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(テンソル空間)
 
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{{出典の明記|date=2015年10月}}
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'''テンソル積'''(テンソルせき、{{lang-en-short|''tensor product''}}
[[数学]]における'''テンソル積'''(テンソルせき、{{lang-en-short|''tensor product''}})は、[[線型代数学]]で[[多重線型]]性を扱うための線型化を担う概念で、既知のベクトル空間・加群など様々な対象から新たな対象を作り出す操作の一つである。そのようないずれの対象に関しても、テンソル積は最も{{仮リンク|自由対象|label=自由|en|free object}}な[[双線型写像|双線型乗法]]である。
 
  
共通の[[可換体|体]] {{mvar|K}} 上の二つの [[ベクトル空間]] {{mvar|V, W}} のテンソル積 {{math|''V'' ⊗<sub>''K''</sub> ''W''}}(基礎の体 {{mvar|K}} が明らかな時には {{math|''V'' ⊗ ''W''}} とも書く)はふたたびベクトル空間を成す。ベクトル空間のテンソル積を繰り返して得られる[[テンソル空間]]は物理的な[[テンソル]]を数学的に定式化する。テンソル空間に種々の積を入れてさまざまな[[多重線型代数]]・[[クリフォード代数]]が定式化されるが、その基本となる演算がテンソル積である。
+
(1) 2 つのテンソルを成分ごとに乗じてつくったテンソル. テンソル積の階数は, もとの 2 つのテンソルの階数の和になる.
  
== 定義 ==
+
(2) 上記 (1) を抽象化し, 線形空間を乗じてつくる複線形代数.
=== 基底を用いた定義 ===
 
共通の[[可換体|体]] {{mvar|F}} 上の[[ベクトル空間]] {{mvar|V, W}} に対して、{{mvar|V}} の基底 {{math|''B'' {{=}} {{mset|''ξ''{{ind|1}}, ''ξ''{{ind|2}}, …, ''ξ''{{ind|''n''}}}}}} および {{mvar|W}} の基底 {{math|''B′'' {{=}} {{mset|''η''{{ind|1}}, ''η''{{ind|2}}, …, ''η''{{ind|''m''}}}}}} をとるとき、これらの直積 {{math|''B'' &times; ''B′''}} が[[線型包|生成]]する {{mvar|nm}}-次元の[[自由加群|自由ベクトル空間]]
 
: <math>V \otimes_F W (= V\otimes W) := \operatorname{span}_F((\xi_i, \eta_j) \mid 1 \le i \le n, 1 \le j \le m) </math>
 
を {{mvar|V}} と {{mvar|W}} との {{mvar|F}} 上の'''テンソル積'''と呼ぶ。{{math|''V'' &otimes; ''W''}} の元としての順序対 {{math|(''ξ{{ind|i}}'', ''η{{ind|j}}'')}} は記号 "{{math|&otimes;}}" を用いて {{math|''ξ{{ind|i}}'' &otimes; ''η{{ind|j}}''}} と書くことにすれば、{{mvar|V &times; ''W''}} の任意の元は適当な有限個のスカラー {{mvar|c{{ind|ij}}}} を用いて
 
: <math>\sum_{i,j} c_{ij}(\xi_i\otimes \eta_j)</math>
 
の形の有限和に表される。これにより、任意のベクトル {{math|''v'' &isin; ''V''}} および {{math|''w'' &isin; ''W''}} のテンソル積 {{math|''v'' &otimes; ''w''}} が定義できる。実際、基底ベクトル {{math|''ξ'' &isin; ''V''}} と {{math|''η'' &isin; ''W''}} のテンソル積 {{math|''ξ'' &otimes; ''η'' &isin; ''V'' &otimes; ''W''}} は与えられているから、任意のベクトルの積はこれを双線型な仕方で拡張して得られる。すなわち
 
: <math>v=\sum_i a_i \xi_i,\quad w = \sum_j b_j\eta_j</math>
 
に対して、これらのテンソル積は
 
: <math>v\otimes w := \sum_{i,j} a_ib_j (\xi_i\otimes\eta_j)</math>
 
と定められる。ベクトルのテンソル積は以下の性質を満たす: ベクトル {{math|''v'', ''v′'', ''v″'' &isin; ''V''}} および {{math|''w'', ''w′'', ''w″'' &isin; ''W''}} とスカラー {{math|''λ'' &isin; ''F''}} に対して
 
{{numblk|:|<math> (v'+v'')\otimes w = v'\otimes w + v''\otimes w </math>|1}}
 
{{numblk|:|<math> v\otimes(w' + w'') = v\otimes w' + v\otimes w'' </math>|2}}
 
{{numblk|:|<math> (\lambda v)\otimes w = \lambda(v\otimes w) = v\otimes(\lambda w)</math>|3}}
 
  
すなわち、写像 {{math|&otimes;: ''V'' &times; ''W'' → ''V'' &otimes; ''W''; (''v'', ''w'') {{mapsto}} ''v'' &otimes; ''w''}} は {{mvar|F}}-[[双線型写像]]である。これらの性質は、テンソル積がベクトルの和に対して[[分配法則|分配的]]であり、スカラー倍に対して[[結合法則|結合的]]であるように捉えることができる(これらが「積」と呼ぶ由縁である)。
+
{{テンプレート:20180815sk}}  
 
 
ベクトルのテンソル積は一般には[[交換法則|可換]]でない。実際、{{mvar|''V'' &ne; ''W''}} のとき {{math|''v'' &isin; ''V'', ''w'' &isin; ''W''}} に対して、それらのテンソル積は {{math|''v'' &otimes; ''w'' &isin; ''V'' &otimes; ''W''}} および {{math|''w'' &otimes; ''v'' &isin; ''W'' &otimes; ''V''}} で属する空間自体が異なる。また {{math|''V'' {{=}} ''W''}} のときでも {{math|''v'' &otimes; ''w''}} と {{math|''w'' &otimes; ''v''}} は一般には異なる。
 
 
 
=== 商としての定義 ===
 
一般に、体 {{mvar|K}} 上のベクトル空間 {{mvar|V, W}} が与えられたとき、それらのテンソル積 {{math|''U'' {{=}} ''V'' ⊗ ''W''}} は、[[直積集合|デカルト積]] {{math|''V'' × ''W''}} の生成する {{mvar|K}}-上の自由線型空間 {{math|''F''(''V'' × ''W'')}} の、
 
 
 
:<math>\begin{align}
 
&(v_1,w) + (v_2,w) \sim (v_1 + v_2,w) \\
 
&(v,w_1) + (v,w_2) \sim (v,w_1+w_2) \\
 
&c(v,w) \sim (cv,w) \sim (v,cw)
 
\end{align}\quad (v, v_1, v_2 \in V;\; w, w_1, w_2 \in W;\; c \in K)
 
</math>
 
で与えられる[[同値関係]] {{math|&sim;}} による[[同値類|商]]として定義することができる。これは {{math|''F''(''V'' &times; ''W'')}} における演算から誘導される演算によりベクトル空間を成す。言葉を変えれば、テンソル積空間 {{math|''V'' ⊗ ''W''}} は上記の同値関係に関する零ベクトルの属する同値類を {{mvar|N}} とするときの[[商線型空間]] {{math|''F''(''V'' × ''W'')/''N''}} である。より具体的に書けば、部分空間 {{mvar|N}} は 適当な {{math|''v''{{ind|1}}, ''v''{{ind|2}} &isin; ''V'', ''w''{{ind|1}}, ''w''{{ind|2}} &isin; ''W'', ''c'' &isin; ''K''}} を用いて
 
* {{math|(''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}}) + (''v''{{ind|2}}, ''w''{{ind|1}}) &minus; (''v''{{ind|1}} + ''v''{{ind|2}}, ''w''{{ind|1}})}},
 
* {{math|(''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}}) + (''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|2}}) &minus; (''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}} + ''w''{{ind|2}})}},
 
* {{math|''c''(''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}}) &minus; (''cv''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}})}}, {{math|''c''(''v''{{ind|1}}, ''w''{{ind|1}}) &minus; (''v''{{ind|1}},  ''cw''{{ind|1}})}}
 
の何れかの形に書ける {{math|''F''(''V'' &times; ''W'')}} の元全体から生成される。商を取れば {{mvar|N}} の元は零ベクトルに写されるから、{{math|''v'' &otimes; ''w'' :{{=}} (''v'', ''w'') mod ''N''}} と書けば、この場合もやはり
 
:<math>\begin{align}
 
& (v_1 \otimes w_1) + (v_2 \otimes w_1) = (v_1 + v_2)\otimes w_1,\\
 
& (v_1 \otimes w_1) + (v_1 \otimes w_2) = v_1\otimes(w_1+w_2),\\
 
& c(v_1\otimes w_1) = (cv_1)\otimes w_1 = v_1\otimes (c w_1)
 
\end{align}</math>
 
が満足されることがわかる。
 
 
 
=== 記法について ===
 
テンソル積空間 {{math|''V'' ⊗ ''W''}} の元はしばしば'''テンソル'''と呼ばれる(ただし、テンソルという用語はこれと関連のあるさまざまな概念に対しても用いられる{{efn|[[テンソル]]および[[テンソル空間]]の項を参照}})。{{math|''v'' &isin; ''V''}} と {{math|''w'' &isin; ''W''}} に対し、{{math|(''v'', ''w'')}} の属する同値類を {{math|''v'' ⊗ ''w''}} と書いて {{mvar|v}} と {{mvar|w}} のテンソル積と呼ぶ。物理学や工学では、記号 {{math|"⊗"}} を[[二項積]]([[直積 (ベクトル)|直積]])に対して用いるが、得られる二項積 {{math|''v'' ⊗ ''w''}} は同値類としての {{math|''v'' ⊗ ''w''}} を表現する標準的な方法の一つである{{efn|これは例えば工学系において[[剰余演算]]を記法 {{math|(mod ''n'')}} で表して具体的に返される剰余が、数学的には同値類として定義される {{math|(mod ''n'')}} に属する無数の元の一つ(同値類の代表元)となるというのと同様である}}。{{math|''V'' ⊗ ''W''}} の元のうち {{math|''v'' ⊗ ''w''}} の形に書けるものは、'''基本テンソル'''あるいは{{仮リンク|単純テンソル|en|simple tensor}}と呼ばれる。一般に、テンソル積空間の元は単純テンソルだけでなく、それらの有限線型結合も含まれる。例えば、{{math|''v''<sub>1</sub>, ''v''<sub>2</sub>}} が線型独立かつ {{math|''w''<sub>1</sub>, ''w''<sub>2</sub>}} が線型独立のとき {{math|''v''<sub>1</sub> ⊗ ''w''<sub>1</sub> + ''v''<sub>2</sub> ⊗ ''w''<sub>2</sub>}} は単純テンソルに書くことはできない。テンソル積空間の元に対し、それを書き表すのに必要な単純テンソルの数を、[[テンソル空間|テンソルの階数]]という([[テンソル|テンソルの次数]]と混同してはならない)。線型写像や行列を {{math|(1,1)}}-型テンソルと看做したときの、テンソルの階数は[[行列の階数]]の概念に一致する。
 
 
 
== 普遍性 ==
 
[[Image:Another universal tensor prod.svg|right|thumb|200px|テンソル積の普遍性を表す[[可換図式]]]]
 
テンソル積は[[普遍性]]を用いて定義することもできる。この文脈では、テンソル積は[[同型を除いて]]一意的に定義される(ある意味でテンソル積はただ一つに決まるということ)。ベクトル空間のテンソル積は以下の普遍性を満たす:
 
 
 
; テンソル積の普遍性
 
: [[双線型写像]] {{math|''φ'': ''V'' × ''W'' → ''V'' ⊗ ''W''}} が存在して、'''任意の'''ベクトル空間 {{mvar|Z}} と双線型写像 {{math|''h'': ''V'' × ''W'' → ''Z''}} が与えられるとき、{{math|1=''h'' = {{tilde|''h''}} ∘ ''φ''}} を満足する線型写像 {{math|{{tilde|''h''}}: ''V'' ⊗ ''W'' → ''Z''}} が一意に存在する。
 
 
 
この意味において、{{mvar|φ}} は {{math|''V'' × ''W''}} から作られる最も一般の双線型写像になっている。特に、これにより(一意的に定義される)テンソル積を持つ任意の空間の集まりが{{仮リンク|対称モノイド圏|en|symmetric monoidal category}}の例となることが導かれる。テンソル積の一意性は、上記の性質を満たす任意の双線型写像 {{math|''φ′'': ''V'' × ''W'' → ''V'' ⊗′ ''W''}} に対し、同型写像 {{math|''k'': ''V'' ⊗ ''W'' → ''V'' ⊗′ ''W''}} が存在して {{math|1=''φ′'' = ''k'' ∘ ''φ''}} を満足することを言う。
 
 
 
この特徴付けを用いるとテンソル積に関する主張を簡明に示すことができる。例えば、テンソル積が[[交換法則|対称]]であること、すなわち[[自然同型]]
 
: <math>V \otimes W \cong W \otimes V</math>
 
が存在すること。左辺から右辺への写像を構成するには、普遍性により、適当な双線型写像 {{math|''V'' × ''W'' → ''W'' ⊗ ''V''}} を与えることが十分である。ここでは、{{math|(''v'', ''w'')}} を {{math|''w'' ⊗ ''v''}} に写す写像を与えればよい。反対方向の写像も同様に定義して、それら二つの線型写像 {{math|''V'' ⊗ ''W'' → ''W'' ⊗ ''V''}} と {{math|''W'' ⊗ ''V'' → ''V'' ⊗ ''W''}} が互いに他方の逆写像となっていることを確認して証明は完成する。
 
 
 
同様にしてテンソル積の[[結合法則|結合性]]、すなわち自然同型
 
: <math>V_1\otimes(V_2\otimes V_3)\cong (V_1\otimes V_2)\otimes V_3</math>
 
の存在も証明できる。これにより、この互いに同型な空間を、括弧を落として {{math|''V''<sub>1</sub> ⊗ ''V''<sub>2</sub> ⊗ ''V''<sub>3</sub>}} のようにも書く。
 
 
 
== 線型写像のテンソル積 ==
 
ベクトル空間の間の[[線型写像]]にもテンソル積を定義することができる。具体的に二つの線型写像 {{math|''S'': ''V'' → ''X''}} および {{math|''T'': ''W'' → ''Y''}} が与えられたとき、{{mvar|S}} と {{mvar|T}} とのテンソル積 {{math|''S'' &otimes; ''T'': ''V'' &otimes; ''W'' → ''X'' &otimes; ''Y''}} は
 
: <math>(S\otimes T)(v\otimes w)=S(v)\otimes T(w)</math>
 
で与えられる。これによりテンソル積構成は[[ベクトル空間の圏]]からそれ自身への{{仮リンク|双函手|en|bifunctor}}となり、これは各引数に関してともに共変である<ref>
 
{{cite book|last1=Hazewinkel|first1=Michiel|last2=Gubareni|first2=Nadezhda Mikhaĭlovna|
 
last3=Gubareni|first3=Nadiya|last4=Kirichenko|first4=Vladimir V.|
 
title=Algebras, rings and modules|page=100|
 
publisher=Springer|year=2004|isbn=978-1-4020-2690-4}}</ref>。
 
 
 
線型写像 {{mvar|S, T}} がともに単射、全射または連続ならば、テンソル積 {{math|''S'' ⊗ ''T''}} もそれぞれ単射、全射または連続となる。
 
 
 
現れるベクトル空間にそれぞれ基底をとれば、線型写像 {{mvar|S, T}} はそれぞれ[[行列]]で表現され、さらにテンソル積 {{math|''S'' ⊗ ''T''}} を表現する行列は、{{mvar|S, T}} を表す行列の[[クロネッカー積]]で与えられる。具体的に書けば、線型写像 {{mvar|S}} および {{mvar|T}} がそれぞれ行列 {{math|''A'' {{=}} (''a''{{msub|''ij''}})}} および {{mvar|B}} で表されるとき、{{math|''S'' ⊗ ''T''}} は[[区分行列]]
 
: <math>A\otimes B := (a_{ij}B) = \begin{pmatrix}
 
a_{11}B & a_{12}B & \dots \\
 
a_{21}B & a_{22}B & \dots \\
 
\vdots  & \vdots  & \ddots
 
\end{pmatrix}</math>
 
で表される。
 
 
 
より一般に、[[多重線型写像]] {{math|''f''(''x''{{ind|1}}, …, ''x''{{ind|''k''}}), ''g''(''x''{{ind|1}}, …, ''x''{{ind|''m''}})}} に対して、それらのテンソル積は
 
:<math> (f \otimes g) (x_1,\dots,x_{k+m}) = f(x_1,\dots,x_k) g(x_{k+1},\dots,x_{k+m})</math>
 
なる多重線型写像として与えられる。
 
 
 
== 双対空間との関係 ==
 
また、{{mvar|K}} 上のベクトル空間 {{mvar|V}} から {{mvar|W}} への {{mvar|K}}-線型写像の全体 {{math|''L''(''V'', ''W'')}} は[[双対空間]] {{mvar|V*}} を用いれば
 
: <math>V^* \otimes W \to L(V,W);\; (f,w) \mapsto f(\bullet)w</math>
 
なる[[線型同型]]によってテンソル積で書き表せる。もっと一般に、{{mvar|n}} 個のベクトル空間 {{math|''W''{{ind|1}}, …, ''W''{{ind|''n''}}}} のテンソル積はこれらの双対空間からの {{mvar|n}} [[重線型形式]]の空間 {{math|''L''({{subsup|W|1|∗}}, …, {{subsup|W|''n''|∗}}; ''K'')}} とのあいだに同型
 
: <math>W_1\otimes\cdots\otimes W_n \cong L(W_1^*,\ldots,W_n^*;K)</math>
 
を持つことによって特徴付けられる。
 
 
 
{{mvar|V}} とその双対空間 {{mvar|V*}} に対して、自然な「評価」写像
 
: <math>V \otimes V^* \to K</math>
 
が単純テンソルの上では
 
: <math>v \otimes f \mapsto f(v)</math>
 
を満たすものとして普遍性により定義される。他方 {{math|''V''}} が「有限次元」ならば逆向きの写像(余評価写像)
 
: <math>K \to V \otimes V^*;\; \lambda \mapsto \sum_i \lambda v_i \otimes v^*_i</math>
 
が存在する。ただし、{{math|{{mset|''v''{{ind|1}}, …, ''v''{{ind|''n''}}}}}} は {{mvar|V}} の基底、{{math|{{mset|{{subsup|v|''i''|∗}}}}}} はその双対基底である。この評価写像と余評価写像との間に成り立つ関係は無限次元ベクトル空間をその基底に言及することなく特徴づけることができる({{仮リンク|コンパクト閉圏|en|Compact closed category}}の項を参照)。
 
 
 
== テンソル積と Hom の随伴性 ==
 
ベクトル空間 {{math|''U''}}, {{math|''V''}}, {{math|''W''}} に対して、テンソル積と全線型変換の空間とは
 
: <math> \operatorname{Hom} (U \otimes V, W) \cong \operatorname{Hom} (U, \operatorname{Hom}(V, W))</math>
 
で表される関係を持つ。ここに {{math|Hom(-, -)}} は線型変換全体の成す空間である。これは[[随伴函手|随伴対]]の例であり、テンソル積函手 {{math|&otimes;}} は[[Hom函手|Hom-函手]]の「左随伴」であると言い表すことができる。
 
 
 
== 種々のテンソル積 ==
 
* [[加群のテンソル積]]: 可換環 {{mvar|R}} 上の加群に関してはベクトル空間のテンソル積と同じ形の関係式による商加群として(あるいは同じ形の普遍性により)加群のテンソル積が定義され、ふたたび {{mvar|R}}-加群となる。{{mvar|R}} が非可換環の場合には、スカラー倍に関する条件を少し変えて加群の間のテンソル積が定義されるが、それは単なるアーベル群({{mathbf|Z}}-加群)として得られる。
 
* [[代数のテンソル積|多元環のテンソル積]]: 単位的可換環 {{mvar|K}} 上の[[多元環]] {{mvar|A, B}} に対し、{{mvar|K}} 上の加群としてのテンソル積には、{{math|(''α'' &otimes; ''β'')(''α′'' &otimes; ''β′'') {{=}} (''αα′'')&otimes;(''ββ′'') (∀''α'', ''α′'' &isin; ''A'', ''β'', ''β′'' &isin; ''B'')}} となるような乗法が一意的に定義できて {{mvar|K}} 上の多元環となる。
 
* [[加群の層|加群の層のテンソル積]]
 
* {{仮リンク|ヒルベルト空間のテンソル積|en|Tensor product of Hilbert spaces}}
 
* {{仮リンク|位相線型空間のテンソル積|en|Topological tensor product}}
 
* {{仮リンク|次数付き線型空間のテンソル積|en|Graded vector space#Operations on graded vector spaces}}
 
* {{仮リンク|二次形式のテンソル積|en|Tensor product of quadratic forms}}
 
* {{仮リンク|グラフのテンソル積|en|Tensor product of graphs}}
 
 
 
テンソル積の最も一般の形は[[モノイド圏]]におけるモノイド積 (monoidal product) として定式化することができる。
 
 
 
== 応用 ==
 
=== 係数拡大 ===
 
{{main|係数拡大}}
 
{{mvar|K}} 上のベクトル空間 {{mvar|V}} と、{{mvar|K}} の[[拡大体]] {{mvar|L}} をとれば、{{mvar|L}} を {{mvar|K}}-ベクトル空間と見てのテンソル積
 
: <math>V_L:=V\otimes_KL</math>
 
が定義できて、{{mvar|L}} の作用を
 
: <math>\lambda(v\otimes\mu) := v\otimes(\lambda\mu)\quad(v\in V,\,\lambda,\mu\in L)</math>
 
で定めると、{{mvar|V{{msub|L}}}} は {{mvar|L}} 上のベクトル空間になる。ベクトル空間 {{mvar|V{{msub|L}}}} の {{mvar|L}} 上の次元は {{mvar|V}} の {{mvar|K}} 上の次元に等しい。これは {{mvar|V}} の {{mvar|K}} 上の基底 {{mvar|B}} に対して、集合
 
:<math>\{b\otimes 1 \mid b \in B\}</math>
 
が {{mvar|V{{msub|L}}}} の {{mvar|L}} 上の基底を与えることから分かる。
 
 
 
=== 表現のテンソル積 ===
 
[[群 (数学)|群]] {{mvar|G}} の同じ体上のベクトル空間 {{mvar|V{{ind|i}}}} における[[群の表現|表現]]
 
: <math>\rho_i\colon G\to GL(V_i) (i=1,\ldots,n)</math>
 
が与えられたとき
 
: <math>\rho_1(g)v_1\otimes\dotsb\otimes \rho_n(g)v_n\quad (\forall g\in G,\,v_i\in V_i)</math>
 
に対してテンソル積の普遍性を適用することにより、表現のテンソル積
 
: <math>\rho_1\otimes\dotsb\otimes \rho_n\colon G\to GL(V_1\otimes\dotsb\otimes V_n)</math>
 
が誘導される。
 
 
 
=== テンソル冪 ===
 
{{main|テンソル代数}}
 
非負整数 {{math|''n''}} に対し、ベクトル空間 {{mvar|V}} の {{mvar|n}}-次'''テンソル冪'''とは {{mvar|V}} 自身の {{mvar|n}}-重テンソル積
 
:<math>V^{\otimes n} \stackrel{\text{def}}{{}={}} \underbrace{V\otimes\cdots\otimes V}_{n\text{ factors}}</math>
 
を言う。{{mvar|n}}-次テンソル冪を斉 {{mvar|n}}-次成分に持つ[[次数付き線型空間]] {{math|''T''(''V'') {{=}} &#x2a01;{{msub|''n''}}&thinsp;''V''{{exp|&otimes;''n''}}}} はテンソル積を乗法として[[テンソル代数]]と呼ばれる[[次数付き多元環|次数付き代数]]を成す。
 
 
 
=== テンソル空間 ===
 
{{main|テンソル空間}}
 
 
 
非負整数 {{mvar|r, s}} に対して {{math|(''r'', ''s'')}}-型テンソル空間
 
: <math> T^r_s(V) = V^{\otimes r}\otimes V^{*\otimes s}</math>
 
の {{mvar|r, s}} に関する無限直和(二重[[次数付き線型空間]])としてのテンソル空間において、テンソル積は自然な同型
 
: <math>T^p_q(V)\otimes T^r_s(V) \to T^{p+r}_{q+s}(V)</math>
 
の意味で次数付き双線型な乗法を定める。
 
 
 
ベクトル {{mvar|v}} と線型形式 {{mvar|f}} に関して、{{math|1={{angbr|''v'', ''f''}} = ''f''(''v'')}} は双線型であるから、テンソル積の普遍性によって[[テンソルの縮約]]と呼ばれる線型写像
 
: <math>T^p_q(V) \to T^{p-1}_{q-1}(V)</math>
 
が一意的に引き起こされる。これは成分でみれば、上下に現れる同じ添字の打ち消しを行うことに等しい。これはまた {{mvar|T{{sup|p}}}} と {{mvar|T{{sub|p}}}} との双対性
 
: <math>T_p(V) = (V^*)^{\otimes p} \cong (V^{\otimes p})^* = (T^p(V))^*</math>
 
を導く。
 
 
 
=== 対称積・交代積 ===
 
{{main|対称テンソル|交代テンソル}}
 
{{seealso|対称代数|外積代数}}
 
集合 {{math|{{mset|1, 2, …, ''n''}}}} の[[置換 (数学)|置換]] {{mvar|σ}} は、ベクトル空間 {{mvar|V}} の {{mvar|n}}-次デカルト冪に対する写像
 
: <math>\sigma\colon V^n\to V^n;\; (v_1,v_2,\dots,v_n) \mapsto \sigma(v_1,v_2,\dots,v_n) = (v_{\sigma 1}, v_{\sigma 2},\dots,v_{\sigma n})</math>
 
を誘導する。{{mvar|n}}-次デカルト冪から {{mvar|n}}-次テンソル冪への自然な多重線型埋め込み
 
: <math>\varphi\colon V^n \to V^{\otimes n}</math>
 
に対してテンソル積の普遍性を適用すれば、一意的な同型
 
: <math>\tau_\sigma\colon V^{\otimes n} \to V^{\otimes n}\text{ s.t. }\varphi\circ\sigma = \tau_\sigma\circ\varphi</math>
 
が得られる。同型写像 {{mvar|τ{{sub|σ}}}} は置換 {{mvar|σ}} に付随する'''組み紐写像''' (''braiding map'') または置換作用素<ref>{{PlanetMath | title= Permutation Operator | urlname=PermutationOperator}}</ref>と呼ばれる。置換作用素から導かれるテンソル代数 {{math|''T''(''V'')}} 上の対称化作用素 {{math|Sym}} および交代化作用素 {{math|Alt}} は、斉次成分 {{math|''V''{{exp|&otimes;''n''}}}} 上で
 
: <math>\operatorname{Sym}_n := \frac{1}{n!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_n}\tau_\sigma,
 
\quad \operatorname{Alt}_n := \frac{1}{n!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_n} \sgn(\sigma)\cdot\tau_\sigma
 
</math>
 
を満たすものとすれば、{{mvar|k}}-階テンソル {{mvar|t}} および {{mvar|k′}}-階テンソル {{mvar|t′}} に対して
 
: <math>tt' = \operatorname{Sym}_{k+k'}(t\otimes t'),
 
  \quad t \wedge t' = \operatorname{Alt}_{k+k'}(t\otimes t')
 
</math>
 
と置いたものは、それぞれ[[対称テンソル]]空間 {{math|''S''(''V'')}} および[[反対称テンソル]]空間 {{math|''A''(''V'')}} 上の双線型な乗法を与え、それぞれ'''対称'''(テンソル)'''積'''、'''交代'''(テンソル)'''積'''と呼ばれる(交代積は[[外積]]あるいは'''グラスマン積'''とも呼ばれる)。
 
{{seealso|多重線型写像#対称性・反対称性・交代性}}
 
 
 
== 注 ==
 
{{脚注ヘルプ}}
 
=== 注釈 ===
 
{{notelist}}
 
=== 出典 ===
 
{{reflist}}
 
== 参考文献 ==
 
* {{cite book |first = Nicolas|last=Bourbaki|authorlink=Nicolas Bourbaki | title = Elements of mathematics, Algebra I| publisher = Springer-Verlag | year = 1989|isbn=3-540-64243-9}}
 
* {{cite book |authorlink=Paul Halmos|first=Paul|last=Halmos|title=Finite dimensional vector spaces|year=1974|publisher=Springer|isbn=0-387-90093-4}}.
 
* {{Lang Algebra|edition=3r}}
 
* {{cite book |first1=S.|last1=Mac Lane|authorlink1=Saunders Mac Lane|authorlink2=Garrett Birkhoff|last2=Birkhoff|first2=G.|title=Algebra|publisher=AMS Chelsea|year=1999|isbn=0-8218-1646-2}}
 
* {{cite book |first1=M.|last1=Aguiar|first2=S.|last2=Mahajan| title = Monoidal functors, species and Hopf algebras|publisher = CRM Monograph Series Vol 29 |year=2010|isbn=0-8218-4776-7}}
 
* {{cite web |url=http://pages.bangor.ac.uk/~mas010/nonabtens.html |title=Bibliography on the nonabelian tensor product of groups |accessdate=2015-06-10}}
 
 
 
== 外部リンク ==
 
* {{MathWorld|urlname=TensorProduct|title=Tensor Product}} / {{MathWorld|urlname=VectorSpaceTensorProduct|title=Vector Space Tensor Product|author=Rowland, Todd.}}
 
* {{nlab|urlname=tensor+product|title=tensor product}}
 
* {{PlanetMath|urlname=TensorProduct|title=tensor product}}
 
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Tensor_Product|title=Definition:Tensor Product}}
 
* {{SpringerEOM|urlname=Tensor_product|title=Tensor product|author=Onishchik, A.L.}}
 
 
 
{{Tensors}}
 
 
{{DEFAULTSORT:てんそるせき}}
 
{{DEFAULTSORT:てんそるせき}}
 
[[Category:線型代数学]]
 
[[Category:線型代数学]]
 
[[Category:双線型演算]]
 
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[[Category:数学に関する記事]]
 
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2019/5/7/ (火) 18:36時点における最新版

テンソル積(テンソルせき、: tensor product

(1) 2 つのテンソルを成分ごとに乗じてつくったテンソル. テンソル積の階数は, もとの 2 つのテンソルの階数の和になる.

(2) 上記 (1) を抽象化し, 線形空間を乗じてつくる複線形代数.



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