ガウス・ボネの定理

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ファイル:Gauss-Bonnet theorem.svg
ガウス・ボネの定理を適用できる複素領域の例、測地線曲率の符号を表している。

微分幾何学において、ガウス・ボネの定理(Gauss–Bonnet theorem)、あるいはガウス・ボネの公式(Gauss–Bonnet formula)は、(曲率の意味で)曲面の幾何学と(オイラー標数の意味での)曲面のトポロジーと結びつける重要な定理である。命名はこの定理に最初に気づいたが出版しなかったカール・フリードリッヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauss)と、1848年に特殊な場合について出版したピエール・オシアン・ボネEnglish版(Pierre Ossian Bonnet)にちなんでいる。

定理の内容

[math]M[/math] を境界 [math]\partial M[/math] を持つコンパクトな 2-次元リーマン多様体とする。[math]K[/math][math]M[/math]ガウス曲率とし、[math]k_g[/math][math]\partial M[/math]測地線曲率English版(geodesic curvature)とすると、

[math]\int_M K\;dA+\int_{\partial M}k_g\;ds=2\pi\chi(M), \, [/math]

となる。ここに dA は曲面の面積要素(element of area)、dsM の境界に沿った線分要素とする。また、[math]\chi(M)[/math]Mオイラー標数である。

境界 [math]\partial M[/math]区分的に滑らかであれば、積分 [math]\int_{\partial M}k_g\;ds[/math] を境界の滑らかな部分に沿った対応する積分の総和と境界の角での滑らかな部分のなす角度の総和をプラスした値となる。

解釈と重要さ

特に、境界を持たないコンパクトな曲面に対して定理を適用すると、積分

[math]\int_{\partial M}k_g\;ds[/math]

の部分は省略することができる。このことは、閉曲面の全ガウス曲率は曲面のオイラー標数の 2π 倍に等しいことを意味している。境界を持たない向き付け可能なコンパクト曲面に対し、[math]g[/math] を曲面の種数とするとオイラー標数は [math]2-2g[/math] であることに注意する。境界をもたない向き付け可能なコンパクトな曲面は、トポロジー的には [math]g[/math] 個のハンドル体をつけた球面に同相となる。

曲面 [math]M[/math] を折り曲げたり変形させたりしても、オイラー標数はトポロジー的には不変なので変わらないが、曲率はある点では変わる。いくらか驚くかもしれないが、本定理のは、たとえ、どのように変形されようとも、すべての曲率の全積分は変化しないことを言っている。従って、例えば、球にくぼみを作っても、くぼみの大きさや深さには関係なく、球の全曲率は 4π である(オイラー標数が 2 であるので)。

曲面のコンパクト性は極めて重要である。例として、境界のない非コンパクトなリーマン面である曲率が 0 でオイラー標数が 1 の単位開円板を考えてみると、ガウス・ボネの定理はうまく機能しない。しかし、定理は同じくオイラー標数が 1 のコンパクトな単位閉円板に対しては正しい。境界での積分の値が 2π だからである。

応用として、オイラー標数が 0 であるトーラスを考えると、トーラスの全曲率は 0 であるはずである。R3 に埋め込まれているトーラスは通常のリーマン計量を持っているので、内側は負のガウス曲率をもち、外側は正のガウス曲率をもっており、全曲率は実際に 0 である。トーラスを四方形の反対の辺を同一視することでも構成することができ、その場合にはトーラス上のリーマン計量は平坦であるので、全曲率の結果は再び 0 となる。トーラス上では、ガウス曲率がどこでも正であったりどこでも負であったりするようなリーマン計量は不可能である。

定理は三角形に対しても興味深い結果を与える。M を 2 次元リーマン多様体(必ずしもコンパクトである必要はない)とし、3つの測地線から構成される M 上の「三角形」を考えると、三角形の内側と三角形自身が与える線分より構成される面 T に、ガウス・ボネの定理を適用できる。すると、測地線曲率は 0 であり、T のオイラー標数は 1 であるので、測地線三角形の頂点で回転する角度の和は、2π から三角形の内側の全曲率を引いた値となることを言っている。頂点で回る角度は π から内角を引いた値に等しいので、このことを言い換えると次のようになる。

測地線三角形の内角の和は、π に、三角形により囲まれた部分の全曲率を足した値となる。

平面の場合(ガウス曲率は 0 で測地線は直線である)は、通常の三角形の内角の和を再現する。標準球面上では、曲率はどこでも 1 であり、測地線三角形の内角の和は常に π よりも大きいことがわかる。

特別な場合

球面幾何学や双曲幾何学で前世紀の早い段階での多くの結果は、ガウス・ボネの定理の特別な場合として含まれている。

三角形

球面三角法(spherical trigonometry)や双曲三角法hyperbolic trigonometry)では、三角形の面積は(三角形の)内角の和が 180°に対してどれだけ差異があるかに比例する。同じことではあるが、外側の角度が 360°に対してどのくらい差異があるかに(符号を逆にして)比例する。

球面三角形の面積は、ジラルドの定理(Girard's theorem)により、増えた分に対して比例する - その量は 180°に対し内角の和が多くなった分であり、 360°に対して外角の減った分に等しい。

双曲三角形の面積は、逆で、ヨハン・ハインリッヒ・ランベルト(Johann Heinrich Lambert)により確立されたように、内角の和が減った量に比例する。

多角形

多角形全角度欠陥のデカルトの定理は、ガウス・ボネの定理の多角形での類似であり、球に同相な多角形のすべての頂点での角度の欠損の和は 4π であることを言っている。さらに一般的には、多角形がオイラー標数 [math]\chi=2-2g[/math] (ここに g は種数で、「穴の数」を意味する)に対しては、欠損の和は [math]2\pi \chi[/math] である。このことはガウス・ボネの定理の特別な場合であり、曲率が離散的な点(頂点)に集中している。

函数というよりは、測度を曲率とすることを考えると、デカルトの定理は曲率を離散測度としたガウス・ボネの定理であり、測度のガウス・ボネの定理は滑らかな多様体に対するガウス・ボネの定理とデカルトの定理の双方を一般化したこととなる。

組み合わせ論的な類似

ガウス・ボネの定理にはいくつかの組み合わせ論的な類似が成り立つ。[math]M[/math] を有限な 2次元擬多様体English版(pseudo-manifold)とし、[math]\chi(v)[/math] を頂点 [math]v[/math] を持つ三角形の数とすると、

[math] \sum_{v\in{\mathrm{int}}{M}}(6-\chi(v))+\sum_{v\in\partial M}(3-\chi(v))=6\chi(M)[/math]

が成り立つ。ここに最初の和は [math]M[/math] の内部の頂点を渡り、第二の和は境界上の頂点の和をとり、[math]\chi(M)[/math][math]M[/math] のオイラー標数を表す。

三角形を頂点の多い多角形に置き換えても、2-次元擬多様体に対しては同じ公式が成り立つ。n 頂点の多角形に対しては、式の中の 3 と 6 をそれぞれ n/(n-2) と 2n/(n-2) に置き換えればよい。例えば、四角形に対し、それぞれ式の中の 3 と 6 を 2 と 4 へと置き換えればよい。さらに特別な場合は、[math]M[/math] が閉じた 2-次元のデジタル多様体English版(digital manifold)であれば、種数は、

[math] g = 1+(M_{5} +2 M_{6}-M_{3})/8, \ [/math]

となる[1]。ここに [math]M_{i}[/math] は曲面上で [math]i[/math] 個の隣接点を持つような曲面上の点の数を表している。

一般化

ガウス・ボネの定理の n-次元リーマン多様体への一般化は、1940年代にカール・アレンドエルファーEnglish版(Carl Allendoerfer)とアンドレ・ヴェイユ(André Weil)とチャーン(Shiing-Shen Chern)により発見された。一般化されたガウス・ボネの定理チャーン・ヴェイユ準同型を参照。リーマン・ロッホの定理はガウス・ボネの定理の一般化とみなすことができる。

上記の定理の非常に深い一般化はアティヤ・シンガーの指数定理である。

必ずしもコンパクトではない 2-次元多様体への一般化は、コーン・ヴォッセンの不等式English版(Cohn-Vossen's inequality)である。

参考文献

  1. Chen L and Rong Y, Linear Time Recognition Algorithms for Topological Invariants in 3D, arXiv:0804.1982, ICPR 2008

外部リンク