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ヘビ毒 (ヘビどく, snake venom)とは、毒蛇の持つ毒物質の総称。神経毒と出血毒、筋肉毒に大別される[1]。
概要
複数のタンパク質で構成され、多くの種では消化液(消化酵素)が毒腺に溜まった物。一部の種(ヤマカガシ)では、餌として捕食した動物(ヒキガエル)の毒ブフォトキシンを再利用している。毒を持つヘビの多くはコブラ科 (Elapidae) 、クサリヘビ科 (Viperidae) 、ナミヘビ科 (Colubridae) に属するヘビで、450種程度とされている。
同じ種の毒でも生息地域により毒性分が異なっていることが報告され、餌が差異の原因となっていると考えられている[2]。また、神経毒を持つとされている種でも出血毒の成分が一部含まれていること、逆に出血毒を持つとされている種でも神経毒の成分が一部含まれていることが知られている。
種類
神経毒
主にコブラ科のヘビが持つ毒。毒の作用部位から、4種に分けられる。
動物の神経・筋接合部の神経伝達を攪乱する。アミノ酸数60〜74程度のポリペプチド。
作用:神経伝達を攪乱し、骨格筋を弛緩或いは収縮させ、活動を停止させる。横隔膜が麻痺することで呼吸困難に陥り絶命する。主な成分と作用は[3]、
- 1. α-ブンガロトキシン(α-bungarotoxin)、(α-neurotoxins)
- 東南アジア、台湾に分布するアマガサヘビが保有するほか、多くのヘビから類似体が見つかっている。
- 神経筋接合部のシナプス後膜(筋肉側)のニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、アセチルコリンの結合を妨げる。結果、筋肉は弛緩。
- 2. β-ブンガロトキシン(β-neurotoxins)
- ホスホリパーゼA2作用を有することから神経筋接合部の神経側の膜に作用し、アセチルコリン(神経伝達物質)の放出を妨げる。結果、筋肉の収縮を阻害。
- 3. デンドロトキシン
- アフリカのマンバが保有。
- 神経のカリウムイオンチャネルを阻害。カリウムイオンの神経からの放出を阻害する事で、神経の興奮が元に戻らずアセチルコリンの放出が続く。結果、筋肉の収縮が続く。
- 4. ファシキュリン
- アフリカのマンバが保有。
- シナプス後膜のアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害。受容体に結合したアセチルコリンの分解を妨げ、神経の興奮が継続される。結果、筋肉の収縮が続く。
出血毒
血液毒とも呼ばれる。主にクサリヘビ科のヘビが持つ毒。
血液のプロトロンビンを活性化させ、血液を凝固させる。その際に凝固因子を消費する為、逆に血液が止まらなくなる。さらに、血管系の細胞を破壊することで出血させる。血圧降下、体内出血、腎機能障害、多臓器不全等により絶命する。特に腎臓では血栓により急性腎皮質壊死を起す。
ニホンマムシでは、
- ブラジキニンを遊離する酵素:末梢血管の血管拡張を行い血圧を降下させる。
- ホスホリパーゼA2:溶血作用に関与する。
- トロンビン様酵素:細胞膜を溶解する酵素や血液凝固系に作用する。
- アリルアシダーゼ、エンドペプチダーゼ:タンパク質分解酵素で、咬傷部の骨格筋変性に作用する。
- 出血因子:毛細血管に作用し、強力に体内出血を誘発する。
筋肉毒
主要な物質はミオトキシンのみで、またこれ単体のみを持つ毒ヘビは確認されていない(このため広義に出血毒に含めることがある)。
筋肉細胞のDNAにインターカレーションを起こし、核酸の合成を阻害、アポトーシスを引き起こす。全身の筋肉痛やミオグロビン尿を誘発し、多臓器不全や失血性ショック等で絶命する。
治療
- 出血毒の場合、抗毒血清の投与、血清投与によるアレルギー反応の治療。呼吸管理、腎機能の管理。
脚注
- ↑ 生物毒とは:いろいろな生物の毒の話 福岡大学 機能生物化学研究室
- ↑ 魯文哲、ヘビ毒成分の多様性と食物の関係ファルマシア Farumashia 32(10) pp.1247 19961001 社団法人 日本薬学会
- ↑ 医動物学入門大阪市立大学
関連項目
外部リンク
- ヘビ毒の作用 - YouTube
- 田宮徹、蛇毒神経毒遺伝子とその発現産物Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan Vol. 51 (2003) No. 1 P 96-100
- 阿部岳、稲村伸二、赤須通範、ニホンマムシ毒( Agkistyodon halys blomhoffii )毒による致死および循環器系障害に対するCepharanthinの作用日本薬理学雑誌 Vol.98 , No.5(1991) pp.327-336