キャベツ

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キャベツ(古くはキャベジ[1]英語:Cabbage、Brassica oleracea var. capitata)、アブラナ科アブラナ属多年草野菜として広く利用され、栽培上は一年生植物として扱われる。

名前は英語に由来するが、さらにその語源はフランス語のcaboche(頭)から。別名の甘藍(かんらん)は中国語名の甘藍(gānlán)から、玉菜(たまな)は結球する性質に由来する。

特徴

キャベツは結球(丸く玉になる性質)のイメージが強いが、品種によって結球するものとしないものがある。また、同じ原種に由来するケールカリフラワーカイランメキャベツコールラビブロッコリーなどと同様に長い品種改良の過程を経ているため、多くの品種がある。

ビタミンCビタミンUを豊富に含む。

キャベツが属するアブラナ科の野菜にはがん予防効果があると言われており[2]、アブラナ科のイソチオシアネートの効果とも言われている[3][4]。かつて、デザイナーフーズ計画のピラミッドで1群に属しており、カンゾウと共に、最上位に属するニンニクに次いで高い癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[5]

結球

キャベツに限らず、結球する野菜は葉の成長ホルモン(オーキシン)が裏側に偏ることでその形態をとる。

一般に流通しているグリーンキャベツの場合、外葉が18 - 21枚になってから結球が開始し、葉序に従い螺旋状に茎頂を包む。結球時、茎はほとんど伸長せず、短縮茎となる。

断面を見ると、中心に近い葉ほど内側を向いているが、これは外側が先に育ち、内側はその後から出葉するため次第に混んでくるためで、消費者が店頭でキャベツを選ぶ際に、大きさではなく重さで選ぶのはこのため。

来歴

起源

古代よりイベリア人が利用していた原種がケルト人に伝わり、ヨーロッパ中に広まったとされるが、当時は野菜より薬草として用いられ、古代ギリシャ古代ローマでは胃腸の調子を整える健康食として食されていた。アテネのエウデモスが書いた『牧場論』に最初のキャベツの記述が見られる。初期の栽培品種にはブロッコリーのような茎があったが、ローマ時代に改良が進み、茎はなくなり大型化していった[6]

その後、9世紀頃に野菜としての栽培が広まった。現在日本で普及しているものは、12世紀から13世紀イタリアで品種改良されたものが起源とみられる。18世紀アメリカ合衆国へ渡ると、より肉厚で柔らかく改良が進んだ。

日本での普及

幕末1850年代に伝わり、明治にかけて外国人居留地用として栽培されたが、一般の日本人が口にすることはなかった。

1874年(明治7年)、内務省勧業寮がのちの三田育種場で欧米から取り寄せた種子で栽培試験を行ったのが、本格的な生産の始まりとされる。試験地は北海道に移され、北海道開拓使が発行した「西洋蔬菜栽培法」に、キャベイジの名で記載された。1893年(明治26年)には外国人避暑のために、長野県北佐久郡軽井沢町栽培が始まった[7]

また、1945年(昭和20年)頃まで、一般的に「かんらん」と呼ばれていた。大正時代に品種改良が進められ、寒冷地に適することから、栽培は北海道のほか、東北地方長野県で拡大したが、洋食需要が限られた戦前にはそれほど普及しなかった。戦後、食糧増産と食の洋風化が相まって生産量は急激に増加し、1980年代にはダイコンと並ぶ生産量となった。

これ以前にも、江戸時代前期にオランダから持ち込まれ、一部で栽培されていたとみられる。貝原益軒1709年宝永6年)に出版した『大和本草』にはオランダナ(紅夷菘)として「葉は大きくて艶がなく白っぽい。花はダイコンに似る。おいしい。3年で花が咲き、カブの仲間である」と紹介されている。しかし食用として広まることはなく、むしろ観賞用としてハボタンを生むこととなった。また、ハボタンがケールの品種であることから、渡来したのはキャベツではなくケールだったと考えられる。

品種

世界中で多様な品種が利用されている。例えばラルース料理百科事典には、60種を超える品種の記載があるという。日本でも用途、栽培時期、栽培地、病害抵抗性などの異なる数多くの品種が栽培されている[8]

グリーンボール
丸玉とも呼ばれる。グリーンボールという名称は銘柄名だが、この種の総括名として用いられる。1kg程度の小ぶりのボール型で、葉につやがあり、葉の内部まで緑色を帯びている。葉は肉厚のわりに柔らかく、組織はしっかりしている。茨城県西部地区産は主に春と秋に北海道など関東地方以外の市場に出荷されている。
札幌大球(サッポロタイキュウ)
北海道札幌市発祥の巨大なキャベツ。一般的に市販されるキャベツの重さが1kg前後なのに対し、札幌大球はその10倍以上となる10kgを超えるものも存在する[9]。葉は柔らかく甘味も強い。様々な料理に向くが、近年は主にニシン漬けなどの漬物用に使われる[10]
サボイキャベツ (Brassica oleracea convar. capitata var. sabauda L.
グラッド(縮緬甘藍)、ちりめんキャベツとも。縮れた葉を持ち、肉厚で緑色が濃い。普通のキャベツに比べると繊維が多く葉が硬いので、歯ごたえを活かすか、あるいは長時間の煮込みなどに使われる。
ムラサキキャベツ(Brassica oleracea convar. capitata var. rubra L.
赤キャベツとも。食用。見た目、特に色合いの美しさからサラダに用いられる。また、ムラサキキャベツの色素アントシアニンは、酸性アルカリ性の水溶液に反応し変色するのでpH指示薬とすることができるほか、キャンディーやゼリーなどに赤紫色を発色させる着色料としてよく使用されている。
エンスイキャベツ (Brassica oleracea var. capitata f, acuta
たけのこ型キャベツとも呼ばれ、角卵形に結球する。みさきやトンガリボウシがある。
ハボタン
花キャベツとも呼ばれ、食用ではなく葉を観賞する。株の中心部の葉が白や赤に染まり牡丹の花の様に見えることから名付けられた。分類上はキャベツではなく、ケールの品種。

利用

葉が柔らかく癖のない味なので、さまざまな料理に使われる野菜である。また、茎に生える小さな腋芽も本体同様に食用となる。

生食
繊切りにして揚げ物などの付け合わせにしたり、コールスローなどのサラダ類に調理して食べるほか、乱切りにしてそのまま味噌をつけて食べることもある。豚カツ店などでは繊切りキャベツを食べ放題として提供している店もあるが、生キャベツの繊維は消化が悪いため、食べ過ぎると腹痛を起こすおそれがある。業務用で繊切りを使用する場合には、水に浸しておくと水分を吸収して膨張することで量が増えるうえ、みずみずしさを保つ利点があるが、ビタミンCなど水溶性の栄養素は減少する。
煮物
スープの具材にしたり、挽肉などを巻いてロールキャベツにしたりする。また、それらの先に油で炒めると甘味が引き出される。もつ鍋井上鍋には具材として用いられるほか、水炊きにはスープを吸うことで風味を増す[11]キャベツを白菜の代わりに用いる場合がある。
蒸す
蒸し煮による調理法も多い。登山では、キャベツの水分で豚肉を煮るキャベッジダウンという調理法がある。
炒め物
野菜炒めお好み焼きに欠かせないほか、焼きそば焼き肉では脂っこさを抑える働きがある。
漬物
浅漬けやぬか漬けといった普通の漬け物以外に、北海道ではサケニシンの重ね漬けの材料として、札幌大球という大型の品種が一般的に用いられる。また、ドイツ料理ザワークラウトは、キャベツの漬け物である。
健康食品医薬品
キャベツに含まれる酵素成分を抽出した栄養ドリンクやダイエット食品、ビタミンUを利用したキャベジンなどの胃腸薬も作られている。
ワイン
横浜国立大学がオリジナルキャベツワインとして開発し、販売している。また、キャベツの特産地として知られる山梨県南都留郡鳴沢村農協ブドウ果汁と混合した「キャベツワイン」を開発・販売している[12]

生産

ファイル:Cabage blossoms.jpg
花が咲いた、キャベツ。結球した葉の中から花芽のトウが立つ

日本での統計は、1910年頃から。生産が急速に伸びたのは1960年 - 1965年頃。

年度 生産量(千t) 補足
1910年 43
1945年 191
1986年 1,667 最多
2003年 1,435
2004年 1,375
2005年 1,363
2006年 1,372 東京市場 卸売価格
34円/kg(12月6日
2008年 - 東京市場 卸売価格
49円/kg(9月22日
2011年 1,360

本来の旬は原産地の気候(地中海性気候)から冬季と考えられる。しかし、日本では栽培地の標高や緯度で出荷時期が異なり、さらに今日に至る品種改良の結果、年間を通して出荷可能となっているので、特定の旬が存在しない。

日本では出荷時期によって、冬キャベツ(11 - 3月。作付・出荷ともに最多で、球が締まった平たい形が特徴)、夏秋キャベツ(7 - 10月。冷涼地で栽培され、高原キャベツとも)、春キャベツ(4 - 6月。生産量は少なめだが人気が高く、近郊栽培中心。新キャベツとも)に分類されている。

キャベツは、収穫時期により特定の産地へ生産が集中してきている。おおよそであるが、冬キャベツは愛知県渥美半島など)が中心で、夏秋キャベツは群馬県嬬恋村など)、北海道長野県など。春キャベツは千葉県銚子市など)、神奈川県三浦市など)、茨城県行方市など)が主体となっている。

冬キャベツの場合、8月頃に種をまき、12月 - 4月にかけて収穫される。他のアブラナ科の野菜にも当てはまることが多いが、栽培されるのは固定品種ではなく、一代雑種が大半である。また北海道の和寒町では秋のキャベツを雪の中で寝かせ糖度を増した越冬野菜越冬キャベツが有名である。なお、冬キャベツは繊維質が多く肉厚で固いので生食や炒め物には向かず、蒸したり煮込んだりする調理法が適する。

病虫害

モンシロチョウ青虫)などの格好のエサになるため、食害(食痕)が問題となる。

無農薬栽培の手法として、キャベツの毎にチョウ類の進入を許さないようネットを張る手法も取られるが、手間が掛かることもあり、販売価は通常のキャベツの倍近くになる。家庭菜園の場合は、秋蒔き栽培にすると農薬の使用量を抑えやすい。

生産不足問題

冷害(異常低温)、日照不足台風大雪などにより野菜が不作で供給不足となり、価格が高騰する場合がある。2004年平成16年)は、本州などに多数の台風が上陸、キャベツの販売価格(約300円/kg)が例年の2 - 4倍となった。ちなみに、同年のレタスは1,000円/kgを超えた。

生産過剰問題

農業に限らず漁業などにおいてもいえることだが、天候など予測しにくい要素によって生産量が左右されることは、生産者の頭を悩ませる課題である。不作はもちろんのこと、大豊作によっても発送したり梱包材(ダンボール)を購入する代金も出ないほど卸売価格が下落してしまうことがある。

豊作により市場卸売価格に相当な下落が見込まれる場合、農協から農林水産省へ届出を行い、緊急需給調整(市場隔離 一般には生産調整と称される)として各農家に出荷を抑えるよう依頼される。これに協力して廃棄する場合には、大規模な生産農家に限り交付金(2008年は、32円/kg。半分が農家による積立金、半分が税金)が支給される。

秋になると、生産過剰となった年には愛知県東三河地方(渥美半島など)や群馬県嬬恋村など)で生産調整によって廃棄されるキャベツの映像が報道される。ダイコンハクサイにおいても同様の生産調整がなされているが、キャベツに関する報道が軒並み有名である。そのキャベツは畑の肥料としてトラクターで土と一緒におこすことが多い。

一方で、中華人民共和国からの輸入が、2010年(平成22年)現在3 - 6%程度行われている。

文化

英語でcabbagehead(キャベツ頭)は「石頭」の意(ドイツ方面のキャベツの固さから)。またKraut(クラウト)といえば侮蔑的にドイツ人のことを指す(ザワークラウトからの連想。ドイツ野郎)。一方、ドイツ語ではキャベツをコール(Kohl)というが、これはドイツ人の苗字にもなっている。例えばドイツ連邦共和国首相ヘルムート・コールなどが挙げられる。またコール(Kohl)はスラングで「低能、バカ」と言う意味もある。

フランスではキャベツをchouといい、愛情表現としてmon chou (monは英語のmyに相当)と男女が呼び合ったり、子供に対して言ったりする。

南ヨーロッパではキャベツはブドウの天敵とされ、ブドウ畑の近くにはキャベツを植えない。蜜蜂を介してキャベツの臭いがブドウに移るのを防ぐためと言われている。同様の理由で養蜂家はキャベツ畑の周りには巣箱を置かない。また、ギリシャ神話には酒神ディオニュソストラキアの王リュクルゴスにまつわるキャベツの起源伝説がある[13]

作曲家クロード・ドビュッシーは娘クロード=エンマ・ドビュッシーをシュウシュウChouchou(キャベツちゃん)と呼んで可愛がり、愛娘のために『子供の領分』や『おもちゃ箱』といった作品を生んだ。

1982年昭和57年)、アメリカにてキャベツ人形Cabbage Patch Kids キャベツ畑人形とも)が玩具メーカーのコレコによって量産化され、大ブームを巻き起こした。この人形は量産前の製作者が幼い頃「キャベツから生まれた」と聞かされていたため、「キャベツから子供が生まれる」というモチーフを元に作成されている。

脚注

参考書籍

  • 矢野恒太記念会、『数字で見る日本の100年』改訂第5版、ISBN 4-87549-438-6
  • マグロンヌ・トゥーサン=サマ; 玉村豊男訳 『世界食物百科』 原書房、1998年ISBN 4562030534 

関連項目

外部リンク