ハイマツ

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ハイマツ(這松、学名Pinus pumila)はマツ科マツ属の常緑針葉樹。

名前と分類

和名は漢字で這松と書き、おそらく形態的特徴(樹形)に由来する。種小名pumilaは「小さい」という意味[1]。北日本産やシベリアのものは樹形や針葉内部の樹脂道の数が本州中部高山帯のものと異なり、亜種として認める意見もある[2]

身近な松であるアカマツクロマツとは亜属単位で異なり、Strobus亜属、いわゆる五葉松のグループに分類される。

分布

シベリアカムチャツカ中国東北部朝鮮半島、日本にかけての寒冷地に分布する。日本は分布の南限に当たる。氷期に北方から南下してきて、温暖化とともに日本に取り残されて高山に逃げ込んだ氷河遺存種である。日本国内では北海道から中部地方高山帯に分布し、その南限は赤石山脈光岳、西限は加賀の白山である。日本では高山の高木限界より上部(中部山岳地帯でおよそ海抜2,500メートル以上、北海道でおよそ海抜1,000メートル以上)に自生することが多いが、北海道東部ではまれに海岸近い低地にも自生している例がある。道東、屈斜路湖の近くにあるアトサヌプリ(硫黄山)は山の標高は512メートルに過ぎないが付近の平地までハイマツや高山植物が見られる。これはこの山が常に硫黄の蒸気を噴出する活火山であるため土壌が酸性化しており、平地に通常生育する植物が育つことができないためである。

形態

樹高1-2mのことが多い小型種。ただし、その樹形は名前のごとく地を這う独特のもので、日本の他のマツの仲間にはほとんど例を見ない。高山の稜線上などでは文字通り、地面を這うような低い樹形だが、分布域下限の亜高山帯林に接するあたりでは、樹高2メートル程度の灌木状になる。

Strobus亜属の他のグループと同じく、針葉は五葉、針葉断面の維管束は1つ、葉の付け根の鞘は取れやすいなどの特徴を備える。球果(松ぼっくり)は長さ4〜5センチメートル、成熟には2年かかる(マツ類では一般的)。球果内部に形成される種子Strobus亜属''Strobi節のマツとしては珍しい翼なしのもので他にアメリカ西部のPinus flexisなど僅かに知られるのみ(ただし、Strobus亜属でもCembra節の全ての種は翼なしである)。種子は動物散布型でハイマツの種子散布の主役となる動物は、高山性鳥類のホシガラスである。

生態

少しでも生存に有利な環境を求めて、伏条更新と枯死を繰り返しながら一生の間に100メートル近くも位置を移動することがあると言われている。もちろん、根までもが移動するわけではないので、あくまで見かけ上である。

日本では、通常亜高山帯針葉樹林と、その上部のハイマツ林の間には大きな景観の違いがある。高木がなくて見晴らしがよく、いかにも高山らしい雰囲気に満ちたハイマツ林は高山植生の代表として扱われることが多い。しかし、このような分布形態は日本近辺だけに見られるもので、ハイマツの分布の中心である東シベリアと中国東北部では、多くの場合ハイマツはカラマツ属(グイマツ・シベリアカラマツなど)の森の中に低木として分布している。マツは日差しのある土地を好む陽樹なので、日本の亜高山帯や西シベリアなどの常緑針葉樹林はハイマツにとって林内が暗すぎるが、カラマツ林は葉が薄くて林内が明るいので、ハイマツの成長の妨げにはならないようである。

日本でも、よく観察すると、ハイマツ林の中にはモミ属トウヒ属など亜高山帯林に属する樹種が低木化して混入していることが多い。また、ダケカンバ林はカラマツ同様林内が明るいため、亜高山帯林とハイマツ林の移行帯でダケカンバが高木層を、ハイマツが低木層を占めて共存している例はよく見られる。これらのことから、ハイマツ林は高山帯の一部ではなく亜高山帯の一部であり、おそらくは多雪と強風のため高木層が欠けた状態にあるものと現在は考えられている。

一方、富士山にはハイマツが見られず、代わってカラマツがハイマツと同じように低く地を這うような樹型となって生育している。これは富士山が比較的新しく誕生した火山であること、独立峰であること、土壌の問題などが理由として考えられているがなぜこのような植生になるかは完全には解明されていない。ハイマツも富士山のカラマツも通常の樹木に比べると成長は極めて遅く、幹の断面は年輪が非常に密になっている。

参考文献

  • 豊国秀夫 『日本の高山植物』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月、642-643。ISBN 4-635-09019-1。

脚注

  1. 豊国秀夫編 『復刻・拡大版植物学ラテン語辞典』 ぎょうせい2009年 
  2. 石井盛次「マツ属の基礎造林学的研究 特にその分類学的ならびに地理学的考察」、『高知大学農学部紀要』19号、1968年

関連項目

外部リンク