カーエアコン

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カーエアコンとは、自動車に装備されているエア・コンディショナーである。

概要

ファイル:Jeep 2.5 liter 4-cylinder engine chromed d.jpg
自動車用コンプレッサーの一例

初期の車載エアコン装置は、カーヒーターカークーラーといったかたちで独立して制御されており、温度調節の機能はほとんど存在しないことが一般的であった。

冷媒に不可欠なコンプレッサーの駆動は基本的にエンジンにより行われる。一部のハイブリッドカーなどでは、エンジンが稼動している時間を短くするためにコンプレッサーの駆動をモーターで行っていたり、コンプレッサーのプーリーにモーターを内蔵したものもある。暖房はエンジンを冷却した冷却液(冷却水、クーラント)を室内のヒーターに導き、熱交換している。一部の電池式電気自動車では、原動機の廃熱を利用できないために電熱線でヒーターコア内の水を温めて発熱する暖房を用いている。

利点

カーエアコンの冷温風、とりわけ冷房サイクルを通して供給される乾燥した送風により、フロントガラスやサイドガラスの霜取りや曇り取り(デフォッガー/デフロスター)を行う機能も持たせられている。

欠点

冷房の場合はエンジンの回転でコンプレッサーを稼動させるため、エンジンの負荷が増え、加速が鈍り、結果燃費も悪化する。馬力換算では数馬力から十数馬力のロスとなる。コンプレッサーを作動させる際にはアイドリング回転数を何割か上昇させるアイドルアップが行われるため、AT車の場合にはクリープ現象もより強力に働く。

普通車の場合、1kW~3kW(1~4馬力)程度の負荷が掛かり冷暖房能力としては3kW程度である。[1] [2]

暖房の場合は、ガソリンやディーゼル車では捨てているエンジンの排熱を利用するので、冷房に比べて消費電力はわずかであり、燃費が目立って悪化することはないが、自動車によっては、暖房時に車内の曇りを防ぐために、除湿運転を同時に行うものもある。この場合、コンプレッサーを作動させるので、燃費は冷房の時のように悪化する。この除湿運転を解除できるかどうかは車次第である。電気自動車では暖房に電熱を用いるため、燃費は冷房以上に著しく悪化する。

操作

画像はマニュアル式カーエアコン操作部の一例である(初代ホンダ・フィット。以下、当該車種の取扱説明書をもとに解説する[3])。下に3つ並んだダイヤルスイッチのうち、左から「吹き出し口切り換えダイヤル」、「ファンスピード切り換えダイヤル」、「温度調節ダイヤル」、上の中央が「内外気切り換えレバー」、その右が「エアコンスイッチ」 (A/C) である。

吹き出し口の切り換え
「吹き出し口切り換えダイヤル」を回すことで、風の吹き出し口を切り換える。上の画像の場合、左下から時計回りに「上半身」、「上半身および足元」、「足元」、「足元および窓ガラス」、「窓ガラス」の順で切り換えられるようになっている。ふつう、冷房時は「上半身」に、暖房時は「足元」に合わせる。
窓ガラスの曇りを取る際は、「窓ガラス」「外気」「エアコン入」とする。ただし温度を低くし過ぎると、逆に窓ガラスの外側が曇る原因となってしまう。また、窓ガラスに付着した霜を急速で取る際は、「窓ガラス」「内気」「高温」とする。ただし霜が除去できた後は「外気」に切り換えないと、窓ガラスが曇る原因となってしまう。
ファンスピードの切り換え
「ファンスピード切り換えダイヤル」の数字が大きいほどファンスピードが速くなる。「OFF」にするとファンが停止する。
温度の調節
「温度調節ダイヤル」を左右に回すことで、吹き出してくる風の温度を調節する。左(青色)側に回すと低温、右(赤色)側に回すと高温になる。
内気・外気の切り換え
「内外気切り換えレバー」を左右に動かすことで、「内気循環」・「外気導入」を切り換える。急速に冷暖房するとき、あるいはトンネル内を走行中であったり、渋滞に遭遇した場合など、車外の空気の汚れが気になる際は「内気循環」(レバー左位置)にする。ただし、窓ガラスの曇りの原因となるため、通常は「外気導入」(レバー右位置)とし、車外の空気を導入することが望ましい。
エアコンの入・切の切り換え
「エアコンスイッチ」を押すごとに、エアコン機能「入」・「切」が切り換わる。「入」にすると、表示灯が点灯する。冷房時はもちろん、梅雨時・暖房時にもエアコン機能を「入」にすることで、除湿効果が期待できる。

歴史

カーエアコンの歴史はアメリカ車ドイツ車において、第二次世界大戦以前から始まった。

アメリカ車

ファイル:Thermador Car Cooler.JPG
アメリカにおける初期のミスト式カークーラー。水を蒸発させ気化熱を奪うことで冷気を得る簡略な装置で、コンプレッサー式カークーラーの発達以前には比較的実用性の高いものであった

アメリカ車においては早くは1930年代にはミスト散布の原理を用いたカークーラーの導入が始まり、1939年にはパッカード製自動車においてコンプレッサーを用いた冷房装置が採用された。この時代のコンプレッサー式カークーラーはトランクをほぼ丸ごと占有するほど巨大なものであったため、戦前はあまり普及しなかった。

同時期の1937年、中級車メーカーのナッシュ・モーターズは家電メーカーのケルビネーターと合併、ナッシュ=ケルビネーターとなったが、1938年には早速ケルビネータ―の熱交換技術を応用し、「ウェザーアイ」(en:Weather_Eye)の商標で、エンジン冷却水を室内のごく小さなラジエーターに導入することで温風を生む温水式ヒーターを世界で初めて自社の自動車に搭載する。このシステムはすぐにサーモスタットを利用した自動式の暖房温度調節機能を備えるようになった。第二次大戦後の1954年に、ナッシュ・アンバサダー(en:Nash Ambassador)のオプションとして設定されたAll Weather Eyeは、温水式ヒーターとトランク内蔵型コンプレッサー式カークーラーを一つにした世界初の統合カーエアコンシステムであった。このAll Weather Eyeはナッシュ=ケルビネーターの後裔アメリカン・モーターズの正規オプション品となっただけでなく、瞬く間に競合製品が多数開発されるヒット商品となり、その後のアメリカ車に置けるカーエアコンシステムの代名詞的存在となった。

その後、アメリカ車は1950年代から1960年代に掛けてかなりの割合でクーラー・ヒーターを含むカーエアコンの導入が行われることになり、現在に至っている。

ドイツ車

ドイツ車においては黎明期のポルシェフォルクスワーゲン・ビートルなどの空冷式エンジンの車種においてマフラーの熱を室内に導入するヒートエクスチェンジャーの導入が始まり、自動車におけるヒーター装備の嚆矢となった。特に、自動車用空冷エンジンの主流となったブロワーファンによりエンジンブロック内部に大量の冷却風を取り込む強制空冷式エンジンにおいては、冷却風の一部を車内に導入するベンチレーターを装備してヒーターの代用とする例もあった。このような空冷式エンジン車のヒーターはエンジンの廃熱を効率よく利用できる反面、エンジンの回転数や外気温によっては十分な暖房効果が得られにくく、シリンダーキャブレターなどの接合状態があまり良くない場合には、温風に燃料やエンジンオイル、あるいは排気ガスの臭いが混ざる場合があることが欠点であった。

ドイツの空冷車には地域によっては初期のアメリカ車と同様にミスト散布式カークーラーが装備される場合もあり、その後1960年代から1970年代にかけてカーエアコンが装備されるようになっていった。

日本車

量産型の日本車で、外国車並みの温水式ヒーターを初搭載したのは1955年(昭和30年)の初代トヨタ・クラウンであった。1958年(昭和33年)に登場したスバル・360にはヒートエクスチェンジャー形式のヒーターが装備された。この時代までは冷房は走行風による単純な外気導入や三角窓の利用、暖房は水冷車では後付け式のモーター付き温水ヒーター、空冷車ではヒートエクスチェンジャー又は単純なエンジン冷却熱風取り込みという構成が主体であった。この時代のヒーターは足下のみから温風が出るセミエアミックスタイプのヒーターが主流で、実用上の必要からデフロスター配管が為される事例もあった。

同時期ヤナセは日本製では初となるカークーラーを開発した。形態は吊り下げ式で、「ゼネコン」の商標で1955年(昭和30年)より販売を開始した[4]

ファイル:Sanden Rotary Carcooler.tiff
サンデン製"ロータリー"カークーラー。室内側ダッシュボード吊り下げ式ユニット。1970年代に普及した後付けカークーラーの代表的な形態である。

1970年代に入ると、簡易設計が多かった軽自動車でも排ガス規制への対策から2ストローク機関から4ストローク機関への転換が進んでいき、同時に冷却方式も空冷から水冷へと移り変わっていった。このため、軽自動車でも技術的には普通車同様な暖房システムに移行していった。

この時期と同時にメーカー(販売店)オプションとしてカークーラーの導入が進められた[5]

このカークーラーは構造そのものは現在のカーエアコンの冷房装置とほぼ変わらぬものであるが、現在の車ではダッシュボードの内部に配置されているエバポレーターやブロワーモーターといったクーラーの構成部品が一体化されており、これをグローブボックスの位置にはめ込むか別の筐体としてダッシュボード下に吊り下げるというものであった。こうしたタイプの吊り下げ式カークーラーは必ずしも自動車部品メーカー[6]の手により生産されるものばかりではなく、一般の家電メーカー[7]が主体となって開発された後付け品も多数存在した。

今日のようなヒーター・クーラー双方からの風を混合する温度調節機能を備えたカーエアコンは、1970年代後半から1980年代に一般化した。しかし、1980年代の大衆車はカーエアコンは販売店オプション扱いのものがほとんどで、この時代のカーエアコンは送風温度を手動で微調整するマニュアルエアコンであり、この時代の一部車種には室内温度センサーや日射センサーによって室内の温度を自動調整するオートエアコンは、一部のスポーツカーや高級車に装備されるに留まっていた。

モータースポーツにおけるエアコン

 当初はエアコン装備による重量増や、エアコンをかけることによるパワーロス・燃費の悪化が発生するため「搭載しない」のが当たり前だった。

現在でもエアコンを搭載しない車両は少なくなく、クールスーツと呼ばれる特殊な装備で空調はしないもののドライバー周辺を冷やすもので代用することも多い。しかし、それでも徐々にではあるがレースが長丁場になる耐久レース、あるいはそれに近い性質のレースではそれでも搭載する例が増えている。

特に屋根のある車両では走った時に車内へ新鮮な空気を外から取り込むようにしていても車内に熱がこもりやすい。しかも、ドライバーの装備は安全対策として真夏であっても首から下はレーシングスーツなどで全身を覆い、さらに頭部はヘルメットを着用しているためおのずと熱がこもりやすい。そのため暑さによるドライバーの集中力低下や脱水症状の可能性が高まり、そのままリタイヤや自分自身や他車を巻き込んだクラッシュのリスクが高まる。

エアコンを搭載することで重量が増えたりパワーロスは避けられないものの、それでもドライバーが長時間運転に集中しやすくするために搭載される。またWECのようにルールで常時室温一定以下にしなければならないと定めている場合もあるため、このような場合は事実上エアコン、あるいはそれに準じた仕組みを搭載しなければならない。

冷媒

カーエアコンはフロン12(R12)が冷媒として用いられてきたが、1990年代に入るとフロンによるオゾン層破壊が環境問題として取り上げられた影響で、R12からR134aへの切り替えが行われた。先進国での製造禁止が法制化された影響でR12ガスの入手が困難となった事から、パッキン類やレシーバータンクの交換を行った上でR134aへの転換を行うレトロフィットや、従来のR12エアコンにそのまま投入可能な代替R12ガスといった製品が広く普及していくことになった。 2013年1月からはGWP:150以下の冷媒の使用を義務付ける欧州連合(EU)の法律を順守するためにHFO-1234yfへの切り替えが始まったが、ダイムラーなど一部のメーカーはHFO-1234yfが可燃性ガスで衝突時などに引火しやすい点を問題視し、R134aの使用を続けている。

脚注

  1. Impact of Vehicle AirConditioning on Fuel Economy Tailpipe Emissions and Electric Vehicle Range
  2. 電気自動車用エアコンシステム - デンソー
  3. Fit 取扱説明書』本田技研工業、2002年、166 - 171ページ。
  4. ヤナセとカークーラーの製造 1955~ - ヤナセ(社内報『和苑』1961年4月号/017年8月13日閲覧)
  5. スズキ製軽自動車では、360 cc級の2ストロークエンジンへのカークーラーシステムの導入も行われた。古くは1971年の3代目LC10 II型フロンテおよびフロンテクーペからオプション搭載が始まり、用途上の問題から2ストローク機関を最後まで採用し続けたジムニーにも、初代第3期SJ10から吊り下げ式カークーラーがオプションとして登場した。最終的にジムニーは2代目第1期SJ30の途中からフルエアミックスのカーエアコンに切り替えられた。
  6. 日本電装サンデンヂーゼル機器日本ラヂヱーターなど
  7. 日立製作所ナショナル三菱重工業など

関連項目