ウエストナイル熱

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ウエストナイルウイルス

ウエストナイル熱(ウエストナイルねつ、West Nile fever、西ナイル熱とも)は、ウエストナイルウイルスによる感染症の一種である。感染症法では四類感染症に、家畜伝染病予防法において馬の流行性脳炎として法定伝染病にそれぞれ指定されている。ウエストナイルウイルスは、1937年にウガンダ西ナイル地方で最初に分離された。日本脳炎ウイルス、デングウイルスと同じ、フラビウイルス科フラビウイルス属に属する。

発生地域

ウエストナイルウイルス自体は、最初に発見されたアフリカ以外に、オセアニア、北アメリカ、中東、中央アジア、ヨーロッパに広がっている。1990年代以降、感染者が報告されたのはアメリカアルジェリアイスラエルカナダコンゴ民主共和国チェコルーマニアロシアである。アメリカ合衆国本土全体でウイルスが見つかっており、2005年米国だけで発症者3000人、死者119人が報告されている。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は当初、セントルイス脳炎だと誤った情報を発表したが、ブロンクス動物園の病理主任より真の原因は新しい病原菌によるものだから調べて欲しいという要請を断ってしまう。しかし、動物園側が国立獣医学研究所と陸軍感染症研究所に検査を依頼してウエストナイルウイルスが発見された。そのため、アメリカ疾病予防センターは非難の的になった。

日本

日本では、2005年9月に米国カリフォルニア州ロサンゼルスから帰国した30歳代の男性会社員が川崎市立川崎病院で診察を受け、国立感染症研究所での血液検査をした結果、日本初のウエストナイル熱患者と診断された[1]

トピックス

アメリカでは臓器提供者から移植を受けた患者の事例や輸血による感染例の多発が2002年〜2003年にかけて問題になったことがある[2]

感染

ウエストナイルウイルスの増幅動物は鳥である。鳥からの吸血時にウイルスに感染したイエカヤブカなどに刺されることで感染する。米国で感染が確認された鳥類は、220種類以上におよぶ。特にカラス、アオカケス、イエスズメ、クロワカモメ、メキシコマシコなどで高いウイルス血症を呈する。通常、人間同士の直接感染は起こらない。ただし、輸血と臓器移植は例外である。

症状

感染者のうち80%は症状が現れない(発症率は20%)。

ウエストナイル熱

潜伏期間は通常2〜6日。発熱頭痛咽頭痛背部痛筋肉痛関節痛が主な症状である。発疹(特に胸背部の丘疹が特徴的。痒みや疼痛を伴うこともある。)・リンパ節が腫れる・腹痛嘔吐結膜炎などの症状が出ることもある。

ウエストナイル脳炎

感染者の0.6 - 0.7%(発症者の3〜3.5%)がウエストナイル脳炎を起こす。病変は中枢神経系であり、脳幹・脊髄も侵される。よって、激しい頭痛・高熱・嘔吐精神錯乱筋力低下・呼吸不全・昏睡不全麻痺弛緩性麻痺など多様な症状を呈し、死に至ることもある。また、網膜脈絡膜炎も併発する。

検査

血清診断
必ずIgGのペア血清を行う。ただし、他のフラビウイルスと交差反応を示すため注意が必要。日本脳炎のワクチンを最近、接種した患者も陽性になりうる。よって偽陽性が非常に多い。
病原体診断
脳脊髄液より採取。PCR法でウイルス遺伝子の検出が認められれば確定となる。ただし、感度が低い。

予防

ヒト用のワクチンは実用化に至っていないため、ウエストナイルウイルスの感染地域への旅行の際には、事前の準備が必要となる。アメリカ疾病予防センター(CDC)によれば、ウエストナイルウイルスに感染し重篤な症状に至るケースは特に50歳以上に集中しているという統計がある。なお、馬用のワクチンは実用化されている。

  • 感染地域の把握(特に夏場など)
  • 防虫スプレーなど防虫剤の用意

治療

特異的な治療はなく、対症療法が治療の中心である。

蔓延防止対策

ウエストナイルウイルス媒介蚊は、主に都会に生息する蚊によっても媒介されるため、仮に日本国内にウイルスが拡散しても、殺虫剤の航空散布という手段を取ることは効果的でない。

  • ウイルスを媒介する蚊の駆除が最優先される。
  • アメリカでは、蚊の幼虫(ボウフラ)の繁殖を阻止するために、住宅地のプールの清掃や水抜きなどの管理、航空機による殺虫剤の散布が行われている。しかし、住宅地以外の森林湿地への対策は、面積が広すぎて事実上不可能となっており、拡大を十分に食い止めることができていない状況にある。

脚注

  1. 小泉加奈子、中島由紀子、松埼真和ほか、本邦で初めて確認されたウエストナイル熱の輸入症例 感染症学雑誌 Vol.80 (2006) No.1 P56-57, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.80.56
  2. 貫井陽子、高崎智彦、ウエストナイル熱 日本内科学会雑誌 Vol.96 (2007) No.11 p.2435-2441, doi:10.2169/naika.96.2435

関連項目

外部リンク