乾癬

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乾癬(かんせん、: psoriasis)は、慢性の皮膚角化疾患である。伝染性感染症ではない。

分類

  • 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん、 psoriasis vulgaris ) - 尋常性とは「普通の、ありふれた」という意味から来ており、乾癬では最も患者数が多いとされる。
  • 関節症性乾癬(かんせつしょうせいかんせん)
  • 膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)
  • 滴状乾癬(てきじょうかんせん)

疫学

乾癬患者では心臓冠動脈動脈硬化プラークの断面積比率が高いとの報告がある[1]

尋常性乾癬

ファイル:Psoriasis.jpg
典型的な尋常性乾癬の皮疹

典型的な症状

典型的には、赤い発疹とその上に白色の鱗屑(りんせつ。皮膚上皮角質細胞が剥がれ落ちたもので、皮屑(ひせつ)とも呼ばれる)を伴う発疹が出現する。

病変部は周りの皮膚より少し盛り上がった状態へ移行し、大きな紅色局面(きょくめん。発疹によって一様な広がりをもった病変のこと)を形成する。これを俗にハム様皮疹と形容されることがある。皮、など外部からの刺激が強い部分に出来やすいが、眼球と口唇以外ならば全身どこにでも発疹が出現する。爪の表面に発症した場合は変形して凹凸や穿孔、荒れになり、爪切りすら容易ではない状態になることもある。これは爪乾癬(つめかんせん)とも呼ばれる。

強い発疹のわりには他の皮膚疾患に比べて痒みが少ない場合や、一方で強い痒みを伴う場合もあり、症状の度合や病変部位、使用する薬剤の刺激などによって非常に多様性のある病態を形成する。

伝染することはなく、命にかかわることも全くない病気である。しかし、一般への認知度がまだ低いことに加え、伝染病であるとの誤解や、症状が皮膚へ目に見える形で現れることなどを理由に、差別やいじめの原因となることがあり、精神的に不安を抱えている人が多いのが実情である。

頻度

  • 人種による差があり、白色人種に多い(遺伝的要素[2]や食生活など様々な要因が考えられている)。
  • 日本では戦後に増加した病気であり、現在の日本人の頻度は約0.1%である。日本では比較的、認知度の低い病気となっている。
  • 男女比では主に男性がやや多いとされ、30〜40代での発症が多いとされているが、女性では10代と50〜60代の二峰性の発症が多いとも言われている。その一方で、乳幼児のおむつ部から発生する例も見受けられる。

発症機序

皮膚の表皮を作るスピードが通常の10倍速を上回り(正常皮膚の細胞周期は約457時間、対して病変部位は37.5時間と110以下。細胞の増殖を超える速度)、真皮の血管が肥大しつつ組織を炎症しながら、ターンオーバー(表皮が角化し剥離して入れ換わる周期)が通常なら4週間のところ3〜4日で完了する。どんどん表皮が増殖し、角化が亢進している状態によって、白いカサブタ状の皮疹を多く生じる。

病態形成にT細胞性自己免疫系が関与する可能性が示唆されている[3]

原因

白色人種系に多く、ゲノムワイド連鎖解析では、HLA class I近傍のほか、6番染色体上のPSORS1や17番染色体上のPSORS2をはじめとする複数の遺伝子座が候補遺伝子領域として報告がある。

近年、乾癬は関節リウマチクローン病とならぶ代表的なTh17細胞性慢性疾患と考えられるようになり、治療上も抗TNF-αモノクローナル抗体のアダリムマブインフリキシマブ、抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ、抗IL-17A受容体A抗体のブロダルマブなどが効果をあげている。また、内外のストレス、気候の変化、高脂肪摂取などの生活環境で増悪する事例も多い。そのため、元々の体質的な素因に精神的・肉体的なストレスや紫外線不足、西洋系の食生活などが関係して発病している可能性も考えられ、研究されているが、原因はまだ明確には解明されていない。

検査

  • Auspitz現象(アウスピッツ現象):発疹のある部分を水平に削ると、点状の出血が出現する現象。
  • Koebner現象(ケブネル現象):正常な皮膚に物理的刺激を与えると、その部分に発疹が出現する現象。
  • 蝋片現象(ろうへん現象):発疹の表面にある鱗屑(ガサガサ)をこすると、蝋が剥がれるように剥げる現象。
  • 病理検査:皮膚の一部を麻酔して採取し、顕微鏡でみる検査。不全角化、表皮突起の延長、 Munro の微小膿瘍(角層内の好中球の浸潤が原因)が特徴的。

参考画像

治療

外用療法

一般的には、副腎皮質ステロイド外用剤ビタミンD3誘導体外用剤(オキサロール群、ドボネックス軟膏、ボンアルファ ハイローションなど)などが有効であるため、初診時はこれらの薬が処方されることが多い。しかし、ビタミンD3を含有する外用薬の使用により高カルシウム血症を起こし、急性腎不全を併発する副作用が報告されている[4]。また保湿剤は、これ自体に炎症を抑える効果は乏しいが、皮膚の乾燥を防止するために併用されることが多い。

かつては、ゲッケルマン療法という、全身にコールタールを外用して日光浴を行う治療を行う時代もあった。その後、コールタールの接触性皮膚炎(かぶれ)の問題やコールタールによる発癌の危険性の指摘がなされたため、モクタールやイクタモールなどのタール剤は日本では製造中止になっている。現在はコールタール由来であっても、より安全な成分に調合した軟膏やシャンプーが欧米では普及している​。

なお、これらは個人差があるため一つ一つ試していくこともあり、長い試用期間を要することもある。同じ病気の同じ患者であるケースでも、たとえば頭皮、爪などに限局する症例や、薬剤抵抗性の症例など、発症部位や経過によって症状が異なるため、自分に合った治療を見つけるのが望ましい。

光線療法

ソラレンという薬を内服後にUVA(紫外線A波)を照射するPUVAや、薬剤は用いずにUVB(紫外線B波)を照射するブロードバンドUVB、ナローバンドUVBなどの光線療法が行われている。従来は全身に紫外線を照射する治療器が主流だったが、最近では患部のみに照射可能なターゲット型紫外線治療器が登場し、安全性と効果の高さから注目されている。主なターゲット型紫外線治療器には、VTRAC、セラビーム、エキシマライトなどがある。

内服療法

外用療法が奏効しない場合や、関節炎を合併した場合は、内服による治療が行われる。主な薬剤として、ビタミンA誘導体(レチノイド)や免疫抑制剤(シクロスポリン)などの内服療法の保険適用により治療の選択肢が増え、患者のQOLは向上している[5]。なお、通常使用される副腎皮質ステロイド製剤は、尋常性乾癬においては膿疱性乾癬を誘発することがあるので長期間の使用は推奨されない。

ビタミンA誘導体
エトレチナート」(チガソン)は骨棘の形成や靱帯の石灰化等の過骨症変化及び長管骨の骨膜肥厚等の異常[6]や催奇形性が確認されており、内服者には同意書の記入が義務づけられている。エトレチナート以前には、女性ホルモンの一種であるエストラジオールが使用されていたこともあった。
免疫抑制剤
シクロスポリン(ネオーラル)、メトトレキサート(メソトレキセート)の2剤の有効性は同等であるが、メトトレキセートは日本での適応はないので、通常シクロスポリンが使用される(大学病院などではメトトレキセートも用いられている)。シクロスポリンは外観上は効果がみられることもあるが、長期内服時では重篤な腎障害を生じるので、定期的な採血によって予防を行う必要がある。シクロスポリンでの主な副作用として、高血圧、腎機能障害(血清クレアチニン値の上昇)と内科疾患が多いため、皮膚科専門医にとっては専門外の知識が要求されるので、血液検査は必ず実施するよう留意しなければならない。あるいは、膠原病専門医、腎臓科、腎臓内科の専門医をセカンドオピニオンに活用するのが望ましい。
現在、産業医科大学病院ではシクロスポリン低用量導入法も行われており、添付文書上の5mg/体重kgをほぼ半減し、固定量の(患者体重にかかわらず)50mg 3カプセル 2x MuA(2:1)が処方されることもある。他の施設でも低用量は導入されつつある。メトトレキセートやシクロホスファミドの使用は専門医の判断による。
PDE4阻害薬
2017年、局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬を対象した経口薬「オテズラ(アプレミラスト)」が発売された[7]。乾癬患者の免疫細胞や表皮組織はPDE4発現が亢進しており、細胞内におけるサイクリックAMP(cAMP)の減少が知られている。同剤はPDE4を阻害することでcAMPを上昇させ、炎症性及び抗炎症性メディエーターのネットワークを調節し、症状を改善すると考えられている。診療所でも処方でき、事前の採血検査も必須ではないことから、経口薬乾癬治療において全身療法の第一選択薬となることが期待されている[8]

注射薬

2010年1月、日本において、抗TNF-α抗体であるインフリキシマブ(レミケード)とアダリムマブ(ヒュミラ)が乾癬の保険適応に追加された。乾癬ではTNF-αによる刺激によって皮膚のターンオーバーが亢進しており、これを阻害することで病勢を沈静化させる。これらの薬剤は、認可当初は大学病院など一部の高次医療機関でしか治療を受けられなかった。2014年、認可されている「生物学的製剤」に ウステキヌマブ(ステラーラ)が加わった[9]。これは乾癬専用治療薬で乾癬の発症にかかわるサイトカインのIL‐12(インターロイキン‐12)とIL‐23(インターロイキン‐23)の働きを弱めることで、症状を改善するとある。

生活習慣の改善​

  • 基本的に生活習慣病と同じく、肉体的にも精神的にもストレスを溜めないことが重要である。例えば、睡眠時間を多くとる、疲労を避ける、高脂肪摂取を避けて規則正しい食事をとる、痛くて辛くても皮膚を清潔に保つなど。
  • 油脂、肉類(魚肉も含む)、牛乳(乳製品)、玉子などは個人差があるが乾癬を誘発しやすい(食生活の洋風化は、戦後、乾癬が日本でも増えてきた一因ともされている)。これらを避け、野菜を多く摂るよう心がける。
  • 光線療法と同じ効果をできるだけ保つため日光浴を多めにすることもよい。
  • 外傷は新たな発症箇所を招きやすいという理由から、できるだけ怪我をしないように心がけることも重要である。これは上記のケブネル現象に由来する。
  • 飲酒や喫煙との相関についてはデータがないものの、できるだけ避けるべきだという意見が多い。

外科療法

扁桃腺の摘出により症状が緩和されるとの報告がある[10]が、有意差は無いとする報告もある[11]。また、人工透析が症状緩和に対し有効であるとする研究もあるが、有効ではないとする研究もある[12]

関節症性乾癬(乾癬性関節炎)

尋常性乾癬の諸症状に加え、全身の関節に炎症、強ばり、変形などが起こり、痛む。関節症状はまさしく関節リウマチのそれと酷似しており、進行すると大変な痛みを生じる。代表的な部位は膝関節、指関節、手首、足首など。肋骨と胸骨の間の関節(胸鎖関節)、鎖骨と肋骨の間の関節、肩関節などに炎症が起こることもある。また、関節炎に伴い全身の発熱がみられることもある。

全身の痒みとともに関節に痛みがあるため、睡眠が妨げられる、風呂・トイレなどに不自由する、筆記具や箸を持てなくなる、着替えに介助が必要になるなど、日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)の低下がみられる。

必ずしも尋常性乾癬が進行して、関節症性乾癬や下記の膿疱性乾癬となるわけではなく、いきなり関節症や膿疱が現れる場合もあり、病態の進行に関しては不明である。治療薬は尋常性乾癬と同様である。内服薬は皮膚炎にも関節炎にも効果がある。

関節炎に関しては、通常整形外科でよく処方される鎮痛消炎剤(ロキソニン、モービックなど)を追加で用いることが多い。効用の現れる量を服用し続けると、消化器に薬剤性の潰瘍ができることがあるため、胃腸薬(ガスター、アルサルミンなど)を併用することがある。また、外用薬(貼り薬:モーラステープ=サロンパスの治療施設向けの製品など)が処方となる場合がある。この外用薬は、湿疹のある部位には基本的に使えないため、痒みを抑えることを優先するか、それとも痛みを抑えることを優先するかという厳しい二者択一をしなければならない。

膿疱性乾癬

掌蹠膿疱症と似た症状であるため、掌蹠膿疱症との鑑別診断が必要。無菌性の膿疱が皮膚内に出現する。尋常性乾癬の誤診による長期ステロイド投与で生じることがある。また、副腎皮質ステロイドなどの治療歴にかかわらず発症することもある。発熱などの全身症状が強いため、入院加療が必要。シクロスポリンビタミンAの内服などが必要となる。重症例では、ステロイドパルスなど短期大量ステロイド投与を行うこともある。 尋常性乾癬を発症している状態で膿疱性乾癬を発症すると、尋常性乾癬の部分以外にはすべて無菌性の膿疱が出るが、尋常性乾癬の部分には症状が出ない例がある。

特定疾患治療研究事業対象の疾患である(2007年現在)。

症状の一例

下肢全体に症状が出ると、足に体重がかかる際に強く痛むため歩行が困難になり、車椅子が必要になることもある。この痛みに対しては、鎮痛消炎剤を使用してもあまり効用がない。また、治癒していく過程で強い痒みがある。

滴状乾癬

皮疹は乾癬に類似するが、その一つ一つが小さい。扁桃炎などの前駆症状後に発症することが多く、尋常性乾癬に比べ若年者の発症頻度が高い。治療では、一般的な乾癬の治療とともに、抗生剤の内服が行われることもある。

脚注

  1. 乾癬患者の動脈硬化性プラークは危険度が高い 皮膚症状の改善に伴い動脈硬化も改善 日経メディカルオンライン 記事:2017年8月4日
  2. 吉川邦彦、青木敏之、尋常性乾癬を多発した1家系 皮膚 Vol.13 (1971) No.4 P228-229, doi:10.11340/skinresearch1959.13.228
  3. 加藤典子、河本慶子、橋本洋子 ほか、橋本病と円形脱毛症を合併した尋常性乾癬の1例 皮膚の科学 Vol.4 (2005) No.3 P244-248, doi:10.11340/skinresearch.4.3_244
  4. ビタミンD3外用薬で腎不全 腎障害患者は必ずクレアチニンやCaの確認を 日経メディカルオンライン 記事:2012年10月1日
  5. 青木類、佐野信也、岡本崇 ほか、乾癬の病態と生物学的製剤の治療効果 日本臨床免疫学会会誌 Vol.36 (2013) No.5 第41回日本臨床免疫学会総会抄録集 p.353, doi:10.2177/jsci.36.353
  6. 岡田奈津子、東山真里、森本静夫 ほか、エトレチナート長期内服に伴う骨,関節変化-16症例の検討- 日本皮膚科学会雑誌 Vol.101 (1991) No.5 p.547-, doi:10.14924/dermatol.101.547
  7. 藤井裕、オテズラ®錠10mg,20mg,30mg ファルマシア Vol.53 (2017) No.7 p.706-707, doi:10.14894/faruawpsj.53.7_706
  8. 藤井裕、オテズラ®錠10mg,20mg,30mg ファルマシア Vol.53 (2017) No.7 p.706-707, doi:10.14894/faruawpsj.53.7_706
  9. 梅澤慶紀、朝比奈昭彦、中川秀己、皮膚科領域における免疫抑制薬と個別療法 Organ Biology., Vol.24 (2017) No.1 p.43-53, doi:10.11378/organbio.24.43
  10. 濱島有喜、村上信五:尋常性乾癬における扁桃摘出術の効果 口腔・咽頭科 Vol.20 (2007-2008) No.1 P61, doi:10.14821/stomatopharyngology1989.20.1_61
  11. 木寺一希、高木誠治、内田雅文 ほか、病巣感染症に対する口蓋扁桃摘出術の効果 耳鼻と臨床 Vol.46 (2000) No.1 p.21-24
  12. 前田憲志、川口俊介、斎藤明 ほか、乾癬治療における人工透析法の適応 人工臓器 Vol.9 (1980) No.1 P79-82

関連項目

外部リンク