいよ)、ちゃんと聞いといとくれやっしゃ(ちゃんと聞いていて下さいよ)
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− | ; …といやす
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− | : 「ておいやす」の変形。(例)「しといやした」(していらっしゃいました)
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− | ; …ておみ、とおみ
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− | : 漢字で書くと「て御見」となり、共通語の「てごらん」に相当。(例)「見とおみ」(見てごらん)
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− | ; …よし
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− | : 同等・目下に対して用いる軽い命令表現。連用形の後ろにつく。大正頃から広まったとされる。(例)「はよ行きよし」(早く行きなさい)
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− | ; おす
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− | : 「ある」の[[丁寧語]]で、大阪の「おま(す)」に相当。形容詞の後ろにもつく。(例)「誰もおへん」(誰もいません)、「おいしおすなぁ」(美味しいですねぇ)
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− | ; どす
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− | : 断定の丁寧語で、東京の「です」、大阪の「だす」に相当する良く知られた京言葉。「でおす」の変形で、「'''どふ'''」とも。江戸末期から昭和にかけて男女とも用いたが、現在では高齢層や芸妓など限られた場面でしか聞かれない。(例)「おめでとうさんどす」、「明日行かはるんどすか」、「そうどした」
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− | === 婉曲 ===
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− | 依頼や辞退を表すときには、直接的な言い方は避け、婉曲的で非断定的な言い回しを好む。例えば「〜して下さい」という要求をする時も、「〜してもら(え)やしまへんやろか」(〜してもらえはしませんでしょうか)のような遠回しな否定疑問を用いる。辞退する時も、「おおきに」「考えときまっさ」などと曖昧な表現をすることによって、勧めてきた相手を敬った表現をする。また、「主人に訊かなければ分からない」などと他人を主体化させ、丁重に断る方法も良く用いられる。後述する「ぶぶ漬け」も、そのような直接的表現を嫌う風土によるものである。京言葉を解さない人からは、現代においては[[封建]]的で意味の成さないことが多く、[[コミュニケーション]]をとりにくいと思われている。
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− | === 「ぶぶ漬け」の喩え ===
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− | 京都の婉曲表現を物語る上で、よく用いられるのが『[[京の茶漬け|京のぶぶ漬け]]』([[茶漬け]]のこと)の例である(他に、玄関先での「[[座布団]]」、寒い日の「[[火鉢]]」、現代では「[[緑茶]]([[宇治茶]]など)」「[[紅茶]]」「[[コーヒー]]」の例もある)。これは、京都で他人の家を訪問した際、その家の人にぶぶ漬けを勧められたら、それは暗に帰宅を促しているという意味である。その場合、家人は茶漬けの準備など全くしていない。
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− | 一般に「今日は、ぶぶ漬け程度の粗食しかおもてなし出来ないので、日を改めてまた来てくれ。」という意味に解釈されているが、角が立たないように、自分の意思を伝える一種の取り決めごととも言える。
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− | そもそも「食事を勧められる」ということは、客がそのような食事時に訪問しているか、あるいは食事時まで居続けているということであり、常識的に考えれば失礼な行為に当たる。家人が「食事を勧める」ことで、訪問者は時間を自覚でき、家人側も相手に対して失礼を犯さずに帰宅を要求することができる、という社交的な効果があると考えられる。
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− | この場合の理想的なやり取りとしては、家人がぶぶ漬けを勧めてきたら、客人は一旦はこれを固辞し、少なくとも2回断ってもまだ勧めてくるようだったら有難く家の中に上がって頂く。ぶぶ漬けを勧められても、一旦はこれを断るのは常識であり、もし遠慮も無く真に受けて食べてしまうと、家人に「あの人は厚かましい」という印象を抱かれてしまいかねない。
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− | もっとも大抵の場合、1回または2回断った時点で、家人はぶぶ漬けを勧めるのをあっさりやめるので、客人は「ほな、この辺でお暇致します。今日はおおきに。」と家を引き取る行動を起こすのである。このとき家人が何らかの行動を起こして、さりげなく客人に帰るよう促すこともある。
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− | 相手の真意を探るには『[[場の空気]]』『[[阿吽の呼吸]]』とも言える、絶妙なテクニックが必要となる。
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− | もちろん、「ぶぶ漬け」はあくまで喩えであり、その他の日常生活においても、京都ではコミュニケーションにおける伝統的な暗黙の了解事項が多々存在しており、一言では到底説明し切れない。実際に京都で生活してみないと分からない感覚なのである。
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− | どちらにせよ、古くからの慣習によって成り立っているそのコミュニケーションに慣れていない非京都圏の人々には全く意図が伝わらず、慌てて実際に料理を用意しなければならない場合もあり、また、逆に非京都圏の客人が単に「早よ帰っておくれやす。」の意味としてだけ知っていた場合、客人の心証を害すなど、余計なトラブルを招くことがある。そのため、京都人は会話の相手が何処で生活している人間であるのかを事前に理解しておくべきであり、会話中の方言などで会話相手が京都圏在住であることを類推できるような場合以外は、初対面の相手に京言葉を無暗に使用しないことが推奨される。
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− | なお「ぶぶ漬け」に関するエピソードを扱った小説には、[[北森鴻]]『[[裏京都ミステリー|ぶぶ漬け伝説の謎]]』(同名の短編集に収められている)が存在する。北森はこの小説の中で登場人物に次のような内容を語らせている。「ぶぶ漬け伝説は非常によく知られている。しかし、現実にそのとおりの体験をした人となると聞かない。京都の人に聞いても、そういった仕打ちをしたという人もいない」。
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− | == 語彙 ==
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− | 「〜なはい」や「〜や」、「〜え」などの[[接語]]の他にも、独特の表現や語彙が存在する。
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− | 「駄々をこねる子」を「ダダコ」と表現するなど、別の品詞から[[名詞]]を作り出すパターンが多い。
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− | また、[[女房言葉]]に由来する、名詞(主に生活に関するもの)に敬称をつける表現がある。
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− | * 「おつむ」 - [[頭]]
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− | * 「おつくり」 - [[刺身]]
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− | * 「おかぼ」 - [[カボチャ]]<ref name="kotoba">札埜和男『大阪弁「ほんまもん」講座』2006年、新潮社、p122</ref>
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− | * 「おねもじ」 - [[ネギ]]
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− | * 「おいた」 - [[カマボコ]]<ref name="kotoba"/>
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− | * 「およね」 - [[米]]<ref name="kotoba"/>
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− | * 「おあげさん」 - [[油揚げ]]
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− | * 「おくどさん」 - [[竃]](かまど)
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− | * 「おしたじ」 - 醤油<ref name="kotoba"/>
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− | * 「おかちょう」 - 蚊帳<ref name="kotoba"/>
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− | * 「おっさん」 - 和尚
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− | * 「おばんざい」 - おかず
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− | * 「およなが」 - 夜食<ref name="kotoba"/>
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− | * 「東上」 - 東京へ行くこと
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− | * 「上京」 - 京都へ来ること([[首都圏方言]]では語義が異なる)
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− | === 畳語 ===
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− | [[畳語|同じ言葉を繰り返して]]、意味を強調する。
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− | * 「承りましてございますでございます」
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− | * 「キツキツ言う」(強く言う)
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− | * 「赤こ赤こ(あこあこ)なってきてますえ」
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− | === 擬音語・擬態語 ===
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− | 京言葉では[[修辞技法|擬音語・擬態語]]([[オノマトペ]])を多用し、リズム感を構成する一因となっている。「ガタガタ」、「ミルミル」などというようなものである。また、「はんなり」のような2音節目に「ん」、4音節目に「り」を持つ擬態語(「ぐんなり」、「ちんまり」など)が多く存在する。「はんなり」の語源は「[[花]]」であるが、これはけばけばしい「華やかさ」を表しているわけではなく、つつましく可憐な様子を表す。
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− | == 脚注 ==
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− | {{脚注ヘルプ}}
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− | {{Reflist}}
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− | == 参考文献 ==
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− | * 寿岳章子『暮らしの京ことば』朝日新聞社、1979年
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− | * 木村恭造『京ことばの生活』教育出版センター、1983年
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− | * 加納進『京ことば玉手箱』ユニプラン、1993年、ISBN 4-89704-017-5
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− | * 井之口有一・堀井令以知『京ことば辞典』東京堂出版、1992年、ISBN 4-490-10305-0
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− | * 大淵幸治『丁寧なほど、おそろしい「京ことば」の人間関係学』祥伝社、2000年、ISBN 4-396-61116-1
| |
− | * 楳垣実編『近畿方言の総合的研究』三省堂、1962年
| |
− | ** 奥村三雄「京都府方言」
| |
− | * 井上史雄ほか編『日本列島方言叢書15 近畿方言考3 滋賀県・京都府』ゆまに書房、1996年、ISBN 4-89668-838-4
| |
− | ** 楳垣実「京都方言」1950年『国語学』4集所収。
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− | * 佐藤亮一編『都道府県別全国方言辞典 CD付き』三省堂、2009年
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− | ** 寺島浩子・古川悠「京都府」
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− | == 関連項目 ==
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− | * 京都府内の他の方言
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− | ** [[丹波方言]] - 地域によって違いが大きいが、[[南丹|口丹波]]の方言は京都市内の方言とよく共通し合っている。
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− | *** [[舞鶴弁]] - 丹波方言の一種。「はる」ではなく「てや」敬語(過去形は「ちゃった」)を用いるのが特徴。
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− | ** [[丹後弁]] - [[中国方言]]の[[東山陰方言]]に分類され、丹波地方以南の方言とは大きく異なる。
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− | * 京言葉圏(楳垣実の定義による)
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− | ** 若狭([[若狭弁]])・近江([[近江弁]])・北三重([[伊勢弁]])・伊賀([[伊賀弁]])・山城・丹波
| |
− | * [[中古日本語]] - いわゆる「古語」とは、平安時代の貴族の京言葉をもとにした書き言葉である。
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− | * [[大阪弁#船場言葉|船場言葉]] - 船場言葉には敬語を中心に京言葉から移入された表現が多い。
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− | == 外部リンク ==
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− | * [http://kanko.city.kyoto.lg.jp/wakaru/life/words/basis/index.html 京ことばを聞き取ろう](京都市産業観光局観光MICE推進室)
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− | * [http://kyokotoba.web.fc2.com/ 京ことばの会]
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− | * [http://www.viaway.com/channel/839-92673/kbs ぽっどきゃすと京ことば]([[京都放送|KBS京都]])
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− | * [http://www.kyoto-np.co.jp/kp/ojikoji/kotoba/kotoba.html 京ことば]([[京都新聞]])
| |
− | * [http://kyokotobanews2.seesaa.net/ 京ことばニュース](FM79.7京都三条ラジオカフェ)
| |
− | * [http://www.genji-kyokotoba.jp/ 京ことば源氏物語]
| |
| | | |
| {{日本語の方言}} | | {{日本語の方言}} |
− | | + | {{テンプレート:20180815sk}} |
| {{DEFAULTSORT:きようことは}} | | {{DEFAULTSORT:きようことは}} |
| [[Category:京都府の文化]] | | [[Category:京都府の文化]] |
| [[Category:近畿方言]] | | [[Category:近畿方言]] |