バナナ

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バナナ(甘蕉、実芭蕉、: banana [bəˈnænə, bəˈnɑːnə]学名 Musa spp.)はバショウ科バショウ属のうち、果実を食用とする品種群の総称。また、その果実のこと。いくつかの原種から育種された多年性植物。種によっては熟すまでは毒を持つものもある。

日本では古くは芭蕉と呼ばれた[注 1]が、実を食するものは実芭蕉(みばしょう)とも呼ばれる。漢名は「香蕉」。食用果実として非常に重要で、2009年の全世界での年間生産量は生食用バナナが9581万トン、料理用バナナが3581万トンで、総計では1億3262万トンにのぼる。アジアラテンアメリカ熱帯域で大規模に栽培されているほか、東アフリカ中央アフリカでは主食として小規模ながら広く栽培が行われている。また、花を料理に使う地域もあり、葉は皿代わりにしたり、包んで蒸すための材料にしたりするほか、屋根の材料などとしても利用される。

2010年代では、新パナマ病の蔓延により生産量の減少が報道されている。

植物学上の特徴と分布

原産地は熱帯アジア、マレーシアなど。バナナの栽培の歴史はパプアニューギニアから始まったと考えられている[1]

「バナナの木」と言われるように、高さ数mになるが、実際には草本であり、その意味では園芸学上果物ではなく野菜(果菜。詳しくは野菜#定義)に分類される。その高く伸びた茎のような部分は偽茎(仮茎)と呼ばれ、実際には、葉鞘が幾重にも重なりあっているものであり、いわばタマネギの球根を引き延ばしたようなものである。茎は地下にあって短く横に這う。茎のような先端からは、長楕円形の葉(葉身)が大きく伸びる。

花(花序)は偽茎の先端から出て、下に向かってぶら下がる。花序は1本の果軸に複数の果房(果段)がつき、各果房には10本から20本程度の果指から成っている。大きな花弁に見えるのは苞葉で、果指の部分が本当のバナナの花である。果指一つ一つが一本のバナナに成長し果房がバナナの房となる。なお、開花は一本の偽茎につき一回のみで開花後は株元から吸芽を出して枯れてしまう。

果実

最初は下へ向けて成長するが、後に上へ向けて成長することから湾曲した形となる。果皮の色は品種によって異なり、一般的に知られるものは緑色から黄色であるが、桃色からまで多様である。収穫後時間が経過するにつれて皮の表面に浮かぶ黒い斑点状のものは「スウィートスポット (Sweet spot)」または「シュガースポット (Sugar spot)」と呼ばれ、簡単な熟成のバロメータとなる。成熟したバナナの皮にはクロロフィルの分解物が含まれ、紫外線を照射すると青色の蛍光を発する[2][3]

キャベンディッシュ種などの食用バナナは三倍体であるため種子を作らない。吸芽株分けなどで繁殖する。

品種

原種

ファイル:Inside a wild-type banana.jpg
野生種のバナナの断面。多数の種子を含んでいる

バナナの原種はM. acuminataM. balbisianaである。今日ではこの2種は食用とはされないが、栽培種のバナナはM. acuminata(二倍体ゲノム構成:AA)およびM. balbisiana(二倍体ゲノム構成:BB)のどちらかまたは双方のゲノムを保有する奇数の倍数体であるものが大部分で、ゲノム構成の違いによって分類されることがある[4]。三倍体などの奇数のゲノム構成のため、減数分裂が正常に進行せず、配偶子形成が異常になるため栽培バナナは不稔となる。

栽培種

キャベンディッシュ (Cavendish)

キャベンディッシュは世界で生産されるバナナのほぼ半数を占め、日本のスーパー等で一般に売られている品種。日本では主にフィリピンから輸入される。太さを保ちつつ長さもある大型のバナナ。デザート用に栽培されている。皮は厚くきれいな黄色になる。AAAの同質三倍体のゲノム構成を持つ。キャベンディッシュの原産はモーリシャスもあり得る。19世紀には、イギリス人植物科学者によりダービーシャーにあるチャッツワース・ハウスにもたらされた。園芸品種はウィリアム・キャヴェンディッシュ (第6代デヴォンシャー公爵)に因んで名づけられた。日本では沖縄県で栽培されることもあるが、生育出来る北限に近いため結実しても本来のサイズには至らず、生産量は少ないという。

ラカタン (Lakatan)

色と形はキャベンディッシュとほぼ同じで、大きさは少し小さい。クエン酸が多く含まれ、やや酸味が高く味が濃い。フィリピンではキャベンディッシュよりも味が好まれ、最も流通量が多い品種となっている。

レディ・フィンガー (Lady Finger)

果実の長さが7 - 9cmほどの小型バナナ。皮は薄く、果肉はやわらかくて濃厚な甘みを持っている。日本では主にフィリピンから輸入している。モンキーバナナとも呼ばれる。通称としてフィリピン産をセニョリータ、エクアドル産をオリートと呼ぶ。

シマバナナ

日本国内でも南九州沖縄県を中心にバナナが栽培されている。沖縄県鹿児島県奄美群島では、普通のものよりはるかに短くて小さいシマバナナという品種もよく見かける。味は酸味がやや強い。皮が薄く傷みやすい。

ファイル:Okinawa Shima Banana.jpg
沖縄のシマバナナ

プランテン

AABの異質三倍体のゲノム構成をもつ品種はプランテーン(プランティンとも)と呼ばれ、バナナとは異なる果物(野菜[注 2])に分類される場合もある。生食されることはなく、加熱調理して食される。世界生産量の2割弱を占める。

グロスミッチェル (Gros Michel, 愛称 big Mike)

キャベンディッシュ種と同じくAAAの同質三倍体のゲノム構成を持ち、どちらもデザート用に栽培されている。かつてはグロスミッチェル種が最も多く栽培されている品種であったが、20世紀中頃に世界的に蔓延したパナマ病によって大打撃を受け[5]、現在では全生産量の1割ほどに留まっている[6]。打撃を受けたグロスミッチェル種の代替としてキャベンディッシュ種の栽培が急速に広まり、1960年代にはグロスミッチェル種の栽培は廃れてしまった。
日本では岡山県の農業法人 株式会社 D&Tファームがグロス・ミッチェル種を凍結解凍覚醒法という栽培方法で日本で栽培している。2018年現在、もんげーバナナという名で売られている。

その他

  • ハイランド (highland) - ウガンダタンザニアで栽培される料理用の品種。
  • 楽園の実 (M. paradisiaca) - 料理用。名称は学名
  • 知恵の実 (M. sapientum) - 生食用の五尺バナナ。名称は学名。

遺伝子組み換え

1990年頃からキャベンディッシュに感染するフザリウム菌病(パナマ病)が世界中で流行し始め、この栽培バナナが絶滅しないかどうか危ぶまれている。そこで遺伝子組み換えによってバナナの新しい品種を作成する試みも行われている。栽培バナナは不稔で花粉や種子ができないため、導入された遺伝子が外界に広がって遺伝子汚染をひき起こす可能性は低く、遺伝子組み換え作物に適していると言われる[7]。また、皮をむけば衛生的であり乳幼児でも摂食できるので、バナナ果肉中に抗原を生産させ、経口ワクチンとして利用するための開発が進められている。衛生環境が悪く、電力が不安定でワクチン保存環境も悪い所でも、現地において衛生的で再生産可能な経口ワクチンになるのではないかと期待されている。

歴史

主食として

パプア・ニューギニア高地のワギ渓谷にあるクック遺跡での発掘によって、オーストロネシア人の到来以前の完新世前期にオーストラリムサ(Australimusa)というニューギニア在来種が人の手によって栽培されていたいくつかの証拠が見つかっている[8]。 東南アジアからニューギニアにかけての地域で栽培化されたバナナは、マレー・ポリネシア系民族が太平洋の島々に移住していくに連れてそれらの島々にも広がっていった。

また、西のインドにも栽培化から日をおかず伝播していった。このため、東南アジアからインドにかけての地域においては現在の主要品種以外にも多くの種類のバナナが存在している。東南アジアにおいては、より安定し貯蔵性にも優れたうえ収穫量も高いイネという植物が出現したため、原産地であるにもかかわらずバナナの重要性は限定的なものとなった。一方、伝播した先のオセアニアやアフリカにおいてはバナナをしのぐ栽培植物が出現しなかったため主要な食糧のひとつとなり、非常に重要な地位を占めることとなった[9]

ダン・コッペル著「バナナの世界史」[5]によると、古代のインド以西の中東地域においてはバナナはイチジクと呼ばれ、マケドニア人のアレクサンドロス3世はインド遠征でバナナを見たとき、これをイチジクと記したとされる。また、アラビア語で書かれたコーランに出てくる楽園の禁断の果実「talh」はバナナと考えられており、ヘブライ語聖書では禁断の果実は「エバのイチジク」と書かれているとされる。このことから、実は創世記に出てくる知恵の樹の実は、通説のイチジクではなくバナナであったとする仮説がある。なお知恵の樹の実をリンゴとする俗説はこれより後世の誤訳に由来する。確かなことは、リンゴは寒冷な中央アジア原産とされ、エデンの園があったとされるペルシャ湾岸では育たないということである。

一方、西のアフリカにも、マレー系民族の移住したマダガスカルやアフリカ大陸東岸から紀元前後にバナナが伝播した。バナナは熱帯雨林でも栽培ができ、それまでの主作物であったヤムイモに比べて手間もかからず収量も多いため、コンゴ盆地西アフリカの熱帯雨林地域に急速に広がっていった。コンゴ盆地には5世紀に到達し、これによって熱帯雨林に農耕民が展開することが可能になり、さらに余剰を生み出すことで人口が増加し、交易や文化が発達していった[10]

アメリカ大陸が発見され、移民が始まると、1516年カナリア諸島からイスパニョーラ島にバナナが導入された[11]奴隷貿易によってアメリカに移住させられた奴隷の故郷はバナナ生産地域であり、彼らによってバナナはカリブ海中南米の熱帯地域へと広まった。

大量生産の時代

ここまでの伝播は主食用の用途を主目的としており、ハイランド・バナナやプランテン・バナナの伝播の歴史であって、果物バナナはそれに付随して伝播していった。これが大きく変わるのは、19世紀の後半にアメリカ合衆国の資本が果物バナナの大規模なプランテーション栽培に乗り出してからである。マイナー・キースの創立したユナイテッド・フルーツ社が1874年にコスタリカに農園を作ったのを皮切りに、大企業が中南米へと進出し、広大な未耕地を開発して大農園を作り上げた。鉄道や船などの輸送手段の改善によってバナナをアメリカの消費者へと送り届けることが可能になり、バナナはホンジュラスコスタリカグアテマラなどの中米の小国において主要輸出品目となるまでになった。20世紀に入るとさらに生産は拡大し、フィリピンなどにおいても商業生産が拡大していった。この生産の急拡大と輸送手段の改善によってバナナは安価な果物として先進諸国において急速に広がっていった。一方で、バナナ会社は寡占化が進み、最大手だったユナイテッド・フルーツ社はバナナ・プランテーション以外にめだった産業のない中南米の小国群を意のままに支配するようになり、こうした国家を指すバナナ共和国という政治用語が生まれるまでになった。

一方で、アフリカのバナナ主食地帯には17世紀南アメリカからキャッサバが伝来し、バナナよりもさらに手間がかからず多収量であるため、またたくまにバナナ栽培地域へと広まった。これによってかなりの地域で主食がバナナからキャッサバへと移行したものの、バナナを嗜好しバナナを主食作物として作り続ける民族もいまだ数多く存在し、料理用バナナは依然この地域の基幹作物の一つとなっている。

生産

果物バナナ主要生産国
(100万トン)
インドの旗 インド 29.1
中華人民共和国の旗 中国 13.3
 インドネシア 7.0
ブラジルの旗 ブラジル 6.8
エクアドルの旗 エクアドル 6.5
フィリピンの旗 フィリピン 5.8
テンプレート:ANG 3.9
テンプレート:GUA 3.8
タンザニアの旗 タンザニア 3.6
ルワンダの旗 ルワンダ 3.0
日本の旗 日本 0.000032
世界総計 113.3
ソース:FAO2016年データ[12]

バナナは熱帯域を中心に世界の広い範囲で栽培されている。FAOの統計によると、2016年の時点で果物バナナ(FAO統計ではBananasと表示)の全世界での年間生産量は1億1328万トンである。また、右図には表示されていないが料理用バナナ(FAO統計ではPlantainsと表示)の同年の全世界年間生産量は3506万トンである[12]。この二種のバナナをあわせた全体の生産高は、2016年で1億4834万トンとなる。

生食用バナナは、多くが大規模なプランテーションで栽培されている。生産量ではインドが28%をしめるが、そのほとんどはインド国内で消費され輸出量ではラテンアメリカ諸国が8割を占める。これは、ラテンアメリカ諸国およびフィリピンにおいてはバナナが当初から輸出産業として開発されたのに対し、インドやアフリカなどではまず自給用や国内消費用に生産の主眼が置かれているからである。主な輸入国はアメリカ合衆国で、1998年から2000年の統計では世界の全輸入量の33%を占めていた。ついでECが27%、日本8%となっている[6]

料理用バナナも東アフリカ中央アフリカでは主食とされる重要な作物であり、世界のバナナ生産量のほぼ4分の1を占める。生産量としてはウガンダが飛びぬけて多く、2009年には951万トンと料理用バナナ生産量の4分の1を占める。ついでガーナ(356万トン)、コロンビア(301万トン)、ルワンダナイジェリアカメルーンペルーコートジボワールコンゴ民主共和国の順となり、以上の国家が100万トン以上を生産する[12]。料理用と生食用をあわせて考えた場合、ウガンダのバナナ生産量はフィリピンを抜いて世界第2位となる。

料理用バナナは大規模プランテーションで生産されることはなく、小規模自営農が自らの消費分や近隣市場への出荷分を生産する。また、バナナの木は早く大きくなるため、陰樹で成長の遅いカカオなどと組み合わせると被覆植物としての役目も果たす。これを利用し、ガーナでは新しく拓いた農地にまず主食用のプランテンバナナやヤムイモを植えて食料を確保し、その後にカカオの樹を植えて現金収入を確保するというやり方で生産を拡大し、ガーナは1911年にはカカオの世界最大の生産国となった。

でんぷん含有量は、昼夜の寒暖の差が大きい地域で生産されたバナナの方が多くなる。

流通と保存

日本では、チチュウカイミバエなどの害虫の侵入を防ぐため、植物防疫法の定めにより熟した状態では輸入できない。このため、輸入するバナナはまだ青い緑熟のうちに収穫して、定温輸送船などで日本に運ばれる。植物防疫法、食品衛生法等の諸手続きを経て輸入通関後、バナナ加工業者の所有する加工室内でエチレンガスと温度、湿度調整によりバナナの熟成を促す(追熟という)。

黄熟バナナ保存の最適温度は 15 °C 前後(緑熟バナナは 13.5 °C 前後)であり、一時的にでも 13 °C 以下に置かれてしまうと熟成がうまく進まなくなるほか、低温障害をおこし皮が変色する。しかしながら家庭で長期保存するには、購入した時点で熟成が進んでいることが多いため冷蔵庫保管が有利。また、接触により傷みやすいため一般に行われている小売店での陳列とは逆の山型の方を上にして置くか、吊るして保存する。完熟したバナナは冷凍しても凍らず包丁で切ることができる[13]

かつては、輸入に際して防カビ剤や殺菌剤が旧厚生省発行の証明書を元に許諾された薬品を収穫後に使用していた歴史があり、その後に許諾薬品以外を日本行政の希望する使用法とは異なる使われ方がされていたことが問題になった[注 3]。騒がれた当時は、これらの化学薬品が軸から侵入するため、バナナの最初と最後の数センチは食べない方が良いと提言する人物、団体も存在したが、東京都や福岡市の公的な機関による検証の結果、薬品のバナナ表面における分布には軸と皮で有意な差は認められず、また、果肉からはほとんど検出されなかった。そのため、現在ではバナナの先端を捨てる科学的な根拠はない。

バナナやオレンジなどの輸入果実を卸売市場で取引するときの単位は「カートン」であり、バナナの場合は1カートンが13㎏(日本国内)である。同じバナナでも、欧米では1カートンが18㎏である[14]

生の黄色い若いバナナを35度のお湯に5分間浸けて置いてから引き上げ、余熱を持ったまま数時間放置すると、その間にバナナ中の酵素であるアミラーゼの働きが活発になり、デンプンが分解され、糖度が格段に上がる。またお湯に浸けることで、バナナ中に抗ストレス物質が生成され、常温で2週間は黒く変色せず、保存性が格段に高まる。

病害

栽培バナナは不稔でクローン繁殖であるため遺伝的多様性に乏しく、一旦病気が発生すると致命的な打撃を受ける。

フザリウムが引き起こし、実を腐敗させるフザリウム萎凋病(パナマ病) Race 1 は、20世紀中期まで広く栽培されていたグロスミッチェル種を壊滅させた[15]。こののち、Race 1 に耐性があるキャベンディッシュ種が世界的に広く栽培されるようになった。

しかし、1990年頃発生し始めた Race 4 と呼ばれる変異体による新パナマ病はキャベンディッシュ種に感染し、マレーシアフィリピン[注 4]台湾およびアフリカ諸国のバナナ栽培に損害を与え、近年は中国インドネシアオーストラリアヨルダンモザンビーク、中米諸国にも被害が広がっている[16]。2014年時点ではこの深刻な新パナマ病への対処法は見つかっておらず[17]、また、フザリウムの胞子が土に何十年と生き残るため土壌の消毒も必要で、このまま世界的に感染が拡大した場合10年以内にキャベンディッシュ種は全滅するとも言われ、品種改良遺伝子操作ゲノム解読による対策が急がれている[18]。なお、キャベンディッシュ種の素となった三種類のバナナ品種のうち、パナマ病に耐性の品種DH-Pahangのゲノムが解読されたところである[19][20]

子嚢菌 Mycosphaerella fijiensis によって引き起こされるシガトカ病English版は、バナナの葉を黒く変色させ、光合成を阻害して収穫量を半減させる病害である。殺菌剤の噴霧で対処できるが、徐々に薬剤耐性を獲得しており、有効性が低下している。

利用

果実

ファイル:Fryingplantains10-28-06b.jpg
トストーネス(フライドバナナ)を調理中

世界で生産されるバナナの約4分の3はデザート用、約4分の1が調理用である。アフリカ諸国には、個人の摂取カロリーのうち半分をバナナに依存する地域も存在する。

キャベンディッシュ種などのデザート用バナナは、皮を剥いてそのまま、あるいはケーキヨーグルトに入れるなどして生食される。牛乳や氷などとともにミキサーにかけてジュースとしたり、バナナスプリットのようなデザートの材料にすることもある。縁日などでは、バナナにチョコレートを掛けたチョコバナナなどが屋台の定番の一品となっている。カンボジアでは熟成前のバナナは塩・砂糖を振りかけ炭火焼で食べられている。なお、乾燥させたものはバナナチップ(ドライバナナ)として販売されている。

料理用バナナは生食用バナナよりデンプン繊維質ビタミンA等が豊富である。デザート用(生食用)より大きく、一本の長さは30 - 40cm程。基本的には熟す前の物を食用とする(熟した物を食用とすることもある)。そのため、生の料理用バナナは、色は緑で、果物というより野菜のような青臭い匂いがする。生のままでは皮も身も硬く、生食用バナナのように素手で皮を剥いてそのまま食べることはできないので、のように刃物で皮を剥き、煮たり蒸したりして加熱してから食べる。味や食感も芋に近く、ほとんど甘さはない。ウガンダをはじめとする東アフリカではこうしたバナナ料理はマトケと呼ばれ、主食として特に重要視される。マトケは蒸したものが基本であり上等とされるが、煮たものもマトケと呼ぶ[21]。料理用バナナはハイランド種やプランテン種をはじめとするいくつかの品種があり、東アフリカにおいてはハイランド種が主食用、プランテン種は軽食用とされるが、西アフリカ中南米においてはプランテン種は主食用とされる[22]

バナナの揚げ物としては、バナナチップスのように薄く切って素揚げにしたもの(そのままでは甘くないので、パームシュガー黒蜜をかけることもある)、東南アジアの揚げバナナのようにをつけて揚げるもの、キューバ料理トストーネスのように潰してから揚げるもの、などがある。

フィリピンでは、バナナの実を煮込んだ上で、着色料を入れて赤色にしたケチャップが作られており、トマトケチャップ同様に一般的に使用されている。

ベトナム、ラオスなどでは、いわゆるモンキーバナナを焼いたものがおやつとして屋台などで売られる。

バナナを穀物粉と共に発酵させたアルコール飲料であるバナナ・ビールはアフリカで広く飲まれている[23]

イギリスのスーパーマーケットでは最も需要の高い食品とされ、年間売上額は7億5000万ポンドに達する[24]

日本では、手軽に食べられるおやつとしても親しまれている。

フィリピンインドネシアタイ南インドなどバナナの生産地ではバナナの花(蕾)を食用とする地域が珍しくない。それらの地域では食用のバナナの花が市場で売られている。食べ方は、蕾の外側の苞葉を排除して、つまり、蕾の皮を剥くと、可食部である芯が現れる。そのままではアクがあり食べられないため、水にさらしアクを抜いてから炒めて調理する。苦味がある。

バナナの葉は調理器具食器として用いられ、専ら葉を取るための葉バナナも栽培される。

東アフリカでは調理用バナナをバナナの葉に包んで蒸したマトケが主食である。南インドの正餐では、料理をバナナの葉の上に盛り付けて食べる。サイパンにはココナツタピオカを練り合わせて作った餅をバナナの葉で包んで蒸し焼きにするアピギギというチャモロ伝統の菓子がある。パプアニューギニアには、地面に掘った穴に、熱した石を入れ、バナナの葉で包んだ肉や魚などをおいて、土をかぶせて蒸し焼きにする「ムームー」という料理がある。

また、熱帯地方では簡易な家屋の屋根を葺く材料としても使用される。

沖縄では芭蕉布バショウ科のイトバショウ葉の繊維で織られる。

樹木

熱帯ではないところでは観賞用に植えられることがある。枯れた木は主に製紙用チップとして世界各国で利用され、果実と同じ匂いがする。

バナナの皮は食べられないので利用はできない。そのため、皮を踏んだ人が滑って転ぶ古典的なギャグとしての利用が世界的に知られている[25]。バナナの可食部に面する果皮の内側は多量の植物油を含んでいるため、「潤滑効果」と呼ばれる現象が発現し、摩擦係数が低減するため滑りやすくなる。この現象はワックスを塗った床が滑りやすくなるのと同じ原理である。

バナナの皮を踏んだ人が滑る表現の起源は定かではないが、出版物においては19世紀にオレンジの皮で滑る表現が存在し、1900年前後には(オレンジの皮・バナナの皮が別の曲で)歌の題材としても用いられた[26]

芸として確立させたのはヴォードヴィリアンのビリー・ワトソン(別名:ウィリアム・シャピロ、1876 - 1939)であり、1900年代初頭に舞台で持ちネタとして披露したことで名声を博し、「"スライディング"・ビリー・ワトソン」の異名を取った[27]

同様に最初に登場した映画も不明だが、1910年代初めにはすでに定番の表現であったとされる[26]。その後、バスター・キートン「A Healthy Neighborhood」(1913年)や[28]チャーリー・チャップリンアルコール先生海水浴の巻」(1915年)、ハロルド・ロイド「The Flirt」(1917年)、「ロイドの福の神」(1926年)など、視覚的なわかりやすさから多くのコメディ映画に用いられた[29]。ちなみにキートンは1921年の「キートンのハイ・サイン」で、仕掛けに通行人が引っ掛からないという進化させた表現を用いている。

文学では中島敦が「虎狩」で中学生の「私」が現在のソウル郊外で虎狩りを見物し、獲物を待つ間に食べたバナナで「妙案」を思いつき、「此のバナナの皮を下へ撒いておいて、虎を滑らしてやろう」と考える話が出てくる。

ギャグとして知られる一方で、摩擦係数の低減についての学術研究は長らく行われず、これを行った生体摩擦学者の馬渕清資らは2014年イグノーベル賞を受賞している[30]

なお、バナナの皮には幻覚作用を持つアルカロイドブフォテニンが微量ながら含まれているという都市伝説もある。1967年、Berkeley Barbという新聞に冗談でバナナの皮にはバナナジンが含まれていて麻薬作用を起こすと書かれたのが始まり[31]であり、それが転じてブフォテニンが含まれている、となった。

日本における歴史

日清戦争の9年後の1903年に、日本統治下に置かれた台湾から神戸港に向けて、7カゴのバナナを移入したのがバナナ輸入の始まりと言われている。当時は一般人が入手出来ない高価な希少品であった。戦中は輸入が途絶えるなどしたものの、戦後には再開されたが、不急不要品としてGHQにより輸入制限が課せられていたため、希少品であることに変わりはなく、価格は4 - 5本につきサラリーマンの平均給与の2.5%程度(平均月収30万円ならば7500円)であった。1963年にバナナ輸入が自由化され、フィリピン産バナナが台頭するなどにより安価な普及品へと変化した[32]

2003年前後から、標高700m程度の高地で通常より長い生育期間(70日程度)を経て栽培した食味の良いバナナがスーパーなどに出回るようになり、ブランド化が進んだ。主なものに「スウィーティオ」「甘熟王」などがある。

平成22年度においては、日本のバナナ輸入の94.7%はフィリピンからのものであり、ほぼ独占状態にある[注 5]。ついでエクアドルからが3.6%、ほかに台湾ペルーなどからもわずかに輸入がある[34]

平成29年3月に岡山県産のもんげーバナナが発売された。田中節三氏が個人研究で40年かけて開発した凍結解凍覚醒法で沖縄や九州以外でもバナナが栽培できるようになった。

文化

フィジーの国旗にはバナナがあしらわれている
ファイル:Macaco-prego 2 REFON.JPG
バナナとサルは切っても切れない関係にある[35]
  • タイでは、「簡単なこと」や「ありふれたこと」を意味する言葉として「クルアイ・クルアイ」(「กล้วยๆ」「kluay kluay」。「バナナ・バナナ」の意)という言い回しがあり、バナナが日常に根ざしていることが伺える。ウガンダでは「食べ物」と「バナナ」を示す言葉(matoke)が同じ[18]であり、日本語の「ごはん」と「米飯」が同じであることと似ている。
  • 白人に迎合的で卑屈なアジア人(おもに中国系や日系)を揶揄するスラング。バナナは黄色い皮をむけば中身は白いので、「黄色人種なのに中身は白人のつもり」という意味[注 6]
  • 謡曲の三番目物で「芭蕉」がある。金春禅竹の作品で、芭蕉の精が中国のの僧の前に現れ、世の無常と芭蕉にまつわる故事を語り、舞をまう。
  • の好物としてのイメージが強い。このため人種差別に使われることがある(後述)。実際のサル目動物はバナナに限らず様々な果実類・穀物・昆虫などを食べる。

バナナダイエットブーム

2006年頃から日本では「朝食にバナナを食べる」という「朝バナナダイエット」なる肥満解消法[注 7]インターネット上やテレビで取り上げられた[36]2008年3月には同法の提案者とされる「はまち。」が書籍『朝バナナダイエット』を出版[注 8][注 9]。ブームの過熱ぶりにより、日本各地でバナナが一時期品薄状態になった[37][注 10][36]

作品

人種差別行為

上述のようにバナナは猿の好物とされ、猿を連想させるものでもあるため、サッカーでは白人が黄色人・黒人選手を猿扱いする目的でバナナを競技場内に投げ入れることがあり、これが人種差別的行為とみなされる場合がある。主に欧米の試合などで見られるが、とりわけ1970年以降、欧州を中心にアフリカ生まれの黒人選手が増加したことに対し、バナナを投げ入れる差別行為が頻発した[38]

2014年4月27日にエル・マドリガルで行われたリーガ・エスパニョーラ第35節のビジャレアルバルセロナ戦において、バルセロナのダニエウ・アウベス選手が投げ込まれたバナナを意に介さすその場で食べるという行為に賞賛が集まり、世界的な差別撲滅キャンペーンへと発達した[39][40]

日本では2014年8月に横浜F・マリノスのサポーターが試合中にバナナを振ったとして、無期限入場禁止や球団に対する処分が下されている[41][42]。この事件から日本でも関心が深まることになった。

ギャラリー

バナナが実る様子  
バナナの実の縦断面  
未熟なバナナの実(料理用の一種)  
未熟なバナナの実(料理用の一種)  
バナナスライサー  
バナナケース(バナナボックス)  
バナナスタンド  
バナナの自動販売機  

脚注

注釈

  1. 松尾芭蕉俳名を「芭蕉」にしたのは門人の李下から芭蕉(バショウ)の株を贈られ、大いに茂ったことにちなむ。
  2. Pocket Oxford Dictionaryによれば、plantainはa type of banana eaten as a vegetableとなっていて「野菜」。
  3. 1990年代前半のポストハーベスト農薬問題
  4. 2011年秋頃より、キャベンディッシュ種に感染するパナマ病がフィリピンで発見されフィリピン主要紙上で数多く報道されている。
  5. 巨大企業が手がけていて現地の人が食べないで輸出用に回る[33]
  6. 類語:ココナッツ(白人に卑屈なヒスパニック)、アップル(白人に卑屈なアメリカ先住民)。
  7. 脂肪分解酵素や果糖による代謝促進が肥満解消に効果があるとされている。
  8. 発売後の1年半で関連本や文庫本も含めると120万部のベストセラーとなった。日本国外の5か国で翻訳出版される。(2009年11月11日の渋谷区立勤労福祉会館での著者による講演の告知より)
  9. 書籍『朝バナナダイエット』の韓国語訳版はソウルの大手書店で部門別売り上げ一位になるほどの人気となっているほか、台湾でも繁体字版が出版されている。
  10. 日本のテレビ番組では、2008年6月5日放送の『おもいッきりイイ!!テレビ』で取り上げられて以後、何度か紹介された。さらに同年9月19日放送の『ドリーム・プレス社』で森公美子が減量に成功したとの事で反響を呼んだ。

出典

  1. Tracing antiquity of banana cultivation in Papua New Guinea”. The Australia & Pacific Science Foundation. . 2011閲覧.
  2. Simone Moser et al., "Blue Luminescence of Ripening Bananas", Angew. Chem. Int. Ed. 47, 8954 - 8957 (2008).doi:10.1002/anie.200803189
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関連項目

外部リンク