内部留保

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内部留保(ないぶりゅうほ、: retained earnings)とは、企業が経済活動を通して獲得した利益のうち、企業の自己資本率を高めて融資や投資の信用確保や不況時に備えて売上・借金・出資の企業の3つの資金調達方法の内の『売上による資金調達』を意味する。フローとストックでストックに当たり、企業にとって収益増加のための設備・海外投資や借金返済に回す企業の自己資本[1]である。更に利益剰余金の用途は株式会社なら利益を更に産み出すための投資・配当の増加など用途は株主という債権者の同意の下にあるもの[2]と限られるため利益の増加に結果的に繋がらないと株主に判断される用途には背任にされるため経営者も用いない。社内留保社内分配とも呼ばれることもある。過去から累積した利益の留保額全体を指す場合と、単年度ごとに生じる利益の留保額を指す場合とがあるが、本項では特に断りがない限り、前者として扱う。、貸借対照表勘定科目において『内部留保』という項目自体が存在するわけではない。企業価値の成長プロセスの根幹であり、内部留保なくして企業価値は増加しない。企業は稼いだ利益を「利益剰余金」として、「株主資本」に組み込むことで貸借対照表の貸方の増加に合わせて、借方を大きくすることで設備投資やM&Aに回して株主の望む企業成長のための営業資産としている[3][4][5][6]

概念

基本的には企業の利益金額から役員賞与、配当、役員賞与金、租税などの社外流出分を除いた部分を社内に保留することである。しかし内部留保の概念には広狭があり、具体的にどの勘定科目を内部留保の計算に用いるかをめぐって、会計学や経営分析の研究者間でも見解に相違がみられる。

狭義

利益剰余金とは、純利益から配当金や役員賞与金などの社外流出分を差し引いた金額である。必ず内部留保に含められ、貸借対照表では貸方の「資本の部」(日本では「純資産の部」)に勘定科目として表示される。

財務省・財務総合研究所の「法人企業統計調査」は、利益剰余金を内部留保として捉えている。後述するほかの科目も内部留保に加算できると考える立場から、これを「公表内部留保」と呼ぶ研究者もいる[7]

利益剰余金の構成
利益剰余金は法定準備金である利益準備金、種々の任意準備金(任意積立金)、繰越利益剰余金から構成される。利益準備金は用途が資本の欠損填補などに限定され、会社法で毎決算期に一定額を積み立てることが義務付けられている。任意準備金は会社の定款や株主総会の決議によって任意に用途目的を決定できる。事業拡張積立金配当平均積立金といった目的用途があらかじめ指定されているものが多いが、別途積立金は特定の目的が指定されていない。あらかじめ用途目的が指定されている積立金であっても、株主総会の承認があれば当初の目的外の用途に当てることができる。

なお、任意準備金は純利益の前の段階ですでに費用として控除されている各種引当金減価償却費引当金、価格変動準備金、退職給与引当金など)とは別の概念である。

広義

広義の内部留保として、利益剰余金のほかに以下のような勘定科目の全体または一部が内部留保に含まれるという議論がある[7][8]。下記科目のどれを用いるかによって様々な内部留保概念が想定される。「公表内部留保」(利益剰余金)だけでは、内部留保の実質額を捕捉できないという立場から、それらを「実質内部留保」と呼ぶ研究者もいる。

貸借対照表において(1)は貸方の「負債の部」へ、(2)(3)は「資本の部」へ計上される。日本銀行[9]は利益剰余金に(1-1)の全体を加えたものを内部留保としている。また、(1)の各種引当金や減価償却費中どの程度が「過大計上分」なのかも見解の分かれるところである。

内部留保の運用形態

内部留保は「準備金」「積立金」「引当金」といった名称こそつけられているが、現金や預金だけではなく、売掛金金銭債権有価証券の他、土地建物・機械設備といった固定資産など様々な資産形態をとって運用されている。

貸借対照表上にて、内部留保は貸方側の特定の勘定科目に表れる。これに対し、総資本の具体的な運用形態を示す借方側(「資産の部」)では、内部留保がそのまま特定の資産科目に対応して表示される訳ではない。したがって、一時点の貸借対照表から分かるのは、内部留保分の金額が借方のどこかで運用されているということのみであり、具体的にどのような形の資産で存在しているのかは分からない。

経営分析と内部留保

経営資源としての内部留保

企業が資金調達として株式の発行や、銀行借入れ及び社債の発行を行うと、株主・債権者からリスクに応じた資本コストを要求される。内部留保は株主資本を構成し株式資本コストを負担する。

総資本に対する負債比率は2009年度以降低下傾向にあり、企業は内部留保を含めた株主資本による調達を強めている。結果として、負債資本コストより相対的に高い株式資本コストの割合が上昇し、企業の負担する全体の資本コストは上昇している[10]

配当財源としての内部留保

会社の配当財源の大きさは内部留保と当期純利益を通して調べることができる[11]

利益剰余金(狭義の内部留保)の一部である前期繰越利益は当期純利益に加算して、当期未処分利益となり、配当財源となる。同じく利益剰余金の一部である任意積立金も株主総会の承認があれば、取り崩して配当に当てることが可能である。

配当余力としての内部留保

当期純利益が利益剰余金へ分配される割合は内部留保率と呼ばれ、。一方で、当期純利益が株主配当金へ分配される割合は配当性向と呼ばれ、これが低ければ反対に配当余力が高いことを意味する。

配当性向と配当余力(内部留保率)の関係式は以下の通りとなり(通常、百分率で表記する)、これらの指標は会社の配当政策や資本蓄積状況の分析に用いる。

  • 配当余力=100-配当性向
    • 配当余力=内部留保率=(利益剰余金÷当期純利益)×100
    • 配当性向=(株主配当金÷当期純利益)×100

日本

内部留保の推移

ファイル:利益剰余金と現金・預金の推移.JPG
リーマンショック前までの利益剰余金と現金・預金の推移

[12]

従来、日本の上場企業は欧米と比べて、内部留保を重視し、株主への配当は低く抑える傾向があったが、2006年時点では大株主の要求や敵対的買収からの防衛策として大幅な増配に踏み切る企業も増えている[13][11]。一方、利益剰余金(狭義の内部留保)も増加傾向にあり、1988年に100兆円、2004年に200兆円を突破。2012年には300兆円を突破し、過去最高の304兆4828億円を記録した[14]。2000年代からは利益剰余金は増加していたが、現預金は平行線だった。何故なら大企業では内部留保でストックとして大規模な対外直接投資を行うため、固定資産に計上される子会社や関連会社の長期保有株式や海外で買収した資産によって利益剰余金が増えていたからだった。中小企業は内部留保よりも現預金が上回る財務状況にして資金繰り悪化や運転資金不足の予備資金として備えていたが、それでもリーマンショック級の需要低迷による景気悪化で内部留保が現預金を下回るようになったことが示すように内部留保を運転資金として遣り繰りするようになった。 なお、全ての企業を合わせると現金・預金資産は1989年の163兆7816億円をピークに逓減していたが、その後は再び増加傾向にあり、2012年に過去最高の168兆3240億円を記録した。2008年のリーマンショック後の企業は、自己資本率を高めて財務体質の強化を図るために内部留保を高水準で維持させている2013年時点では流動資産・固定資産・繰延資産など、会社の全ての資産を合算した『総資産』[15]に対して現金預金を11.4%保有している。しかし、大企業と中小企業を比べてみると,総資産に対する現金預金の割合は、大企業が7.5%に対して、中小企業は17.8%となっていて、資金調達を金融機関の借入金に頼る中小企業ほど将来の経営危機時の資金調達として『内部留保』の内で現金預金を割合として多く保有している。金額ベースで大企業の約1.2万社は、海外投資した固定資産・将来の買収や合併資金[16]が占める内部留保約200兆円に対して、現預金が約65兆円である。それに対して、中小企業は内部留保120兆円に対して、現預金が約105兆円としていることからも運転資金が確保出来ずに資金繰り悪化で倒産することを回避するために内部留保に現預金の割合を多くして危機に備えていることが分かる[17][18]

内部留保の活用

2007年の米国金融危機(世界金融危機)とそれに伴う世界経済の急激な後退に際して、日本の大企業は非正規労働者の大規模な解雇・契約解除で対応した。このような情勢下、大企業の内部留保を原資とする資産の一部を、非正規・正規労働者の雇用維持・創出に活用することを検討する議論が起きた。

日本共産党志位和夫委員長は、「自動車産業は2万人近い人員削減を進めているが、業界の内部留保の0.2%を取り崩しただけで、雇用は維持できる」と訴えている[19]労働組合連合も同様の主張をしており、さらに政府でも河村建夫元官房長官が「企業はこういうことに備えて内部留保を持っている」と表明し[19]、共産党の主張する内部留保の活用に同意した麻生太郎副総理は「共産党と自民党が一緒になって賃上げをやろうっていうのは、たぶん歴史上始まって以来」と答弁した[20]

経済学者の円居総一は「企業の内部留保や多額の対外投資は、政府が勝手に使えるものではない。なぜならそれらのほとんどが、民間のものだからである。企業の内部留保を投資に回せと言っても、政府にできるのはそれを誘導することだけである。企業の内部留保はデフレの産物であり、国内需要を喚起すれば投資に回る」と指摘している[21]

経済学者の岩田規久男は「デフレである限り、企業が巨額の余剰資金を抱えたままにしていることで、設備投資・消費などが動き出さないといった状況から抜け出せない」と指摘している[22]

以下、そのような意味での内部留保の雇用への活用について、世界金融危機当時の肯定的、否定的意見を併記する。

肯定的意見

  • 日本共産党中央委員会の吉川方人は、製造業の大企業(資本金10億円以上)の内部留保1%程度で、失業が予測されている非正規労働者約40万人を1年間雇用できるとしている[23]
  • 吉川方人は、1997年から2007年にかけて、製造業の有形固定資産は減少したが、「投資有価証券」は倍増している。新規投資は設備投資を金融資産が上回っており、設備投資に悪影響は出ないとしている[23]
  • 現金・預金(手元資金)だけではなく、有価証券、公社債、自己株式[24]などを含めた「換金性資産」[8][23][25]あるいは流動性の高い金融資産[7]を活用できる。
  • 内部留保は雇用危機を回避するためにも使うべきである[19]

否定的意見

  • 内部留保は資本に組み入れられており、取り崩すには所定の手続きが必要で時間もかかる。自由に使える手元資金とは違い、「いくらあっても現金があるわけではない」(福井威夫ホンダ社長)[26]
  • 生産設備を売却し現金にできても、そこで働く従業員を解雇しなければならず、逆に雇用を不安定にさせる[27]
  • 企業の「現金および現金同等物」(手元資金)は少なく、これを使うと資金繰りに行き詰まる企業もでる。
  • 内部留保(狭義)は最終的には株主の持分である。利益準備金は法律で用途が制限されており、任意積立金も目的外の社外流出の際には株主総会の承認がいる[28]。よって直接的に内部留保を取り崩し、雇用に活用するのは難しい[7]

内部留保課税

内部留保は税を課した後の余剰金であるため、内部留保に対して課税すれば二重課税と見なされ、これが主要な論拠となって、日本の法人税制では、特定同族会社[29]を除いて、内部留保に対する課税は認められていない。

しかし、例えばアメリカ合衆国には、連邦税として留保金課税(Accumulated Earnings Tax)が存在する[30] ただし、これは分配や具体的な事業に投資する計画が無い場合であるので、狭義な内部留保の定義からもさらに小さい範囲となる。(狭義広義の内部留保となる利益のうち、具体的な事業に投資される計画があるものは課税されない。) また、法人税がかかったあとの利益への二重課税であるため、内部留保として加わる単年度の利益のみへの課税であり、過去積み上げた内部留保全体への課税でもない。

日本でも、2013年現在、会計学の専門家である醍醐聡は、何らかの形で内部留保に対する課税の強化を求めている[31]

経営学者加護野忠男は「最近(2012年)になって、日本企業は余剰資金を積み増している。企業のリスク投資を促すことが必要である。日本企業の投資を促すには、単純な法人税減税ではなく、投資減税を行うべきである」と指摘している[32]

脚注

  1. 中小企業においては、資金繰り悪化時のための資金である。大企業だと利益剰余金に対して現金・預金が2割未満であり、投資や合併の資金に利益剰余金を回している。大企業が『現金を溜め込んでいる』と誤解されているが、実際には日本の企業の99.9%以上を占める中小企業ほど現金など流動資産の形で備えている。上場している大企業には現預金は設備投資や他の企業の買収資金を貯めている前の時期にはその企業の他の時期に比べればあるが、不要な現預金を持ちすぎれば自己資本利益率(ROE)が低下し、株式市場で評価されなくなる。ROEの低下した企業の株には見限って売却する株主が増加するので、その企業の株式は大量に売りに出されることで暴落する。そうなると、その企業の時価総額が減少し、買収の標的になるため上場している企業は不必要に現預金という形にしておかない。結果的に不況時の資金繰りに必ず備えている中小企業を含めた全規模の企業の統計だと利益剰余金を占める現金・預金が5割ほどになる背景である。
  2. 企業は売上高から様々なコストの上に法人税等の各種税金を払って最終利益を確定させる。企業が稼いだ利益は法的に全て株主のものだが、株主への利益配分には「配当の増配又は自社株買い」で還元か、「内部留保で企業の自己資本率を高めて企業の株式市場での価値を高めること」で株主価値を高めること
  3. 内部留保 -すべて現預金でストックされているという勘違い
  4. 女子大生でも分かる、内部留保と現金の違い。
  5. 国立国会図書館 企業の内部留保をめぐる議論 (PDF)
  6. 希望の党の公約「大企業の内部留保に課税」はポピュリズムだ
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 田村八十一 「トヨタ、ホンダ、日産の「内部留保」を解剖する」『経済』168号(2009年9月号)、新日本出版社
  8. 8.0 8.1 小栗崇資 「内部留保の雇用への活用は可能か」『経済』164号(2009年5月号)、新日本出版社。
  9. 『中小企業経営分析』、『主要企業経営分析』
  10. 内閣府「企業の資本コスト動向」平成27年12月
  11. 11.0 11.1 川口勉 『Q&A-経営分析の実際-第3版』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2006年7月4日。
  12. 青は中小企業を含めた全企業の統計であり、1987年には120%ほどあった現金・預金を占める割合が2007年には50%にまで低下している。赤は非製造業を含む大企業の統計であり、現金・預金が利益剰余金を1990年から下回るようになったことを示している 。緑は製造業の大企業を示していて1987年の時点で現金・預金が利益剰余金より少ないことが分かる。中小企業を含む青の棒・線グラフはバブル期の現金・預金が利益剰余金を上回る財務状況が後述のように経営危機時の予備資金確保や悪化した現状の資金繰りに回している。そのため崩壊後の1995年に下回り始めたのを皮切りに利益剰余金に対して現金・預金が約50%程度まで激減したことが分かる。それに対して、大企業(金融保険業を含まず)は利益剰余金に対して、現金・預金は2割の横ばい状態で殆ど増えていない。
  13. 神田秀樹 『会社法入門』 岩波書店〈岩波新書〉、2006年4月。p131
  14. 財務省『法人企業統計調査』
  15. [1]
  16. ペッキング・オーダー理論といい企業は資金の調達方法として純資産(内部留保)、次に負債(金融機関などからの借入金)、最終に通常の経営下では行わない新たに株式発行を行う。
  17. [2]
  18. [3]
  19. 19.0 19.1 19.2 日本経済新聞』2009年1月20日
  20. 衆院予算委 笠井議員の質問」『しんぶん赤旗』2013年3月10日。
  21. 円居総一 『原発に頼らなくても日本は成長できる』 ダイヤモンド社、2011年、184頁。
  22. インタビュー:政府・日銀共同文書、法的裏付けに日銀法改正を=岩田教授Reuters 2013年1月18日
  23. 23.0 23.1 23.2 吉川方人「内部留保 雇用のため使えないのか 大企業の言い分を検証する」『しんぶん赤旗』2009年2月13日。
  24. 自己株式は貸借対照表上は資産ではないが、放出することで資金になる。
  25. 『しんぶん赤旗』2009年2月19日。
  26. 09春闘:企業の内部留保、「雇用に活用」が争点に」毎日新聞』2009年1月19日(1月25日確認)。「いくらあっても現金があるわけではない」(福井威夫本田技研工業社長)
  27. 週刊ダイヤモンド編集部「第63回-労働者派遣法の改正めぐり、 厚労省と経産省がつば迫り合い」『週刊ダイヤモンド』2009年02月23日。
  28. 第34回「任意積立金の積立て・取崩に係る手続と会計処理」 SMBCコンサルティング、2007年9月28日。
  29. 財務省-特定同族会社への留保金課税(「平成19年度税制改正財務省
  30. 会社事業のために必要もないのに利益を留保している場合、それを課税の回避行為とみなして、留保利益に対して39.6%の課税を行うというものです。「事業のために必要である」ということは会社が立証する必要があります。 国際会計事務所Global Tax Services「二重課税と留保金課税
  31. 醍醐聡東大名誉教授(会計学)「企業の社会的責任 内部留保に課税すべきだ」『朝日新聞』2013年3月22日「私の視点」
  32. デフレの正体は肥大する内部留保にあり 日本企業は、過剰なリスク回避をせずに前向きな投資を行うべきPRESIDENT Online - プレジデント 2012年3月8日

関連項目

de:Gewinnvortrag