クリ
クリ(栗、学名:Castanea crenata)とは、ブナ科クリ属の木の一種。
クリのうち、各栽培品種の原種で山野に自生するものは、シバグリ(柴栗)またはヤマグリ(山栗)と呼ばれる、栽培品種はシバグリに比べて果実が大粒である。また、シバグリもごく一部では栽培される。
Contents
形態・生態
落葉性高木で、高さ17m、幹の直径は80cm、あるいはそれ以上になる。樹皮は灰色で厚く、縦に深い裂け目を生じる。
葉は長楕円形か長楕円状披針形、やや薄くてぱりぱりしている。表はつやがあり、裏はやや色が薄い。周囲には鋭く突き出した小さな鋸歯が並ぶ。
雌雄異花で、いずれも5月から6月に開花する。雄花は穂状で斜めに立ち上がり、全体にクリーム色を帯びた白で、個々の花は小さいものの目を引く。また、香りが強い。非常によく昆虫が集まる。ブナ科植物は風媒花で花が地味のものが多いが、クリやシイは虫媒花となっている。一般に雌花は3個の子房を含み、受精した子房のみが肥大して果実となり、不受精のものはしいなとなる。
9月から10月頃に実が成熟すると自然にいがのある殻斗が裂開して中から堅い果実(堅果であり種子ではない)が1 - 3個ずつ現れる。果実は単に「クリ(栗)」、または「クリノミ(栗の実)」と呼ばれ、普通は他のブナ科植物の果実であるドングリとは区別される(ただし、ブナ科植物の果実の総称はドングリであり、広義にはドングリに含まれるとも言える)。また、毬状の殻斗に包まれていることからこの状態が毬果[1]と呼ばれることもあるが、中にあるクリノミ自体が種子ではなく果実であるため誤りである。
香りの主成分はメチオナール(サツマイモの香りの主成分)とフラノン(他にはイチゴやパイナップルに含まれている)。
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栗樹
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雄花(2005年6月27日)
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成長を始めたばかりの若い殻斗果(殻斗に包まれている状態の果実、2005年7月24日)
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殻斗果(2004年9月12日)
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地面に落ち殻斗が裂開し、中の果実が見える(2004年9月12日)
分布
日本と朝鮮半島南部原産。北海道西南部から本州、四国、九州に分布。暖帯から温帯域に分布し、特に暖帯上部に多産する場合があり、これをクリ帯という。
ただし、現在では広く栽培されているため、自然分布との境目が判りにくい場合がある。中華人民共和国東部と台湾でも栽培されている。
人間との関わり
栽培と食用
日本において、クリは縄文時代初期から食用に利用されていた。長野県上松町のお宮の裏森遺跡の竪穴式住居跡からは1万2900年前~1万2700年前のクリが出土し、乾燥用の可能性がある穴が開けられた実もあった。縄文時代のクリは静岡県沼津市の遺跡でも見つかっているほか[2]、青森県の三内丸山遺跡から出土したクリの実のDNA分析により[3]、縄文時代には既にクリが栽培されていたことがわかっている。
生食も可能であるが、現代においては、ほんのりとした甘さを生かして石焼きにした甘栗、栗飯(栗ご飯)の具、菓子類(栗きんとんなど)の材料に広く使われている。
年間平均気温10 - 14℃、最低気温氷点下20℃を下回らない地方であれば栽培が可能で、日本においてはほぼ全都道府県でみられる。生産量は、茨城県、熊本県、愛媛県、岐阜県、埼玉県の順に多い。また、名産地として丹波地方(京都府、大阪府、兵庫県)や長野県小布施町、茨城県笠間市が知られる。これらの地域では「丹波栗」のようなブランド化や、クリを使った菓子・スウィーツ開発による高付加価値化、イベント開催による観光誘客への活用が進められている[4]。
果実としての採取以外に、甘みがある栗焼酎の醸造[5]や茶飲料[6]、蜂蜜を採取する蜜源植物としても利用される。
戦前に中国から持ち込まれたクリタマバチにより、昭和20年代には日本全土に存在した100種を超える品種の大半が消滅した。現在栽培されている品種は、その後育成されたクリタマバチに対する抵抗性品種である[7]。クリタマバチ被害については、1979年以降、クリタマバチの天敵であるチュウゴクオナガコバチがクリの主産地で放飼されたことにより被害が激減した。
次に問題となっているのが、クリシギゾウムシによる果実被害である。これまでは、収穫後の臭化メチルによるくん蒸を主として防除がなされていたが、臭化メチルガスは温室効果が高いため、全廃されることが決定した(2005年に全廃する予定であったが、2015年まで不可欠用途申請されて使用されていた)。臭化メチルくん蒸の代替技術としてヨウ化メチルが登録されたが、ヨウ素の逼迫による価格上昇や、臭化メチルに比べて沸点が高く扱いにくいなどの理由で、製造が中止された。代替法としては、氷蔵庫(壁面に不凍液を循環させて庫内温度を高湿度のまま一定に保つ保冷庫)によって-2℃で3週間程度貯蔵する氷蔵処理と、50℃のお湯に30分間浸漬する温湯処理が確立されている。
日本のクリはシナグリに次いでクリ胴枯病に対する抵抗性が高い。
シナグリなどと比較して、渋皮剥皮が困難であり、生食用用途では渋皮を直下の果肉とともに削り取る作業が必須である。特にこのことが近年の家庭におけるクリの需要を低下させる原因となってきた。そのような中、近年独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所において、シナグリ並に渋皮剥皮性の優れるクリ品種「ぽろたん」(2007年10月22日品種登録)が育成された[8]。
- 日本国内の収穫量
- 日本の主な栗の産地(自治体及び旧自治体は作況調査市町村別データ長期累年一覧による)
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- 秋田県
- 仙北市(旧西木町)- 西明寺栗の産地
- 茨城県 - 国内1位。
- 小美玉市(旧美野里町)
- 笠間市(旧岩間町、旧友部町)
- 茨城町
- かすみがうら市(旧霞ヶ浦町、旧千代田町)
- 石岡市
- 土浦市
- つくば市
- 埼玉県
- 日高市 - 全国に先駆けて『ぽろたん』を特産品化[10]。
- 東京都
- 八王子市
- あきる野市
- 長野県
- 小布施町
- 岐阜県
- 中津川市
- 美濃加茂市
- 静岡県
- 掛川市
- 愛知県
- 豊田市(旧足助町)
- 京都府
- 綾部市
- 大阪府
- 能勢町 - 銀寄発祥地[11]
- 山口県
- 岩国市(旧美和町)- 岸根栗の産地
- 愛媛県 - 国内3位。
- 大洲市
- 伊予市(旧中山町)
- 内子町
- 熊本県 - 国内2位。
- 山鹿市(旧菊鹿町、旧鹿北町) - 西日本一の生産量(市町村)
- 山都町(旧清和村)
- 菊池市
- 山江村
- 人吉市
- 宮崎県
- 須木村
材木としての用途
堅くて腐りにくいので、建物の柱や土台、鉄道線路の枕木、家具等の指物に使われたが、近年資源量の不足から入手しづらくなった。成長が早く、よく燃えるので昔は薪木としても使われていた。縄文時代の建築材や燃料材はクリが大半であることが、遺跡出土の遺物から分かっている。触感は松に似ているが、松より堅く年輪もはっきりしている。楢よりは柔らかい。
伝承・言葉遊び
- 『猿蟹合戦』(民話)
- 桃栗三年、柿八年(梨の馬鹿めが十八年、もしくはユズの馬鹿野郎十八年、梅はすいすい十六年) - 種を植えてから実を収穫できるまでの期間を指すことわざ。
- 三度栗伝説
- 『大きな栗の木の下で』(童謡)
- 江戸時代、日本にサツマイモがもたらされたとき、その味がクリと比較された。クリを9里と重ね、『クリに近い』ので『八里半』、あるいはクリより(9里4里)うまいので『一三里』等と言われたという。
- クリの葉を揉んで、ウルシかぶれに塗ったり、クリの樹皮を煎じ汁をかぶれに塗ったれば良いという伝承が長野県開田地に残っている。一方、クリの根を煎じて飲んだり、クリの花の煮汁を下剤としたり、クリの樹皮を煎じてウルシかぶれに塗ったりする伝承が長野県阿智村や喬木村などにある[12]。
天然記念物
下位分類
- 品種(フォーム)
- ヤツブサグリ C. c. f. foemina - 花穂に多くのイガをつける。
- タンバグリ C. c. f. gigantea - 別名オウグリ。栽培品種としては銀寄と呼ばれる。
- ハゼグリ C. c. f. imperfecta - 別名ハダカグリ。果皮が縦に裂けて内部が見える。
- シダレグリ C. c. f. pendula - 樹幹や枝が屈曲し垂れ下る。
- ハコグリ C. c. f. pleiocarpa(シノニム C. c. var. pleiocarpa)- 1つの殻斗に果実が6 - 8個入る。
- ハナグリ C. c. f. pulchella(シノニム C. c. var. pulchella)- 花とイガは赤い。
- トゲナシグリ C. c. f. sakyacephala(シノニム C. c. var. sakyacephala)- 殻斗のイガが極端に短い。
- 栽培品種 - 約200種類以上あり、シバグリが改良されたものが主ではあるが、海外産のクリ類と交雑されたものも存在する。栽培品種は収穫期により早生、中生、晩生に大別される。以下代表的品種。
- 早生栗 - 丹沢(たんざわ)、国見(くにみ)
- 中生栗 - 筑波(つくば)、銀寄(ぎんよせ)、利平栗(りへいぐり)
- 晩生栗 - 石鎚(いしづち)、岸根(がんね)
脚注
- ↑ 毬果とは、松かさのようなマツ綱植物の果実を指す。
- ↑ 国内最古、1万年以上前のクリか 長野の遺跡で発見『朝日新聞』朝刊2017年12月26日
- ↑ 日本栗の始まり いわまの栗
- ↑ 第11回かさま新栗まつり笠間市ホームページ
- ↑ 栗焼酎ダバダ火振株式会社・無手無冠ホームページ
- ↑ 『ハイピース くりほうじ茶HOT』をリニューアル発売盛田ニュースリリース(2014年9月2日)など
- ↑ (2006) in 柴田書店: 一〇〇の素材と日本料理〈下巻〉野菜・肉篇. 柴田書店. ISBN 4388059951.
- ↑ 齋藤 寿広,壽 和夫,澤村 豊,他 (2009). “ニホングリ新品種‘ぽろたん’” (PDF). 果樹研究所研究報告 (農業技術研究機構果樹研究所) (9): 1-9 . 2016閲覧..
- ↑ 農林水産省 平成23年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量
- ↑ 日高市公式ページ 特産品
- ↑ 旬の食材百科 銀寄
- ↑ 『信州の民間薬』全212頁中80頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
参考文献
- 茂木透写真 「クリ」『樹に咲く花 離弁花1』 高橋秀男・勝山輝男監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2000年、278-281。ISBN 4-635-07003-4。
関連項目
外部リンク
- Castanea crenata Siebold & Zucc., ITIS . 2013閲覧. (英語)
- “Castanea crenata”. National Center for Biotechnology Information (NCBI). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 (英語)
- Castanea crenata - Encyclopedia of Life (英語)
- 波田善夫. “クリ”. 植物雑学事典. 岡山理科大学生物地球学部. . 2013閲覧.
- 福原達人. “クリ(ブナ科)”. 植物形態学. 福岡教育大学教育学部. . 2013閲覧.
- 新潟大学農学部農業システム工学研究室. “新潟県 栗 データベースシステム”. 新潟県農産物画像データベース. . 2013閲覧.
- “知識の宝庫!目がテン!ライブラリー”. 所さんの目がテン!. 日本テレビ (2006年10月29日). . 2013閲覧.