ラード
ラード(英: lard、伊: strutto[1])、豚脂(とんし)は、調理に用いられる豚の脂肪全般。日本では豚の脂肪組織から精製した食用油脂を「ラード」と呼称する。ラードは常温で白色の半流動体(クリーム状)をなし融点は摂氏27~40度である[2]。
なお、「ラルド」は豚肉の脂肪で構成された部位を塩漬けに加工した食材を指し、ラードとは別物である。
利用
植物油に比べて酸化されにくいので、トンカツ等の揚げ物によく利用され、料理にコクと風味を出すために使われることが多い。ラーメンのスープには豚の背の部位の脂が背脂としてよく用いられ[3]、スープの上一面に浮かぶためスープが冷めにくい。
獣脂に由来する旨みから、上記のようにラーメンに多用されるほか、旨みに加えて揚げた時の独特のサクサク感と香ばしい風味が好まれることから、トンカツでは肉質や料理人の腕の他に、味の巧劣を決めるカギともなっている。
トンカツの名店では、豚の脂身からラードを毎日作って日々の営業に使用する店も少なくなく、廃棄物の再利用からこだわりの逸品に至るまで幅広いものとなっている。また、「肉屋のコロッケはうまい」との定評があるが、概して精肉店の揚げ物が家庭料理にない旨みをもつのは、新鮮なラードを揚げ油に使っているためといわれる[4]。もっとも揚げたてを味わうにはよいが、冷めたものは脂っぽく腹にもたれるとする向きもある。衣の香ばしさを強調するときに選ぶべき食材ともされる[5]。
台湾や香港にはラードごはんという家庭料理がある。作り方は、飯の上にラードをたらし、醤油をかけてかき回して食べる簡素なもので、貧しい時代を語る食べ物の代名詞であったが、近年では再評価が進んでいる。
北欧や東欧などのヨーロッパの寒い地方では、バターなどのようにパンに塗って食べることもある。バターより変質しにくいことから、ドイツ軍などでは兵士の携行品でもあった。
フランスでは主に北および東の地域で、南西でもコンフィなどに使用される[1]。
パン生地に加えることもあり、沖縄の菓子であるちんすこうやサーターアンダーギーの伝統的製法にも用いられる。
料理に加えられたラードは融点を下回ると固化する。スープの上に浮かんだラードは、冷めると膜状になる。
ラードの構成脂肪酸は右表の通りである。
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 100 |
飽和脂肪酸 | 39.2 |
14:0(ミリスチン酸) | 1.3 |
16:0(パルミチン酸) | 23.8 |
18:0(ステアリン酸) | 13.5 |
一価不飽和脂肪酸 | 45.1 |
16:1(パルミトレイン酸) | 2.7 |
18:1(オレイン酸) | 41.2 |
多価不飽和脂肪酸 | 11.2 |
18:2(リノール酸) | 10.2 |
18:3(α-リノレン酸) | 1 |
食用以外の用途
単独もしくは他の油脂類と混合する形で古くから潤滑用途に用いられてきた。単独(または牛脂との混合)ではグリスのような用途に、鉱油などの潤滑油に混合することで減摩剤などとして利用された。それらの多くは鉱油やその他の化学合成品に置き換わっていったが、ラードを硫化し極圧性や安定性、溶解性などを改善した「硫化ラード」はその特性から切削油や加工油として一時期多用された。現在においても硫化ラードは一部で使用されている。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 宇田川政喜; 遠藤智子; 加藤綾子; 橋村弘美、日仏料理協会編、 『フランス 食の事典(普及版)』 株式会社白水社、2007年、697頁。ISBN 978-4-560-09202-6。
- ↑ 牛の脂肪から作られた油脂はヘット(牛脂)と呼ばれラードよりも融点が高い
- ↑ ぐるなびラーメン用語辞典
- ↑ 自宅で肉屋のコロッケを作る方法デイリーポータル 馬場吉成 2013年6月9日
- ↑ 旭屋出版『とんかつ・コロッケ・揚げ物料理』103頁
- ↑ http://ndb.nal.usda.gov/
関連項目
- サーロ
- シュマルツ
- ヘット - 牛脂
- ラルド・ディ・コロンナータ
- ポーク・スクラッチング