ウミガメ

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ファイル:ウミガメ2277.jpg
ウミガメ上陸跡

ウミガメ(海亀)は、カメ目ウミガメ上科(ウミガメじょうか、Chelonioidea)に分類される構成種の総称。現生種は2科・6属・7種が知られる。

分布

熱帯亜熱帯を中心に全世界の海洋に分布するが、南極海には分布しない。生活形態は種類によって異なり、ヒメウミガメタイマイのように沿岸からあまり離れないものと、アカウミガメオサガメのように外洋を長距離にわたって回遊するものとがいる。しかし白亜紀においては一部を除いて外洋を回遊することはなく、各地で多種多様なウミガメが繁栄していた。

形態

四肢は上下に平たく、特に前脚は長大である。泳ぐときは前脚を櫂のように使って水を掻き、後脚で舵をとる。海中を羽ばたくように泳ぐ姿は優雅にも見えるが、敵から逃げる際などはかなりの速度で泳ぐ。甲は上下に平たく、後方に向かってすぼむ水滴形、もしくはハート形をしている。甲の表面は大多数のカメと同様堅固な甲板に覆われるが、オサガメは甲板がない。

カメとしては大型で、小型種のヒメウミガメでも成体になれば甲長60cmを超える。最大種オサガメは甲長2mに達し、ウミガメ上科のみならず現生カメ類の最大種でもある。化石種では中生代白亜紀地層に生息したアーケロン Archelon spp.、新生代始新世エオスファルギスなど、甲長2mを超すものが多数生息していた。

食道内側の上皮組織には棘状の角質突起が胃の方に向かって密に並び、これにより潜水・浮上して胃の内外に急な気圧差が生じても食物を逆流させず胃へ運び、食物の余分な水分を排出する働きがあると考えられている[1]

生態

基本的に生涯を海中で過ごしメスの産卵以外は陸上に上がらない。しかし肺呼吸をする爬虫類なので、たまに海面に上がって息継ぎをする。採餌は海中で行い、海草海綿動物クラゲ魚類甲殻類などを食べる。食性は種類によって異なる。

産卵の際、メスは砂浜に上陸し、潮が満ちてこないほどの高台に穴を掘ってピンポン玉ほどの大きさの卵を一度に100個ほど産み落とす。産卵後、メスは後脚で砂をかけて卵を埋め、海へ戻る。砂の中に残された卵は2か月ほどで孵化し、子ガメは海へ旅立つ。小さい子ガメはほとんどが魚類海鳥などに捕食され、成長できるのはわずかである。また砂浜から海に向かう最中も海鳥やカニ、フナムシなどに襲われる。これらの捕食動物は沿岸部に多く棲息しており、子ガメはその先にある外洋を目指す。そのための生理現象として、巣穴から脱出直後の子ガメにはフレンジーとよばれる特殊な興奮期があり、子ガメはおよそ丸1日寝ずに泳ぎ続けることができる。これは危険な沿岸部を素早く抜けるためのロケットエンジンのようなものであり、生きて外洋に辿りつくだけで生存率は大きく上がると言われている。外洋において子ガメは主にプランクトンを捕食し、身体が大きくなりプランクトンで栄養を賄えなくなった段階で沿岸部に帰ってくると言われているが、外洋を浮遊生活する子ガメを観察することは困難であり、どのような生活を送っているかは謎が多い。

またウミガメは産卵の際、「涙を流す」といわれるが、これは涙腺から体内に溜まった塩分を体排出しているのであり、正確には産卵中でなくとも常に彼らは「泣いて」いる。ウミガメの眼球の背後には、眼球自体に匹敵する大きさまで肥大化した涙腺が存在する。かれらはこれにより体内に取り込んだ余分な塩分を濾過し、常に体外に放出することで体内の塩分濃度を調節している。ウミガメの頭骨は、この肥大化した涙腺を収めるために眼窩同士を隔てる骨の壁が退化し、失われている。

分類

1980年に形態からウミガメ科をアカウミガメ属とヒメウミガメ属でアカウミガメ亜科、アオウミガメとタイマイ・ヒラタウミガメでアオウミガメ亜科に分割する説もあった[2]。1996年に発表されたミトコンドリアDNAの分子解析ではアオウミガメが最も初期に分岐したと推定され、亜科は否定されている[2]


ウミガメと日本人

ファイル:Turtle stew in japan Bonin Islands.jpg
小笠原諸島の郷土料理・ウミガメの煮物

ウミガメとの関わりは古くからみられ、日本の童話中にも浦島太郎の説話があるように馴染み深い生き物である。また、人気怪獣のモデル(ガメラ)などとしても映画などに利用されている。

日本における食用としてのウミガメの利用は、小笠原諸島におけるアオウミガメが最も有名である。1876年より日本領土となった小笠原諸島では、産業振興のためにアオウミガメ漁業が当時の農商務省により奨励された。アオウミガメ漁業は現在も行われているが、漁獲量は当時に比べて種の保全を考えて上限がきめられている(養殖も試みられている)。沖縄県でも八重山地方を中心に一定の漁獲割り当てがあり、料理店で刺身や汁物、から揚げなどで提供されている。

食用以外では、タイマイの甲羅(鼈甲)は宝飾用や工芸品の素材として珍重されている。しかし、タイマイは現在著しく個体数が減少しており、学術研究など特別な場合を除いて、本種を輸出入することは禁止されている。

ウミガメ産卵地

日本近海でこれまで記録があるウミガメは5種(ケンプヒメウミガメとヒラタウミガメを除く)で、産卵の記録は3種のみである。

  • アカウミガメ - 福島県石川県以南の本州四国九州南西諸島。太平洋沿岸各地の砂浜で毎年産卵が確認される。日本海側は太平洋側に比べて少ない。
  • アオウミガメ - 南西諸島、小笠原諸島
  • タイマイ - 南西諸島各地で産卵の記録がある。

保護・繁殖

ウミガメは捕獲や生息環境の悪化などのために生息数が減少している。IUCN(国際自然保護連合)が作成した2006年度版レッドリストでは以下のように分類されている。括弧内は分類された年を表す。

ヒラタウミガメを除く全てのウミガメは、IUCNレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されている。特に、オサガメ、タイマイ、ケンプヒメウミガメの3種は「絶滅寸前」 (CR : Critically Endangered) とされもっとも絶滅の危険が高くなっている(2006年現在)。また、ワシントン条約により、その多くについて国際取引が規制されている。

日本は北太平洋唯一のアカウミガメの産卵地であり、50年以上も前から市民活動によって産卵数のカウントが行われてきた。近年では、NPO法人日本ウミガメ協議会が提唱する統一標識を装着する活動が全国規模で行われている。また、海岸への自動車(特に大型4WD車)の乗り入れ禁止など、各地でウミガメの産卵地の保護が計られている。他にも、漁業の網に絡まり窒息死する事態を防ぐ研究や砂浜の減少を防ぐ研究、孵化直後の個体の体内での磁気コンパスの形成に与える人による悪影響の研究が期待されている。

放流会の問題

まずウミガメにおける放流には2つの手法が存在する。問題になっているのは主に一つ目の孵化幼体の放流である。 これは、自然下の砂浜に産み落とされた卵を移植・人工孵化させ、地域住民や観光客の手によって子ガメを海に放すというもの。子ガメの脱出に関しては海鳥に捕食される映像がドキュメンタリーなどで有名だが、放流会によって人が見守ることによってそれを阻止しようというものだ。 しかし、実際にこの手法によって放流された孵化幼体はほとんど外洋に辿り着くことはないと言われている。理由として、

1.まず、人工孵化が自然孵化よりも孵化率が著しく下がること。
2.放流会というあらかじめ日程が決まった行事に合わせるため、孵化後、上述のフレンジーの効果がなくなってしまったスタミナ切れの子ガメを放流するため、寄せる波に逆らえず外洋にたどり着けなくなること。
3.自然下における脱出時間である夜間ではなく、天敵に見つかりやすい日中に行うこと。
4.磁気情報を発生〜脱出のどの段階で得ているかわかっていないため、元の砂浜にたどり着けなくなる可能性があること等が挙げられている。

これらの理由により、国内においては日本ウミガメ協議会等が「やめよう!子ガメの放流会」などと注意喚起を行っているが未だ夏になると日本全国で孵化幼体の放流会が盛んに行われている[3]

もう一つの放流の形式がヘッドスタートと呼ばれるもので、1年以上飼育し身体が大きくなり天敵に襲われにくくなった段階で放流するものだ。しかしこれも、ウミガメが生まれた砂浜の磁気情報をどこで得ているのか確かなことは分かっておらず、効果が実証されているわけではない。 1977年〜1988年にかけて、メキシコ湾にて大規模なヘッドスタートが行われ11年間で22507個の卵から15857個の孵化幼体がうまれ、そのうち14484個体が標識をつけて放流された。そして2002年までに14個体による25回の産卵が確認されている。一応ヘッドスタート後にも産卵までこぎつけることは分かり、実際はもっと多くの個体が産卵に加わったという意見もあるが、効果が実証されたとはまだ言えない。

出典

  1. 亀崎直樹「第2章 形態 機能と構造」『ウミガメの自然史』、講談社、2012年、35-55頁。
  2. 2.0 2.1 亀崎直樹 「第1章 進化 分類と系統」『ウミガメの自然史』、講談社2012年、11-34頁。
  3. 日本ウミガメ協議会 やめよう!子ガメの放流会
  • 「ウミガメの自然誌 産卵と回遊の生物学」東京大学出版会 ISBN 978-4-13-066161-4
  • 「決定版 日本の両生爬虫類」平凡社 ISBN 4-582-54232-8
  • 「長崎県の両生・爬虫類」松尾公則 長崎新聞社 ISBN 4-931493-59-9
  • 平山廉 『カメのきた道 : 甲羅に秘められた2億年の生命進化』 NHKブックス、ISBN 978-4-14-091095-5。

関連項目