ニヤーヤ学派
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ニヤーヤ学派(ニヤーヤがくは、梵: Naiyāyika[1])はインド哲学の学派。六派哲学の1つに数えられる。ニヤーヤは理論(あるいは論理的考察)を意味[2]し、インド論理学として代表的なものであり、論理の追求による解脱を目指す。アクシャパーダ・ガウタマ(Akṣapāda Gautama)が著したとされる『ニヤーヤ・スートラ』を根本テキストとする。ガンゲージャによって著された『タットヴァ・チンターマニ』へと根本テキストが移ったものは「新ニヤーヤ」と呼ばれ区別される。
Contents
ニヤーヤ・スートラの概観
内容
『ニヤーヤ・スートラ』は530程度の短いスートラ(定句)からなり五篇に分かれている。各篇はそれぞれ二課に分かれている。
第1篇第1課では、以下の16の項目を正しく知ることにより、解脱がなされるとする。
- 認識手段(直接知覚・推論・類比・信頼すべき言葉)
- 認識対象(アートマン・身体・感覚器官・感覚器官の対象・認識・思考器官・活動[カルマ]・過失[煩悩]・輪廻・果報・苦・解脱)
- 疑惑
- 動機
- 実例
- 定説
- 論証式を校正する5肢(主張提示・理由・根拠事例・当該問題への適用・結論)
- 吟味
- 確定
- 論議(通常の討論)
- 論諍(勝つために手段を選ばない討論)
- 論結(相手の論難に終始する)
- 議事理由
- 詭弁
- 誤った論難
- 敗北の立場
第1篇は第1-14項目の、第5篇では第15-16項目の定義・解説を行う。この2つの篇は成立が最も古いものと考えられ、もとは1つにまとまっていたものだと考えられる。成立時期は不明であるが、ナーガールジュナの『ヴァイダルヤ論』に言及があることから、成立は少なくともこれ以前であると考えられる。 第2篇では、<直接知覚><推論><類比><信頼すべき言葉>という四種の認識手段について、これを確立する方法について考察される。この中で『ヴェーダ』は<信頼すべき言葉>の1つであるとされ、妥当性の根拠を信頼に求める。 第3篇および第4篇では、12種類の認識対象、すなわち、
- アートマン
- 身体
- 感覚器官
- 感覚器官の対象
- 認識
- 思考器官
- 活動(カルマ)
- 過失
- 再生
- 果報
- 苦
- 解脱
が順次検討される。『ニヤーヤ・バーシャ』によれば、この12種類の認識対象は世界全体を網羅するものではなく、これらを認識すれば解脱に至ることができるような特別に選ばれたものである。唯物論的立場や無我の立場は否定され、アートマンの存在証明ともいうべきものがなされている[3]。
主な後続文献
4-5世紀ごろのヴァーツヤーヤナの『ニヤーヤ・バーシャ』、6世紀後半のウッドョータカラの『ニヤーヤ・ヴァールッティカ』、9-10世紀ごろのヴァーチャスパティミシュラの『ニヤーヤ・ヴァールッティカ・タートパリヤティーカー』、11世紀ごろのウダヤナの『パリシュッディ』の注解書四部作が文献の根本をなすほか、ジャヤンタ・バッタが著した『ニヤーヤ・マンジャリー』も注解書の一面を持つ。独立作品としての文献にはウダヤナの『ニヤーヤ・クスマーンジャリ』と『アートマ・タットヴァ・ヴィヴェーカ』がある。前者は神の存在証明を試みた著作であり、後者は仏教の無我説に対する批判である。その他、バーサルヴァジュニャの『ニヤーヤ・ブーシャナ』があり、これはシヴァ神の直見が解脱への最終階梯であるなど説いた有心論的色彩の強い異色の作品である[4]。
思想
仏教論理学者が対象は観念の構築物であると考えるのに対し、ニヤーヤ学派では認識や言語は実在世界に即対応し、それをありのままに指示していると考える。仏教論理学者にとって直接知覚が思惟の加わらない<無分別知>であるのに対し、ニヤーヤでは直接知覚は有分別でありうる。「白い牛」という認識において、「白」も「牛」も外界の実在であるとされるのである。推論に関して言えば、推論の結果が近くや<信頼できる言葉>と矛盾するならば、それは推論が誤りであるとされる。つまり、推論はただ論理的に正しければ良いのではなく、日常経験や宗教の伝統とできる限り矛盾しないことが重要視されるのである。一方、ヴェーダのような<信頼できる言葉>を無条件に許容したわけでもなく、言葉の信憑性は語り手の信頼性に依存すると考えたが、ヴェーダは神の言葉であるという見解が定着するにつれ、結局はヴェーダの記述は正しいとされるようになった[5]。
脚注
注釈
出典
- ↑ 「ニヤーヤ学派」 - 世界大百科事典 第2版
- ↑ ブリタニカ国際大百科事典
- ↑ 岩波 哲学・思想辞典. 岩波書店. 1222-1223.
- ↑ 岩波 哲学・思想辞典. 岩波書店. 1223.
- ↑ 岩波 哲学・思想辞典. 岩波書店. 1222.
参考文献
- 『哲学・思想事典』 岩波書店